中田裕二|「生かされていたことに気付いた」今、新たな気持ちで音楽と向き合う

「生かされていたんだ」って気付いた

──新譜を出す意味が、より一層明確にある感じがしますね。

中田裕二

そうですね。過去作に縛られないようにってことは気を付けました。以前は悲しい曲、ハッピーな曲、ファンキーな曲みたいにバランスを考えて配置してたんですけど、そういう自分の中に作ってしまったルールにも縛られないように。とにかく今回は、新鮮な気持ちで向き合える曲を作ろうって意識が強かったんですよね。

──なるほど。

今まで「すべて自分の力だけでやってきた」とは思わないですけど、それでもどこか「自分で切り開いてきたんだ」って考えていた部分があるんです。でもそうではなくて、実は「生かされていたんだ」みたいな、そういう心境になったことも大きいかな。いろいろな縁やつながりがあって、その重なりの上に今の自分の場所があるという。これまで聴いてきた名曲や名演の数々も、そうやって今の自分を形成してくれたものの一部だと思うので、改めていろいろ掘り下げてみたり。別に暇だったわけではないんですけど(笑)、すごく考える時間が多かったんですよね。だから旅行に行ったり、本をたくさん読んだり、レコードを聴いたり、いろいろとインプットして。

──そういえば去年お会いしたときには、ミシェル・ルグランにハマッてるとお聞きしました。

ですね。自分では世界を広げたつもりでいても、ルグランとか音楽性の幅広い作曲家の作品を聴いちゃうと「自分はまだまだ狭いな」って思います。まあ、今の日本のヒットチャートそのものも、ジャンルの幅が狭いなと思うんです。ここをめがけてやればお客さんも付いてくるっていう、“ここ”の部分が。昔は百花繚乱なヒットチャートを、家族みんながテレビで観てたわけじゃないですか。今は自分の部屋で自分の聴きたい音楽を聴く人が多いから、外とクロスする部分が少なくて音楽がそれぞれの島に漂流してると言うか。それはすごくさみしいし、もったいないですよ。

──そういうことも含めて、いろいろと物思うことが表題曲「Nobody Knows」に込められていたりしますか? 自分と世の中の間で感じる違和感が歌詞に表れていますよね。

中田裕二

同調圧力みたいなものはありますからね。ムードに飲まれてみんなが「いい!」って言っちゃう風潮とか。

──なにが本当に“いい”ものなのか、その正解を誰も知らないという。まさに「Nobody Knows」ですね。

世の中全体でなんとなく“いい”とされている価値があって、それはそれでいいんだけど、「明らかに間違いだな」と思うこともあるわけじゃないですか。そこで「俺は少数派なのかな」とか「俺だけがおかしいのかな」とか、さみしい思いをしてる人もいると思うしね。でも本当はそうじゃないと思うんです、絶対。そんな流れが続けば、面白いものはどんどん淘汰されていっちゃう。本当に必要なものは多くの人の目に留まらないところにあったりするよな……っていうのは、過去の歴史を見ていても思うので。

どうやってこのくどい世界

──2曲目の「正体」はサビメロで声から始まる、まさに中田裕二なパターンではあります。

ビートがちょっとネオソウルっぽいミディアムな感じで、そこに歌謡曲が乗ってるみたいなね。これは世に認めさせなきゃなっていう中田裕二の型です(笑)。声から入ると、セリフ感が出るんですよね。だからここはセリフとして聴いてほしい。昔の歌謡曲の歌詞って日常会話とはちょっと違う言葉を使ってて、もうほとんどセリフじゃないですか。あれがダンディズム。今の音楽って、基本的に普通のしゃべり言葉ですもんね。演者によってはそのほうが説得力があったりするけど、そうじゃないと「誰かがブツブツ言ってるぞ」ってだけになる。

──確かに、当時の歌手が持っていたムードみたいなものは希薄ですよね。昔を知っているクチとしては、テレビCMのコピーにしてもそう思うことがあります。

中田裕二

昔のウイスキーのCMの「恋は、遠い日の花火ではない。」みたいな、深読みしちゃう感じとかね。含みがある感じって、今はウケないんですかね。でも若い人でも、味わいのある言葉に触れたらそこに反応すると思うんです。

──ウイスキーと言えば、昨年末のライブでも最近よく飲まれていると話してましたが。

そうなんですよ。ウイスキーって味を知らない人がストレートで飲んだら、アルコールの印象しか残らないと思うんです。「どれを飲んでも一緒じゃん!」って。でも、そのアルコールの刺激の向こう側に深い世界が広がっていると言う。入口はちょっとつらいけど、それを越えるとめちゃくちゃ広い世界がある、複雑な味わいの飲み物なんですよね。そういう感覚のものが今の流行歌には少ないかなと思っていて。僕はそこを受け継ぎたいんです。僕の声に抵抗があるかも知れないけど、それを越えると……まあ、乗り越えてもらうためにいろいろ工夫してます。どうやってこのくどい世界に入り込んでもらうかって(笑)。だから今回のアルバムは、全体的にサウンドが今までよりキャッチーになってると思います。

中田裕二「NOBODY KNOWS」
2018年3月21日発売 / Imperial Records
中田裕二「NOBODY KNOWS」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3780円 / TECI-1584

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中田裕二「NOBODY KNOWS」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / TECI-1585

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CD収録曲
  1. Nobody Knows
  2. 正体
  3. ロータス
  4. BLACK SUGAR
  5. 傘はいらない
  6. 静かな朝
  7. マレダロ
  8. CITY SLIDE
  9. むせかえる夜
  10. オールウェイズ
初回限定盤DVD収録内容

“STUDIO SESSION”:撮り下ろしスタジオライブ映像

  1. 誘惑
  2. FUTEKI
  3. マレダロ
  4. 傘はいらない
  5. UNDO

ライブ情報

中田裕二「TOUR 18 "Nobody Knows"」
  • 2018年5月10日(木)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2018年5月12日(土)福岡県 イムズホール
  • 2018年5月13日(日)熊本県 熊本B.9 V1
  • 2018年5月18日(金)京都府 KYOTO MUSE
  • 2018年5月19日(土)静岡県 SOUND SHOWER ark
  • 2018年5月26日(土)宮城県 Rensa
  • 2018年6月2日(土)東京都 マイナビBLITZ赤坂
  • 2018年6月9日(土)北海道 帯広MEGA STONE
  • 2018年6月10日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2018年6月15日(金)大阪府 BIGCAT
  • 2018年6月16日(土)愛知県 ElectricLadyLand
  • 2018年6月28日(木)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2018年6月30日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2018年7月1日(日)福岡県 イムズホール
中田裕二の謡うロマン街道
  • 2018年6月23日(土)沖縄県 TopNote
  • 2018年7月7日(土)愛媛県 宝厳寺 本堂
中田裕二(ナカダユウジ)
中田裕二
1981年生まれ。熊本県出身。2000年に宮城県仙台にて椿屋四重奏を結成する。2003年にインディーズデビューを果たし、2007年にはメジャーシーンへ進出。歌謡曲をベースにした新たなロックサウンドで多くの音楽ファンを獲得したが、2011年1月に突然の解散を発表した。同年3月に新曲「ひかりのまち」を中田裕二名義で配信リリースし、本格的にソロ活動を開始する。以降は精力的に新作リリースとライブを重ね、2018年3月21日、オリジナル作品としては7作目となるニューアルバム「NOBODY KNOWS」を発表。