ナタリー PowerPush - 中田裕二

ニューアダルトミュージックの伝道師に

中田裕二がニューアルバム「アンビヴァレンスの功罪」を完成させた。昨年リリースした前作「MY LITTLE IMPERIAL」で、昭和の歌謡曲の輝きを今の時代に受け継ぐ存在としての立ち位置をはっきりと宣言した彼。新作でもその延長線上で、さらに濃く、さらに多彩に、ロマンティシズムあふれる世界を展開している。

今回は自ら「ニューアダルトミュージック」と表現する新作について、その独自の音楽観について、中田に語ってもらった。

取材・文 / 柴那典

ゆったりとした横ノリのグルーヴが大事

──今日はまず、ディスコの話をしたいと思ってるんです。

ディスコ?

──というのは、アルバムの先行シングル「MIDNIGHT FLYER」が、歌謡曲とディスコサウンドが絶妙に融合したサウンドになっていて。こういうアプローチはどこから生まれたんでしょう?

中田裕二

特にディスコをやろうと決めていたわけではなくて、もともとは次の一手を探していたんです。ソロになってからいろんなポップな曲を試してきたんですけど、もっと抜けるようなポップな曲を表現したいと思っていて、どういうアプローチが自分の表現とフィットするのかを考えて、こういう曲になりましたね。最初は遊びでデモを作ってみたら、すごくよくて。イケるかもって思った。そこから作っていったんです。

──前作「MY LITTLE IMPERIAL」は、かつての歌謡曲のテイストを今に受け継ぐというソロの方向性が明確になったアルバムですよね。それを振り返って、どういう達成感がありました?

あのアルバムを作ったことで、なんでもイケるっていう自信が付いたのはありますね。作る前は、下手をするとこのジャンルは乗りこなせない、着こなせないという状況になるかもしれないという不安もあったんです。でも、自由さというのを自分でコントロールできた。やりたかったソウル / ファンク色の強いものもできたし、ソロ中田裕二としての自信をくれたアルバムだと思います。

──あのアルバムは、かつての歌謡曲の世界観が、ブラックミュージックやニューウェイブにも通じるということを示したものでもありましたよね。そういうことをやったからこそ、いよいよ今回、ディスコに踏み出せた。そういう面はあったんじゃないでしょうか?

そうですね。それはあります。前々からやってみたいとは思っていたんです。でも、最近は四つ打ちのロックバンドも多いし、下手に手を出すとケガするなっていう不安があったんで。

──ケガする、というのは?

今の邦楽のロックバンドによくある四つ打ちって、BPMが速くて、タテノリで。Blondieとか、Bee Geesとか、自分がもともと好きだった海外の四つ打ちとはまったく違うものなんです。自分としては、ゆったりとした横ノリのグルーヴが大事なんで。CHAGE and ASKAの「万里の河」も、ああいう、いい感じの四つ打ちだったりするんですよね。それがゆえになかなか手を出しにくかった。でも、やれると思ったから、あえて音色も70年代後期の感じにして、アナログ感を出して作ったんです。

──おっしゃった通り、今の邦楽ロックの四つ打ちって、BPMがだいたい140以上ですよね。でも中田さんはテンポがちょっと遅い。

そうです。「MIDNIGHT FLYER」はBPM120くらいです。

──テンポがちょっと遅いのが大事なんですよね。

そうなんです。遅くないとグルーヴが作れないんです。ベースのアプローチも、遅いほうが遊べるんですよね。

──そもそも70年代の、筒美京平さんとかが手がけていたフィリーソウルにつながるようなディスコ調の歌謡曲も、それくらいのテンポなんですよね。

それくらいが、グルーヴ感があってカッコいいんですよ。当時の作曲家の方々って、海外のサウンドを取り入れようとするスピード感がすごく速いと思うんです。海外から入ってきたものを自分のセンスでアップデートする。それこそが日本人の得意とするところじゃないんかと思うんですよね。

「恋するフォーチュンクッキー」にはめちゃくちゃ興奮しました

──前のインタビューのときに、中田さんは「自分のやっていることは時流に逆らってもいい」と言ってましたよね。(参照:中田裕二「MY LITTLE IMPERIAL」インタビュー

はい。

──でも、このアルバムの「MIDNIGHT FLYER」のディスコや「彼女のレインブーツ」のようなソウルのサウンドって、今の世界的な音楽シーンの流れにもリンクしていると思うんです。今年の5月にDaft Punkが新作アルバムを出して、その方向性も70年代ディスコだった。

そうなんですよね。驚きました。あと、メイヤー・ホーソーンもそういうアプローチをしてますよね。

──中田さんとしては、これは海外にキャッチアップしようと作った感じでしょうか? 偶然にリンクした感じでした?

中田裕二

なんとなく、匂いは感じとってたんです。デジタルなものへの限界が感じられているんじゃないかと思っていた。だから、アナログ感のある音になって、テンポも遅くなって、音数も少なくなる。レトロフューチャーなものが望まれている気がしていたんです。でも日本人はまだまだそこを意識してなくて。そこは、日本のシーンにちょっと違和感がありますね。

──でも、ここ最近で言えば、AKB48が「恋するフォーチュンクッキー」を出しましたよね。あれがまさに筒美京平さんテイストのフィリーソウルだった。

そうそう! 俺、あの曲、すごく感動したんです。確かにフィリーソウルですからね。最初に聴いたとき、めちゃくちゃ興奮しましたもん。

──あれこそが遅いテンポの四つ打ちだった。

そうなんですよね。今はアイドルの曲も、ほとんどがBPM速いですもんね。

──だから「恋するフォーチュンクッキー」と「彼女のレインブーツ」を聴いて、「あれ?偶然にも同じことをやってる!?」って思ってたんです。しかも間違いなく、AKB48は今の時代の歌謡曲のど真ん中であるという。

ははは!(笑) それはもう、ビックリしましたよ。同じタイミングですからね。

ニューアルバム「アンビヴァレンスの功罪」
ニューアルバム「アンビヴァレンスの功罪」 / 2013年9月18日発売 / 3000円 / NIGHT FLIGHT/REN'DEZ-VOUS / NFCD-0002
収録曲
  1. TERMINAL
  2. MIDNIGHT FLYER(album mix)
  3. ENEMY
  4. 彼女のレインブーツ
  5. blue morning
  6. アンビバレンス
  7. プリズム
  8. マイ・フェイバリット
  9. HEROINE
  10. ユートピア
  11. 旅路
  12. サンライズ
中田裕二(なかだゆうじ)

1981年生まれ。熊本県出身。2000年に宮城県仙台にて椿屋四重奏を結成する。2003年のインディーズデビュー以降、2007年にはメジャーシーンへ進出。自身はボーカル&ギターを務め、歌謡曲をベースにした新たなロックサウンドで多くの音楽ファンを獲得したが、2011年1月に突然の解散。同年3月に新曲「ひかりのまち」を中田裕二名義で配信リリースし、本格的なソロ活動を開始する。11月に1stソロアルバム「ecole de romantisme」をリリース。2012年9月には2ndアルバム「MY LITTLE IMPERIAL」を、2013年9月には3rdアルバム「アンビヴァレンスの功罪」を発表。