音楽ナタリー Power Push - My Little Lover

akkoと小林武史、それぞれの「evergreen」

Interview with akko

マイラバのミクスチャー感覚

──サウンドについても聞かせてください。「evergreen」の収録曲で言えば、「Free」でThe Jackson 5っぽいギターフレーズが見受けられるように、初期のマイラバは楽曲の中に洋楽のフレーズを忍ばせていることが多かったですよね。そういったところからも、マイラバは小林さんが自由に自身のポップスを表現するプロジェクトであることが伺えました。アルバムは違うけれど、「ALICE」(1996年のシングル)のイントロがマイケル・ジャクソンっぽかったり。

小林武史

ああ、それを言われると「なるほど」って思いますね。当時、1990年代はサンプリングが流行り始めて、ヒップホップの連中もそれを突き詰めて時代の中に新しいページを作っていったこともあって。そういう流れの中、僕もわりと無邪気に洋楽のフレーズを引用していたんだと思います。

──でもただ引用するんじゃなくて、洋楽でもなく、それまでの邦楽にもなかった新しいポップミュージックとして昇華していて。そういったミクスチャー感がマイラバらしさの一端を担っているような気がします。

過激っちゃ過激でしたよね。あのときはJ-POPって言葉は一般的ではなかったけれど、例えば「evergreen」表題曲のドラムのパワー感って、ポップミュージックに普通持ち込めないくらいのものだった。あれはロスのミュージシャンにお願いしたんですけど、本当にすごいパワーで思う存分叩いていて(笑)。

──青山純さんによる「Hello, Again ~昔からある場所~」のドラミングもとてもパワフルです。

そうそう。この前、マルチを紐解いてドラムを聴いていたんだけれど、最初っから最後まで歌うように叩いているんですよね。普通ミュージシャンって、パターンをメモっているんですよ。それでもキックをうっかり入れられなかったりして「もう1回やらせてください」みたいなことはよくあるんだけれど、仮にそういうミスを“ちぐはぐ”と言うなら、「Hello, Again」のドラミングはちぐはぐだらけ(笑)。いい意味で約束ごとに全然縛られていなくて、キックやシンバルの位置とかもまったくの自由。それは当時からなんとなく気付いていたんだけれど、僕も間違い探しをして指摘したりするタイプじゃないから、「へえ」みたいに聴いていましたね。

──そうだったんですね。「Hello, Again」は大ヒットして、あの曲によってマイラバ像が形成されたところはあると思います。もっと言えば、その後の“J-POPなるもの”にも影響を与えているのではないでしょうか。

うーん、あれがすべての始まりだとは思わないです。あの曲はミディアムテンポの8ビートで、ベースは8分を刻んでっていうシンプルな構造でしょ? 面白いんだけど、あの曲は海外の人にはバラードって言われるんですよ。でもああいうのって、バラードっていうより、精神的にはフォークだと思うんですよね。日本っぽいフォーク……農民漁民的なフォークの精神にロックの8ビートが足されて、独自の方向性を持つようになったって感じ。フォークロックというか。「Hello, Again」もその類のものなんですよね。

小林武史のルーツ

──小林さんの言うようなフォークロック的なものって、今のJ-POPのスタイルの1つとして定着していますよね。実際小林さんがプロデュースしているアーティストにもそういうバンドはいますし。

でも僕自身はあまりフォークロック的な曲を書くわけではないですね、引き出しとしてはありますけど。自分で曲を書くときのテイストとしてはバート・バカラックの影響をすごい受けていると思います。曲によってはラテンやブラジル、バッハやドビュッシーなんかの要素が入ってくるかな。だから「Hello, Again」はフォークロックだけど、マイラバ自体がフォークロックっぽいわけではないんですよね。そもそも僕自身フォークをそれほど聴いてこなかったから。僕が聴いたフォークはせいぜい(井上)陽水さんくらいですかね。若い頃はプログレ好きでしたから……プログレ好きって感じしないですか?

──イメージとしては、ないですね。

Lily Chou-Chouとか聴いたことないですか?

──ああ、Lily Chou-Chouと言われるとわかるような気がします。

大概の人にプログレって思われているのかと思ってました。プログレ親父だと思われているんだろうなって(笑)。

──小林さんのルーツはプログレなんですね。

小林武史

Pink Floydの「狂気」(原題:「The Dark Side Of The Moon」)っていう大げさなアルバムがあるんですけど(笑)、トータリティへの憧れはそこから始まりましたね。それからいろいろこだわって変なレコードばっかり集めていました。高校生の頃はVirgin Recordsができて、マイク・オールドフィールドが「Tubular Bells」を出して。あとはスティーヴ・ヒレッジ、Gong、Hatfield And The North、Soft Machineとか、そういうややこしいのを聴いてました(笑)。「ミュージック・ライフ」とかに載ってる通販でレコードを買って。

──本当にプログレ少年ですね。

ちなみに僕が最初に買ったレコードは、ポール・マッカートニー主導で作られたThe Beatlesの「Let It Be」とジョン・レノンのソロの「ジョンの魂」(原題:「John Lennon / Plastic Ono Band」)っていう、両極端な2作でした。The Beatlesよりも先にアメリカンポップスにも触れていたしね、大滝(詠一)さんほど詳しいわけじゃないけれど。あとは兄が何人かいて、それぞれクラシックやジャズなどを聴いていて。テレビから流れてくる歌謡曲も聴いたりしたから……音楽がいっぱいあったんですよね、ウチには。ただ音楽の持つ中毒性は感じていたけれど、例えば彼女や友達と「今はこの曲が旬だよね」とか教え合うようなことはなかったです。僕は僕で勝手に中毒になっていて。

──それでいて、多くの人に共感される楽曲を数多く生み出せているのが興味深いです。

もちろん受け入れられたものばかりじゃなかったけど。でも昔から、僕が中毒になっているものが誰かに勝手にインフルエンスしているようなことはあったかもしれないですね。

ニューアルバム「re:evergreen」 / 2015年11月25日発売 / TOY'S FACTORY
[CD2枚組] 3456円 / TFCC-86537
Disc 1「re:evergreen」
  1. wintersong が聴こえる
  2. pastel
  3. 星空の軌道
  4. 今日が雨降りでも
  5. バランス
  6. 夏からの手紙
  7. 舞台芝居
  8. 送る想い
  9. ターミナル
  10. re:evergreen
Disc 2「evergreen+
  1. Magic Time
  2. Free
  3. 白いカイト
  4. めぐり逢う世界
  5. Hello, Again ~昔からある場所~
  6. My Painting
  7. 暮れゆく街で
  8. Delicacy
  9. Man & Woman
  10. evergreen
My Little Lover(マイ・リトル・ラバー)

My Little Lover

ボーカリスト・akkoのソロプロジェクト。1995年5月にギタリスト・藤井謙二とのユニットとして、シングル「Man & Woman / My Painting」でメジャーデビューを果たす。同年12月にリリースした1stアルバム「evergreen」は300万枚以上を売り上げる大ヒット作に。このアルバムリリース時に、プロデューサーの小林武史がメンバーとして加入する。2002年にakkoのソロプロジェクトに移行。その後も数々のシングルやアルバムを発表し、東日本大震災の被災地支援活動や環境問題を考える運動など、音楽以外の活動にも精力的に携わっている。デビュー20周年を迎えた2015年11月に約6年ぶりのアルバム「re:evergreen」をリリースする。

小林武史(コバヤシタケシ)

小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。1980年代より活動を開始し、日本を代表するさまざまなアーティストのプロデュースや楽曲アレンジ、レコーディングを手がける。1995年にはakkoをボーカリスト、藤井謙二をギタリストに据えたユニットMy Little Loverを立ち上げる。同年12月のアルバム「evergreen」リリース時にメンバーとしても加入。2006年に脱退するが、その後もプロデューサーとしてユニットを支えている。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「ハルフウェイ」「愛と誠」など、映画音楽も多数担当。2010年公開の映画「BANDAGE バンデイジ」では音楽のほか監督も務めた。現在公開中の映画「起終点駅 ターミナル」でも音楽を担当している。