音楽ナタリー Power Push - My Little Lover
akkoと小林武史、それぞれの「evergreen」
導かれるようにつながった2作
──収録曲では、「ターミナル」が映画「起終点駅 ターミナル」の主題歌になっていて。
映画はいい意味で邦画的な平板さがあって、本田翼さんの演技もいいですよね。あと、観終わったら間違いなく唐揚げが食べたくなる(笑)。
──「ターミナル」はアルバムの中でも1つの軸になっているように思います。ちなみにakkoさんは「ターミナル」について、「歌わせてもらってうれしかった」と話していました。
そうなんだ。実はこの曲、前からあったんです。でもアルバムの中でどういう役割になっていくのか定まっていなくて、第1期のリズム録りの段階ではあぶれていたんです。「何か縁みたいなものがあれば、使えるかもしれないけど」って。
──そこに主題歌の話が舞い込んだんですね。
僕はあの映画で劇伴もやっていて、最初は主題歌を入れない予定だったんです。だからエンドロールで流す音楽もそれ用に作っていて。主演の佐藤浩市さんも「素晴らしいね」と言ってくれていたらしいんですが、僕のほうでは「主題歌になるようなものないかな」と思うようになっていて。そうしたら制作サイドから、「何か主題歌のアイデアありませんか?」って話が来たんです。それでいろいろ話していたら「ターミナル」がハマって。
──そういう経緯があったんですか。
「ターミナル」の歌詞って、並びで収録されている「re:evergreen」の歌詞につながるんです。そしてさっきも話したけれど、「re:evergreen」の歌詞は「evergreen」の1曲目につながっていって。導かれるようにそうなっていったんですけど、僕の中では「まあ、そうなっていくよな」って思っていました。もしアルバムを好きになってくれたら、そういう部分も楽しんで聴いてもらえるといいですね。
面白くなってきた音楽シーン
──なるほど。ちなみに映画と言えば、映画「スワロウテイル」をきっかけに結成されたYEN TOWN BANDも20周年ですね。12月2日には新作シングル「アイノネ」をリリースします。
なんだか急に棚卸しみたいになっていますよね(笑)。
──マイラバの「evergreen」にしても、YEN TOWN BANDの「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」にしても、J-POPの金字塔と言える作品で。それらをリリースしてから20年、小林さんは現在の音楽シーンをどう見ていますか?
すごく不安に感じる時期があったけど、ここ数年面白くなってきている気はしています。僕があんまり言うのもなんですが……。
──ぜひ聞かせてください。
一時閉塞感があったように思えていたんですよね。「これはどっかで見たものだ」というものばかりだったし、フェス一辺倒って感じのものも多くてね。でもここにきて、そういうマンネリ感が崩れてきた感じがする。例えば最近はサウンドよりも、言葉で世界観を構築しているような人たちが出てきていて、彼らを中心にシーンが成長しているように思えていて。
──具体的に、どんなバンドからそういうものを感じますか?
SEKAI NO OWARIとかはそうだと思うし、川谷絵音くんのゲスの極み乙女。とか、僕が関わっているところだとback numberとかね。あと、「トリセツ」でまた西野カナの評価が変わると思うし。そういったアーティストを中心に、音楽の在りようがまた変わってくるんじゃないかな。(野田)洋次郎くん(RADWIMPS)が切り拓いたところなんだろうなと思うんだけど、面白いよね。まだ捨てたもんじゃないというか、まだやれることはあるじゃんって。
──なるほど。そんな中、小林さんが次の一手として考えていることは何かあるのでしょうか。
言えないことも多いですが、実はいろいろ始めています。そんなに大それたことじゃないけれど。僕は自分のことを触媒だと思っているので、より面白い化学反応が起こっているところを探して見付けていきたいです。あとはやっぱり、アナログな音や揺らぎというか、そういう気配みたいなものは大事で……最近ライブでベースやギターを弾いたり、Salyuのプロジェクトではオーケストラとやったりピアノだけでやったりしているんだけど、響きに従順になれるのが面白いんですよね。そういうものこそが自分にとっては日常と言うか、“味噌汁とごはん”みたいなものだと思っていて。だからそれを感じられるようなところに自分の身を置いたり、集めたりしながら、老化防止をしたいですね(笑)。
Disc 1「re:evergreen」
- wintersong が聴こえる
- pastel
- 星空の軌道
- 今日が雨降りでも
- バランス
- 夏からの手紙
- 舞台芝居
- 送る想い
- ターミナル
- re:evergreen
Disc 2「evergreen+」
- Magic Time
- Free
- 白いカイト
- めぐり逢う世界
- Hello, Again ~昔からある場所~
- My Painting
- 暮れゆく街で
- Delicacy
- Man & Woman
- evergreen
My Little Lover(マイ・リトル・ラバー)
ボーカリスト・akkoのソロプロジェクト。1995年5月にギタリスト・藤井謙二とのユニットとして、シングル「Man & Woman / My Painting」でメジャーデビューを果たす。同年12月にリリースした1stアルバム「evergreen」は300万枚以上を売り上げる大ヒット作に。このアルバムリリース時に、プロデューサーの小林武史がメンバーとして加入する。2002年にakkoのソロプロジェクトに移行。その後も数々のシングルやアルバムを発表し、東日本大震災の被災地支援活動や環境問題を考える運動など、音楽以外の活動にも精力的に携わっている。デビュー20周年を迎えた2015年11月に約6年ぶりのアルバム「re:evergreen」をリリースする。
小林武史(コバヤシタケシ)
音楽プロデューサー、キーボーディスト。1980年代より活動を開始し、日本を代表するさまざまなアーティストのプロデュースや楽曲アレンジ、レコーディングを手がける。1995年にはakkoをボーカリスト、藤井謙二をギタリストに据えたユニットMy Little Loverを立ち上げる。同年12月のアルバム「evergreen」リリース時にメンバーとしても加入。2006年に脱退するが、その後もプロデューサーとしてユニットを支えている。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「ハルフウェイ」「愛と誠」など、映画音楽も多数担当。2010年公開の映画「BANDAGE バンデイジ」では音楽のほか監督も務めた。現在公開中の映画「起終点駅 ターミナル」でも音楽を担当している。