音楽ナタリー Power Push - My Little Lover
akkoと小林武史、それぞれの「evergreen」
リッチなサウンドの「re:evergreen」
──「re:evergreen」は一聴してすぐにリッチに録られているのがわかります。先ほど大滝さんの名も挙がりましたが、1曲目の「wintersong が聴こえる」はまさに大滝さんのようなサウンドで。もう1曲目から「これはゴージャスなアルバムです」って……。
言っているようなものですよね(笑)。
──ここまでのスタジオレコーディング作品って、今時あまり作れるものではないですよね。
そうですね。「時間と労力をかけないと、こういうふうにならない」っていう作り方で。意外と初めてこういう作り方をしたかもしれないですね。
──「re:evergreen」は「evergreen」にある種対応する関係性の作品ですが、初期マイラバに見られたような引用を用いた作り方はもうされていなくて。
「evergreen」と「re:evergreen」をどこまでシンメトリーみたいなものにするか、もしそうするとしたらどこまでこだわるかってなると、もうマニアックになっていくというか。曲の作り方も含めて、今回はそういう気分にはなれなかったんですよ。今回は東京の自分のスタジオで作っていったけど、当時は自分のスタジオを持っていなかったから、その時点で作り方も変わってきますし。ある程度自分の中で対峙するものを描けたら、あとは自然に任せるってくらいのほうが面白いと思ったんですよね。僕のセンスで2作を対峙させた結果、こうなったという。
──自然に任せた結果として、わかりやすく「線対称です」みたいな関係性の作品にはならなかったということですね。
そうですね。ただ、表題曲をそれぞれ最後に配置したというのはこだわったポイントの1つだし、「re:evergreen」の歌詞に列車のようなものが出てきて、それが「evergreen」の1曲目の「Magic Time」につながっていったりして……それは作りながらそうなっていったことですが。
レコーディングは楽しかった
──ちなみに、いわゆる往年のスタジオワーク的なレコーディングの方法をこれまで採用してこなかった理由は?
「昔ニューミュージックにどっぷりだった」みたいな人だったら、そういう作り方をしていたのかもしれないんですけどね。僕もスタジオミュージシャン時代にそういう作り方を垣間見ていて……。
──それであまり肯定的にはなれなかったのですか?
昔はそれが普通で、生のミュージシャンたちによって音楽がどんどんと作られていくフォーマットができていたんです。でも流れ作業的に見えて、嫌った時期があって。僕はハードディスクが出てきて、自分たちでワークステーションみたいなものを作れるようになって、アーティストと一緒に設計図を作るというやり方でやってきた。サンプリングも当たり前のようにやっていたから、ここまで真っ当に生のミュージシャンと向き合ってアルバムを作るのは、実は初めてなんですよね。
──1990年代から2000年代にかけては、ハードディスクによって音楽の可能性が広がった時期ですからね。
今話していて気付いたけど、ミュージシャンと向き合ってスタジオでしっかり作るということに1回こだわってみたかったのはあったのかもしれない。そういう意味では、「evergreen」に比べて今回は生のミュージシャンの息吹が出ていると思います。
──今回のレコーディング、楽しかったですか?
すごく楽しかった。今回は日本のミュージシャンたちとコツコツと作っていったのだけれど、ベースの山口(寛雄)くんなんか、古今東西であれだけ音数が多いベーシストはいないと思うんですよね。The Whoのジョン・エントウィッスル並に動く(笑)。普通ベースってそんなにドコドコやらないけど、聴き直してみたら今回はそういう曲が多くて。あとドラマーの玉田(豊夢)くんはものすごくスピード感があって、キレもいい。そういう極端な連中がいて、さらにBank Bandでやってる面々……亀ちゃん(亀田誠治)とかもいて。Bank Bandは「ap bank fes」のハウスバンドとして1000曲くらい一緒にやっているから慣れ親しんでいるし。
──心強いですね。
長屋で隣に住んでいるおっさんみたいな人たちですから(笑)。例えば今回は山本拓夫くんがブラスで参加しているんですけど、彼にデモテープを渡したら僕が本気でこのアルバムに取り組んでいるのが伝わったらしくて、頼んでもいないのにフレーズを加えてきたりして……普通そんなことないんですけどね(笑)。長屋のオヤジみたいでしょ? それを聴いたら「さすが」と思った。つまり、参加してくれたミュージシャンもそれぞれ感じるものがあったということなんですよ。そういう共振みたいなものは目指しているものだったから、よかったです。
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Disc 1「re:evergreen」
- wintersong が聴こえる
- pastel
- 星空の軌道
- 今日が雨降りでも
- バランス
- 夏からの手紙
- 舞台芝居
- 送る想い
- ターミナル
- re:evergreen
Disc 2「evergreen+」
- Magic Time
- Free
- 白いカイト
- めぐり逢う世界
- Hello, Again ~昔からある場所~
- My Painting
- 暮れゆく街で
- Delicacy
- Man & Woman
- evergreen
My Little Lover(マイ・リトル・ラバー)
ボーカリスト・akkoのソロプロジェクト。1995年5月にギタリスト・藤井謙二とのユニットとして、シングル「Man & Woman / My Painting」でメジャーデビューを果たす。同年12月にリリースした1stアルバム「evergreen」は300万枚以上を売り上げる大ヒット作に。このアルバムリリース時に、プロデューサーの小林武史がメンバーとして加入する。2002年にakkoのソロプロジェクトに移行。その後も数々のシングルやアルバムを発表し、東日本大震災の被災地支援活動や環境問題を考える運動など、音楽以外の活動にも精力的に携わっている。デビュー20周年を迎えた2015年11月に約6年ぶりのアルバム「re:evergreen」をリリースする。
小林武史(コバヤシタケシ)
音楽プロデューサー、キーボーディスト。1980年代より活動を開始し、日本を代表するさまざまなアーティストのプロデュースや楽曲アレンジ、レコーディングを手がける。1995年にはakkoをボーカリスト、藤井謙二をギタリストに据えたユニットMy Little Loverを立ち上げる。同年12月のアルバム「evergreen」リリース時にメンバーとしても加入。2006年に脱退するが、その後もプロデューサーとしてユニットを支えている。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「ハルフウェイ」「愛と誠」など、映画音楽も多数担当。2010年公開の映画「BANDAGE バンデイジ」では音楽のほか監督も務めた。現在公開中の映画「起終点駅 ターミナル」でも音楽を担当している。