音楽ナタリー Power Push - My Little Lover
akkoと小林武史、それぞれの「evergreen」
My Little Loverのデビュー20周年を記念したニューアルバム「re:evergreen」が11月25日にリリースされる。
この作品は小林武史プロデュースにより制作されたことのみならず、1stアルバム「evergreen」のリプロデュース盤「evergreen+」がパッケージされることでも話題を集めている(参照:20周年のMy Little Lover、新作は1stアルバム新解釈を含む2枚組)。
今回音楽ナタリーではボーカルのakkoと、マイラバ結成の首謀者である小林武史にインタビューを実施。あえて別々に話を聞くことで、1995年に発売され300万枚を超えるセールスを記録した「evergreen」と「re:evergreen」、そしてマイラバについてのそれぞれの思いを探った。
撮影 / 西槇太一
Interview with akko
“極上のポップアルバム”のボーカルは私でいいんだ / そのことがものすごくうれしかった
取材・文 / 三橋あずみ
「evergreen」を振り返る
──まずは、今回のMy Little Loverの20周年プロジェクトに際してのakkoさんの心境を聞かせてください。
実はプロジェクトが動き出したのは3年前なんです。私がやっているacoakkoのライブの打ち上げのときに小林(武史)さんが「マイラバの20周年アルバムは俺がプロデュースする!」っておっしゃったのがすべての始まり。彼は「極上のポップアルバムを作りたい」という思いを持っていたようで、それをマイラバでやりたいということだったようです。その「“極上のポップアルバム”のボーカルは私でいいんだ」ということですよね。そのことが、素直にものすごくうれしかったですね。
──小林さんが「極上のポップアルバムを作りたい」とおっしゃられた?
初めから「極上のポップアルバム」というイメージを伝えられていたわけではないのですが、後々にはっきりとそう言ってましたね。
──そのときから「evergreen」をテーマにするという具体的な構想もあったのでしょうか?
いや、それはまったくなかったです。「20周年アルバムを作る」と宣言してから「evergreen」を振り返ったんだと思います。過去の作品を聴き返しつつ、新曲を何曲か作っていくうちに「『evergreen』を紐解いてみたら面白いんじゃないか?」という発想になったのです。
──小林さんのそのようなアイデアを、akkoさんはどう捉えましたか?
面白そうだなと思いました。自分も「evergreen」を紐解いてみたいと思ったし、すごく興味がありましたね。
──akkoさんは普段、マイラバの過去の作品を聴き返したりするのでしょうか?
私は全然聴き返さないんですよ。制作の過程でものすごく聴くので、作品が完成した時点で聴かなくなっちゃいます。もちろん愛情はありますよ(笑)。でも聴き返すのは、ライブをするときくらいですね。
──では「re:evergreen」を制作するときも、「evergreen」は聴き返さずに?
いや、今回は比較をするために聴きました。とても新鮮でしたね。「この生々しさやパワフルさは一体なんなんだろう?」と考えました。「evergreen」はデビューアルバムですし、きっと経験値があまりにもない中でがむしゃらに歌っていたんですよね。そんなことを考えながら聴いていたら、当時の自分の勢いが「なんだか気持ちいい」と思ったりして。だから、「re:evergreen」のレコーディングのときも初心に立ち返り、とにかく思いっきり歌おうと思いました。いろいろ経験したり、自分なりに成長してきたことは素晴らしいことだけど、歌を歌うときにはそういった経験が邪魔になることがときどきあります。今回は、そういう“経験値”をなるべく取っ払って歌いたいと思いました。
めげない強さで20年間続けられた
──「evergreen」を制作していた当時のことで、何か印象深い思い出はありますか?
そうですね……アメリカのロサンゼルスでレコーディングをしたんですが、タイトル曲の「evergreen」の最後のコーラスのメロディが小林さんの頭の中に浮かんだ瞬間のことはよく覚えています。ロスの青空の下、レンタカーでスタジオに向かっているときに彼がメロディを思い付いて。スタジオに着いてすぐに、呼んでいたコーラスの男の人……ブラジル人だったんですけど、その人に「『ララララー』っていうふうにコーラスを入れたいんだ」と小林さんが説明したら、彼が「僕の国の歌い回しでこういうのがあって、そのメロディに合うと思うからやってみるね」と言って歌ってくれたのが「ラライヤー」という歌い方だったんです。そのときの、すべてがピタッと来た瞬間は衝撃でしたね。
──そうだったんですね。では逆に、苦労をしたような記憶はありますか?
もう苦労だらけですよ(笑)。今振り返ると、未熟な私にとっての「evergreen」は、1stアルバムにしていきなりハードルの高いアルバムだったと思います。どの曲も音数が多かったり、メロディラインが難しかったり……言葉を畳みかけて跳ねまくるっていう曲調はマイラバらしいし、自分の得意とするところではあるけれど「デビューアルバムでここまでやるか!?」って、今となっては思います(笑)。
──当時は無我夢中だった?
そうなんですよね。難しさに気付かなかった。だからこそ、気負わず構えずに思いっきり歌えたのだと思いますが、今こうして冷静に振り返ると、ちょっと怖いです(笑)。
──作品の資料を読むと、akkoさんはこのプロジェクトへ寄せる思いとして「20年間のうちに自分を俯瞰で見られるようになった」とおっしゃっていて、この言葉がとても印象的でした。ご自身が「マイラバのakko」を俯瞰で見たとき、彼女はどんなパーソナリティを持っていると感じますか?
そうですね……。自分で自分のことを言うのは非常に難しいけれど、「めげない強さ」みたいなものを持っていたから、こうして20年続けられたのかなとは思います。あと、言葉にすると軽く聞こえるけど、私はものすごくポジティブなんですよ。ポジティブに、自分の願いや思いを信じ続けると、物事は絶対に好転していくというか……。プライベートを含めて、自分自身でそういったことを実証できているような気がします。
──確かにそういったポジティブな強さは、マイラバの楽曲からも感じ取れます。
そうですよね! うん。そうなんですよ(笑)。
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Disc 1「re:evergreen」
- wintersong が聴こえる
- pastel
- 星空の軌道
- 今日が雨降りでも
- バランス
- 夏からの手紙
- 舞台芝居
- 送る想い
- ターミナル
- re:evergreen
Disc 2「evergreen+」
- Magic Time
- Free
- 白いカイト
- めぐり逢う世界
- Hello, Again ~昔からある場所~
- My Painting
- 暮れゆく街で
- Delicacy
- Man & Woman
- evergreen
My Little Lover(マイ・リトル・ラバー)
ボーカリスト・akkoのソロプロジェクト。1995年5月にギタリスト・藤井謙二とのユニットとして、シングル「Man & Woman / My Painting」でメジャーデビューを果たす。同年12月にリリースした1stアルバム「evergreen」は300万枚以上を売り上げる大ヒット作に。このアルバムリリース時に、プロデューサーの小林武史がメンバーとして加入する。2002年にakkoのソロプロジェクトに移行。その後も数々のシングルやアルバムを発表し、東日本大震災の被災地支援活動や環境問題を考える運動など、音楽以外の活動にも精力的に携わっている。デビュー20周年を迎えた2015年11月に約6年ぶりのアルバム「re:evergreen」をリリースする。
小林武史(コバヤシタケシ)
音楽プロデューサー、キーボーディスト。1980年代より活動を開始し、日本を代表するさまざまなアーティストのプロデュースや楽曲アレンジ、レコーディングを手がける。1995年にはakkoをボーカリスト、藤井謙二をギタリストに据えたユニットMy Little Loverを立ち上げる。同年12月のアルバム「evergreen」リリース時にメンバーとしても加入。2006年に脱退するが、その後もプロデューサーとしてユニットを支えている。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「ハルフウェイ」「愛と誠」など、映画音楽も多数担当。2010年公開の映画「BANDAGE バンデイジ」では音楽のほか監督も務めた。現在公開中の映画「起終点駅 ターミナル」でも音楽を担当している。