音楽ナタリー Power Push - My Little Lover
akkoと小林武史、それぞれの「evergreen」
幸せな現場
──「re:evergreen」の制作を振り返ってみて、いかがでしたか。
本当に幸せな現場でした。うれしかったなあ。素晴らしいミュージシャンが入れ替わり立ち替わりやって来て、その方たちの演奏を聴けるわけじゃないですか。「ああ幸せだなあ」と噛みしめる日々でした。ここまで生音を使ってレコーディングすることってあまりなくて、小林さん自身も「自分の音楽人生の中で一番(生楽器の数が)多いかも」と言うくらいだったんですよ。とても贅沢なアルバムが完成したことに喜んでいます。
──「re:evergreen」は、ある種「evergreen」に対峙する作品として制作されたわけですが、小林さんから提示された新たな10曲について、akkoさんはどんな感想を持ちましたか?
すぐに「大好き」と思った曲もあれば、「この曲は私の中にはない」と思う曲もありました。「今日が雨降りでも」や「舞台芝居」は、完全に“小林節”の変化球なんですよね。私は、「evergreen」は直球だらけのわかりやすいポップアルバムだと理解していたから、「re:evergreen」にも変化球はいらないんじゃないかと、そのことは小林さんにも相談させてもらいました。その都度彼もメロディを直したり歌詞を見直してくれましたが、しっくりこなくて結局そのまま元の形になったものもあります(笑)。そもそも、小林さん自身がこのアルバムに強いこだわりを持っていたから、それはそれで素晴らしいと思ったので「了解!」と納得して、シンガーに徹することにしました。
──そうだったんですね。では歌を入れていく上で、akkoさんがこだわったのはどういったところでしょう。
今回は小林さんがすべての曲を書いて、全曲をプロデュースしているので、私はとにかくいい歌を歌おう、自分の身体を使っていい音を鳴らそうということばかり考えていましたね。声の響きを楽器の1つとして捉えることにもフォーカスしました。
──歌い方について、小林さんから指示はあるんですか?
まったくありません(笑)。今回はボーカルのレコーディングには一切立ち会わなかったですね。私も普段からマニピュレーターと2人で作業することが多いので、そのほうが集中できるから、それはまったく問題なかったです。
──そうなんですね。一切立ち会わないというのは驚きです。
そうですよね。たまには立ち会うようにと、小林さんに伝えてください(笑)。
今までがんばってきてよかった
──「re:evergreen」の中で、akkoさんが歌っていて特に楽しかった曲はありますか?
「ターミナル」ですね。この曲に出会えたことの喜びはとても大きかったです。自分の中ですごくしっくりきたのです。私が歌うべき歌というか、あるべき場所というか……自分の中にストンと落ちてきたような感覚があって。20年目にしてこの「ターミナル」に出会えたことで、「今までがんばってきてよかった」と素直に思えました。そのほかはどの曲にもいろんな世界観があるので、そのときそのときの違う思いをイメージしながら、常に初心に立ち返る気持ちを意識して歌いました。
──ラストを飾るナンバーの「re:evergreen」は、1stアルバムのタイトル曲「evergreen」と地続きになっている楽曲ですね。歌詞の中の主人公も20年を経て成長しているように思えました。
そう感じてもらえたらうれしいです。実はこの歌詞を作るとき、何度も小林さんとやりとりをさせてもらったんです。私の言葉を尊重してもらい、いくつかのアイデアをもらいつつ仕上がった曲です。最後に「evergreen」へとつながったことで、この曲は完結されたと思いました。
──「re:evergreen」が完成して、akkoさんの中で「evergreen」に対する思いに変化があったりしましたか?
20年という時を経て、自分自身音楽的な理解度が上がっていると思うんですよね。だから当時にはわからなかった作品のよさや緻密さを感じるようになり、「evergreen」の偉大さに今さらながら気付かされているような気がしています。
──リスナーの皆さんには、「re:evergreen」をどのように聴いてもらいたいですか?
この作品にはたくさんの感情が散りばめられているので、それぞれの感じ方をして、いろいろな思いを持って、じっくりと聴いてもらいたいと思います。
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Disc 1「re:evergreen」
- wintersong が聴こえる
- pastel
- 星空の軌道
- 今日が雨降りでも
- バランス
- 夏からの手紙
- 舞台芝居
- 送る想い
- ターミナル
- re:evergreen
Disc 2「evergreen+」
- Magic Time
- Free
- 白いカイト
- めぐり逢う世界
- Hello, Again ~昔からある場所~
- My Painting
- 暮れゆく街で
- Delicacy
- Man & Woman
- evergreen
My Little Lover(マイ・リトル・ラバー)
ボーカリスト・akkoのソロプロジェクト。1995年5月にギタリスト・藤井謙二とのユニットとして、シングル「Man & Woman / My Painting」でメジャーデビューを果たす。同年12月にリリースした1stアルバム「evergreen」は300万枚以上を売り上げる大ヒット作に。このアルバムリリース時に、プロデューサーの小林武史がメンバーとして加入する。2002年にakkoのソロプロジェクトに移行。その後も数々のシングルやアルバムを発表し、東日本大震災の被災地支援活動や環境問題を考える運動など、音楽以外の活動にも精力的に携わっている。デビュー20周年を迎えた2015年11月に約6年ぶりのアルバム「re:evergreen」をリリースする。
小林武史(コバヤシタケシ)
音楽プロデューサー、キーボーディスト。1980年代より活動を開始し、日本を代表するさまざまなアーティストのプロデュースや楽曲アレンジ、レコーディングを手がける。1995年にはakkoをボーカリスト、藤井謙二をギタリストに据えたユニットMy Little Loverを立ち上げる。同年12月のアルバム「evergreen」リリース時にメンバーとしても加入。2006年に脱退するが、その後もプロデューサーとしてユニットを支えている。「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」「ハルフウェイ」「愛と誠」など、映画音楽も多数担当。2010年公開の映画「BANDAGE バンデイジ」では音楽のほか監督も務めた。現在公開中の映画「起終点駅 ターミナル」でも音楽を担当している。