ももいろクローバーZ「イドラ」インタビュー|ももクロだからこそ掲げられる“偶像”というテーマ (2/3)

冒険が終わってもまた新たな出発がある

──ここからはアルバムの新曲について話を聞かせてください。1トラック目のSE「序章 -revelation-」を経てリード曲「Heroes」でアルバムの幕が開けますが、明るくてポップな、端的に言うとすごくももクロらしい1曲で。1人ひとりの声にすごく大きな特徴があるわけではないけど、4人の歌声を聴くと一発でももクロの曲だとわかる。だからこそ、こういう普遍的で時代に流されない曲を堂々と歌えるのかなと。

百田 リズムやテンポがコロコロ変わったりするところも、私たちらしい要素ですよね。そういうらしさもありつつ、それと同時に新しさ、今っぽさも感じられる楽曲だなと思っています。

──R&B調のビートをベースに、ケルト音楽の要素を取り入れている点などは新しいですよね。

百田 今回のアルバムでは私たちを「英雄(ヒーロー)」に見立てて、全体を通して冒険が描かれているんですけど、「Heroes」はその始まりを告げる曲で。そのテーマに合ったサウンドになってます。これから冒険が始まるフレッシュな感じを出すために、レコーディングではちょっと昔の自分を意識して歌いました。

百田夏菜子

百田夏菜子

佐々木 歌詞が壮大で、メッセージ性が強い言葉もけっこうあるんですけど、そこまで堅苦しくないというか。オケはにぎやかだし、メロディもポップで、聴いていて前向きになれる曲だと思います。でも「がんばるぞ!」と意気込む感じではなく、曲を通して気持ちが軽くなるイメージ。そういう意味での明るい曲ですね。

──ラストのサビ前の「大丈夫 絶対やれる」という玉井さんのセリフが特に印象的です。

玉井 「Heroes」は「出発」を描いた曲なんですけど、1つの冒険を終え、すでに英雄となっている人たちが冒険を振り返っているという内容にも解釈できるんです。冒険は1回終わるけど、また新たな出発がある。「イドラ」というアルバム自体が、そういうサイクルを描いた作品なんですよね。私たちが15年間の活動を通して見てきた景色、培ってきた経験が詰まっていて、「Heroes」はこれから一歩前に踏み出す人の背中を押すようなイメージがあります。ももクロとしての15年間の経験があるからこそ、「大丈夫 絶対やれる」というセリフに説得力を持たせることができているのかもしれないです。

百田 ミュージックビデオでも過去と未来という形で、冒険の終わりと始まりの両方が表現されているんです。少女の私たちと、今のリアルな私たち。

玉井 私たちが小さい頃の自分たちに歌いかけているようにも、次の世代に向けて歌っているようにも聞こえる。聴く人によっていろんな受け取り方ができる曲だと思います。

──アルバムの5曲目には日本郵政による「カラダうごかせ!ニッポン!」プロジェクトのタイアップ曲として制作された新曲「MEKIMEKI」が収録されます。この曲もめまぐるしい展開が特徴ですね。

百田 “老若男女問わず、楽しく体を動かせるような曲”というコンセプトで作られた楽曲で、私たち4人にそれぞれ役割があるんですよ。私はマッスル担当、れにちゃんがリラクゼーション担当、たまさんがストレッチ担当、あーりんがエアロビクス担当。その役に合わせたパートで曲が構成されていて、それぞれメロディや振付が違うんです。例えば私のところはゴリゴリに勢いよく体を動かす感じですし、本当にコロコロと展開が変わる楽曲ですね。ラジオ体操の新しい定番にしたいという思いもあるので、振付が本格的な体操になっていて。ひろみちお兄さんに監修していただきながら、ダンスの先生が振付を作ってくれました。

佐々木 ライブではモノノフのみんなと一緒に体操しながら歌いたいと思います。

百田 踊ると筋肉痛になるよね。

玉井 ちゃんと体に効くので。

百田 と言っても、すごくハードに動くわけじゃないんですよ。踊っていて楽しい曲だと思います。

──次に収録されている新曲は、8トラック目のラップナンバー「桃照桃神」。6thアルバム「祝典」収録の「満漢全席」に続き餓鬼レンジャーのポチョムキンさんの提供曲です。

玉井 アルバムの中でスパイスになるような曲ですね。ラップパートに私たちの歴史が表れているというか、今までの作品から抜粋した歌詞が入っているんですよ。ももクロをずっと応援してくれている方は「あ、これ聴いたことあるがフレーズだ」「あの曲のあの歌詞だ」って、宝探しをしているような楽しい気持ちで聴けると思います。

百田 私がレコーディングするとき、すでにあーりんとしおりんの声が音源に乗っていて。英語と漢字が並んだパートがすごくカッコよかったんですよ。これまで聴いたことのない声のテンション感で。今までもラップの曲を歌ってきましたが、また新しい感じになっています。

佐々木 ライブで盛り上がりそうなカッコいいラップ曲ですね。

百田 レコーディングしたとき、「明日強くなるための今日」というフレーズの独特なイントネーションが耳から離れなかった(笑)。言葉とメロディで遊んでる雰囲気があるんですよね。

佐々木 「雨ニモマケズ 宮沢賢治」とかも耳に残るよね。

百田 歌割りが細かく切り替わるのも特徴です。

アルバムを締めくくる8分の最難関曲

──新曲の中でやや空気感が異なるのが、新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」などを手がけてきたyonkeyさんの提供曲「追憶のファンファーレ」。これはどういった意味合いを持つ楽曲なんでしょうか?

玉井 「追憶のファンファーレ」はアルバム後半の10曲目に収録されているんですけど、ここまでわりと明るいはっちゃけた楽曲が多い中、この曲によって一旦落ち着いたムードになるんですよね。「英雄の冒険譚」というアルバムのテーマの中では、“挫折”という意味合いを持った曲でもあって。ももクロは基本的にポジティブな曲が多いですが、「追憶のファンファーレ」は「なんだか疲れちゃった」というちょっとネガティブな歌詞で始まるのが特徴です。

──「もうダメかもしれないワタシ堕ちてく」や「このまま逃げちゃってもいいんじゃない?」という歌詞も強烈ですね。

玉井 私たち自身、15年間の中で楽しいことばかりじゃなく、メンバーの脱退や卒業とか、それ以外にもグループとしてのピンチや大変な経験ももちろんあったんですよ。さっき話した「応援し続けてくれること」の話にもつながるんですけど、モノノフさんも人生において紆余曲折があるでしょうし、誰しも人生の中でいいときもあれば悪いときもあるはずで。「追憶のファンファーレ」は傷付いたり、喪失感を感じている方に寄り添ってくれる曲になっていると思います。ネガティブな思いを否定するのではなく、受け入れてちょっとずつ前を向いてみよう。そう思わせてくれる、聴く人の背中を押してくれる曲です。

玉井詩織

玉井詩織

──ネガティブなワードで曲が始まるものの、最終的には「また駆け上がれるかな 走れ」と前を向いてますね。

百田 はい。「何度だって輝いてみせるさ」と歌っていたり。挫折を描いていても、最後には前向きな言葉まで持っていくのが私たちらしいところかなって。私たち自身もそんなふうにしてここまで歩んできたと思います。

玉井 つらい経験をしたその瞬間は全然笑えないし、「こんなこと起きなきゃよかったのにな」と思うものですけど、あとで振り返ると、その出来事が自分を成長させるためのきっかけになっていたと感じられたりするんですよね。苦い経験も“ファンファーレ”のように響いて、自分の背中を強く押してくれる。

──さらにアルバムを聴き進めていくと、13曲目に清竜人さん提供の「Friends Friends Friends」が収録されています。竜人さんは過去に「デモンストレーション」「イマジネーション」という曲をももクロに提供していますが、「Friends Friends Friends」にもこの2曲のサウンドワークに共通するものを感じます。

百田 最初に聴いたとき「まさに清竜人さんの曲だ!」って思いました。

佐々木 音があっち行ったりこっち行ったりする感じや、ポップなメロディが竜人さんらしくて。こういう曲調だからこそ、愛や友情をつづったフレーズ、壮大なメッセージの歌詞が胸に響くと思います。かなり共感性の高い曲なんじゃないかな。でも歌うのが難しいので、ライブで披露するときに向けて練習しないと(笑)。

百田 ホントだね。

──新曲はライブでパフォーマンスするのが難しいものばかり?

佐々木 はい。ヤバいです。

玉井 全曲歌うのが難しかったよね。

佐々木 最近流行っている曲って、歌うのが難しいものが多いじゃないですか。そういうトレンドもアルバムを通して感じられるかもしれないです。

玉井 でも、ももクロは昔から展開が多い曲ばかりだった(笑)。

──転調するのが当たり前だったり。

百田 確かに(笑)。

──そんな中でも「イドラ」のラストを飾るナンバー「idola」は異彩を放ってますね。作詞が只野菜摘さん、作編曲がNARASAKIさんと作家陣はおなじみの方々ですが、楽曲の尺が8分もあって。

玉井 体感は一瞬なんですけど……そっか、イントロとアウトロを含めるとそんなに長いんですね、この曲。ライブですごいたくさん踊ることになるかも(笑)。

佐々木 「idola」は今回のアルバムの最難関曲でした。ほかの楽曲以上に壮大な世界観で、「これくらいのパワーがある曲じゃないとこのアルバムは締まらないよなあ」と思いながらレコーディングしてました。

佐々木彩夏

佐々木彩夏

百田 ジャケット写真のイメージを一番体現している曲だと思います。難しい言葉が多いですし、セリフのところとか天の声みたいな感じで……いやもうこれはホントに歌が難しいです(笑)。歌いながらこの世界観についていくのに必死でした。

佐々木 昔からお世話になっている只野さんとNARASAKIさんが魂を込めて作ってくださったので、私たちもがんばってこの曲で成長を見せなきゃという気持ちになりました。

百田 この曲で私たちが“偶像(イドラ)”となってアルバムが締めくくられるわけですけど、改めて私たちらしい、世界観の強い作品になったなと感じますね。収録曲1つひとつにしっかり意味が込められているので、聴いてくださる方それぞれの人生とつながる部分がきっとあると思います。

──特にコンセプトや世界観のない、全曲ポップな普通のアルバムを作りたいと思うことはないですか?(笑)

玉井 ももクロにいるともはやどういうのが「普通のアルバム」なのかわからないです(笑)。でもこれだけ振り幅が広い曲を作っていると、急にその時々のタイミングに昔の曲がマッチすることがあるんですよ。「このライブのここに合うちょうどいい曲ないかな……あった!」って(笑)。伏線みたいにいろんな曲をちりばめていたほうがいいというか、長く続けているといいことあるなって思いますね。

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高城れに コメント

2024年5月9日更新