高城れに「OTOGIMASHOU」インタビュー|10年を超えたソロ活動への思い、ファンとの関係性を語る

高城れに(ももいろクローバーZ)の2ndソロアルバム「OTOGIMASHOU」が10月15日にリリースされる。

ももクロのメンバーの中でいち早くソロライブをスタートさせ、2024年にソロ活動10周年を迎えた高城。アルバムのリリースは2021年発表の「れにちゃんWORLD」以来約4年ぶりで、今作は“御伽噺”が作品のテーマとして掲げられた。高城がこれまでの歩みの中で出会ったさまざまな“自分”、そのときどきに揺れ動いた内面がファンタジーの世界観で表現されている。

音楽ナタリーではアルバムの発売に合わせて高城にインタビュー。ソロ活動10年間の中での感情の変遷や、モノノフ(ももクロファンの呼称)との関係性、アルバムの収録曲に込めた思いを聞いた。

取材・文 / 西廣智一

ソロ活動におけるターニングポイントは

──高城さんは2024年にソロ活動10周年を迎えました。当時僕も会場で拝見していましたが、名古屋で1日4公演行ったソロライブ(2015年3月9日に開催された「高城の60分4本勝負」)から数えても、すでに10年が過ぎたんですね。

ひゃーっ、あっという間すぎてびっくり(笑)。

──ももクロの中でもいち早くソロでライブを行い、並行してグループとしての活動も続けてきたわけですが、この10年間は高城さんにとってどんな期間でした?

もともとは、ムック本内の企画として架空のソロコンサートのチケットを作ったのがソロ活動の始まりで、私から「ソロコンサートがやりたいです!」と言い出したわけじゃなかったんですよね。自分の中でソロ活動に対する自覚みたいなものが芽生えたのは、始めてから5年くらい経った頃でした。グループ活動と一緒でいつまで続けるとか何も考えていませんでしたけど、ソロコンが毎年の恒例行事に自然となっていって。客席一面が紫になった会場はとても幸せな空間で、ソロならではだなと感じながらも、しばらく経ったあるタイミングで自分の中でマンネリ化してしまったんです。今ほどソロコンにテーマを設けていなくて、毎回自分が歌いたい曲を歌って演出をちょっと付けて、というライブの繰り返しで。ほかのメンバーもソロコンを始めていく中で、周りと比べられてしまうのもちょっと嫌だなと感じてしまって、「もうソロコンをやめようかな」と考えていた時期があったんです。

──そんなことが。

モノノフのみんなにも「今年で最後にします。もうやめます」と伝えました。そうしたら、ソロライブのパンプレットなどでイラストを描いてくださっている所十三先生がリハーサル現場に押しかけてきて、「やめるなんて絶対言わないでください!」と休憩時間も削られて説得されたんですよ!(笑) 「いやいや、やめるって言ってるじゃないですか! もうファンのみんなにも言っちゃったんです!」って答えたんですけど、いざステージに立つと……みんなの幸せそうな顔が忘れられなくて。「これを最後にしたくない」という思いがこみ上げてきちゃって、ライブ中に「最後って言ったんですけど、やっぱり続けさせてもらっていいですか?」と言いました。それが私のソロ活動におけるターニングポイントというか、すごく印象的な出来事でした。今思えば、あのときやめない決断をしてよかったなと改めて思いますし、リハ現場まで乗り込んできた所先生にとても感謝しています(笑)。

──ソロライブはやはりももクロの4人でステージに立っているときとは、また違う感覚なんでしょうか。

横を見てもメンバーがいないし、トークしていても誰もツッコんでくれないですから。あと楽屋が静か(笑)。グループとはまた違った責任感を持ってステージに立たなきゃいけないですね。ただ、グループがあるからこそソロでも活動ができるわけですし、逆にソロ活動にもグループに戻ったときに役立てられるものがたくさんあります。

──ソロだと1曲まるまる1人で歌うので、歌に対する自信がどんどん付いていったのでは?

自信が付いたときもあったんですけど、これが長く続けていると……「さすがにもう慣れたでしょ?」と思われるかもしれないですが、そうじゃなくて。「失敗したらこうなってしまう」と落ち着いて考えられる時間や余裕が出てきたからこそ、怖くなるんです。なので今は、歌もパフォーマンスも「大丈夫かな、大丈夫かな?」という不安のフェーズ。でも10周年という節目を迎えて、ここからその不安を克服していくことでまた強くなれるんじゃないかなって。そう信じて、めげずに挑戦していきたいなと思っています。

──楽しいだけでは続けられない境地に突入したんですね。言い方を変えれば、それぐらい真剣にソロ活動と向き合っている証拠だと思いますよ。

そうですね。準備期間も含めて、それくらい丁寧にステージに向き合っているんだなと自分でも感じます。お客さんはお金を払って観に来てくださるわけで、こっちの事情はみんな知るよしもないし知る必要もないし、表に出してはいけない。ちゃんと満足いくものを精一杯届けることが今の私のお仕事なんじゃないかなと思います。

この数年で自分の感情にいろんな変化があった

──ソロ活動を通じて、モノノフの皆さんとの関係性に変化を感じる瞬間はありますか?

たぶん、年々私のことを友達だと思うようになっているんじゃないかな(笑)。それくらいアットホームな距離感で私のことを見てくれていると思います。やっぱり、私自身が思う自分と、他者から見られる印象って違うじゃないですか。ソロコンをやり始めた頃は、そのズレをすごく感じていたんです。みんなから見た「れにちゃん」というブランドには、「いい子」みたいなイメージが強く根付いていたんですけど、全然そうじゃないんだよっていう。まったくいい子じゃないときもあるし、私だってストレスも溜まるし、みんなと同じように喜怒哀楽がある。音楽についてもポップな曲も聴けば、世間に鬱憤をぶつけるような曲に共感することもあります。「周りから見えている自分と、私が思う自分を擦り合わせたい」と思って作っていただいたのが「じゃないほう」という楽曲なんです。

──2021年リリースの1stソロアルバム「れにちゃんWORLD」を経て、今回のアルバムに向けた第一歩となった楽曲ですね。

はい。「じゃないほう」の頃から、作家さんに自分の内面についてヒアリングしてもらってから楽曲を作っていただく機会が増えたので、みんながイメージする「れにちゃん」と自分自身との差が少しずつ狭まってきたんじゃないかなと思います。

高城れに「OTOGIMASHOU」初回限定盤ジャケット

高城れに「OTOGIMASHOU」初回限定盤ジャケット

──多くの人が求めるイメージに応えることはもちろん大事だけど、「高城れに」という1人の人間としてはいろんな面を知ってもらいたい。活動を続ければ続けるほど、イメージと実状が乖離しているような気がしてしまったと。

そこのバランスの取り方は難しいですけど、私が思っていたよりも、楽曲を聴いた人が「じゃないほう」に共感をしてくださって。私に対する印象も少しずつ変わってきたのかなと肌で感じられました。そして自分の内面やそのときどきに感じていること、こういう表現をしたいという思いを落とし込んだ楽曲が集まったのが、今回のアルバム「OTOGIMASHOU」です。収録曲の一覧を眺めていると、この数年で自分の感情にいろんな変化があったんだなと改めて思いますね。

──楽曲ごとにいろんな表情を見せていますが、そのどれもが“高城れに”なんですね。

どれも本当の自分なんだという思いは、特にアルバム最後の曲「シオン」に表れています。この曲をアルバムの最後に置いたのも、私の感情の変遷を知ってほしいからなんです。

「ライブが一番」という思いは変わらない

──アルバムのテーマを「御伽噺」にした理由は?

御伽噺というものは、多くの人にとって親近感があるものじゃないですか。自分の中に存在するさまざまな感情を曲にして、御伽噺としてポップに表現したら、アルバムを聴く人に堅苦しくなく伝えられるんじゃないかなと思ったんです。リード曲の「おとぎましょう」をはじめ、現実と非現実が混合したような不思議な世界を今回はすごく大事にしていて。私もそうですが、思い描く理想像と現状の自分がごっちゃになって、自分自身を見失ってしまう人もいますよね。そういう話も、御伽噺をテーマにした世界観とリンクして表現できそうだなと考えました。

──今話に出たリード曲の「おとぎましょう」は起伏に富んだ楽曲で、歌うのが難しそうですね。

めっちゃ難しいです! 三拍子のリズムや転調が盛り込まれていますし、ソロではこういう複雑に変化する楽曲を歌ったことがなかったので、私にとって挑戦になりました。ファンタジー要素が強いですが、歌詞の内容が深いのも特徴で。特に「この星のどこか一番遠くで もうひとりの自分がほら頑張っているよ」という最後の歌詞には希望が込められているので、聴く人にもその思いが伝わるといいですね。

──この曲の作詞作曲を手がけたけんたあろはさんに対して、高城さんから何かリクエストはあったんですか?

はい。聴いているだけで楽しくなれるような、一気に御伽噺の世界に引き込める楽曲にしたかったのと、ライブでもモノノフのみんなを巻き込みたいので、「掛け声のパートを入れてほしい」とお願いしました。あと、私の声だけだとちょっと寂しいから、周りにいたスタッフさんも含めてみんなで最後の4行を合唱していただいたんです。ライブではお客さんとこのパートを交互に歌えたらいいなと思っています。

──ライブでモノノフの皆さんとどうやってコミュニケーションを取るか、どうやって一体感を作っていくか、楽曲制作においてそこを重要視しているんですね。

ずっと「ライブが一番」と言ってきましたし、その思いは今も変わっていません。ライブはモノノフのみんなと顔と顔を合わせて過ごせる空間だから、大事にしたい。今回、特に「おとぎましょう」と「きみの世界をまもって!」に関しては、ライブで楽しめる要素を重視して作っていただきました。

──「おとぎましょう」は、ミュージックビデオもまさに御伽噺の世界をそのまま映像化したような作風です。

聴いているとスッと耳に入ってくる曲ですが、それはけんたあろはさんの楽曲が持つ不思議な力によるものだと思います。その魅力を映像でも表現したいなと思い、こんなにもかわいらしくて壮大なMVにしてもらいました。この映像も込みで楽しんでいただけたらうれしいです。