水樹奈々インタビュー|塞ぎ込んだ世界に愛と喜びを!明るいパワーで突き進む2年半ぶりフルアルバム

水樹奈々の通算14枚目となるオリジナルアルバム「DELIGHTED REVIVER」が7月6日にリリースされた。

水樹がフルアルバムを発表するのは、コロナ禍直前、2019年12月発売の「CANNONBALL RUNNING」以来。“喜びいっぱいで復興させる人”という意味合いで名付けられた「DELIGHTED REVIVER」というタイトルには、この2年半の間に水樹が感じた思い、停滞するエンタテインメント業界を明るく盛り上げていきたいという彼女の気概が表れている。全15曲というボリューミーな作品からあふれ出る濃厚なエネルギーは従来の水樹作品と変わらぬものだが、これまでになく時代を直接的に表現した歌詞、ポジティブなパワーに満ちた歌声は、2022年の今だからこそ生まれ得たものだろう。およそ4年ぶりとなった今回のインタビューはZoomを使用してリモートで行ったが、アルバムの制作過程を熱く語る水樹の声や表情は、インターネット回線越しでもパワフルな光を放っていた。

取材・文 / 臼杵成晃

先の見えない戦い

──フルアルバムのリリースは2019年12月の「CANNONBALL RUNNING」以来およそ2年半ぶりとなります。この数年はコロナ禍という世の中の大きな変化もあって。アルバムを制作するうえでも、そこは多分に意識したのではないかと思います。

本来エンタテインメントは、誰かを元気付けたり、笑顔を届けたりするためにあるものだと思っていたのですが、それを禁じられてしまうという予想だにしない状況になって。会うことができない、届けることができない、一緒に声を出すことができない……本当にどうすればいいのかわかりませんでした。声優としての活動は幸いストップしたのは2カ月のみだったのですが、全員そろって「せーの」でアフレコしていた今までのやり方はできなくなってしまって。アフレコも舞台で演じるのと同じで、その場の空気感を共有しながら演じることが本当に大事なので難しいことが多々あって。

──その場にいない人のセリフを想像しながら演じなければいけない。

そうなんです。一緒にできればもっと高め合えたかもしれない、いろんなアドリブができたかもしれない……というもどかしさはあります。先の見えない戦いで、1人では何もできないんだなと痛感させられて。

──ライブに関しては幸い、ペンライトのある現場なだけまだましというか。歓声がない物足りなさはもちろんあるでしょうけど、ペンライトで作り上げられる一体感というのは変わらずあるので。

そうなんです! あのペンライトの輝きにとてもパワーをもらっています。聞こえるはずのない声が聞こえてきます(笑)。みんながどんな思いでそこにいるのか、声にできなくても、ペンライトの光に乗って伝わってくる感じでした。

水樹奈々

この時代を音のアルバムとして刻んでおくことは大事なんじゃないか

──新作も“コロナ以降”の初めてのアルバムということで、どういう変化があるのかと思っていましたが……録り下ろしの新曲10曲を含む全15曲という、相変わらずの熱量と情報量で(笑)。

そうですね(笑)。制作スタイルは変わりませんし、アルバムとなるとどうしても濃いものになってしまいますが、よりパワフルになっているかもしれません。

──サブスクの時代になってアルバム単位の考え方自体が希薄になってきているという世間の声もありますが、水樹さんはアルバムというフォーマットへの愛着を持ち続けているように感じます。そのあたりはいかがでしょう?

サブスクだと自分の好きな曲だけを聴いたり、独自のプレイリストで楽しむことも簡単にできますけど、頭からお尻まで通して聴くことで完成する、アルバムならではの楽しみ方を提示したいなと。そこは時代と逆行しているかもしれませんが、「DELIGHTED REVIVER」というひとつのステージを表現するように、セットリストを組むように曲を配置しているので、この流れで聴く気持ちよさをぜひ一度感じてほしいなと思います。

──発売日は“奈々の日”前日の7月6日ということで、“奈々の日”合わせのタイミングで出るアルバムはいつ以来だったかなと確認してみたら、2010年7月7日発売の8thアルバム「IMPACT EXCITER」以来でした。

そうなんです! 7にこだわっているわりに、夏にアルバムが出ることは少なくて(笑)。自分の中ではよりスペシャル感があるし、ここからツアーに出るということで、夏のステージで歌うことも意識しながら作っていきました。

──新曲10曲の中には、このコロナ禍だからこその表現も見られます。時代性を感じさせない、言うならばファンタジーにもっと寄せた作品にすることもできたかと思うのですが、水樹さんとしては今の時代を表現しておきたかった?

そうですね。世界中の日常ががらりと変わってしまった今の状況は、これまで経験したことのないもので……。数年経って振り返ったときに「あのときみんなで戦ったよね」という……まさに“アルバム”ですよね。これからの生き方や価値観が大きく変わった時間だったと思いますし、この時代を音のアルバムとして刻んでおくことは大事なんじゃないかなと思ったんです。

──アルバム全体の構成を考えて、楽曲を集めて、アルバムタイトルを考えて……という工程はこれまでと変わらず?

大きく違ったのは、アルバムタイトルを先に付けたことですね。いつもはだいたい制作の途中でタイトルが浮かぶんですよ。作っているうちに「今回はこういう方向性の曲が多いから……こんなタイトルはどうだろう」って。でも今回は逆で、「DELIGHTED REVIVER」というタイトルを先に決めて、この旗印のもとに集った曲の中から選んでいきました。だからいつも以上に統一感があると思いますし、「みんなで未来に向かって進んで行きたい」というエネルギーがあふれるアルバムになったと思います。

──どうして変わっちゃったんですか?

みんなに会えない、ライブができない、自由に音楽が届けられないという2年半を過ごしたことで、伝えたいメッセージがあふれていて。導かれるように自然とそうなりました。

──伝えたい思いが明確だったからこそ、ゴールを定めて中身を磨き上げていったと。

はい。コンペで集まったたくさんの曲を聴いて、そこから直感で選んでいくというスタイルは変わっていないのですが、共通したテーマを元に構築していくことで、より練り上げることができたと思います。結果「みんなで立ち上がろうぜ!」「戦っていこうぜ!」というエネルギッシュな曲が大集結しました(笑)。