MIYAVI|つながりが試される時代に一筋の光を

MIYAVIが4月22日にニューアルバム「Holy Nights」をリリースした。LDHへのマネジメント移籍第1弾アルバムとなる本作は、リリック、アレンジ、ギタープレイなど、すべてのサウンド面にMIYAVIが迎えた新たなフェーズが反映されている。さらに、Amber Liu、FÄISとのコラボや、矢沢永吉の「Tomaranai ha-ha」、沢田研二の「TOKIO」のカバーなどトピックにも事欠かない。彼は今、この世界をどのように見据え、音楽という表現形態の機能性をどう捉えているのか? なおも進化を止めないMIYAVIに話を聞いた。

取材・文 / 内田正樹 撮影 / 草場雄介

僕たちは音楽を通じて何を発信するべきなのか

──新型コロナウイルスの感染が徐々に深刻化しています(※このインタビューは3月中旬に実施)。

今、僕らに何ができるのか、日々考えています。アルバムもそうだし、日々の発信が僕らの役目だと思います。この「Holy Nights」は、ウイルス感染以前の不自由なく暮らせていた状況において僕が見渡してみて、すでに世界が大きな岐路に立たされていると感じられたことが制作の動機でした。今、現在も世界中でいろんな異常気象が起こっている。世界で7000万人以上もの難民がいて、その数は今もどんどん増え続けている。さまざまな紛争や迫害も終わっていない。プラス、今回のようなパンデミックまで起こってしまった。

──そうですね。

ここから僕が懸念しているのは、経済や流通が遅延、ストップしたときの国家間の摩擦です。個々での活動も制限され、働けずインカムが下がるとフラストレーションもストレスも溜まる。この状況を一刻も早く打破するために国がリーダーシップをとらなければいけないはずなのに、逆に争い始める。人と人が争わないようにするためにはどうしていけばいいのか? こういった状況で僕たちは何を歌うべきなのか? 音楽を通じて何を発信するべきなのか? それが問われている時代だと感じています。

サウンドのクオリティがグローバルであれば言語は関係ない

──前作「NO SLEEP TILL TOKYO」(2019年7月発売のアルバム)は、アメリカに拠点を置き、ツアーで世界中を周っているMIYAVIだからこその視点で描いた“TOKYO”がテーマでした。今作は、前作からの延長線上に位置する作品とも感じられますが、そのあたりの経緯をクリエイティブの面からも説明してもらえますか?

MIYAVI

前作以前の自分は、とにかく「ギターで勝負したい」という気持ちが強かった。日本出身のアーティストとして、ギターで歌って、ギターで世界を踊らせたかった。無論、その思いは今も変わっていません。でも、前作から、ピュアにMIYAVIを応援してくれている人たちに向けて、もっと自分の言葉で強くメッセージを伝えたいと思うようになった。時代の流れも、サウンドのクオリティさえグローバルであれば、言語は関係なくなってきているし、あまりうまいことが言えていなくてもいいから、とにかく自分の言葉で、まっすぐな歌を書いて歌おうと決めて。

──そうした意識からか、今作のリリックにもさらなる変化が感じられます。

英語と日本語のバランスは、さらに意識し始めましたね。例えば英語でサビを歌うなら、Aメロは日本語でストーリーをなぞるとか。サビも英語で始まって日本語で終わるとか。逆もしかりで、日本語のサビの場合はプレコーラスで英語とか、英語しかわからないリスナーにも伝わるように英語で補足やリピートをしたり。日本語と英語を混ぜると、韻を踏む場合もより選択肢が増えて、逆に表現の幅が広がりました。

──よりソリッドなリリックになったと思います。ちあき哲也さんが作詞した矢沢永吉さんの「Tomaranai ha-ha」と、糸井重里さんが作詞した沢田研二さんの「TOKIO」をカバーしていますが、職業作家が歌詞を書いた2曲の名曲と並べても成立するくらい、言葉の贅肉が削ぎ落とされてきたというか。

うん。とにかくリリックには、かなり注力しました。

──「Fire Bird」にも参加していたJunさんが4曲の作詞でクレジットされています。Kis-My-Ft2への提供曲でもコンビを組んでいましたが、彼は今作の仕上がりにどのような作用をおよぼしていますか?

服作りに例えるのならパタンナーに近いのかな。僕が渡した叩き台となるイメージを形に起こしてくれるというか。撮影におけるスタイリストさんやヘアメイクさんみたいな役割でもあります。やはりどうしても自分だけでは目が届かない部分がある。周りからアイデアをもらって、それをまた僕が自分の言葉で書き直すというプロセスです。

ようやく手に入れた歌い手としての自信

──ボーカルについてはどうですか? そもそもMIYAVIは「ギターで勝負したい」からこそ、過去のインタビューではボーカリストとしての自己評価が妙に低いというか、ある種のコンプレックスさえ感じられて……。

ずっとコンプレックスですよ(笑)。でもようやく、「俺は唯一無二だ」と言えるようになったのかも。

──もっと早くそう言い切ってしまってもよかったのでは?

MIYAVI

いや、対世界マーケットという意味ではまったくレベルが足りていなかった。富士山を登るのも尊いけれど、その装備じゃエベレストは登れない。あくまでも僕が目指していたのはエベレストを登る装備だから。世界にはすごい奴らが当たり前のようにたくさんいるからね。ギターならバトルでも負けない自信はあるけど、歌い手としてはとてもとても……でも、ようやく準備が整ってきたというか。うまい、下手じゃない次元でギター、ビジュアル表現、ライブのパフォーマンスも含めた総合的なアプローチとして、今は僕にしか出せない声とメッセージがあると胸を張って言えます。

──新たに持ち得た装備とは、具体的に言うと?

呼吸、姿勢……あとは手の抜き方(笑)。僕、こういう性格なので、いつも挑戦していたいというか、ぬるいのが嫌でいつも極限まで行ってしまう。ただ、僕が極限にいるときは、周りも同じく限界なので、落ち着いて見ていられない(笑)。そういうところも変えて……あのね、先日ひさびさに「Real?」(2014年9月発売のシングル)で一緒に制作したJam & Lewisと再会したんだけど、当時、彼らは「MIYAVIは音楽を超越している」とずっと熱っぽく僕に語ってくれていました。当時の僕はその意味があまりわからなかったので、スラップばっかしてたんだけど(笑)、今ならわかる。答えはあの頃すでにあって彼らは「Real?」で僕と会ったときから、それに気付いてくれていたんですよね。音だけじゃない、もっと立体的な表現方法というか。