MIYAVI「Lost In Love」インタビュー|混迷の時代にロックスターとして歌う“愛”と“もがき”

MIYAVIのニューアルバム「Lost In Love」がリリースされた。

「Duality(二面性)」がテーマの本作は「Lost In Love, Found In Pain」なる2部作の前編にあたり、近日、後編の「Found in Pain」がリリースされる予定だ。サウンド面においては楽曲制作の相棒でもあるレニー・スコルニックに加え、アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動を続けてきたMIYAVIの人脈から、多彩なプロデューサー、北米のアーティストやK-POPを手がけるソングライター、共同制作者が参加している。レーベル移籍後初となるオリジナルアルバムを2部作にした理由とは? そして本作でMIYAVIが見せるボーカリストとしての“覚醒”とは? 音楽ナタリーではMIYAVIにインタビューを行い、それぞれの背景をじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 内田正樹撮影 / 映美スタイリング / 櫻井賢之(casico)

本能的であり本質的

──「Lost In Love」は、「Lost In Love, Found In Pain」という2部作の前編にあたるということですが。

最初から2枚組のアルバムにしたかったんです。僕は今、制作に対する気持ちがすごくノッてる。その勢いをすべて形にしておきたくて。リリースを前後編と分けた理由は“堪能”という考え方から。僕としてはアルバムの仕上がりに大きな手応えを感じていて、ファンのみんなやリスナーにも1枚ずつ“よく噛んで”聴いてもらいたかった。あとはプロモーション面でも、2作に分けることで、それぞれリリース前後の時間を使って、日本、海外とまんべんなくやれる。最近の音楽の消費のされ方を改めて見渡すと、自分の新作に限らず、たくさんの作品がすごい速さでリスナーの前を通り過ぎているじゃないですか。それは音楽を楽しむためのサービスやメディアが増えたり、便利になったことの裏返しでもあり、仕方のない部分もあるんだけど、せっかくじっくり長い時間をかけて作った作品だからやっぱり聴いてくれるみんなにも2部作を通してできるだけじっくりと味わってほしいし、僕自身じっくりと時間をかけてしっかり届けたいなと思ったんです。一時は去年にリリースしようかというプランもあったんだけど、せっかくレーベル移籍後初のオリジナルアルバムだし、今までのコンスタントなリリースサイクルよりも、もうちょっと溜めて、深く、突き詰めて制作してみようと決めて今回の作品に取り組みました。

MIYAVI

──テーマの「Duality(二面性)」についてはどこから?

人間にとって普遍的なものですよね。これはたまたまだけど、思えば僕がソロデビューする前にいたDué le quartzというバンドも二面性が1つのテーマだった。そもそもの起点は、今の僕自身の存在やアーティストとしての在り方でした。アーティストとしてロックして、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の親善大使としての活動もやって、俳優としての活動も続けている。自分が多面体になった今、改めてロックスターとしてどうありたいんだ?何を表現したいんだ?と見つめ直したんです。やっぱり僕は僕の音楽を必要としてくれる人に生きる勇気を与えられる存在でありたい。それを伝えるうえで、痛みや苦しみからは目を背けられないと思ったんです。痛みと勇気、苦しみと希望、言わば陰と陽ですよね。俺は生に対して常に肯定的でありたいし、MIYAVIの音楽を聴いた人やライブを観た人から「元気が出ました」と言われるとやっぱりシンプルにうれしい。そのうえでロックスターとして打ち出すべきメッセージってなんだろう?と考えたときに痛みや苦しみ、もがきみたいなものとしっかり伝えたいと思いました。陰と陽、昼と夜、男と女、そして理性と本能。それらを包容するタイトルがなかなか見つからなくて、最終的に「Lost In Love, Found In Pain」というタイトルが浮かんだときは、すべての歯車がガシッとはまってすべてが動き出したような感覚でしたね。

──思えば「Lost In Love, Found In Pain」って、ちょっと不思議な響きですよね。

そう。普通に考えたら「Lost In Pain , Found In Love」なんだけど、あえて逆説的にしていて。「Lost In Love(=愛の中で見失う)」愛する人やもの、場所や夢など、その中で自分自身を見失ってしまうって、人間的だなあと思うんですよね。理性と本能があるから起こりうる。食欲でも物欲でも睡眠欲でも性欲でも、快楽や喜びの中でときに自分を見失ってしまう。でも、満たされたらその欲って一気にどこかにいっちゃうでしょう? その二面性というか感覚のシフトも人間的というか動物的だし、改めて考えると興味深いことだなって。一方、「Found In Pain(=痛みの中で見つけ出す)」、痛みや苦しい時間の中で真の自分を見出すというのは、仏教的な考えに近いというか、苦行を堪えて自分を研ぎ澄ますという意味で、本質的な言葉として、すごく気に入っています。なので、このアルバムはその二面性を包括していて、自分にとっても、本能的であり、本質的なアルバムになったと思います。

MIYAVI
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今は英語での勝負を楽しみたい

──それらを踏まえて、全曲の歌詞を英語にした背景とは?

これまでも楽曲によって英語と日本語を混ぜて歌ってきたけど、シンプルに英語のほうが気持ちを表現しやすくなってきたし、ストーリーを深く描ける。メロディやアレンジに対する言葉の乗せ方も、英語のほうがより音楽的ですよね。もちろん日本人として日本語を使いたい気持ちもあるし、そっちのほうが理解はしやすいんだけど、英語のほうが楽曲のストーリーも伝えたい思いも共有しやすいし、試せることの可能性も広がる。自分では特に意識していなかったんだけど、昨今、言語を混ぜた表現は世界的にも増えてきている中で、自分としては多言語での歌は音の響きのバリエーションとしては有効だけど、深い物語や強いメッセージを表現したいときは、伝えたいことが途切れがちになってしまうこともある。最近は日本語のままでも世界中で聴いてもらえるようになったし、それは本当に誇らしいことだと僕も思っているんだけど、海外でツアーをしている自分の肌感としては、正直、まだまだ英語と肩を並べる域ではない。もちろん今後も日本語のレパートリーも歌う気だし、日本語のディテールにこだわった作品も作っていきたいけど、今は英語での勝負を楽しみたいし、実際に楽しんでいます。

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──実際、リリックには英語だからこその表現も多く見られるし、どの曲も物語のまとめ方としての精度が高い。

コロナ禍のときから着手していた曲もあるし、何度も書き換えた歌詞もあります。ボツにした曲もめちゃくちゃあった。俺はけっこう気に入ってる曲もあったんだけど(笑)、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ問題も作詞にはすごく影響を及ぼしました。今回の歌詞の大半は、まず“自分との対峙”がテーマ。この曲で歌いたいことはこれで、AメロBメロはこれで、サビはこれという曲の基礎を作って、それをもとにバーッとライター陣とやりとりしながら詰めていく流れです。もちろん、どんなにネイティブに近い英語表現でも、自分の体に馴染まない表現は無理に使わない。英語特有の韻の踏み方やユニークな言い回しというのは、まだまだ俺の力だけではでそろわないから、いろんな作家とのコラボレーションが重要です。将来的にはトラックまですべて自分でコントロールするような作り方もやってみたいけど、大勢で作るのはとても楽しいですよね。新しい発見の連続だから。

──制作は、近年チームを組んでいるヤン・スピルバーグを中心に、コライトではケイティ・ペリーやBTS「Butter」の作曲に参加したセバスチャン・ガルシア、SHINee、少女時代、嵐らの曲を手がけたドリュー・ライアン・スコット、同じくSHINeeやテミンなど数多くのK-POPを手がけるマット・ウォングなど何十人ものクリエイターが参加しています。従来のMIYAVIらしいダンサブルなギターロックに、昨今のR&Bやダンスポップの要素が加味されていますが、これだけ大人数の作家が参加しているのに、よくこんなにきれいにまとまりましたね。

MIYAVI
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正直、俺も途中はどう収拾をつけようかちょっと不安でした(笑)。曲数もアルバム前後編分あったし。ここまで大人数と交わり合ったのはひさしぶりでしたね。レナード・スコルニックがA&R的なポジションでまとめ役を担ってくれて、すごく助けられました(※レナードは全曲のソングライティングにクレジットされている)。今回はボーカルワークにかなり力を入れていますが、ギタリストとして自分のカラーがあるのは強いとは感じました。どんなトラックが来ても自分の色に塗り替えることができる。そこはアーティストとしての大きな強みでもあるし、それがあるからたくさんのプロデューサーともコラボレーションすることができる部分もあります。あと実際のサウンドに関してはミックスとマスタリングを手がけたオースティン・セルツァーの功績も大きかったです。ひとつの大きなサウンドスケープにうまくまとめ上げてくれました。

──当初のビジョンから大きく方向が変わった曲もありましたか?

ありましたね。まず今回の曲の作り方は、曲や相手によって本当にバラバラで。セッションから生まれたフレーズを発展させた曲もあれば、もともとあったデモをデベロップさせた曲もあって。そのデモは僕が作ったものもあれば、プロデューサー側から持ち込まれたものもあったし。曲で伝えたいテーマは常にはっきり提示しているんだけど、カリフォルニアロールを作っていたはずが、いちごパンの見映えになっていた、なんてこともあるし(笑)。だけど、それはそれで楽しい。そう思えるだけ自分が成長したんだと思う。最終的に、MIYAVI印を押せるかどうか、かなと。