ナタリー PowerPush - MISIA
初のカバー集は素晴らしいものを受け継ぐ旅
「Smile」という言葉は人を自然とスマイルにする
──そもそも、MISIAさんはカバーにどんなイメージを持っていましたか?
今まであまりカバーをしていないという印象を持つ方も多いかと思いますが、実はデビュー間もない頃にやらせていただいたラジオ番組内では、アコースティックライブでよくカバー曲を歌っていたんです。また、ツアーなどで歌うことも多いので、“初めて”という実感はあまりないんです。
──実際に歌ったことで、いろんな発見もあったでしょうね。
英語の発音についてはかなり細かくチェックして、練習しながら歌ったんですね。その中で……例えば「Smile」はカタカナどおりにスマイルとは発音しませんよね。Smile本来の発音をしようとすると、自然に表情が笑顔になるんです。「Smile」という言葉は人を自然とスマイルにするんだなって、ハッとしました。また、「Mercy Mercy Me (The Ecology)」はエコロジーについて歌ったものですが、40年前にもこのメッセージが歌われていたと思うとある意味でショックだなって。今の時代の私たちもこの歌詞の深さがわかってしまう。本当はわからないくらいになっていたらいいのになって思ったりしましたね。
コーラスから生まれる波ごと封じ込めたい
──「SOUL QUEST」ツアーでも既にいくつかカバー曲を披露されていますね。
ツアーで歌った「Heal The World」はマイケル・ジャクソンという本当に偉大なミュージシャンの歌ですし、歌う前は本当に緊張するんです。
──そんなふうには見えませんでしたよ!
歌う瞬間は集中していますから。カバーしていて特に感じるんですが、楽曲には変えていいところとそうじゃないところがある気がするんですね。そこをちゃんとわかって、自分の体を通した歌になっているか、とても気になります。それに、マイケル自身はさらっと歌っていますが、とても難しい楽曲でもあります。ゆったりした曲なのに、細かなリズムを感じないとメッセージがきちんと伝わらない。そういった意味で究極の美を追求している曲だなと思いながら歌いました。ライブのMCでも話しましたが、「Heal The World」は震災の後にラジオなどで最もリクエストされた曲のひとつ。そんなみなさんの願いに共感しましたし、同じ願いを持って歌ったからこそ、ライブでも大きな拍手をいただけたのかなと思っています。
──「Can't Take My Eyes Off Of You」も去年からライブでたびたび歌っていますね。
アジアツアーでもすごく盛り上がりました。この曲のコーラスは、アレサ・フランクリンのバックで歌われている方にお願いして、ニューヨークでレコーディングしたんです。たまたま私も居合わせることができたので、その風景を見学させてもらって(笑)。アレサ・フランクリンのハイトーンボイスは、地声にファルセットを絶妙に混ぜたような歌声なんですね。だから、コーラスの方も地声でバン!と押すのではなく、ファルセットと地声の真ん中の強くて柔らかいボイスを使うんです。なので、軽やかさもありながら、なおかつハッピーな雰囲気があるんですね。
──笑顔で歌っているフィーリングは音源を通しても伝わりましたよ。
うれしいですね。向こうのコーラスレコーディングは日本のように一人ひとりを分けて録るのではなく、1つ、もしくは2つのマイクを使ってコーラス隊全部が一緒に歌うんです。和音はドミソで成り立っているけれど、ドの音を出す人の倍音、ミの倍音、ソの倍音……そういった音の広さで大きな波が生まれると思うんですね。だから、コーラスから生まれる波ごと封じ込めたい場合は一緒に歌って録るべきだなって、レコーディング風景を見ながら思いました。
──細部まで聴き逃せませんね。
ライブでもホールによって響き方が違うように、レコーディングスタジオのルームによっても違ってくるんです。海外ではマイクからの音だけでなく、ルームの音も一緒に録ることが結構あります。マイクから少し離れたルームの空気が揺れる感じまでもが入ってくるんです。
ソウル独特のスネア
──今作は大きく分けて、日本で録ったものと、ロンドンでレコーディングしたものがあるそうですね。
ロンドンで録った大きな理由は、ヨーロッパを中心に活動されている鷺巣詩郎さんに「Smile」「Mercy Mercy Me (The Ecology)」「This Christmas」のアレンジをお願いしたからです。そのほかの多くはツアーでバンドマスターとして一緒に回っている重美徹さんにアレンジをお願いしました。ロンドンは、ゴスペルクワイアと一緒に教会で「THE GLORY DAY」(1998年 / 鷺巣詩郎作曲)を一緒に歌ったことがあり、以前からかかわりが深いんです。今回のストリングスはアビーロードスタジオで録ることができましたが、そのストリングスもロンドンオーケストラの方々に弾いていただくというとても贅沢なものになりましたね。ほかにも、ロンドンで録ったバンドメンバーも旧知の人たちなので、普段は離れているけれどお互いのソウルを感じ合うようなレコーディングになりました。
──ロンドン収録のサウンドの特徴は何だと思いますか?
最も大きな特徴は、リズム隊かもしれません。ロックのドラマーとは違う、ソウル独特のスネア……軽やかにドラムが連なりながらも弾むような、そんな感じがあるんです。今回ドラムを叩いてくれた方は、ベーシストでもあり、ゴスペルでもリズム隊をやっていたりもするので、ベースラインを理解しながら叩くドラムで、そのサウンドがとてもカッコいいんです! ときおりジャジーな感じもありつつ、根底にはとてもソウルフルなグルーヴが流れているので、そのフィーリングがクリスマスシーズンにぴったりだなと。そういったところもぜひ、聴いていただきたいですね。
CD収録曲
- Smile
- Heal The World
- The Rose
- What A Wonderful World
- Ribbon In The Sky(Japanese Version)
- Mercy Mercy Me(The Ecology)
- This Christmas
- White Christmas
- Can't Take My Eyes Off You
- 大きな愛の木の下で
MISIA(みーしゃ)
1998年2月にシングル「つつみ込むように…」でデビューを果たし、大ヒットを記録する。同年6月に発表した1stアルバム「Mother Father Brother Sister」は200万枚以上を売り上げ、女性R&Bブームの火付け役存在となる。2000年に発表したシングル「Everything」はドラマ主題歌にも起用され、200万枚を超えるセールスを達成。2011年7月には通算10枚目となるオリジナルアルバム「SOUL QUEST」を発表し、12月14日に初のカバーアルバム「MISIAの森 -Forest Covers-」をリリースする。