闇が浄化された「キングレコードからデビュー」のパワー
──その後、2015年12月2日の20歳の誕生日にシングル「夢のつぼみ」で歌手としてメジャーデビューしました。歌手デビューの話を聞いたときはどういう気持ちでしたか?
「魔法少女リリカルなのは」シリーズなどを通じて、自分が落ち込んでいたときに元気をもらっていた水樹奈々さんのいるキングレコードからのソロデビューということで、すごく夢のような気持ちでした。ここまでいろんなことがあったけど、「キングレコードからデビューする」というお知らせのパワーが大きすぎて、一瞬でいろんな闇が浄化されていくような、特大の光が降り注いだような感じでした。その話を聞いてからは「いつ死んでもいいかも」と思いながら毎日過ごしていました。「もう私の人生のピークはここ!」って思いました。
──今ライブで堂々と歌っているところを見ると、人前に出るのが苦手な人だとは思えないんですが、ステージに立つのには抵抗はないんですか?
何かを演じている自分を見られるのに抵抗があるのであって、自分らしくいられるステージはまた別ですね。自分の曲を聴きに来てくれる人は自分の味方だと思うと不安ではないし、むしろ幸せで、ライブはどれだけみんなに思いを伝えられるかを試される場所だと思っています。でも、楽しいだけじゃなく落ち着いた気持ちでもいなきゃいけないし、何か1つを優先すると別のものが欠けていく、すごく難しい場所だなって最初は思いました。デビュー日にリリース記念イベントをやらせていただいたときも、緊張が上回って全力で楽しめていなかった自分がいたし、とはいえ全力で楽しむと歌詞を忘れるし……全部をこぼれないように押さえたいのにどうしても指の隙間から何か落ちていくような、ライブってハラハラするものなんだなって。ここ最近は大きなライブイベントにたくさん出演させていただいていることもあり、冷静でいながらも楽しむ感覚を徐々につかんでいる最中で、デビュー日よりはライブというものをすごく楽しめています。
──この間の武道館でのライブ(参照:小倉唯×水瀬いのり×上坂すみれ、アニソン次世代の武道館“キンスパ”ライブ)でも、とても堂々としているように見えました。
「キンスパ」(「KING SUPER LIVE 2017 TRINITY」)はキングレコードさんの新しい歴史を私たち3人が背負っていくというライブでしたし、先輩方のカバーもあるし、すごく神聖な気分でした。それに、3人でステージに立って、1人じゃない場所ってとても大切なんだなって感じました。私はグループでの活動をほとんどしたことがないんですけど、両隣に誰かいるって素晴らしいことなんだなって。3人だから達成感も3倍で、「無事に終わってよかったね」ってみんなと言い合えて、すごく大きな1日でした。
「テーマを作らない」がテーマ
──ではここから、満を持して発売される1stアルバム「Innocent flower」について伺います。このアルバムには「こういう作品にしたい」というというテーマは何かあったんですか?
テーマを作らない、というのがテーマでした。初めてのアルバムなので、例えばカッコいい曲、もしくはしっとりめの曲が多いですというジャンル分けは設けなくて、ただ自分が歌いたい曲を集めたアルバムを作りました。
──選曲はどのようにして決めたんですか?
たくさんのデモを聴かせてもらって、自分が好きなものを選びました。歌詞も自分の意見をけっこう入れてもらって、スタッフさんと相談しながら決めていきました。
──デビューシングルのタイトルが「夢のつぼみ」で、今回のアルバムのタイトルが「Innocent flower」ですが、これには「蕾が花咲いた」という意味合いが込められているんでしょうか?
そうです。「夢のつぼみ」は1stシングルということで、ジャケット写真もあまり色を付けずに「まだ何色でもない、これからいろんな色に染まっていく私」というメッセージを込めました。今回のアルバムでは「無垢」「無邪気」という意味の「Innocent」を絶対使いたいなと思って、そのあとに続く言葉を考えていったんです。「flower」という言葉は最初に出てきたんですけど、ありきたりかなと思って一旦寝かせて。「歌を届ける」という意味で「song」とかいろいろな別の案も考えたんですけど、最終的に候補を並べたときにシンプルで一番わかりやすいのが「flower」だったんです。
──そんなアルバムの冒頭を飾るリード曲「春空」は、タイトル通りまさに春を歌った曲ですね。
はい。春は新しいことが始まったり、卒業などのお別れがあったりする季節だと思うんですが、「春空」は不安や迷いがある人を応援する曲になっています。周りを気にしがちな季節なので、「自分らしいペースでいいんだよ」と歌っています。
──「春空」はミュージックビデオも制作されています。MV撮影はある意味女優業に近い、自分で自分を演じる作業だと思うんですけど、苦手意識はないんですか?
1作目の「夢のつぼみ」のときは苦手なタイプのお仕事でした。でも、出演者は私しかいないし、自分100%な作品になりますよね。できあがりを観たときに「ああ、ここをもうちょいこうすればよかったな」と感じるのも自分1人だし、だったら楽しんだほうがいいと思うようになりました。アルバムの初回限定盤のBlu-rayには「夢のつぼみ」から「春空」までの4本のミュージックビデオが入っているので、成長していく私を観ていただけると思います。
「終わらない、終わらない……」
──アルバムの中でお気に入りの曲はありますか?
うーん、どの曲も本当に大好きで一番を決めるのは難しいですね……。
──ではレコーディングで印象に残っている曲は?
どの曲でも自分でコーラスやハモリを担当していて、その量がすごく多いんです。でも最後にレコーディングした「星屑のコントレイル」はハモリがすごく少ないうえコーラスもなくて、一番短い時間で録り終わったんです。どの曲も平均6、7時間ぐらいかけてたんですけど、「星屑のコントレイル」は2、3時間で終わってしまって、「最終日すごいあっさりだったな」って(笑)。メインのボーカルラインを録り終わったあとに「また闘いが始まるな」と思っていたら、歌声を優先するために飾りのハーモニーはなくそうという話になったんです。当初予定されていたハモリのパートがどんどん削られていって、普段だったらいっぱいあるから削られるとうれしいんですけど……「1stアルバムのレコーディングがこれで終わっちゃうんだ」みたいな寂しさがありました。逆にタイトルを決めるのは、「星屑のコントレイル」が一番時間がかかったかも。
──曲のタイトルを決めるのも基本的には水瀬さん自身が?
そうですね。いただいた歌詞のワードを組み合わせたりして決めています。「コントレイル」は「飛行機雲」という意味なんですけど、その言葉にたどり着くまでに星の名前などをいくつか候補でいただいて。どれもすごくきれいな響きだったんですけど、「コントレイル」という言葉を見たときに「ああ、これかも!」って思いました。
──コーラス録りはやはり難しいですか?
難しいですねー。曲によって2声だったり3声だったりするんですけど、3声では3つのパートが全部同じ動きじゃないときがあるんです。真ん中の音はすんなりいったのに、低音では一拍待つとか。やっていると完成図が見えなくて、「終わらない、終わらない、譜面がずっとある……うー」って行き詰まってしまいます。最終的にできたパートが3つ並ぶと歯車が回って「よかったー」という達成感があるんですけど、表情はかなりグロッキーだったと思います(笑)。
──レコーディングは大変な作業だと思いますが、そこも含めて楽しめていますか?
そうですね。アルバムでは新曲のレコーディングが9曲もあってどれも大変だったんですけど、手応えを感じながら楽しめました。
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母と一緒に謎の号泣
- 水瀬いのり「Innocent flower」
- 2017年4月5日発売 / KING RECORDS
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
3888円 / KICS-93477 -
通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3477
- CD収録曲(共通仕様)
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- 春空
- 夢のつぼみ
- Lucky Clover
- コイセヨオトメ
- 涙のあとは
- いつもずっと
- Starry Wish
- Will
- 星屑のコントレイル
- 旅の途中
- harmony ribbon
- Innocent flower
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
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MUSIC VIDEO
- 夢のつぼみ
- harmony ribbon
- Starry Wish
- 春空
- 水瀬いのり(ミナセイノリ)
- 1995年東京都生まれの声優、アーティスト。2010年にソニー・ミュージックアーティスツ主催のオーディション「アニストテレス」でグランプリを受賞し、アニメ「世紀末オカルト学院」で声優デビューした。2013年に「恋愛ラボ」で棚橋鈴音の声を担当し、注目を集める。同年にはNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」で成田りな役を務め、「第64回NHK紅白歌合戦」に「GMTスペシャルユニット feat.アメ横女学園芸能コース」の一員として出演した。2015年12月の20歳の誕生日にキングレコードよりシングル「夢のつぼみ」をリリースし、ソロ歌手としてデビュー。以降、声優および歌手として活躍し、2016年には「第十回声優アワード」主演女優賞を受賞した。2017年4月に1stアルバム「Innocent flower」を発売する。