加藤ミリヤが、ニューアルバム「Femme Fatale」を完成させた。2017年12月の「新約ディアロンリーガール feat. ECD」や、今年3月にリリースしたCD作品「I HATE YOU」では自身のルーツであるヒップホップやR&B、クラブサウンドへの再アプローチを見せていたが、本作はその延長線上にある仕上がり。さらに現行のトレンドを探求・消化して“ミリヤ流”に昇華させたサウンドの収録曲が並ぶ。一方歌詞では、彼女に内在する愛の定義と信条をリリカルに表現。祈りにも似た清らかな願いと心に秘めた決意を臆することなく吐露している。オリジナルアルバムとしては10枚目、二十代最後の作品となった本作で、加藤ミリヤが訴えたかったこととは何か。完成に至るまでの背景を細部にまで貫かれたこだわりと共に明かしてくれた。
取材・文 / 猪又孝
私、これも今できる、これもできるのに
──CD作品「I HATE YOU」を経てのアルバムリリースとなりました。振り返ると、「I HATE YOU」は今作にとってどんな存在の作品になりましたか?
入り口って感じですね。バーッとドアが開いて「あなたが今から表現するステージはここです」って導いてくれたもの。「I HATE YOU」で、そのとき自分が気になってるクリエイターといろいろ曲を作ってみて自分の音楽性に自信が持てたと言うか、「これは自分にしかできないことだ」と思えたんです。
──そんな作品を経て、どんな気持ちでアルバム作りに臨んだんですか?
「I HATE YOU」の流れで今回のアルバムの作業を始めたので、特別にコンセプトを設けてやろうと思ってたわけではなく。ただ、前作アルバムの「Utopia」からの1年で音楽の潮流も変わってきているし、より遊ぶと言うか、自分の中で面白いと思えるもの、自分にしかできないことを意識して作っていきました。
──「I HATE YOU」を作っているときに、今回のアルバムの青写真は描いていなかったんですか?
アルバムを出すことは決めてたんですけど、内容は全然。ストックもなかったから、Chaki(Zulu)さんと「Don't let me down」のトラックダウンをしているときに、「私たち相性がいいと思うし、Chakiさん、トラックちょうだい」みたいにお願いして(笑)。
──それがChaki Zuluプロデュースの1曲目「Femme Fatale」?
そうです。だから、過去最短期間で作ったアルバムかも。ただ、最後に作ったのが「KING / QUEEN」と「オンリー・ロンリーマン」なんですけど、このタイプの曲を入れたくてギリギリまで粘ってたんです。オリジナルアルバムって「これが今のミリヤ」って思われるわけだから、「だったら私、これも今できる、これもできるのに」っていうのを無理してでも表したくて。
ピュアじゃなかったら、もっと楽に生きれたかな
──「Femme Fatale」というアルバムタイトルは、どんな思いから付けたんですか?
「運命の人」という思いでタイトルにしました。ただ、同じくらい「強い女性」っていう意味も込めてます。辞書とかインターネットで「Femme Fatale」を調べると、強すぎてネガティブなイメージもあると思うんですよ。
──魔性の女、という意味もありますからね。ちょっと狂気的と言うか。
そう。例えば阿部定みたいな。それだとちょっとネガティブな印象が強いと思うけど、私は、ある人だけに向けた強い愛を持っていて、かつその愛を貫ける強さを持ってる女性っていうイメージで付けたんです。1人の人をこれだけ愛せる人、愛している人、みたいな。
──なるほど。
これだけ世の中に人間がいるのに「もうあなただけ」って決めてる女性って、周りにたくさんいて。今回言いたかった強さはそういう強さかな。だってそれって、ある意味大変ですよ。つらいときもあるかもしれないけど、それでも「もうあなただけ」って決めてる人たちを書きたいと思ったんです。
──今回のアルバムに描かれている女性像は、決してお行儀がいいわけじゃないと思ったんです。
ふふふ。そうですね(笑)。
──本能的で衝動的で情熱的。逞しさも感じるし、ある意味欲張りでもあるんだけど、一方で「Don't let me down」では、男性を「王として崇めるわ」という歌詞が出てきたりして献身的なところもある。
私は男性に強くあってほしいし、強くあるべきだと思ってるんです。肉体的にも能力的にも男の人のほうが強いと思っているので。
──だから決して女性上位ではないんですよね。
例えば、私は「ウチのダンナが」っていう言い方がダメなんですよ。「え、主人じゃないの?」みたいな。「彼氏が」っていうのも嫌なんです。「彼氏」じゃなくて「彼」。“カレシ”っていうイントネーションからして嫌とか思っちゃう(笑)。女性が男性のことを「あんたさー!」なんて言ってるカップルもいるじゃないですか。別に人は人だからいいんですけど、私はそう言いたくはないし、古きよき時代の関係を理想としてるから、自然と歌詞にあるような見方になるんだと思います。
──あと、「私の名はイノセンス」の歌詞には「聖母」という言葉が出てくるので、男性を包み込む優しさや癒しを感じさせる部分もあって。だから今回のアルバムは女性に内在する3つの“セイ”がテーマかなと思ったんです。本能的なところには逞しい生命力を感じるから「生」、婉曲的だけどセックスを想起させる描写もあるから「性」、それでいて純真で無償の愛を注ぐようなところもあるから「聖」っていう。
そうかもしれないですね。
──そう考えると、ここで言う「強さ」はピュアということなのかもしれない。
なんと言うか、そういう自分を目の当たりにして苦しいっていう感じなんです。自分がピュアじゃなかったら、もっと楽に生きれたかなと思う。でもそれは自分の性格だし、しょうがないなって苦しみながら、向き合いながら歌を書いてる。「私の名はイノセンス」なんてまさにそうですから。自分のことをもっともっとわかってきたっていうことなのかな。
──無垢だからこそ、けがれに敏感と言うか。けがれると余計心が苦しくなる。
そう。世の中には本当に嫌な人っているし、自分に攻撃する人もいるんです。そういう人がいることは頭ではわかっていたけど、今まではきっと本心からわかってなかったんですよね。でも最近は、一周してだんだん冷静になってきて「この人はこういう理由があってこうしたのかもしれない」とか許せるようになってきた。私は無宗教ですけど、子供の頃、聖書を読むのが好きだったんです。で、今聖書を読み返したりしてると「聖書に書いてあるようなことを歌ってるな」って思うんですよ。「人を許しなさい」とか、「求めるんじゃなくて与えなさい」みたいな。
──言わば、今作は“ミリヤ流バイブル”なのかもしれないですね。
それはわからないけど、最近、あんまり他人のことが気にならなくなってきていて。“Don't judge me. and I won't judge you(自分はジャッジされたくないし、他人のこともジャッジする権利はない)”、みたいな。世の中の人に自分たちのことを言われる筋合いはないし、自分も誰が何をしていようが気にならなくなってきて、自分の生活にもっと集中できるようになってきた。そのうえで自分の周りの人たちのことにもっと集中できるようになってくると、結果世の中がよくなっていくんじゃないかなって。このアルバムを作ってるときに、そういうことは頭をかすめていました。
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「あなたの子供が欲しい」みたいなことをすごく遠回しに言おうと
- 加藤ミリヤ「Femme Fatale」
- 2018年6月20日発売 / Sony Music Records
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初回限定盤 [CD+DVD]
4860円 / SRCL-9817~8 -
通常盤 [CD]
3300円 / SRCL-9819
- CD収録曲
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- Femme Fatale
- I HATE YOU
- 私の名はイノセンス
- 貴方はまだ愛を知らない
- Funny Love
- あたしの細胞
- 新約ディアロンリーガール feat. ECD
- 顔も見たくない feat. JP THE WAVY
- KING / QUEEN
- オンリー・ロンリーマン
- Don't let me down
- BURN
- ROMANCE(Album Ver.)
- 初回限定盤DVD収録内容
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- “新約ディアロンリーガール feat. ECD”Music Video
- “I HATE YOU”Music Video
- “顔も見たくない feat. JP THE WAVY”Music Video
- ROMANCE Music Video~Bonus Movie~Making of “ROMANCE”Music Video
ライブ情報
- 「CELEBRATION」tour 2018 supported by KAWI JAMELE
- 2018年6月3日(日)大阪府 Zepp Namba
- 2018年6月6日(水)愛知県 Zepp Nagoya
- 2018年6月10日(日)東京都 Zepp Tokyo
- 2018年6月11日(月)東京都 Zepp Tokyo
- 2018年7月5日(木)北海道 Zepp Sapporo
- 2018年7月7日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
- 2018年7月12日(木)広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
- 2018年7月15日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 2018年7月16日(月・祝)福岡県 福岡サンパレス
- 2018年7月23日(月)新潟県 新潟県民会館 大ホール
- 2018年7月25日(水)石川県 本多の森ホール
- 2018年7月28日(土)岐阜県 岐阜市民会館 大ホール
- 2018年7月29日(日)静岡県 静岡市清水文化会館(マリナート)大ホール
- 2018年7月31日(火)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2018年8月5日(日)長野県 駒ケ根市文化会館
- 2018年8月12日(日)青森県 六ヶ所村文化交流プラザスワニー
- MILIYAH BIRTHDAY BASH LIVE 2018
- 2018年6月22日(金)東京都 新木場STUDIO COAST
- 加藤ミリヤ(カトウミリヤ)
- 1988年生まれ、愛知県出身のシンガーソングライター。2004年9月にシングル「Never let go / 夜空」でメジャーデビューする。その後「ECDのロンリーガール feat. K DUB SHINE」のアンサーソングである「ディア ロンリーガール」、UA「情熱」をサンプリングした楽曲「ジョウネツ」など話題作を数多く発表。女性からの共感を呼ぶリアルな歌詞が魅力で、同年代女性のカリスマとして支持されている。2009年5月には同い年の清水翔太とコラボシングル「Love Forever」を発表し、人気アーティスト同士の共演は大きな話題を集めた。また同年11月には初の日本武道館ワンマンライブを開催。2011年に初のベスト盤「M BEST」でオリコン週間ランキング初登場1位を記録した。2014年には清水とのコラボツアー「加藤ミリヤ・清水翔太 THE BEST 2MAN TOUR 2014」で全国を回る。翌年には峯田和伸(銀杏BOYZ)とのコラボシングル「ピース オブ ケイク ―愛を叫ぼう― feat. 峯田和伸」を発表。2016年には小説家として、自伝的小説「幸福の女神」を刊行する。2017年4月にはアルバム「Utopia」をリリースし、12月に「ディア ロンリーガール」を再構築した「新約ディアロンリーガール feat. ECD」を発表した。2018年5月に映画「ラブ×ドック」の主題歌を表題曲とするシングル「ROMANCE」を発売。6月に10枚目のアルバム「Femme Fatale」をリリースする。