ナタリー PowerPush - 摩天楼オペラ

“劇的ロック”集大成アルバムを全曲解説

摩天楼オペラがニューアルバム「AVALON」をリリースした。昨年12月に発売されたシングル「Orb」から“劇的ロック”をテーマに掲げて制作を続けてきた彼ら。本作はその“劇的ロック”の集大成といえる、摩天楼オペラなりのさまざまなチャレンジが詰め込まれた意欲作に仕上がっている。また「ロマンシング サ・ガ」シリーズや「パズル&ドラゴンズ」のサウンド担当として知られる伊藤賢治が作曲に参加。アルバムのアートワークには同じく「ロマンシング サ・ガ」シリーズのキャラクターデザインイラストを手がける小林智美が描き下ろしイラストを提供していることも、今作の特筆すべき点に挙げられる。

前回のインタビュー(参照:摩天楼オペラ「隣に座る太陽」インタビュー)から約1カ月というインターバルで行われた今回の取材では、メンバー5人によるアルバム「AVALON」全曲解説を敢行。歌詞に込められた思いや楽曲制作時のエピソードなど、興味深い話をたっぷり聞いた。

取材・文 / 西廣智一

“劇的ロック”には映画を意識した部分も含まれている

──前回のインタビューで、苑さんはアルバム「AVALON」について「(前作『喝采と激情のグロリア』よりも)もっとバラバラな世界観……1曲1曲が強い世界観を持っているものばかりで、そういう曲が集まった面白い作風になってるんじゃないかな」と言ってましたよね。でも実際にアルバムを聴くと、歌詞の世界観や楽曲の構成、曲順というのも影響しているのかもしれませんが、想像していた以上に統一感のある作品に仕上がったなと思いました。

苑(Vo)

(Vo) 結果的にそうなったって感じですよね。同じ時期に同じ方角を目指して作った曲だからそういう統一感が出たのかもしれないですけど、あくまで1つのコンセプトに沿ってアルバムを作ろうとしたわけではないんです。

──もちろんすべての楽曲を「AVALON」というテーマに沿って作ったわけではないでしょうけど、いちリスナーとしてアルバムを聴いたときに感じる空気や流れの自然さは、思ってた以上のものでした。

 でもそう言ってもらえるのは正直うれしいですね。それって要はバンド力が以前よりも確かなものになったってことでしょうし。

──それだけ摩天楼オペラとしてのオリジナリティが確立されたということでしょうし、どんな曲を作っても、この5人が演奏して歌えば「摩天楼オペラの曲」になるという自信なのかもしれませんね。そういった楽曲をアルバムにまとめる際、曲順についてはどのように考えていましたか?

 まずは“AVALON”というテーマに沿って作った楽曲……旅の始まりを表現する「journey to AVALON」、それに続く「天国の扉」、そして“AVALON”にたどり着くラストの「天国の在る場所」。この3曲の流れは最初から決まってました。そのあとに既存の曲たちを当てはめていったという流れですね。

──今回は特に、アルバム後半の「友に捧ぐ鎮魂歌」「Orb」、そしてラストの「天国の在る場所」という曲順がすごくドラマチックな流れだと思いました。

 人の生き死にに関わる「友に捧ぐ鎮魂歌」からの流れは特にクライマックス感が強くて、僕も好きですね。

──中盤にインストナンバー「Stained Glass」が入ることで、アルバムの流れがガラッと変わる印象もありますよね。

 これも結果的にそうなっただけなんですよね。この曲が映画の1部と2部をつなぐような位置付けになったなと、作り終えてみて改めて思ってます。

──映画という例えのとおり、今回はどれもすごく映像がイメージしやすい楽曲ばかりで。しかも1つひとつの曲が内容の異なるショートムービーように感じられて、アルバムはその短編が「AVALON」というテーマのもとに集まったオムニバス作品のようだなと思いました。

 ああ、それはうれしいですね。僕たちが今回挑戦した“劇的ロック”の中には、映画を意識した部分も含まれていたので。そういうことがちゃんと伝わっているんだなと、今実感しました。

M-1「journey to AVALON」

──ではここから、アルバム収録曲について1曲ずつお話を聞いていきたいと思います。まずは1曲目の「journey to AVALON」。ここから何かが始まることを予感させる、オープニングにふさわしい楽曲ですね。

 そうですね、まさに“旅の始まり”ですもんね。

──この曲は彩雨さんと伊藤賢治さんの共作ですが、どういったいきさつで今回のコラボが実現したんでしょうか?

 燿が伊藤さんと知り合いで。

(B) 2年ちょっと前にプライベートで知り合う機会があったんです。僕も「ロマンシング サ・ガ」シリーズが好きだったので話しかけたところ、そこから親しくしていただいて。その頃から彩雨も誘って一緒に飲みに行ったりして、そこで「いつかコラボレーションできたらうれしいです」「おお、いいね!」なんて会話もしてたんですけど、ずっと社交辞令だと思っていたんです。でも今回はアルバムの世界観に伊藤さんが合うと思ったので話を振ってみたら、すごく好意的に受け入れてくれたんですよ。

──彩雨さんはどうやって伊藤さんと曲作りを進めていったんですか?

彩雨(Key)

彩雨(Key) メインテーマの部分を伊藤さんにお願いして、僕はそれ以外のパートとアレンジ全般を担当しました。お願いした時点でアルバムの収録曲はほぼできあがっていたんですけど、できるだけ情報を伝え過ぎないようにして、伊藤さんが“AVALON”というキーワードに対して持つイメージを大切にして作ってもらいました。

──でも結果として、すごくアルバムの世界観に合ったメロディですよね。

彩雨 お互い根本に持ってる世界観に親和性があったから、摩天楼オペラの音楽と伊藤賢治さんの音楽がいい形で融合できたんだと思います。

──この曲の中には「天国の在る場所」の歌詞の一部や、似たメロディも含まれていて、ラストに向けた伏線も感じられますよね。

彩雨 そうですね。そのへんは僕が作ったんですけど、もともと「journey to AVALON」には歌詞がなかったんですよ。それで僕が試しに「天国の在る場所」の歌詞を一部はめてみたら、けっこううまくいったんです。

──その歌詞の部分は合唱パートになっていますよね。合唱を取り入れたことで前作「喝采と激情のグロリア」からの流れを感じるし、そこから2曲目の「天国の扉」で新たな世界に突入していく流れも素晴らしいと思いました。ただ新しいことに挑戦するだけでなく、ちゃんとこれまでの流れも引き継ぎつつ次に進んでいるというか。

 なるほど、「喝采と激情のグロリア」からもつながっていると。合唱はすでに僕たちにとって大切な要素の1つですし、それを捨てずにこれからも続けていきたいと考えてます。

ニューアルバム「AVALON」 / 2014年9月3日発売 / 2800円 / キングレコード / KICS-3098
初回プレス盤付属外箱ジャケット
通常仕様ジャケット
収録曲
  1. journey to AVALON
  2. 天国の扉
  3. 隣に座る太陽
  4. 輝きは閃光のように
  5. 3時間
  6. Stained Glass
  7. Jolly Rogerに杯を
  8. クロスカウンターを狙え
  9. 蜘蛛の糸
  10. 友に捧ぐ鎮魂歌
  11. Orb
  12. 天国の在る場所
初回限定仕様特典
  • 小林智美氏書き下ろしイラスト外箱付き
  • アナザージャケット1種ランダム封入(全5種/メンバーソロ写真仕様)
  • シングル『隣に座る太陽』との2作連動プレゼントキャンペーン応募券封入
摩天楼オペラ「AVALON TOUR」
  • 2014年9月17日(水)東京都 TSUTAYA O-EAST
  • 2014年9月19日(金)石川県 Kanazawa AZ
  • 2014年9月20日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
  • 2014年9月23日(火・祝)北海道 札幌KRAPS HALL
  • 2014年9月25日(木)青森県 青森Quarter
  • 2014年9月27日(土)岩手県 Club Change WAVE
  • 2014年9月28日(日)宮城県 darwin
  • 2014年9月30日(火)大阪府 BIGCAT
  • 2014年10月2日(木)広島県 ナミキジャンクション
  • 2014年10月4日(土)熊本県 DRUM Be-9 V2
  • 2014年10月5日(日)福岡県 DRUM Be-1
  • 2014年10月7日(火)愛媛県 松山SALONKITTY
  • 2014年10月9日(木)兵庫県 神戸VARIT.
  • 2014年10月11日(土)京都府 磔磔
  • 2014年10月13日(月)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2014年10月18日(土)東京都 日比谷野外大音楽堂
摩天楼オペラ(マテンロウオペラ)

2007年に結成されたロックバンド。2008年に苑(Vo)、Anzi(G)、燿(B)、悠(Dr)、彩雨(Key)という現在の編成になる。叙情的な歌詞とシンフォニックメタルからの影響が強いサウンドが特徴で、国内のみならず海外でもCDリリースやライブ活動を展開。2010年5月に初のホールワンマンライブを渋谷公会堂(当時・渋谷C.C.Lemonホール)で実施した。同年12月にはミニアルバム「Abyss」でメジャーデビュー。2011年7月にリリースしたメジャー1stシングル「Helios」は、オリコン週間ランキング初登場16位を記録した。同年10月にはメジャー2ndシングル「落とし穴の底はこんな世界」を発表。同月にさいたまスーパーアリーナで行われた「V-ROCK FESTIVAL '11」にも出演し、大きな注目を集めた。2012年3月、メジャー1stフルアルバム「Justice」を発売。同年後半に「喝采と激情のグロリア」というコンセプトのもとに、「GLORIA」「Innovational Symphonia」という合唱をテーマにしたシングルを連続リリースした。2013年3月にメジャー2ndアルバム「喝采と激情のグロリア」を発売。同年6月にはZepp Tokyoで単独ライブを行った。2014年7月にニューシングル「隣に座る太陽」を発表。9月3日にはメジャー3rdアルバム「AVALON」をリリースし、日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブを含む全国ツアー「AVALON TOUR」を9月から10月にかけて実施する。