摩天楼オペラが2月27日に新体制初のアルバム「Human Dignity」をリリースした。
バンドとしての経験値が詰まった円熟味と、新体制であることの新鮮さが両立した今作。現在の彼らのバンドとしての状態がきわめて良好で、まるで走り始めたばかりの頃のような勢いを感じさせる内容に仕上がっている。JaY(G)、響(Dr)の加入を経てのアルバムであると同時に、メジャー復帰作でもある「Human Dignity」について、結成から12年で新たな出発点に立った5人に話を聞いた。
取材・文 / 増田勇一
最高と言い切れるアルバムになった
──まずアルバム完成直後である現在の心境から聞かせてください。どんな作品ができあがったと感じていますか?
彩雨(Key) 摩天楼オペラらしさというものは、この12年間ずっと変わってないと思うんです。ただ今回は今の自分たちらしさをしっかりと出せたな、という実感があります。
燿(B) それと同時に、今まで作ってきた中で一番キャッチーなアルバムができたんじゃないかと。
JaY(G) 僕は摩天楼オペラに関わるようになる以前のバンド活動を含め、これまでで最高と言い切れるアルバムができた気がしています。
響(Dr) 僕は今回、アルバム制作に参加させてもらって、いろいろと初めての経験があって。大きなスタジオで長い時間をかけて作ってきたアルバムがようやく完成したという達成感が今、すごくあります。
苑(Vo) 我ながら、すごくいいアルバムができました。全編通して聴いてみたとき、「売れちゃうよ!」なんて思うくらい(笑)。
──変な言い方かもしれませんけど、僕は“若々しいアルバム”という印象を受けたんです。摩天楼オペラの場合、いい意味での大仰さ、壮大なスケール感みたいなものも持ち味に含まれていますけど、今作の場合はコンパクトで強力な曲が畳みかけるように繰り出されてくるような。そこにキャリアのあるバンドならではの大物感よりも、若々しさを感じて、まさにバンドにとっての新たな幕開けにふさわしい作品、というか。
苑 まさにその通りです。バンドは結成12周年ですけど、この5人では1作目にあたるわけで。それが曲の勢いにも表れているように思いますね。バンドを始めたての頃だとメンバー間で「どういう感じの音楽を作ろうか?」と探り合いながらやるところがありますよね。今のこの5人にはそういう空気感があって。これまで12年やってきた摩天楼オペラをやりましょうということではなく、「完全に新しいものを作ろう」というムードの中やってきたので。アルバムが若々しいというのはそういうところから来てるんだろうと思います。
──全体的に勢いがありますよね。
燿 曲調的には暗めの曲もいくつかあるんですけど、確かにどういうわけか通して聴くとスッと入ってくる感じがあって。
苑 構築していくというよりは、シンプルに今やりたい曲を作っていったので、いい意味で凝ってないというか。過去作の「地球」(2016年1月発表のアルバム)は凝りに凝って、「これまでずっと聴き続けてきてくれた人たちの期待に応えながら、どこかでそれを裏切っていくにはどうしたらいいんだ?」みたいなことを思いながら制作した作品で。だからあれは、“ザ・凝ったアルバム”だった(笑)。でも今回は「これがやりたい!」という思いのままにできたから勢いがあるんです。
──バンドの体制が変わり、今、とてもいい状態にある。だからこそそれをストレートに出したい、というのがまずあったわけですね?
苑 そういうことになりますね。
彩雨 結果的に曲が短くなったというのが、これまでとの決定的な違いで。全部がシンプルなのかといえば、ちゃんとやるべきことをやったうえでコンパクトにまとまってるのが僕ららしいと思います。ドラマチックさを失わないままキュッとまとめられたから。
メジャーシーンへの回帰
──加入から間もない響さんだけでなく、JaYさんもアルバム単位での参加は初ということになります。自分が関わるからにはこういうアルバムにしたい、というような理想も抱えていたのではないかと思うんですが。
JaY 実際そう思って取り組んでました。曲がコンパクトになったことも含めて、このアルバムがその答えです。僕自身、長い曲があんまり好きじゃないんで。長尺の曲はアルバムの中で何曲かだけでいいし、それよりも勢いを重視したかったんです。
──響さんがこのバンドに関わり始めたのは昨年の5月からですが、アルバムを作ったらこうなるんだろうという想像図は描けていましたか?
響 はい。僕自身がサポートで参加するようになったのは「Invisible Chaos」(2018年6月発表のシングル)からですが、摩天楼オペラを知ったのは「GLORIA」(2012年10月発表のシングル)の頃だったので、その当時はメロスピ(メロディックスピードメタル)バンドという印象でした。自分が関わるようになった昨年あたりはメロスピとはまた違った曲を作ってみようという時期だったのかなと思います。今作には「The WORLD」みたいな摩天楼オペラらしいメロスピ系の曲も入ってるんですけど、自分の中ではバンドの新しい一面を見たいという気持ちがあって。でも加入後に改めて「自分が知らずにいただけで、実はこういうこともすでにやっていたんだ」と気付かされた部分も実はありました。それを踏まえたうえでのアルバム制作だったんで、結果的にイメージ通りの作品になったと言えます。
──今作をもって、以前在籍していたKING RECORDSから2度目のメジャーデビューを飾ることになります。一度は契約満了に至り、インディーズに戻って、そこで再び同じ会社から声がかかったということなんですか?
苑 そうです。我々はBellwood Recordsという事務所に籍を置いていて、KING RECORDSを離れていた2年間はその事務所内ですべてをやっていました。今回、新たにお話をいただいたのでメジャー復帰となりました。具体的な変化としては単純に自分たちに関わってくれる人の数が増えて宣伝力がアップするということ。そこが大きいですかね。正直、一度メジャーを離れてから「もう一度そこに戻りたい」とはまったく思ってなかったんです。でも去年、そういう話が出てきたときがすでにJaYが加入したあとで、響がこれから入るというタイミングだったので「行くなら今しかなくない?」という感じがあって(笑)。新しいスタートを切るうえでもちょうどいいんじゃないか、と。
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作品に深みを与えた“クソ人間”のギターリフ
- 摩天楼オペラ「Human Dignity」
- 2019年2月27日発売 / KING RECORDS
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初回限定盤 [CD+DVD]
4104円 / KICS-93780 -
通常盤 [CD]
3240円 / KICS-3780
- CD収録曲
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- Human Dignity
- Dead by Daybreak
- Invisible Chaos
- MONSTER
- RAINBOW
- Sacrifice
- 箱の底のMUSIC
- actor
- Cee
- 見知らぬ背中
- SNOW
- The WORLD
- 初回限定盤DVD収録内容
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- Human Dignity(ミュージックビデオ)
- Invisible Chaos(ミュージックビデオ)
- 摩天楼オペラ(マテンロウオペラ)
- 2007年に結成されたロックバンド。メンバーは苑(Vo)、JaY(G)、燿(B)、彩雨(Key)、響(Dr)の5人。2010年12月にミニアルバム「Abyss」でメジャーデビューを果たした。叙情的な歌詞とシンフォニックメタルからの影響が強いサウンドが特徴で、国内のみならず海外でもCDリリースやライブ活動を展開。2016年10月に行われたヴィジュアル系バンドの祭典「VISUAL JAPAN SUMMIT 2016 Powered by Rakuten」に出演するなど、ヴィジュアル系バンドとしての地位を築きつつ、自身主催のヘヴィメタルイベント「鋼鉄祭」でメタルファンからも支持を得た。2018年5月にJaY、2019年1月に響がそれぞれ加入。メジャーレーベルを離れた期間を経て、2月に新体制第1弾となるフルアルバム「Human Dignity」をKING RECORDSからリリースし、メジャーシーンに復帰した。