理想とする音楽を目指して
──「エスパーとスケルトン」「薄っぺらじゃないキスをして」の2曲はsasakure.UKさんがアレンジを担当した曲です。有形ランペイジ(sasakure.UKによるバンドプロジェクト)のライブにましのみさんがゲスト出演するなどもあり、sasakureさんはここ1年のましのみさんの変化に欠かせない人物なのではないでしょうか。
sasakureさんと知り合えたことはここ1年で一番大きな出来事かもしれないですね。いろんな音楽に触れる中で私自身が目指したいと思った音楽が、ピアノと歌を軸にしながらも、面白い聴き心地のものだったんです。面白いと言ってもただゴチャゴチャしているだけじゃなくて、面白味があってもちゃんと音楽的にもいいと思えるものにしたかった。そんな理想をご自身の音楽で体現していると感じたのがsasakureさんだったんです。ご連絡を差し上げたら、私のことを知ってくれていたみたいで、すぐに「やりましょう」と返事をしてくださったんです。ただそれは去年の6月くらいで、まだ自分がそこまで変わる前だったんですよね。アレンジの説明も抽象的にしかできなくて、「宇宙が」みたいなわけわからないことを言う私に対して何度も音を作り直してくださって。本当に感謝しかないですね。どちらかと言うと「薄っぺらじゃないキスをして」のほうが作るのは大変だったかな。
──ということは、これらの2曲はアルバムの中でも初期に作られた曲なんですね。
はい。かなり早い段階に完成した曲で、「エスパーとスケルトン」を配信リリースした去年の10月に、実は「薄っぺらじゃないキスをして」をリリースすることもできたんです。どちらかをリリースしようという話だったんですけど、個人的に「薄っぺらじゃないキスをして」は「エスパーとスケルトン」ありきの曲だと思っていて。それに2ndアルバムまでのましのみをイメージしている人にとって、そこまで違和感なく聴ける曲という意味でも「エスパーとスケルトン」のほうがいいかなと思って、配信する曲を決めました。
6畳の部屋で鳴っている感じ
──ましのみさんのアルバム作品には必ず弾き語りの曲が収録されていましたが、今回のミニアルバムに収められている「飲み込む」という弾き語りの新曲にはドラムの音が加えられています。
ピアノにパーカッシブな音を入れたセッション感のある曲をやってみたいと思って。今回、諸石(和馬 / Weekend Brothers、NAMBA69)さんがドラムを叩いてくれることになったので、「こんな感じでお願いします」とけっこう細かくリクエストを入れたデモを送ってみたんです。けっこうな無茶ぶりだったみたいなんですけど、かなりデモを聴き込んでくれて、メチャクチャ準備をしてレコーディングに来てくれました。馬の歯を使った打楽器・キハーダを模したものを新たに買ってくれたりもして。
──弾き語りということもあってか、音の質感がほかの4曲とはかなり異なりますよね。
6畳の部屋で弾いている空気感を表現したくて、ちょっと荒い感じだけど温かみのある音を目指したんです。エンジニアさんにはけっこう無理をお願いして、6畳間の部屋の鳴りを意識して音の調整をしてもらいました。CDに収録する音源としてはかなり際どいレベルのようだったんですけど、友人と部屋でしゃべっていて、ふと話が途切れたからピアノを弾き始めて歌う、みたいなイメージの曲として残したかったんです。うまくいかないとき、落ち込んでいるときの時間に聴いてほしい曲だから。
1年目をもう一度やってる感覚
──最後に「つらなってODORIVA」のタイトルについても話を聞かせてください。「ODORIVA」という言葉が、休憩する場所としての階段の踊り場であることと、気を抜く場所として踊る場所を指すことはましのみさんのコメントなどで明かされていますが、なぜ「つらなって」なんでしょうか?
けっこう早い段階から「ODORIVA」という言葉をタイトルにすることは決めていたんですけど、そこから先でメチャクチャ悩んでいたんですよね。まずアルバムのテーマとして恋愛を軸にしようというのは決まっていたんです。恋をしている中での日常に寄り添った曲を集めたというか。「7」は恋愛している最中のモヤモヤを表現した曲、「NOW LOADING」は別れたあとのちょっと自暴自棄になっているときの曲、「エスパーとスケルトン」は恋愛をしている最中のモヤモヤを表現した曲で、「薄っぺらじゃないキスをして」は恋愛にのめり込んでいるときの曲。最後の「飲み込む」は恋愛でつらいことがあったときに、部屋とか帰り道で1人になっているところ、みたいなイメージですね。で、私の中では恋愛というのはこれらの感情の繰り返しだと思うんです。だから最初はループという言葉を使おうと思ったんですけど、ループにするとちょっとつらいかなと。ずっと繰り返しだなんて救いがないじゃないですか。だからイメージとしては螺旋階段のようにグルグル回りながらも少し上昇しているものを表現したくて。
──その言葉が「つらなって」だったわけですね。
はい。「螺旋」とかを使ってもよかったんだけど、人によって進んでいく形は違うから、こっちで「螺旋階段」とか決めつけちゃうのもよくないなと思って、そこはちょっと抽象的に「つらなって」にしたんです。「つらくなったら踊ればいいじゃん」という意味も込めたかったし。
──なるほど。細部までましのみさんの思いが反映されたミニアルバムになりましたね。
2ndアルバムを出してからずっと描いていた構想がようやく形になったのが「つらなってODORIVA」なので、やっとリリースできる!という思いが強いですね。もしかしたらこれまでの1年で、ましのみというシンガーソングライターの変化に違和感を持っていたリスナーさんもいたと思うんですよ。あまりまめにリリースすることもできなくて、こういう取材の場も多くないから「変わったよ」ということを伝える場がそもそも少なくて。今回ミニアルバムという形でようやく新しいましのみの音楽を届けることができるわけですから。今回やれなかったことも多いから、ここからもすごく楽しみなんですよね。なんだか気持ち的には1年目をもう一度やってる感覚なんですよ(笑)。
──それこそ、名前が変わるのと同じくらい生まれ変わったわけですからね。
トータルプロデュースをちゃんと自分でやるようになって、すべてのコミュニケーションが変わった感じです。ちゃんと自分で話をするし、勉強になることもたくさんあって、いろんなことを知ってどんどん成長している自覚がある。すごくワクワクしながら音楽が作れているので、ここから先もすごく楽しみです。