ましのみ|生まれ変わって、つらなって

ましのみが新作ミニアルバム「つらなってODORIVA」を3月18日にリリースする。

大学在学中にメジャーデビューを果たしたましのみは、2019年3月に大学を卒業。シンガーソングライターとしての活動に専念するタイミングで自身の音楽活動へのスタンスを大きく変えた。新作「つらなってODORIVA」ではそんな彼女の音楽的な成長を感じることができる。今回の特集では、パソコン音楽クラブやsasakure.UKをアレンジャーとして迎えて制作された新作ミニアルバムの制作背景や、新境地へと踏み出す彼女の意志に迫った。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 曽我美芽

名前を変えようかと思っていた

──ましのみさんにインタビューをするのは1年半ぶりなんですが、アーティスト写真をはじめビジュアルイメージが大きく変わったなと思いました。

ましのみ
ましのみ

そうだと思います。ちょうど大学を卒業するタイミングで2ndアルバム「ぺっとぼとレセプション」(2019年2月発売)をリリースしたんですよ。「ぺっとぼとレセプション」は自分の中でひと区切りを付ける作品だったというか……プライベート的にも音楽的にも、ターニングポイントになったのが、ちょうど1年前だったので、そこで大きく活動の方向性が変わったんです。

──実際にどういう変化があったんでしょうか?

プライベート的には大学卒業が大きくて。音楽活動を本格化させてからはそこまで通っていなかったとはいえ、行けば誰かしら人がいるから、ふらっと大学に行って誰かと話すみたいなことはしょっちゅうあったんですよ。でも卒業するとそういうわけにもいかないから、誰かと話す機会がすごく減ったんですね。自分から外に出ないと人とまったく会わなくなる。そうなってみて、自然と自分の中から「社交的になりたいな」という思いが自然と涌いてきて。

──これまではどちらかと言うとひきこもりっぽいイメージが強かった気がします。

まさにその通りで。それまでの私は自分の中をひたすら掘って考えに考えることでいいものが作れると考えていたんです。でもいろんな方と接する中で、自分の中を掘っていくだけじゃなくて、いろんな方と接することで自分のセンスが照らし出されることもあるんじゃないかと気付けた。音楽的な変化もこれと同じで、それまではいろんな音楽に触れてしまうと影響されて自分の音楽がゴチャゴチャするんじゃないかと思っていたんですけど、聴けば聴くほど自分が作りたい音楽の幅が広がって、さらに自分が表現したい音楽も明確に思い描けるようになったんです。だから2ndアルバム以前と以降では、軸が180°変わったと言っても過言ではないと思っていて。実は名前を変えようかとも思っていたくらいなんですよ。

──ましのみ名義ではなくなる可能性もあった?

むしろ名前を変えないと“ましのみ”というコンセプトがおかしくなっちゃうんじゃないかと思っちゃって。でもよく考えてみたら今までの流れがあったからこそのネクストステップだから、名前をそのままにして、変化が明確になるようにする道を選びました。

──そういう過程があってのアーティスト写真のイメージチェンジだったわけなんですね。

心境の変化があって、制作への携わり方も変わったんです。音に関するこだわりは強かったけど、アーティスト写真とかミュージックビデオとか、そういう見せ方に関するところは専門家に任せるべきみたいな美学があったんです。でも視野を広げていく中で自分の好みがより明確に見えてきたから、自分の見せ方を自分でプロデュースしてみようと思うようになって。もちろんなんでもかんでも自分でできるわけではないから、カメラマンさんやミュージックビデオの監督さんのお力を借りながら、自分のやりたいようにやってみたのが「つらなってODORIVA」なんです。

需要を考えて作るのはやり尽くした

──ましのみさんが作る音楽は具体的にどう変化したんですか?

1stアルバム「ぺっとぼとリテラシー」はとにかく突き刺す作品にしようということを意識して、自分の中を掘って掘って掘りまくって作ったアルバムでした。2ndアルバム「ぺっとぼとレセプション」は、“寄り添うアルバム”がテーマで、かなり需要と供給を意識して周りの人の意見も参考にしながら作ってみたり、その一方で自分の感性のまんまに作った曲も半分くらい入っていたり、実験的な作品でした。どういう曲が求められているか、どういう曲が刺さるかを徹底的に考えて作ってみたんですけど、そう単純じゃなかった。結局、聴き手の反応っていい意味でも悪い意味でもバラバラで、思い描いたものとはけっこう違ったんです。そこまでで需要を考えて作るのはやり尽くしたから、これからは自分の感性でやってみてもいいんじゃないかなと思って。そういうマインドが「つらなってODORIVA」のスタート地点にあると思います。

──「つらなってODORIVA」という作品に“突き刺す”や“寄り添う”のような言葉を付けるとしたらどういう言葉になりますか?

難しいですね……言葉にすると2ndアルバムのときと同じで“寄り添う”だと思うんですけど、寄り添い方がかなり変わったんですよね。2ndアルバムでは相手のことを考えに考えて「こういう寄り添い方でどう?」とこちらから投げるような感覚だったのに対して、「つらなってODORIVA」は寄り添うために作ったわけじゃないんだけど、結果として聴き手に寄り添えるものになったというか。しかもそのほうが、前よりもっとリスナーさんの心に近付いて寄り添えている手応えがあります。

──ましのみさん自身がより等身大になれたというかもしれませんね。

そうだと思います。これまでの自分は表現できるほどの等身大を持ち合わせていなかったんですよ。人と関わることでようやく自分自身の等身大というものがわかってきた。そこはすごく大きいですね。

「まあいいか」を使って

──アルバムの1曲目に収録されている「7」は、ドラマ「死にたい夜にかぎって」のオープニングテーマとして制作された楽曲です。ましのみさんは「死にたい夜にかぎって」という作品をどう受けとめて楽曲を作り始めたんですか?

今回のタイアップの話をいただいてから、原作を何度も読んで、まず原作者の爪切男さんの価値観をちゃんと取り込もうとしたんです。私の中にない価値観を取り入れてから、自分の曲として書きました。その中で特に重要だと思ったのが、原作に何度も出てくる「まあいいか」というひと言。そのことを話したら、監督もそうだとおっしゃっていたんです。だから曲作りに関しては、サビの最後を「まあいいか」という言葉で終わらせようということだけ決めました。

──先ほど需要と供給という言葉を使っていましたが、タイアップというものはファンとの関係ともまた違った需要と供給の関係ですよね?

おっしゃる通り、リスナーさんからの需要とタイアップの需要はちょっと性質が違って。タイアップの場合は、需要に近付くまで直接何度もやりとりできるから、反応が直接返ってくるんですよね。それが本当に楽しくて、やりがいがあるし、意義もある。テーマありきで曲を作るのもすごく好きなので、「7」の制作は自分にとってご褒美のような時間でした。

──ドラマの放送が始まって、視聴者やリスナーの反応はいかがでしたか?

私の曲を聴いて原作を買って読んでくれた人が多いみたいで、すごくうれしかったですね。それに原作を読む前にくれた曲の感想と、原作を読んでからくれる感想が違って、2つの感想をいただけるのもありがたくて。ましのみのことを知らない人も曲についての感想をSNSでつぶやいてくれていて、いろんな人に自分のテーマ曲として受けとめてほしいという思いがちゃんと伝わっている感じがしています。

フロアをデカくしてもらった

──「NOW LOADING」はパソコン音楽クラブが編曲を手がけています。ジャンル的にも異なるパソコン音楽クラブに編曲をお願いしたのはどういう経緯だったんですか?

ましのみ

もともととっても好きなんですよ。ライブにも行くくらいよく聴いていて、今回ダメもとでオファーしてみたら快くOKのお返事をいただいたんです。一度ダンストラックをバックに歌ってみたかったし、ループものに挑戦してみたくて。「NOW LOADING」は私がヘッドアレンジを担当させてもらった曲でもあって、デモの段階でチープながらもけっこう音を作り込んでパソコンさんにお渡ししたんですよ。そうしたら最高のリフとビートを作って返してくれて、曲の世界観をググっと広げてくれました。フロアがデカくなった感じ。

──この曲のように、独特のモタりがあるトラックに歌を乗せるのは初めてですよね? 歌いにくさみたいなものは感じませんでしたか?

それが全然歌いにくくなかったんですよ。とにかく歌うのが気持ちよくて。それに今回のミニアルバムから今までよりちょっとキーが低いのでレコーディングもけっこうしやすくて。

──なぜキーを低くしたんですか?

以前までは聴き手に突き刺すようなイメージを強く持っていたので、ちょっと高めのキンキンしたところを意識してボーカルを入れていたんです。でもそのフェーズはもう終わって、今はもっと心地よく聴ける音にしたくて。個人的にもちょっと低めのキーのほうが歌いやすいんですよね。