マルシィ「Memory」インタビュー|メジャーデビュー作で描く当たり前でかけがえのない日々

マルシィが6月1日にユニバーサルミュージックより、メジャー1stアルバム「Memory」をCDと配信でリリースした。

マルシィは福岡県にて結成された、吉田右京(Vo, G)、shuji(G)、フジイタクミ(B)の3人からなるバンド。2020年5月に初の作品「Drama / 絵空」をリリースし、以降も吉田の透明感のある歌声や切ない歌詞が特徴的な楽曲を次々と発表している。

彼らのメジャーデビュー作「Memory」は“恋の始まりから愛の終わり”というテーマが描かれた作品。切ないバラード「ラブストーリー」をはじめとした10曲に加え、CDにのみボーナストラックとして「絵空」が収録されている。音楽ナタリーでは本作のリリースに際してメンバー全員にインタビューを実施し、それぞれの音楽的ルーツやアルバムの制作エピソード、今後のビジョンについて聞いた。

取材・文 / 森朋之

普段聴いている音楽はバラバラ

──マルシィは2020年5月に初作品「Drama / 絵空」を発表してから、魅力的なラブソングを次々と発表されています。まず、皆さんの音楽のルーツを教えてもらえますか?

吉田右京(Vo, G) 幼い頃、両親によくドライブに連れて行ってもらっていて、その車の中で流れていた曲をきっかけに歌が好きになりました。特に覚えてるのはDA PUMPかな。J-POPが流れていることが多かったと思います。中学生の頃は、仲のいい友達と好きな音楽を共有するようになって。清水翔太さん、GReeeeN、MONGOL800などを聴いてましたね。

──同時代のバンドの曲は聴いてなかったんですか?

吉田 正直、あまり聴いてなかったです。マルシィを始めてから聴くようになりました。実はフェスにも1回も行ったことがなくて。

──バンドキッズではなかったと。フジイさん、shujiさんは?

フジイタクミ(B) 音楽に興味を持ったきっかけはX JAPANですね。テレビで観て「カッコいい!」と思って、YouTubeで過去のライブ映像をさかのぼって、どんどんハマって。ベースを弾くようになったのは、TAIJI(Tribal Scream of Phoenix、 ex. X、ex. Cloud Nineほか)さんへの憧れですね。その後はベースがカッコいいバンドをけっこう聴くようになって、レッチリ(Red Hot Chili Peppers)の曲も練習してました。

shuji(G) 僕もタクミと同じで、X JAPANがきっかけでしたね。初めてスタジオに入ったときも、その話で盛り上がったので(笑)。

フジイ そうだった(笑)。

shuji その前はJ-POPですね。小学校のときはコブクロ、Aqua Timez、いきものがかりとか。その後、EXILEにハマって。

吉田 彼はボーカリストを目指してたこともあったみたいです。

shuji 高校になってからは、ひたすらギターでX JAPANをコピーしてました。ほかにはJUDY AND MARYやBOØWYとか。最近のバンドよりも、昔のアーティストに惹かれるんですよね。

──3人とも音楽的な志向が見事にバラバラですね。

吉田 そうですね。普段聴いている音楽も全然違うんです。

吉田右京(Vo, G)

吉田右京(Vo, G)

2人の心を動かした「Drama」のデモ

──そんな3人がどうしてバンドを組むことになったのでしょうか?

吉田 自分が曲を書き始めたのがきっかけですね。何曲かできて、「いけそうだな」という感覚があったんですが、自分の思い描くサウンドは弾き語りでは成り立たない気がして、バンドを組むことを意識し始めたんです。ただ、知り合いに音楽をやっている人がほとんどいなくて。音楽の専門学校に勝手に入り込んで、メンバーを探したこともありました。

──すごい行動力ですね。

吉田 どうしようか考えてるときに、友達とカラオケに行ったんですよ。その友達に「バンドやりたいんだよね」と話したら、「ベースやってるやつ知ってるよ。すごくいいやつだから紹介する」と言われて。

フジイ あ、「いいやつ」って言ってた?

吉田 うん(笑)。信頼していた親友だったから、「ぜひ紹介して」とお願いして。最初に「Drama」のデモを送ったのかな?

フジイ うん。弾き語り動画だったんですけど、すぐに「これはいいな」と思って。声も曲も詞もよくて、「ぜひお願いします」と伝えました。それまでやってた音楽とは全然違うけど、とにかくベースが弾きたかったんですよ。いい曲のもとで。

吉田 タクミと初めて会ったときに、前任のドラマーとギタリストも連れて来てくれて、そのメンバーで一旦始めて。それがマルシィの始まりですね。

──shujiさんはどういう経緯で加入したんですか?

shuji 正式に加入したのは2019年の1月です。もともと、右京とバイト先が同じだったんです。シフトが一緒になったときに、「ギターやってるんですよね? よかったらバンドに入りませんか」と誘われて。

吉田 ちょうど前任のギターの人が抜けたタイミングだったんですよね。

shuji 僕も最初に「Drama」のデモを聴かせてもらって、まず声がいいなと思いました。演奏に関しては、「まあ、こんなもんか」という感じでしたけど(笑)。

フジイ ハハハ(笑)。

shuji 僕は音楽の専門学校に行っていて、少しは楽器のことがわかっていたというのもあって(笑)。「Drama」のデモのギターはハードロック系だったんですけど、「この曲には合わないな」と思って、歪みすぎてない音色でフレーズを考えたら右京に満足してもらえたみたいで。

吉田 ギターの知識はまったくなかったんですけど、曲を作ってるときに「こういうギターの音が欲しい」という感覚が明確にあったんです。shujiのギターの音をスタジオで聴いたときに、まさに求めていた音というか、「自分の中で鳴ってる音が聞こえてきた」という感じがあって。「これはいいぞ」と。

──バンドが生まれた瞬間ですね、それは。

吉田 同級生で結成したわけではないし、たまたま巡り合ったんですけどね。僕は制作に関してかなり我が強くて、2人にも「こうしてほしい」みたいなことをよく言うんですけど、しっかりついてきてくれて。奇跡みたいな出会いだなと思ってます。

マルシィは今が一番いい状態

──起点となった「Drama」は、冒頭の「二人で見てたドラマ 今は最終回」という歌詞からすごく情景が浮かんできます。失恋を描いた曲ですが、2人のこれまでの関係や背景がしっかり伝わってきて。この曲はどんなテーマで制作されたんですか?

吉田 衝動的というか、「気付いたらできてた」みたいな感じなんです。そのときの感情をそのまま曲にしたので……。

──こういう状況が本当にあった?

吉田 そうですね、過去には(笑)。胸が痛くなるような悲しさを経験して、これを曲にしようと思って。そのときはつらかったけど、こうやって曲になったし、今では感謝してます。

──なるほど。2021年7月にリリースされた「プラネタリウム」は、好きな女の子とすごくいい雰囲気になっているのに、「お願い冷めないで飽きないで」と願ってしまう男子が主人公です。「Drama」もそうですが、切ない思いを言葉にされていることが多いのはどうしてでしょう?

吉田 性格かもしれないですね。かなりの心配性で、普段も「こうなったらどうしよう」と不安になることが多くて。「プラネタリウム」も、彼女とうまくいってるのに、「3日後はどうなっているかわからない」みたいなことを歌ってますからね。

フジイ 普通は「幸せなんだから、そんな心配しなくていい」と思いそうなところですよね(笑)。

shuji 言葉の選び方が右京らしいなと思います。僕は歌詞を1行ずつじっくり読むタイプではないんですけど。

吉田 歌詞はもちろん大事なんですけど、shujiは歌もサウンドの1つと捉えているところがあって。聴き心地もチェックしてくれるし、助かってます。

──メンバーそれぞれ、担っている役割があるんですね。

吉田 そうですね。事務的な連絡はタクミに任せていたし、僕は制作に集中させてもらっていて。マルシィを始めて2年くらいになるんですけど、今が一番いい状態だし、いい曲が生まれそうな雰囲気がすごくあるんですよ。それはたぶん、メンバーも感じてくれていると思います。

フジイ 右京から新しい曲が届くたびにいいなと感じてるし、今後も楽しみです。「こういう引き出しがあるんだったら、こんなこともできそう」と思うことも多いんですよ。

──プレイヤーとしても幅が広がりそうですよね。

フジイ 最近は自由にやらせてもらってますね。自分の演奏で楽曲の世界観を担うことはできないと思っていて。歌やギターを支えることに熱を注いでいます。それがこのバンドにおける自分の役割なのかなと。

shuji アレンジやサウンドは、曲によってかなり違いますね。でも、基本的には自由にやらせてもらっているし、自分の手癖もだいぶ入ってます。

──ちなみにマルシィというバンド名の由来は?

shuji バンド名は僕が決めました。もともとは英語の名前で、けっこう長かったんです。これじゃ覚えづらいなと思って、自分が加入するタイミングで「変えん?」と相談して。

吉田 クレームが入りました(笑)。

shuji そこから全員で候補を出し合ったんですけど、みんなが一番覚えていたのが“マルシィ”だったんです。インスピレーションで思い付いた名前で、意味はないんですけど、覚えやすいほうがいいかなと。あと、“マル”ってかわいいなと。

吉田 親しみやすいバンド名だと思います。言葉自体に意味はないんだけど、これから楽曲を作り続けることで、色付けできるんじゃないかと思ってます。