音楽ナタリー Power Push - maras k
まらしぃ×kors k “ドンピシャ”コラボ作品が生まれるまで
いい落としどころの1枚に
──コラボをすることが決まってから、お2人はどういうアルバムにしようと考えたんですか?
まらしぃ せっかく2人でやるからには各々が作曲する形がいいんじゃないかという話を最初にして。
kors k それで、最初にまらしぃくんから「こういう曲は絶対やりたい」っていうアイデアをもらったんだよね。確か「Chocolat Swing」と「Rock This」と……。
まらしぃ 「Piano Ninja」ですね。
kors k そう。彼のアイデアがベースの曲ではイメージのピアノをまず弾いてもらって。そこから僕が肉付けしていくって作業をしたんです。基本的に僕はトラックから作るタイプなので、今回の楽曲制作は刺激的でしたね。
まらしぃ 僕のほうは打ち込みのトラックにピアノをあわせたことってなくて、ずっとやってみたかったことではあったんですけど、今回が初体験だったんです。でも不安よりも楽しみのほうがずっと大きかったですね。
kors k 基本的に全部の曲でアレンジは僕に任せてもらうことにして、ピアノに関してはまらしぃくんに全部任せてたから。だから楽曲の作曲クレジットはどっちが先手で曲のイメージを作ったかということなんです。
まらしぃ 僕がピアノでラフをお渡しするのが先か、kors kさんが作ったトラックが先かみたいな。
kors k まらしぃくんのピアノって、今回の僕にとっては“武器”だなって思ってて。その武器をいろんなパターンで使ってみたかったから、今回のアルバムの曲はジャンルも多彩なんです。まらしぃくんのファンにはダンスミュージックの幅広さを紹介できたし、僕のファンには「ピアノ1台でもここまでダイナミックさが出せるんだ」ってことを見せられた。そういう意味ではいい落としどころの1枚になったかなっていう自負はあります。
レコーディングでのセッション感
──今作のまらしぃさんのレコーディングにはkors kさんも立ち会ったんですよね?
kors k 基本的にはまらしぃくんが納得いく音が録れるまで付き添っていて、たまにチャチャを入れるくらいだったんですけど(笑)。
まらしぃ 例えば「さっきのとどっちがいいですか?」って聞いて、kors kさんがしっくり来るほうを選んでもらったり。あとはkors kさんの楽曲のイメージがあるといいなっていうリクエストをいただきつつ落とし込みつつで進めてました。
kors k 印象に残ってるのは4曲目「Twilight」のレコーディングだよね。
まらしぃ そうですね。
kors k この曲は僕が作った曲なんですけど、もともと打ち込みっぽい感じのピアノを入れてたんですよ。で「レコーディングでまらしぃくんにそれらしいメロディを入れてもらって完成かな」と思ってたら、それを言い忘れちゃってて。彼は僕の渡したメロディをがんばってコピーしてきてくれてたんですけど「あ、ごめん、それじゃなくて。もっといいメロディがほしかったんだ」ってその場で伝えることになっちゃって。
まらしぃ それでちょっと時間をいただくことになっちゃったんです。
kors k この曲の後半にピアノソロが入るんですけど、そこでも僕がだいぶ無茶を言っちゃってね。
まらしぃ いえいえ。僕がハマっちゃっただけですから。1時間ぐらい悩んでしまい……。
kors k でもそうやって1時間もそのパートを繰り返し弾いて「こうじゃない、こうじゃない」と言ってる姿を見て、やっぱり職人なんだなって感心したんですよ。最終的に120点くらいのテイクが録れましたし。「Twilight」はお互いにやり取りしながら一番セッションっぽい感じで作れた曲だから、思い出深い1曲ですね。
まらしぃ それと「アンラッキーガールちゃんの日録」のBメロのところもけっこう苦労しましたよね。
kors k そうだったね。テンポが速くて「beatmania」をやってるみたいになってた(笑)。
まらしぃ 速い曲は相当がんばらなきゃいけないんですよ。あとから「もう少しテンポ下げればよかったな」って後悔しました(笑)。
kors k トラックが入ると基本的にはテンポが一定だから、それにあわせるのはやっぱり大変だよね。
まらしぃ そうですね。バンドとかでピアノを弾くときは“流れ”とか“エモさ”みたいなものを考えて、ちょっと置いていかれたり、自分だけ走ったりっていうのをすることがあるので。今回のトラックにあわせるという弾き方に折り合いをつけるのはけっこう時間がかかったような気がしています。
──それで言うと、アルバム最後の曲「Play Time!! Again」は、ある意味まらしぃさんの“エモさ”が存分に発揮された曲ですよね。アルバムの中で唯一バックトラックが入っていない、ピアノの音だけの曲に仕上がっています。
kors k 「Play Time!! Again」は本当に素晴らしくて。これ、即興で弾いて一発OKだったんですよ。ヤバかったです。
まらしぃ もともと1曲くらいアウトロ的なものがあってもいいですねって話はしていて。それで最後の曲が「Play Time!!」だから、それをモチーフに何かちょっと弾きますってことでレコーディングしたんです。こういうのは何度もやるとだんだん微妙になってしまうから、だいたい一発目が一番いいんですよ。
kors k まらしぃくんが自分のリズムで、ためにためて演奏してるのがすごくて。最後にためて「ジャーン」って鳴らすところとか、鳥肌立っちゃったもん。うわーこうくるかーって。
まらしぃ 自分だけで好きなように弾けるっていうのはソロの魅力でもあり、強みでもあると思うんです。だからためるところはひたすらためて。10秒くらい何も弾かない時間があるのもいいですし。
kors k アルバムをリピートで再生しているときに、この曲が終わってまた「Piano Ninja」に戻るのも最高なんですよ。
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- maras k「Beat Piano Music」2015年7月22日発売 / 2160円 / Subcul-rise Record / SCGA-00036 / Amazon.co.jp
- 「Beat Piano Music」
収録曲
- Piano Ninja
[music:marasy] - 踊ル猫曰ク maras k remix
[music:marasy] - Skywards
[music:kors k] - Twilight
[music:kors k] - Anemone
[music:marasy] - Chocolat Swing
[music:marasy] - Echoes
[music:kors k] - Rock This
[music:kors k] - アンラッキーガールちゃんの日録
[music:marasy] - Play Time!!
[music:marasy] - Play Time!! Again
[music:marasy]
maras k「『Beat Piano Music』リリース記念 SPECIAL LIVE」
- 2015年7月21日(火)東京都 ニコニコ本社
まらしぃ
2008年よりニコニコ動画の「弾いてみた」動画などで活動しているピアニスト。ボカロPとしてもオリジナル曲を投稿している。2010年にDMEから1stアルバム「V.I.P(Marasy plays Vocaloid Instrumental on Piano)」をリリース。その後H ZETT M、紅い流星とのコラボでアニメソングをカバーするアルバム「3D-PIANO ANIME Theater!」を発表したり、クレモンティーヌとのライブ競演、武部聡志&鳥山雄司とのセッションなどピアニストとして幅広い活躍を見せている。2012年10月には初の全編ピアノソロアルバム「V-box」を発表。2013年には事務員Gを新たに加えたアニソンカバーアルバムの続編「4D-PIANO ANIME Theater!」をリリースする一方で、トヨタのハイブリッドカー「AQUA」のCMソングの演奏を担当。「チョコレイト・ディスコ」、「千本桜」のカバーバージョンはいずれも大きな話題を集めた。2015年2月にはdrm(B)、タブクリア(Dr)とともにインストトリオバンド・logical emotionによる初の全国流通盤「LOGISTIC FUNCTION~VOCALOID SONGS COMPILATION~」を発表した。また同年10月にはまらしぃによるピアノライブツアー「marasy piano live 2015」がスタートする。
kors k(コースケ)
音楽プロデューサー、アーティスト、DJ。10代の頃からシンセサイザーで楽曲制作を始め、2000年にコナミの音楽ゲーム「beatmania IIDX 4th Style」に提供した「Clione」でデビュー。「beatmania」シリーズの主力トラックメーカーとして楽曲を提供し続けながら、アニメ関連の楽曲やJ-POPのリミックスなどを手がけ、トータルで400曲以上におよぶ楽曲群を世に送り出している。teranoidやEagle、StripE、Ryu☆とのユニット・The 4thといった名義でも活動。現在はDJとしてクラブやイベントのステージでも活躍しており、国内のみならずアメリカやアジア各国でもライブを重ねている。2014年6月に、アルバム「Let's Do It Now!!」をリリース。2015年3月に前作のリミックス音源と新曲を収めた「Let's Do It Again!!」を発表した。