槇原敬之|50歳を目前に放つ言葉の魔法

人生そんなに楽じゃない

槇原敬之

──よく「人生は修行だ」なんてことを言う人がいますが、槇原さんはどうですか?

あのね、僕たち音楽家とか、あるいは文筆家とか芸術家みたいな人たちがこれから言ったほうがいいと思うのって、「人生はそんなに楽しくない」ってことなんですよ。

──あははは! おっしゃる通りです。

例えば、結婚したら新婚旅行に行って、記念日があって……みたいに、今より楽になることを前提にすると絶対に人生破綻すると思います。他人のことをわからなきゃいけないわけだから、面倒に決まってるんです。それと一緒で、人生ははっきり言って楽ではない。僕、「Happy Birthday Song」で「生きていくことは とてもとてもとても大変だし それが当たり前なんです」って歌ってますけど、そういうことを先に言っておいてあげたほうが絶対にいいのに、なぜか近年は「必ずいいことがあるからさ」的なことばかり歌われてますよね。いや、大変ですよ(笑)。

──恋人ができても結婚しても就職しても昇進しても、それなりの大変さが待っているだけですからね。

もちろん。でも、大変さ前提で生きているとうれしさが際立ってくる。何かいいことあるかも、って思いながら生きてると、嫌なことが際立っちゃうんですよ(笑)。だから僕たち大人はそういうことを言ってあげるべきなんです。それを「だけどね」ってフォローしながら伝えていけるのが、芸術であり音楽であり文芸なのではないかと。

──その前提を共有したうえで言うんですが、僕は大人の務めって“なんかよくわかんないけど楽しそうにしてる”ことなんじゃないかと思うんです。

その通りだと思います。大賛成です。あと、大人はカッコよく見られなくちゃダメですね。若い人が大人になりたくないって思うのは、たぶん「ああなりたい」と思える大人が見えてないからだと思います。だから僕らが、がんばらないといけないんです。「あの人たち、なんかわかんないけどカッコいいよな」って思わせなきゃいけない。そう思ったのは、前にNHKの「SWITCHインタビュー 達人達(たち)」を見たとき、聖路加病院の日野原重明先生と書道家の篠田桃紅さんが対談されていて。当時104歳と103歳ですよ。篠田さんがさらっと言ったんです。「若い子が大人に憧れないのはね、私たちがカッコ悪いからよ」って。僕、全身に鳥肌が立って、「なんてカッコいいこと言うんだこの人は! その通りだ!」と。大人になるのって悪いことではないんですよ。自由に使えるお金も増えるし、嫌いなものは食べなくて済むし(笑)。いくら少子化問題を解決しようって言ったって、若い人は「つまんねー大人になるんだったら子供産まねーほうがいいよ」と思うでしょう。

槇原敬之

加齢を楽しく説明

──大人って悪いもんじゃないと、僕も訴えていこうと思います。加齢もアルバムのテーマの1つですよね。「朝が来るよ」と「微妙なお年頃」にいい感じで出ています。

楽しく加齢を説明してみました(笑)。

──槇原さん、今年50歳ですよね。

はい。やっとです!

──早くなりたかったですか?

なりたかったですね。うちのサポートドラムの屋敷豪太さん、BEAMSの窪浩志さん、かつて僕のプロデューサーをやってくださっていた木崎賢治さんや本間昭光さん、僕が憧れるカッコいい人たちってだいたい50代から上なので。

──素敵な先輩方に恵まれたんですね。

誰かがおっしゃっていたんですが、「自分が素敵になりたいんだったら、素敵な人たちの中にいなさい」って。やっぱり、がんばってキラキラしてる人たちのそばにいたほうがいいなと思いますよね。

──因果応報の法則にこと寄せて言うと、槇原さんが素敵な方たちに囲まれているのは、槇原さんご自身が素敵な生き方をされているからだと思います。

いやー、そんなこと! ホントー?(笑) (スタッフに)ちょっと、この方に一番高いものをご馳走してさしあげて!

──(笑)。ありがとうございます!

まじめな話、生まれ変わったらこの人になりたいな、って思う人がたくさんいるんですよ。もし僕からいいものが出ているのであれば、それはきっとその人たちからもらったものだと思います。それはホントにラッキーだったと思います。あと、ちょっと図々しくならないとダメですね(笑)。好きな人たちには自分から付いて行かないと、素敵な人たちを自分のところに呼んでこいなんて話はないわけで。自分からいっぱいしゃべったりして、この人は何を考えてるんだろう、この人の原動力ってなんだろう、って探ることは、最近とみにやってます。

──生涯勉強ですね。それにしても昭和歌謡のテイストを盛り込んだ「微妙なお年頃」は素晴らしいです。

これはね、ホント自信ある。このアルバムの中でも自分にとっては特に大事な曲なんです。昭和歌謡について最近よく考えるんですよ。すごい音楽じゃないですか。いろんな国の音楽が入ってて、しかも日本っぽさがある。僕らの体の中にはそれがべったり染み付いてるわけですよね。最近、歌謡曲とか演歌っぽい曲をわりと作るんですけど、水谷千重子さんに「愛が冷めたわけじゃないの」を書いたときも(水谷千重子「ジョインがお好きでしょ」収録曲)、女性には更年期障害があるということを男性に知ってもらう歌にしようと思って。というのは、あまりにも日本の文化が老いから目を背けすぎだからなんですよ。みんな忌み嫌ってるけど、歳をとれば誰もがそうなっていくんだよ、っていうことを、僕は非力ながら楽しく説いていきたいと思っていて。今回は恥ずかしさがなくなっていく恐怖と、口から飲み物がこぼれてしまうことを(笑)。

槇原敬之

──初老にはめちゃくちゃ切実で最高です。「銭湯にテレビの カメラが入ってきても 隠す事さえ忘れそう」と歌詞にありますけど、僕もホント隠さなくなりましたもん。

必死に隠してたあの気持ちってなんだったんだろうって思いますよね。隠したかった部分の意味合いが減じてきて、もう付録みたいになっちゃったのかなって(笑)。実はこの歌詞、けっこう寝かしたんですよ。「朝が来るよ」と同じくらい時間をかけて作りました。

──練られていることはすごく伝わります。「怖いよ とても怖いよ」と、なんのことかな?と思わせて始まって、聴き進めるうちにわかってくる。槇原さん一流のストーリーテリングの手腕とユーモアセンスがお見事です。

ありがとうございます。ホントにうれしい(笑)。オケもかなりこだわったんですよ。Tomi Yoくんが弦のアレンジを考えてくれたんですけど、「彼は若いからどうかな?」と思いつつ聴かせたら「やります。やりたいです」って言ってくれて、萩田光雄さんの本を読んで研究してくれたらしいです。だからすごくちゃんと作ってくれたんですよ。ストリングスも立派なオーケストラの人たちが来てくれてね、口から飲み物が出てしまう歌のために(笑)。レコーディング当日に、これ以外にも2曲ぐらい弾いてもらったんですけど、この曲だけ休憩時間に異常に練習してました。難しかったみたいです。昔の歌謡曲のレコーディングってやっぱりすごかったんだな、って改めて思いましたね。

──聴きながら槇原さんが終始真顔で歌う姿をイメージしました。

あっはっは! しかもこれ言っていいのかわかんないんですけど、この曲が一番いい声で歌えたんですよ(笑)。自分でも「なんかキラッキラしてんな!」って思いますもん。ミキサーの滝澤武士さんにも「全部の曲をこれぐらいのクオリティで歌えたらよかったのに、ってぐらい、いい声してるよね」って言われました。とにかく自信作です。

──“恥ずかしくないんだもーんぬ”の語りもいいですね。

昭和歌謡に語りは付きものですから。僕が最初に買ったレコードが西城秀樹さんなんですけど、秀樹さんといえば語りじゃないですか。「涙なんか……涙なんか」(「白い教会」)って突然叫び出すみたいな(笑)。それをちょっとやってみようって。噂によると、今小学生の子たちが歌謡曲に夢中だとか。面白くてストーリーもわかりやすくて、楽しくて覚えやすいって言うらしいですね。偉大な先生方が素晴らしい技術と気合いで作った曲を僕たちは聴いてたんだなって思って、それを少しでもみんなに味わってもらいたいなと。要するに作りたかっただけなんですけどね(笑)。

──いや、本当に素敵なアルバムです。さっきツアーまで間がないとおっしゃっていましたが、そのお話を最後に少しだけお聞かせください。

ホントすみません! 聴き込みが足りなくても全面的に僕の責任です(笑)。内容的には「Design & Reason」が基本になるんですが、アルバムの収録曲が10曲なので、残りの曲も「Design & Reason」に沿って選曲していこうかなと思っています。今回、ひさしぶりに槇原敬之の“お楽しみ楽曲”が復活したので、皆さんが聴いて「嫌だな」と思ったであろう“あの曲”もやろうと思ってます。舞台の雰囲気もこれまでとはちょっと違う感じになると思うので、けっこう楽しんでもらえると思います。ぜひいらしてください!

槇原敬之

ツアー情報

Makihara Noriyuki Concert Tour 2019 "Design & Reason"
  • 2019年3月2日(土) 埼玉県 川口総合文化センターリリア メインホール
  • 2019年3月9日(土) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2019年3月10日(日) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2019年3月16日(土) 東京都 府中の森芸術劇場 どりーむホール
  • 2019年3月21日(木・祝) 島根県 島根県芸術文化センター グラントワ 大ホール
  • 2019年3月23日(土) 岡山県 岡山市民会館
  • 2019年3月24日(日) 徳島県 鳴門市文化会館
  • 2019年3月30日(土) 宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2019年3月31日(日) 宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2019年4月6日(土) 兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2019年4月7日(日) 兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2019年4月11日(木) 北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2019年4月12日(金) 北海道 苫小牧市民会館
  • 2019年4月14日(日) 北海道 旭川市民文化会館 大ホール
  • 2019年4月20日(土) 新潟県 新潟県民会館
  • 2019年4月21日(日) 新潟県 新潟県民会館
  • 2019年4月27日(土) 東京都 NHKホール
  • 2019年4月30日(火・祝) 東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2019年5月5日(日・祝) 大阪府 フェスティバルホール
  • 2019年5月6日(月・振休) 大阪府 フェスティバルホール
  • 2019年5月10日(金) 広島県 上野学園ホール
  • 2019年5月11日(土) 広島県 上野学園ホール
  • 2019年5月17日(金) 奈良県 なら100年会館
  • 2019年5月18日(土) 和歌山県 和歌山県民文化会館
  • 2019年5月23日(木) 大分県 iichikoグランシアタ
  • 2019年5月25日(土) 宮崎県 都城市総合文化ホールMJ 大ホール
  • 2019年6月5日(水) 兵庫県 兵庫県立芸術文化センター
  • 2019年6月6日(木)大阪府 SAYAKAホール(大阪狭山市文化会館)
  • 2019年6月15日(土) 埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2019年6月16日(日) 群馬県 桐生市市民文化会館
  • 2019年6月21日(金) 石川県 金沢歌劇座
  • 2019年6月22日(土) 長野県 まつもと市民芸術館
  • 2019年6月29日(土) 京都府 ロームシアター京都 メインホール
  • 2019年6月30日(日) 滋賀県 ひこね市文化プラザ グランドホール
  • 2019年7月5日(金) 福岡県 福岡サンパレス
  • 2019年7月6日(土) 福岡県 福岡サンパレス
  • 2019年7月12日(金) 神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2019年7月15日(月・祝) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2019年7月20日(土) 青森県 青森市文化会館 リンクステーションホール青森
  • 2019年7月21日(日) 岩手県 盛岡市民文化ホール
  • 2019年7月27日(土) 東京都 NHKホール
  • 2019年7月28日(日) 東京都 NHKホール