Maison book girl|クールで無機的な少女たちが、エモーショナルな熱を帯び始める

Maison book girlが所属レーベルをポニーキャニオンに移籍し、第1弾作品となるシングル「elude」を6月20日にリリースした。リードトラック「レインコートと首の無い鳥」は複雑に組まれた変拍子の上で緊張感のあるストリングスが絡み合う、これまでのブクガ的なサウンドアプローチをさらに過激に押し進めた楽曲。メンバーのボーカルは表現力を増しており、かつてはそのクールな佇まいから「無機質」と表現されることの多かった彼女たちが、今作ではエモーショナルに熱を帯びた歌声を響かせている。

音楽ナタリーでは今回、メンバー4人へのインタビューを実施。2017年末に東京・Zepp DiverCity TOKYOで実施されたワンマンライブ以降の半年間の活動を振り返りながら、最近のグループの成長と変化の理由に迫った。

取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 西槇太一

Maison book girl「elude」
2018年6月20日発売 / ポニーキャニオン
Maison book girl「elude」

[CD]
1300円 / PCCA-04692

Amazon.co.jp

収録曲
  1. レインコートと首の無い鳥
  2. おかえりさよなら
  3. 教室
  4. レインコートと首の無い鳥(instrumental)
  5. おかえりさよなら(instrumental)
  6. 教室(instrumental)

ステージから見てもみんながポカーンとしてるのがわかったんだよね

──少し前の話ですが、皆さんは昨年12月末に東京・Zepp DiverCity TOKYOでワンマンライブ「Solitude HOTEL 4F」を行いました(参照:Maison book girlが未来、過去、現在を巡ったZepp DCワンマン)。グループ史上最大規模の会場でしたが、やってみた感想は?

井上唯

井上唯 凝った演出をしちゃったんで、やらなきゃいけないことが細かくいろいろあって、それをこなすのに必死でした(笑)。

和田輪 終わったあと、それまでにやった同じ尺のライブと比べて体力がすごく余ってて。不思議な感覚でした。帰ってから全然眠れない、みたいな。すごく変な疲れ方をした日でした。

矢川葵 ライブのあとに「この難しい設定を、みんなどこまで理解して受け入れてくれたんだろう」ってすごく気になってたんですけど、けっこうみんな「よくわかんなかったけどカッコよかった」「こういうのがブクガらしいよね」って言ってくれて。

──確かにあのライブは難解で、おそらく会場にいたほぼ全員の頭の中にクエスチョンマークが浮かんでいたと思います(笑)。

井上 終わったあとに、ステージから見てもみんながポカーンとしてるのがわかったんだよね(笑)。

矢川 観てくれた方から「あれはどういうことなの?」ってすごく聞かれました。でも「しっかり説明していいのかな?」っていう気持ちもあって、ふわっと濁してました(笑)。

──皆さんはあのライブの演出や構成について、プロデューサーのサクライケンタさんから意図を説明してもらったうえでパフォーマンスをしたんですか?

コショージメグミ

コショージメグミ ワンマンについてはみんな、ちゃんと意味がわかったうえでやってます。

井上 私たちは説明してもらったからね。でも「これはこういうことですか?」ってサクライさんに聞いたら「いや違う」って言われたけど(笑)。

和田 曲をレコーディングするときもそうなんですけど、完全には教えてくれないから私たちの解釈でやったりする部分もあって。さらにそれを聴くお客さんの解釈も違ったりするし、いろいろ解釈できるのがブクガなのかなと思ってます。

──それはそうですね。

和田 Zeppのライブについては、私たちが口出しして聞いてもらえた演出もあるんですよ。例えば、まだ何も決まってない最初の会議で「ホテルだからステージの上にドアを置いたらどうか」みたいな話がメンバーから出て、そこからサクライさんと一緒にアイデアを組み立てていったりとか。

──今までの中でもかなり特殊な内容のライブだったと思いますが、あれによって得たものはありますか?

コショージ ちゃんとセットを組んでしっかり演出を作って、っていうライブは初めてだったし、あれはあれですごくいいライブだったけど、「何事もやりすぎはダメだな」って。

矢川 思いました(笑)。

井上 ただ、反省する部分もありつつ「私たちにはこういうこともできるんだ」っていうのが自分でわかったんで、よかったと思います。

和田 あのライブでやってみて手応えがあったことは、今後も継続していきたいと思ってます。

「ビバラポップ!」でのハプニングとプレッシャー

──さらに5月6日には埼玉・さいたまスーパーアリーナで開催された音楽フェスティバル「VIVA LA ROCK EXTRA ビバラポップ!」に出演し、メインステージでライブを行いました。ただでさえ決してホームとは言えないようなシチュエーションで巨大なアリーナのステージに立ったのに、映像機材の故障でスタートが30分遅れ、やっとブクガのライブが始まったと思えば再び機材が故障、という大変な状況でしたね。

井上 大人がずっとバタバタしてました(笑)。

──あの状況でライブをやるって、メンタル的にかなりきつかったんじゃないかと思うんですが、むしろいつも以上にいいライブをやっていたと言うか、あの場にいたお客さんの心をつかんでいる空気を感じたんです。

コショージ さいたまスーパーアリーナだし、メインステージだし、タイムテーブル的にもすごくいい時間だったし、あのステージに立つっていうだけでもすごくプレッシャーがあったんです。何もなくてもプレッシャーを感じてたので、30分中断したときには「もうダメだな」と思ってました。

和田輪

和田 ははは(笑)。

コショージ 「メンバーだけでステージをどう使うかとか、画面に何を映すかとか、この日のためにいろいろ考えてたのに」って思ってました。流れを止めてしまってから自分たちのステージが始まるのはプレッシャーが増すので、「せっかくのチャンスなのになんでこう悪いことが起こるんだろ。ブクガはやっぱり運がないのかな」とか思いながら、あの30分を過ごしてました。

井上 あの日さ、ライブが始まって振り付けでコショージと向かい合ったときに、ちょっとヤバい顔してて実は心配だったんだよね。

コショージ 覚えてない(笑)。

──本人たちは不本意な結果だったかもしれませんが、壊れてノイズだらけになったLEDディスプレイに急遽「bug」という文字を流して、その前で異様に緊張感があるライブをしていたのは、むしろ非常にブクガらしい演出だったと思います。

コショージ まあ、私たちがあの場に混ざり込んでること自体がバグみたいなもんでしたからね(笑)。

和田 でもやってる最中は、「この『やるぞ!』っていう気持ちが崩れたら終わり」と思って、ものすごく気張ってたんです。

井上 飲まれないようにしないと、ってね。

和田 心が負けたら終わりだったから。

矢川葵

矢川 ちょっとでも「怖いなあ」とか「緊張するなあ」って思ったらその気持ちに押し潰されそうだったんで、そんなこと考える余裕がないくらい楽しもうと思ってました。最前の人の顔すらしっかり見えないような広さのところで歌うのは初めてだったので、すごく気持ちがよかったです(笑)。

──あのライブでの皆さんは、かつてブクガのイメージとして言われていた“無機質”とは対極にある“エモさ”がすごくあったように感じました。

和田 がむしゃらにやってたんで、その日は1日「空回ってなかったかな」って心配だったんですけど、そう思ってもらえてたならよかったです。

──いい言い方ではないと思いますが、僕は最初の頃のブクガに対して「あまり自分のパフォーマンスに自信がない人たちが、難しいことをよくわからないなりに一生懸命やってるグループ」という印象があったんです。でもここしばらくのライブを観ていると、皆さんが自信を持ってパフォーマンスをできているのがはっきりと伝わります。

コショージ 自信はいまだにないです。けど、自信を持つべきときがわかってきたと言うか。だから「ここは持つところなんだぞ」っていうのを言い聞かせてます。

和田 うん。「ドヤッ」の気持ちを無理やり作ってるときはあります。

井上 一生懸命やってるのは昔も今も変わんないですけど、技量は確実に上がったので。

和田 技量が身に付くにつれて、自分にやれることの選択肢が増えたので、以前よりもやりたいことをやれてるのかなって気はします。前まではただ歌って踊ることしか考えられなかったこの曲を、今は「どういうふうにやるか」ってことまで考えられるようになった、みたいな。

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