マカロニえんぴつインタビュー|得意なことをのびのびやって、たどり着いた新境地 (2/2)

新たなマカロニえんぴつにたどり着いた

──「然らば」は「アオのハコ」のオープニングテーマで、EPの2曲目「NOW LOADING」は映画「山田くんとLv999の恋をする」の主題歌。どちらも少なからずタイアップ元に恋愛の要素があると思うんですけど、10代くらいの人たちの生活感や恋愛観はどんなものか、曲を作るうえで想像したりはしますか?

はっとり 確かに、そこは気になる部分だし、想像するしかないんですよね。あらゆる情報も増えたし、人とつながるのが必ずしも現実世界だけのことではなくなっているから、きっと自分たちが10代だった頃よりも、複雑さは増しているんじゃないかと思います。音楽でも教材が増えている分、みんなの技術が底上げされて、褒めてもらいづらかったりするだろうし。ある意味で、今の若い子たちは時代の被害者のような気もする。僕たちが16、7歳だった頃よりもはるかに複雑に、いろいろなことを考えなきゃいけないようになっていると思うので。だからこそ、マカロニえんぴつの歌はそういう子たちに通じるのかなと思うんです。きっと、繊細な人たちに届く歌だと思うから。

──このEPのタイトルにかけて言うなら、“足りないもの”を抱きしめるような歌を必要としている人たちがいるんですよね。

はっとり 今も昔も足りないものだらけなんですよ。でも今は、足りないものにあぐらをかくことができなくなっている。足りないことをオープンにすることが恥ずかしい、という気持ちもあると思うし。もし、そういう気持ちを抱えて苦しんでいる人や、居心地の悪さを感じている人がいるのなら、せめてマカロニえんぴつは不足しているものにスポットを当てて音楽を作りたい。そういう気持ちは、今回のEPにちりばめていますね。足りない部分こそ、本当の自分が見え隠れする本質の部分だと思うので。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

高野賢也(B, Cho)

高野賢也(B, Cho)

──EPのタイトルである「いま抱きしめる 足りないだけを」は「NOW LOADING」の歌詞のフレーズでもありますが、この曲は1人の心に広がる世界が、繊細なサウンドにも歌詞にも表れているような気がしました。

はっとり この曲は映画のエンドロールで流れるというのもあるし、「然らば」とは違うテンポ感にしたかったので、ミディアムテンポで作りました。あと、サビでは今までの自分にはなかったメロディラインを作ることができたんじゃないかと思います。振り返ると、「リンジュー・ラヴ」はメロディを自分の中で細かく組み立てることで、新しい境地にたどり着くことができた曲なんですけど、あの曲以降、新鮮なメロディを書けていないと思っていて。「NOW LOADING」は「リンジュー・ラヴ」ぶりに作ることができた、自分のクセが入っていないメロディラインなんです。なので、僕としてもかなり好きな曲ですね。自分っぽくないっちゃないんですけど、だからこそ客観的に「いい曲だな」と思える、そんな曲です。

──個人的には、ドリーミーというか、白昼夢的なイメージを特にサビの部分で感じたんですけど、そういう質感はどのように生み出されているのでしょうか?

はっとり すごく覚えていることがあるんですけど、大学のときに同じコースにいたタカイくんに「はっとりのメロディを聴くと夕焼けが思い浮かぶ」と言われたことがあるんです。自分でも「そうだよな」とずっと思っていて。逆に、どんよりとした、曇った日をイメージさせるようなメロディを作るのは苦手なので、そういうものを作りたいという気持ちはずっとありました。それを、「NOW LOADING」のサビでついに形にすることができたんです。サビの3小節目の頭でメロディとコードがぶつかるんですけど、あの響きに、妙な暗さと……。

田辺 哀愁があるよね。

はっとり そう、哀愁がある。あそこができたときに「これだ!」と思って。Crowded Houseの「Don't Dream It's Over」という曲が、自分が表現したかったイメージに近くて。あの曲がフラッシュバックするような質感がついに生まれた。「あ、冷たさが出た! 湿度が出た!」って、うれしかったですね。「やっと夕焼けを“脱出”できたぞ!」って(笑)。クリーンギターと歌の絡みの湿度を重視したまま、さらに冷たさを出したくて、イメージしていたどんよりさやドリーミーさを大ちゃんに足してもらったんです。

長谷川 僕もこのサビが好きなんですけど、ちょうどこの曲を作っていたレコーディング期間で、僕が使ってみたいと思っていたOsmoseという鍵盤がレンタルで使えることになったんですよ。それは運命的な出会いだったなと思いますね。

はっとり このサビの音像で、新しいマカロニえんぴつにたどり着くことができた感じがしますね。くもり空の雲の層から一筋の光が差しているような、そんなサビにできたなと思います。

腕は上げてきたね

──ロックの原初的なエネルギーが前面に出た「然らば」と、バンドとして新しいメロディを開拓した「NOW LOADING」。この2曲が並んでいるところが、とても豊かなEPですよね。そして、3曲目「前世よ、しっかり」は長谷川さん作曲で、「ロング・グッドバイ」は田辺さん作曲です。前作でも「JUNKO」を高野さんが作曲されていましたし、はっとりさんが作曲を担当していない作品も充実していますね。はっとりさんから見て、作曲者としての3人はいかがですか?

はっとり まずまずですよ。

高野田辺長谷川 (笑)。

はっとり 僕の足元にも及ばんが、腕は上げてきたね。

長谷川 ありがとうございます!(笑)

高野 がんばります!(笑)

はっとり 本当のことを言うと、いい曲ばかりですよ。もっと作ってほしい。僕も最近、焦ってきました。みんな曲作りが上手だから。それに自分が思いつかないメロディだから、面白いし……覚えづらい。「前世よ、しっかり」なんて、全然入ってこない(笑)。デモを渡されるとき、よっちゃんはボカロの声で歌を入れて持ってくるけど、大ちゃんはシンセで入れてくるから、余計に入ってこないんですよ。人でもボカロでも、声なら自分にも入ってきやすいんだけど、自分が見たこともないシンセのラインでメロディを覚えるというのは……半ギレしながら覚えました(笑)。

一同 (笑)。

はっとり 歌詞を付けちゃえば、途端に入ってくるんですけどね。でも、面白かった。大ちゃんがシンプルなブルース進行で曲を作ったことも面白かったし、「ロング・グッドバイ」も、1980年代のロックが好きなよっちゃんらしい、ちょっとBOØWY臭やイエモン臭を感じるグッドメロディラインで。こういうまっすぐなメロディは自分では作らないんですよ。そういう意味でも、人が作った曲は自分と切り離して歌うことができて楽しいです。

田辺由明(G, Cho)

田辺由明(G, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

ブルースもカッコいいと思えるようになった

──「前世よ、しっかり」は長谷川さんの中ではどんなアイデアがあったんですか?

長谷川 3コードのブルース進行だけでやってみたい、という気持ちがあって。コードで表情を付けることはマカロニえんぴつの持ち味だと思うけど、それを一旦なしにして、3コードの中でどれだけ遊び切れるかに挑戦してみたかったんです。この曲は「然らば」とは逆で、10年前の自分が絶対にしないようなことをしてみようと思って。

──なるほど。「然らば」は10年前の自分と出会うような曲であり、「前世よ、しっかり」は今の自分が強く出ている曲なんですね。

はっとり 10年前の大ちゃんは、ブルースをバカにしてたもんねえ。

長谷川 うん。「なんでブルースみたいな音楽があるんだ?」と思ってた。心の中でだけ、ですよ。人には言ってないですよ。

はっとり それが一番タチ悪いよ(笑)。本気じゃん。

長谷川 でも最近、ブルースのようなシンプルな音楽もカッコいいと思えるようになってきて。それはこの10年間、メンバーと交わしてきた刺激的な会話があったからこそ気付けたことだと思うんです。今の自分のその感覚を10年前の自分に伝えることができればいいなと思って、「前世よ、しっかり」を書きました。

──田辺さん作の「ロング・グッドバイ」にはどんなアイデアがありましたか?

田辺 そもそもアイデアがあったわけではなくて、ただ楽しい曲が作りたかったんですよ。それでパソコンに向き合っていたんですけど、「うまくいかんなあ」と思って。それで、その頃買ったアコギをポロポロ弾いていたら、BとGで小賢しいコードが弾けたんです(笑)。そのコード感から、徐々に曲になっていきました。作っていく中で、「U2が作るようなスケールの大きな曲にしたい」という漠然としたイメージは生まれましたけど、デモの段階ではもっとこじんまりとしたものだった。それをみんなが、ここまで壮大な曲にしてくれて。最初にデモを聴いたとき、はっとりがColdplayとFUN.の名前を出したんです。ああいうスタジアム規模のバンドのような音像にしたらいいんじゃないかって。

はっとり デモのイントロを聴いたときから、そんな感じがしたよ。GRAPEVINEのような冷たい音像も感じた。

田辺 そういうニュアンスが伝わったのがよかったなと思います。みんなのおかげでできた曲ですね。自分の曲だけど、ギターソロも弾いていないし。

はっとり 衝撃ですよ。よっちゃんがギターソロを弾かないなんて。

田辺 そもそもギターが強い曲にはしたくなかったんだよね。間奏的なセクションを設けたのはいいけど、この曲で俺がソロを弾くのは違うなあと思って。

はっとり で、横から「もーらい」って(笑)。

田辺 結果的に、はっとりが間奏部分をめちゃくちゃいいセクションにしてくれました。

はっとり マカロニのリスナーは、コテコテのギターソロを吸収しすぎているからね。たまには僕が簡単なのを弾いてあげないと(笑)。

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

1行目で虜になれ

──「ロング・グッドバイ」は、歌詞も「すれ違う国で生まれたぼくら二人」という歌い出しから印象的でした。はっとりさんの中では、歌詞で描きたい情景やストーリーがあったのでしょうか?

はっとり これは不思議なもので、自分では説明できないんです。作詞は“体験”だと思うんですよ。思惑でやっていると、自分でも広がりが感じられない歌詞になってしまう。「こんな歌詞が書けたんだ」とか、「自分にこんな景色が想像できたんだ!」って、自分でも驚くような体験が作詞なんです。特に自分以外のメンバーが書いた曲だと、そういう驚きを感じやすいんですよね。なので、僕自身、なんでこの歌い出しなのかはよくわからないんです。最初は「また違う国で生まれたぼくら二人」だったんですよ。でも、それだと出会うはずだった“二人”が今世でも出会えなかったということなのかなって、自分では捉えてしまって。「そういう感じじゃないんだよな」と思って「すれ違う国」に変えたら、すんなりその先の歌詞も決まっていきました。僕は、基本的に歌詞は1行目から書き始めるんです。1行目の天才が、スピッツだと思うんですよね。スピッツの曲は1行目で勝っているんです。1行目で虜にさせちゃう。

──確かに。

はっとり 歌詞は冒頭が大事だなと思いますね。1行目で自分もハッとさせたいし、「どんな歌になるんだろう?」と、自分もワクワクしたいんです。

田辺 歌詞の1行目……「肩パンサロン “PIZZA” ナポリコース 100分」(「前世よ、しっかり」の1行目)……。

一同 (笑)。

はっとり これは大勝ちでしょ。カラオケのデンモクって1行目が出るから。デンモクにこれ(「肩パンサロン “PIZZA” ナポリコース 100分」)が出たら、歌いたくなるでしょ(笑)。

──(笑)。「ロング・グッドバイ」は本当にいい歌詞ですよね。

はっとり 自分でもいい歌詞だなと思います。「すれ違う国で生まれたぼくら二人」という歌い出しも叙情的でいいなと思うし、これだけ壮大なサウンドの中でも、サビで「ベランダ」という生活感のある言葉を急に入れたことで、聴き手が「自分のことだったんだ」と思うようなイリュージョンが発生するんじゃないかって。

田辺 めちゃくちゃいい歌詞だよ。

はっとり これ、作曲も僕ってことにしていい?

田辺 え?

はっとり 人の曲でこんないい歌詞を書くのはもったいないなと思って(笑)。

──(笑)。「前世よ、しっかり」の歌詞にB'zが出てくるのも驚きました。

はっとり これもイリュージョンですよ。B'zはみんなのものですから。B'zを聴きながら帰った夜が皆さんにもあるでしょう。僕が勝手に歌詞に入れちゃったので、スタッフはザワついていましたけどね。B'zにOKはいただいているんですよね?

スタッフ いただいております。

一同 ありがとうございます!(笑)

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

公演情報

still al dente in YOKOHAMA STADIUM

  • 2025年6月14日(土)神奈川県 横浜スタジアム
  • 2025年6月15日(日)神奈川県 横浜スタジアム

プロフィール

マカロニえんぴつ

はっとり(Vo, G)、高野賢也(B, Cho)、田辺由明(G, Cho)、長谷川大喜(Key, Cho)からなる4人組ロックバンド。メンバー全員が音楽大学出身。2020年11月にTOY'S FACTORYよりメジャー1st CD「愛を知らずに魔法は使えない」、2022年1月にメジャー1stフルアルバム「ハッピーエンドへの期待は」をリリースした。2023年3月にEP「wheel of life」、8月にメジャー2ndフルアルバム「大人の涙」を発表。最新作は2025年3月リリースのEP「いま抱きしめる 足りないだけを」。6月に神奈川・横浜スタジアムで2DAYSワンマンライブ「still al dente in YOKOHAMA STADIUM」を行う。

※記事初出時、本文の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします

2025年3月12日更新