マカロニえんぴつインタビュー|憧れる側から憧れられる側へ、生き様を刻んだ新作EP (2/2)

「バカ」の部分が減り、情熱を失いつつある

──収録曲「PRAY.」の話も聞かせてください。この曲は「第95回センバツ高校野球」のMBS関連番組のテーマソングですが、オファーがあってから書き始めたんですよね。どんなところからイメージを膨らませていきましたか?

はっとり もともと僕もよっちゃん(田辺)も野球少年で。唯一しっかりやったスポーツが野球だったし、単なる勝ち負け以上のものを野球から教えてもらった気がしているんです。礼儀もそうだし、野球というスポーツには逆転劇がつきもので、最後まで何があるかわからないところが人生に近いという気もする。だから書きやすいと思ったんですよ。どんな角度でも野球に結び付きやすい。だからこそ、どういうメッセージの歌にするかは悩みましたね。テーマを決めるのに悩んだけれど、テレビで観る球児たちの勇姿について書きました。

──球児たちを今の自分が見ている様子が歌詞になっていますね。

はっとり 以前は高校球児と温度感が近かったんですよ。でも今は距離がある。遠くにある情熱というか、失ったものを見ているような感じがする。30歳手前になって、いつの間にかあきらめることを知って、上手に生きていくようになってしまって。「バカ正直」とか「バカ真面目」とか「バカ○○」の「バカ」の部分が減ってしまったなと思う瞬間が増えてきた。だから、失ってしまいそうな情熱みたいなものをすくい上げるような歌にしたいと思いました。この曲と「あこがれ」がEPの中で面白い結び付きをしてると思いましたね。「あこがれ」は19、20歳のときの自分が書いた歌で。この頃は高校球児の持つまっすぐな熱量を持っていた気がするんですけど、「PRAY.」はそういうものを遠くから眺めてるような歌になっちゃいました。

──職業作家的な書き方だったら、歌詞の主人公を10代の球児たちにして、若い世代が共感できるような曲を書くこともできたと思うんですが、そういう歌じゃないですよね。

はっとり その目線に行けなかったんですね。嘘を演じるような歌にはしたくなかった。正直に言うと、あのときの情熱を今も追いかけているというか、過去を追いかけるような、変な感じがある。いろいろ経験を重ねてたくさんのものを身に付けたようでいて、実はいろんなものを途中で落としていってるような気もする。もともと全部持ってたのに……とすごく思うんですよ。でもまだ拾い集めるには遅くねえぞっていう。「ステップ・オン・ザ・サーティ」という歌詞は、30手前で足踏みしているということで、「今なら まだ間に合うぜ?」というワードも出てきたりしてるんですよ。自分に向けて歌ってるような気もします。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

エンヤさんに曲を書くなら

──「TIME.」は長谷川さんが作曲していますが、どういうふうに作っていったんでしょうか?

長谷川 一時期落ち込んだことがあって、エンヤさんの曲を車で聴いてたんですよね。そこから「もし自分がエンヤさんに楽曲提供するなら」というテーマを自分で設けて。マイナスイオン感あふれる感じというか、森林の中で歌っているようなイメージの曲を作りたくて書き始めました。サビも書き直してるんですよね。もうちょっとメロディアスだったんですけれど、それをリフレインで頭に残るようなフレーズにして。

──ある種、実験的な発想から始めたんですね。

長谷川 そうですね。何曲かデモを出したりする中で、1つくらい勝手なテーマを作って提出するのもありかなと思って出した1曲でした。

長谷川大喜(Key, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

はっとり イントロがすごくいいんですよ。Aメロとかも雰囲気的にはマイナーな感じでいい雰囲気だったのに、サビで開けちゃうのがいつも通りすぎると思って、それでサビのメロディはいくつか考えてもらいました。

──歌詞に関してはどうでしょうか。

はっとり この曲はみんなが作った音からイメージが湧きましたね。悲しみがあふれてる感じで、最初に「かなしみ」と出てきた。だからそのまま「かなしみ ばかりが焼きつく あおぞら」という歌い出しにして。最近、NHKの「映像の世紀」という番組(世界中に保存されている映像記録を発掘、収集、再構成したドキュメンタリー番組)が再放送されたのを観たんです。番組では第一次世界大戦とか第二次世界大戦の悲惨さを映像で伝えていて。現に、遠い国ではあるけれど、戦争が今も行われていて、いまだに悲しみは繰り返されているじゃないですか。僕は戦地に行った若い兵士のことを考えたんです。相手を憎む理由なんてないのに、戦に出るときは愛を忘れたことにして、機械のようになる。やっぱり、こんなことがあっちゃいけない。だから国同士で平和条約を結んだりするけれど、それでもまた戦争は繰り返される。“反戦歌”というレッテルを貼るのは好きじゃないけれど、そんなことを思いながら書きました。

──なるほど。歌詞にも「銃声」という言葉がありますね。

はっとり 音楽って、愛も伝えられるし、優しさも伝えられるけれど、傷付ける場合にはあまり使われないと思うんですよ。利用されることはあったとしても、音楽の作り手には誰かを傷付ける意思や意図はない。優しくなりたいんだけど、どうしても、人は愛をすぐに忘れてしまう。そういう寂しさもサウンドから感じました。それが、戦争のことと結び付きましたね。特によっちゃんのギターソロが、空襲を受けた街の一般市民の悲鳴のように聞こえてきて。あのギターソロはすごいですよ。「このソロはなかなか弾けねえぞ」と思いました。

田辺 気合いが入りましたね。

はっとり みんなでブースで聴きながら歓声が上がってたね。「やべえな、これ!」って。よっちゃんもえらく気合いが入って、上半身裸で立って弾いてたから(笑)。

田辺 最近、ギターソロはレコーディングでも立って弾いてるんです。昔は座って弾いたりしてたんですけど、ライブみたいにガッと気持ちを入れて弾いたほうがいいなと思うようになって。特にこの曲は過去一番気合いを入れました。

はっとり スタジオのマイクが壊れるんじゃないかってくらいマーシャルアンプからバカデカい音が出てましたから。

田辺 僕、この曲のデモを聴いたときに最初に思い浮かんだのがマイケル・ジャクソンだったんですよ。マイケル・ジャクソンのライブって、当時のギターヒーローみたいな人がゲストで参加してすごいソロを弾いたりしていたんですけれど、あれをやろうと思って。すげえやつが来て好き放題やって帰っていくみたいな。

田辺由明(G, Cho)

田辺由明(G, Cho)

はっとり 最近、よっちゃんのギターソロは瞬間芸術に近くなってきたと思います。自分の歌もそういう気持ちでやってるんですよ。生き様や、そのときの気持ちを刻み込む。お行儀よくギターソロを弾いてるよっちゃんは好きじゃない。「そんなんでいいのか!」って昔から言ってきたんですけどね。弾けないとドツボにハマって暗い顔になっていくから「そんな暗い顔で弾くなよ!」って。それを自分で打破してきたのがカッコいいと思う。しかも上半身裸になったら「この人、こんなに鍛えてたんだ」っていう。

──なんでスタジオで上半身裸になったんですか?

田辺 気合いが入りすぎて、めちゃくちゃ暑かったんですよ。

はっとり 俺も歌入れのとき、よく全裸で歌ったりするんです。今回のEPでも「リンジュー・ラヴ」のバラードバージョン(「リンジュー・ラヴ(Short ballad ver.)」)は全裸で歌ってますから。

──ええ? そうなんですか?

はっとり そう。裸になると全然違うテイクが録れますよ。

田辺 そういう境地を体験したかったのかもしれない。その次の日にギターソロを録ったから。

はっとり だったら下も脱がなきゃダメだよ(笑)。偉そうに言う話じゃないけど。

高野賢也(B, Cho)

高野賢也(B, Cho)

「うちの息子がファンでさ」の“息子”って

──「あこがれ(2022 再録)」についても聞かせてください。先ほどおっしゃったように、EPの収録曲においては「PRAY.」と「あこがれ」の歌詞が呼応し合っていますが、かつての自分が作った曲と向き合ったときはどう感じましたか?

はっとり 再録はもういいかなと思ったな。10周年ということで、意味合いとしての面白さはあったし、みんな「どっちにもよさがあるね」と言ってくれたけど、やっぱりオリジナルに勝てないんですよ。それを実感するという意味ではやってよかったかな。

田辺 ライブみたいに録ったのはよかったよね。

はっとり 一発録りしたんですよ。これはこれでいいものがパッケージングされていると思います。この機会に昔の音源を聴いたんですけど、俺の歌い方、ちゃんちゃらおかしいんですよ。抑揚をつけずにフルで歌ってる。「これはいいね、君。でもライブで喉を痛めるからやめときな」って感じ。奥行きはないんだけど訴えかけてる感じがすごくあって、とてもよかったですね。

──この曲の歌詞では「いつか誰かのあこがれになろう」とありますが、今のマカロニえんぴつは、若い世代の憧れを引き受ける存在になってきたと思うんです。そういう実感も出てきたんじゃないかと思うんですけれど、実際はどうですか?

はっとり 「うちの息子がファンでさ」って話をすごい聞くんです。でも、そのファンである当事者の息子に会ったことがない(笑)。実際に会わないから実感は湧きづらいんですよね。あとは、夏フェスで挨拶されたのが印象的だったかな。Mr.ふぉるてとか、オレンジスパイニクラブとか、ヤングスキニーとか、KALMAとかからね。「高校の頃から好きでずっと聴いてました」と言われたりすると、うれしいし、変な感じです。後輩たちに影響をちゃんと与えているんであれば、ロックバンドとしては真っ当なのかな。でも、僕としてはずっと誰かに憧れていたいんで、憧れられることに慣れてないというか、興味がない。偉くなったり、持てはやされたりするよりも、ずっと憧れる側でいたいですね。

田辺 俺もそう思う。

はっとり いかにマカロニえんぴつが好きかという話を聞かされるより、その人が憧れている違うものの話を聞いてるほうが楽しいんですよね。好きなアーティストのことを熱心に語っている話を聞いて、それぞれに自分の憧れがあるんだと思ったりするんで。でも意図せずとも連鎖はしていくんでしょうね。

──最後にお聞きしたいんですが、EPのタイトルの「wheel of life」は「TIME.」の歌詞にも出てくる言葉ですが、これはどういう理由でつけたんでしょうか。

はっとり 「wheel of life」は“輪廻”という意味で。先にタイトルを決めていて、歌詞にも使ったんです。生まれ変わるという価値観を持っている人は日本人には多いですよね。この“廻っている”という感覚は、すごくしっくりくるんですよ。きっと僕も何かに生まれ変わるだろうなと思う。そう考えると、人やものに対して優しくなれたりするし、時間を大事にすると思うんですね。自分が大事にしたものが誰かにちゃんと伝わっていくっていう。そういう感覚が前からあったんですけれど、タイトルには入れてこなかった。特に10周年を経て、やってきたことが自分たちに返ってくるような経験をしたので、このタイトルがぴったりだなと思ったんです。

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

ツアー情報

マカロックツアーvol.15 ~あやかりたい!煌めきビューチフルセッション編~

ONE MAN
  • 2023年4月6日(木)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2023年4月13日(木)北海道 Zepp Sapporo
  • 2023年4月20日(木)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2023年4月27日(木)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2023年5月10日(水)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2023年5月18日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

TWO MAN
  • 2023年4月7日(金)神奈川県 KT Zepp Yokohama
    ゲスト:Vaundy
  • 2023年4月14日(金)北海道 Zepp Sapporo
    ゲスト:くるり
  • 2023年4月21日(金)愛知県 Zepp Nagoya
    ゲスト:サンボマスター
  • 2023年4月28日(金)福岡県 Zepp Fukuoka
    ゲスト:ウルフルズ
  • 2023年5月11日(木)Zepp Osaka Bayside
    ゲスト:My Hair is Bad
  • 2023年5月19日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
    ゲスト:ユニコーン

プロフィール

マカロニえんぴつ

はっとり(Vo, G)、高野賢也(B, Cho)、田辺由明(G, Cho)、長谷川大喜(Key, Cho)からなる4人組ロックバンド。メンバー全員が音楽大学出身。2020年11月にTOY'S FACTORYよりメジャー1st CD「愛を知らずに魔法は使えない」、2022年1月にメジャー1stフルアルバム「ハッピーエンドへの期待は」をリリースする。2023年3月にEP「wheel of life」を発表し、4月から5月にかけて全国6都市のZeppを回るワンマン&対バンツアー「マカロックツアーvol.15 ~あやかりたい!煌めきビューチフルセッション編~」を行う。