マカロニえんぴつ|メジャーデビュー作で向き合う生と死、愛とは

生き方が伝わるような生き様

──死と向き合ったとき、はっとりさんはどんなことを感じますか?

はっとり 後悔が残っちゃうのは悔しいですよね。だからこそ、生きているうちに人と会っている時間は大事にしたいし、なるべく笑い合っていたいし、会いたい人には直ちに会いに行かなきゃいけないと思うし……そう考えると、死があることで、生を充実させるんじゃないですかね。だから、「生きる」じゃなくて、もっと能動的に「生きるをする」って言いたかったというのもあって。そっちのほうが自分の意志で生きている感じがするから。

はっとり(Vo, G)

──「生きるをする」には「見ててくれ 姿じゃなく生き方を」という歌詞がありますが、ここにもはっとりさんの生きることに対する能動性が見られるように思います。

はっとり 生き方が伝わるような生き様でなきゃ意味がないと思うんです。それは自分のバンド活動にも直結する話だと思う。僕がバンド活動をやっているのは「生きているぞ」という報告でもあって。自粛期間中も、ライブがないだけでこんなにも生きている実感がないのかと思ったんですよ。この特殊な時期ならではの生に対するイメージや執着があったんです。

──それはきっと、このコロナ禍を生きる多くの人が感じていることかもしれないですね。

はっとり うん。「生きる」なんて言うと話が大きくなっちゃうけど、生きていることの報告を、みんな当たり前のようにやっているんだと思うんです。それはバンド活動だってそうだし、ちょっとしたツイートをすることだって、生きることの意志表示だと思う。動かないと死んだことにされちゃう……そういう危機感みたいなものから生まれてきた作品ですね。

──「生きるをする」の歌い出しの「僕が僕を愛し抜くこと / なあ、まだ信じてもいいか?」という部分と、「mother」の「僕のことよりも / 君のことを愛し抜ける人をそっと」という歌詞は、どこか通じ合っているように思えるのですが、意識的でしたか?

はっとり 「ダイの大冒険」でこの2曲がオープニングとエンディングで流れることは決まっていたので、もちろん、自分の中では関連付けています。「生きるをする」はどこか迷いが多いけど、「mother」では、同じ人物が覚悟を決めているという感じかな。自分に向いていた矢印が、仲間や大事な人に向いていく変化。そういうものは「生きるをする」と「mother」に共通してあると思います。

愛は使いすぎ注意

──「mother」の「愛を知らずに魔法は使えない」という歌詞の一節が、作品全体のタイトルとなったのはなぜなのでしょう?

はっとり そもそも「愛を知らずに魔法は使えない」は「mother」の最初のタイトルだったんです。結局、応援してくれる人たちの愛や優しさなしでは、バンドは続けられなかっただろうし、もらった優しさを僕らがこの先誰かに渡していかなきゃいけない……そういうことは「ヤングアダルト」を書いたときから感じていたんですけど、それを改めて「mother」の「愛を知らずに魔法は使えない」という歌詞に込めました。「優しくあり続けたい」という思いが、この言葉には詰まっているなと思うんですよね。スタッフとも相談して、結果的にこの言葉を作品全体のタイトルにしようと決めました。

──メジャーデビュー作のタイトルとして最高だなと思うんですが、そもそもマカロニえんぴつは「愛」という言葉を歌詞やタイトルに堂々と使いますよね。愛って、使うのが厄介そうな言葉というイメージが僕にはあるんです。愛という言葉を使うとき、はっとりさんはどんなことを考えられるのでしょうか?

はっとり 言葉を使い始めた時点で、動物じゃなくて人だと思うんです。そして、人である時点で、愛からは逃げられない。人を好きになるって、すごく野性的で本能的な愛のありようだと思うんですけど、それは別に、ラブっていう意味での「好き」だけじゃないですよね。例えば、こうして取材を受けているこの現場にだって絶対に愛はあると思うんです。

──はい。

はっとり 結局、人と人が一緒にいる時点で、そこには絶対に愛があると思う。そして、その愛を一番“愛そのもの”に近い鮮度のままで相手に伝えるために、人間は言葉を駆使していく。苦手な人は、ゆっくりと手紙を書いたりする。もちろん、言葉によって傷付けられることもある。僕自身は愛を扱いづらいと思ったことはないです。むしろ、愛は扱いやすいものですね。愛はどの場面にも登場するし、存在するすべての曲がラブソングなんですよ。きっと愛を避ける人って、愛に対して「こうであるべきだ」という固定観念がある人だと思うんです。でも、僕にはそれがない。愛はみんなが持っている当たり前のものだと思っているから。ただ、使いすぎ注意ですね。「こいつ、また愛を語ってるよ」ってなっちゃうから(笑)。

──(笑)。

はっとり もっと言葉を探して伝えなきゃいけない、繊細な心の機微みたいなものもあると思うし、そういうときには愛という言葉を避けて表現したりもしますけど、そこは僕の課題かもしれないです。もっと愛以外の言葉で愛を伝えることがこの先の課題。難しいんですけどね。

──最後に、このジャケットがどのような意図で作られたのか教えてください。

マカロニえんぴつ「愛を知らずに魔法は使えない」初回限定版ジャケット

はっとり 今回はインパクトを大事にしました。特に今はサブスクで聴く人も多い時代ですから、あんまりジャケットがごちゃごちゃしているのもよくないのかなと思って、シンプルなものがいいのかなと。あと、あらゆる名盤と呼ばれるもののデザインは中心に視点が集まるっていう話を聞いたことがあったので、そこをデザイナーの相楽賢太郎さんには意識してもらったんです。

田辺 相楽さんが作品の内容をすごく汲んでくれたんだよね。

はっとり うん。相楽さんとけっこう会話のキャッチボールをしたんですけど、結果的に、この作品の世界観を的確に表現したジャケットになったと思います。底抜けに明るくもなければ、めちゃくちゃ暗くもなく、この作品の愛というテーマをちゃんと描いている。遠目から見たらハートになっているし、線でつながる感じもいいなと思います。僕にとって生きることは、どこか細長い糸を連想させるんですよ。生命線という言葉もありますけど、このハートを形作っているのが面じゃなくて線だということが、いろんなことを連想させると思う。アーティスティックでありつつ、抽象的すぎない。そういうところもマカロニえんぴつの世界観を表せているんじゃないかと思います。

ライブ情報

マカロックツアーvol.11 ~いま会いに行くをする篇~
  • 2021年4月10日(土)東京都 オリンパスホール八王子
  • 2021年4月15日(木)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
  • 2021年4月17日(土)北海道 函館市民会館 大ホール
  • 2021年4月21日(水)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2021年4月24日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2021年4月25日(日)石川県 本多の森ホール
  • 2021年4月29日(木・祝)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
  • 2021年5月2日(日)広島県 上野学園ホール
  • 2021年5月3日(月・祝)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール
  • 2021年5月7日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2021年5月9日(日)岩手県 岩手県民会館 大ホール
  • 2021年5月13日(木)大阪府 オリックス劇場
  • 2021年5月14日(金)大阪府 オリックス劇場
  • 2021年5月16日(日)愛媛県 松山市民会館 大ホール
  • 2021年5月23日(日)神奈川県 横浜アリーナ