マカロニえんぴつ|メジャーデビュー作で向き合う生と死、愛とは

アレンジの基本は“最大3個”

──今回の作品ははっとりさん曲が5曲、長谷川さん曲が1曲で構成されていますけど、田辺さんと高野さんも曲作りはされていたんですよね?

田辺 うん、作っていましたよ。

はっとり 自粛中の2人のデモも聴いているけど、めちゃくちゃいい曲があるんですよ。

高野賢也(B, Cho) 自粛中は、俺はすごくフラットな気持ちでいられたんですよね。ツアー中とかはバタバタしているから落ち着かない曲が出てきたりするけど(笑)、自粛中はじっくり考えながら曲を作れたのかもしれない。

──高野さんは、この自粛期間はどんな音楽を聴いていたんですか?

高野賢也(B, Cho)

高野 僕はアニメが好きなんですけど、それゆえに、アニメタイアップの曲しか知らないバンドもたくさんいて。「ほかにどんな曲をやっているんだろう?」と特定のバンドのタイアップ曲とほかの曲を比較したりして、研究していました。自分たちも今回、「生きるをする」と「mother」はアニメタイアップですけど、それが輝きすぎてほかの曲が埋もれてしまわないか心配だったし、アニメを通して僕らを知ってくれた人に、それ以外の曲を聴いていただいて「ちょっとな……」と思われるのも嫌だし。アニメを通して僕らを知ってくれた人たちをちゃんと取り込めるバンドでありたいので、コード進行やアレンジのスキルを高めようとがんばりました。実際、テレビ尺しか知らなかったアニメの曲をフルで聴いてみたら、新たな発見がたくさんあって。「生きるをする」と「mother」もぜひフルで楽しんでいただきたいですね。

──まさに「生きるをする」も「溶けない」も、曲展開がすごいですよね。簡単に全貌がつかめないというか、テレビや動画で流れる一部分を聴いただけでは予測できない展開がその先に用意されていて。

はっとり 「生きるをする」や「溶けない」はスタジオでのジャストアイデアで、休憩中にやってみたセッションをつなげてみたんです。ミックスでの音の上げ下げの調整や、ブレイクという超力技を入れることで、超無理やり、このめちゃくちゃな構成を「そういうものだよ」と錯覚させることができたんじゃないかと思います(笑)。どちらも自然に生まれた曲だけど、皆さんには「これ、どうやって作っているんだろう?」と思われるのかな?(笑)

田辺 そりゃそうだよ(笑)。「これって事前に計算して作り上げているのかな?」とか、聴いている人は気になると思うよ。しかも俺たちには“音大出身”っていうイメージもあるから、めちゃくちゃ考えて作り上げていると思われているんじゃないかな。

はっとり 音大出身っていうのが、このバンドのフィルターになっているんだよなあ。実際のところ、僕らが作っている音楽に理論性はないんですよ。特に、僕はこのバンドで一番理論性がないのに、バンドの指揮を取っている(笑)。そもそも、僕は理論がないからこそ、お決まりのベタな展開を作れなかったんですよね。親父がプログレを聴いていた影響もあるとは思うけど、曲を作り始めた高校生の頃は特に、作る曲すべてが組曲みたいになっていたんです。Aメロ、Bメロ、Cメロ、Dメロ、Eメロ……もう二度と返ってこない、みたいな(笑)。おもちゃ箱みたいな曲のほうが聴いていて楽しいし、演奏していても楽しいっていう感覚があったんですよね。

田辺 はっとりと出会った頃に渡された曲、すごかったもん。1曲の中で曲調が変わるっていうのは当たり前だった。

はっとり そうなんだよね。でも、それじゃいかんということで、大学で先生に曲の作り方を教えてもらった結果、今はバランスが取れているんだと思う。でも気を緩めると、また「溶けない」みたいになるわけで(笑)。

──マカロニえんぴつの音楽は展開も含めて非常に情報量が多いと思うのですが、それでも聴いていて疲れないというか、どれだけ音の情報やエモーションが増幅していっても、心地よく聴き続けられるんですよね。この熱量を失わない心地よさはどのようにして生まれているのでしょうか。

はっとり 要因はいろいろあると思うんですけど、1つ言えるのは、全部の楽器が同時に鳴ることによる音圧的なしんどさが少ないからかもしれないです。「レモンパイ」くらいの頃から意識していることなんですけど、音の引き算が僕らのアレンジのテーマの1つなんです。ギター2本とベース、鍵盤、そしてドラム。僕らには基本的に5個の楽器があるんですけど、この5個すべてが同時に主張している瞬間は、どの曲にもないと思います。4個もできれば避ける。同時に歌っていい楽器は、多くて3個。それが僕らのアレンジの基本なんです。僕はボーカル以外の楽器の伴奏も入れ替わりで主役になっていないとダメだと思うんですけど、フレーズが喧嘩したら元も子もないんですよね。なので、各楽器の譲り合いは自分たちにとってすごく大事なことで。進んでいくといろんな仕掛けが出てくるお化け屋敷みたいに、耳を奪われる瞬間が最後までバランスよく出てくるのが理想なんです。

ひさびさに会ってハイタッチ

──今のお話はバンドであることのこだわりとも言えますが、このコロナ禍の中で、リモート体制で音源制作を行うバンドも増えたと思うんです。マカロニえんぴつの場合、本作の制作において、リモート作業はあったのでしょうか?

はっとり リモートは一切ないです。自粛期間があったからこそ、ひさびさに会ったときにめちゃくちゃ楽しかったんですよ。移動中の機材車でも話が尽きなくて。

田辺由明(G, Cho)

田辺 自粛明けはめっちゃテンション上がったよね。ハイタッチとかしてたもん(笑)。

はっとり 心なしか堅也も明るくなってたもんな。「たくさんアニメ観たんだろうな」と思った(笑)。やっぱり誰かといたほうが楽しいんだよ。リハも楽しかったね。

田辺 うん、人と音を出すって最高だなと思った。

高野 それで最初に作ったのが「カーペット夜想曲」なんだよね。

──「カーペット夜想曲」はサンプリング音も多用されていて面白いサウンドですよね。歌詞は脈絡を超えて伝わってくるものがあるというか。

はっとり 「混沌としてしまえ」と思って書きました。「この度の恥は掻き捨て」(「hope」収録曲)の歌詞を書いたときに近い勢いでしたね。立ち止まって直さない歌詞の書き方。「dula tu-la」ってなんだ?と思うじゃないですか(笑)。でも、そこはTHE BLUE HEARTSの「リンダ リンダ」みたいなもので、意味はないけど、だからこそすべての意味に当てはまり得るっていう。

──混沌とはしているけど、全体的にすごく肯定的な言葉が並んでいる曲でもありますよね。

はっとり そうですね。肯定的とはっきり言えるほど肯定的かはわからないけど、人生賛歌みたいなものだと思う。前向きになるための歌だと思うし、自分が好きな映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と「カッコーの巣の上で」の人物名も出しているし。意味がないようで、僕個人としてはすごく意味のあるパーソナルな歌です。

──あと、この曲では「愛犬クッキー 天国でお散歩」という歌詞がすごく気になったのですが……。

はっとり 愛犬が死んだんです。ハナちゃんっていうんですけど、最近死んじゃったので。追悼ソングみたいなものでもあるのかな、これは。

──「カーペット夜想曲」には「死や幸せを背負って帰ろう」という歌詞もありますよね。1曲目のタイトルが「生きるをする」で、生に対する思いを強く感じさせますが、死もまた、この作品において重要なテーマとなっているのでしょうか。

はっとり 大事な人の死が最近多かったんです。嫌になっちゃうくらい。だから死については考えざるを得ないというか。ただ、今作の共通のテーマとして“帰ること”について話をしましたけど、言ってしまえば死ぬことも帰ることですから。年齢を重ねるにつれて、死に向き合うことが多くなってきたけど、それによって、歌で言えることは増えてきている……というか、自分にとって表現する一番の場所は歌だから、歌の中でなら表現してもいいんじゃないかと。「生きる」とか「死ぬ」みたいな言葉って、ちょっと前の自分なら「大風呂敷広げすぎじゃない?」と思っていたけど、今は臆せず、生きることも死ぬことも、歌詞に書けるようになりました。