lynch.メジャーデビュー10周年を迎えた今振り返るバンドの転機 (2/2)

この5人でやってさえいれば……

──こうして音楽的にも紆余曲折を経てきた中で、今、気になるのは、lynch.が次にどうなっていこうとしているのかということです。次の作品に向けての曲作りなどはすでに着々と進みつつあるんでしょうか?

葉月 正直なところ、具体的には進んでません。ただ、頭の中には2曲ぐらいありますかね。

──まだバンド内では共有できていないアイデアが2曲ほどある、ということですね?

葉月 そういうことですね。次に出すならこういう感じかな、というのがあります。出すというのはリリースという意味じゃなくて、メンバーの前に提示するということですけど。あと、ここのところ常に言ってることでもあるんですけど、メンバー全員の色をもっと取り入れたいと思ってるんです。今までは僕個人の色というのが多かったけども、その割合をもうちょっと下げたいな、と。せっかくこうして5人いるんだし、各々の色をもっと強く、うまく混ぜ合わせるようなことをしたいと考えています。

葉月(Vo)

葉月(Vo)

──言い方を換えると、よりバンド然としたケミストリーを楽しみたい、ということでもあるんでしょうか?

葉月 そうですね。今のところは僕と悠介くんしか曲を作ってこなかったわけですけど……あ、AK(明徳)もちょっと作ってたか(笑)。

──ええ。忘れちゃいけませんよ(笑)。

葉月 ははは! でも実際、メンバーの誰が曲を作ってもいいと思うんで。

──なるほど。先ほどから繰り返されているように、「EXODUS-EP」を転機としながら「GALLOWS」で確立されたスタイルからの延長上にある進化がずっと続いてきたように思うんですが、どうやら次に登場するオリジナル作品は新たな転機になりそうですね?

葉月 そうですね。ただ、僕としては「GALLOWS」の頃からの流れが続いてるという感覚は、もうとっくになくて。自分的にはあのアルバムからの流れは「AVANTGARDE」(2016年)で完結している感じですね。逆にそういう感覚があるから、自由にいろんなことを楽しみながらやっても、この5人でやってさえいればそれでいいんじゃないか、という自負、自信がなんとなくあります。だから、もっと楽しめるところに行けるんじゃないかなという気がしてます。

2022年は変化の年になるだろう

──具体的には年が明けてからということになりそうですね。そこで来年に向けての抱負も含めて「新たにこんな要素を持ち込みたいな」というのがあれば教えてください。明徳さん、どうでしょう?

明徳 コロナ禍の中で自分と向き合う時間がけっこうあったし、楽器を弾いてる時間も多かった。それこそちょっとギターを練習してみたりもしてたんですね。そうやって、いろいろ下準備というか、ちまちまと進めてこられた部分があったので、それをもう少し何か形にできたらいいな、と思ってます。

──ギターの練習というのも曲作りのためだったんですか?

明徳 いや、単純にギターを弾いてるのがちょっと楽しくて(笑)。そういうのも大事だと思うんです。そうやってちまちまと……修行というわけじゃないけど(笑)、コロナ禍でいろいろとやってきたことがあるので、それを少しずつ反映させていきたいなと思ってます。

明徳(B)

明徳(B)

──少しずつじゃなくてもいいと思いますよ(笑)。悠介さんはいかがでしょうか?

悠介 僕は別個に新しいこと(今年始動した、真空ホロウの松本明人との新プロジェクト・健康)を始めたので、そっちと並行しつつ考えていきたいですね。正直、lynch.が次にどういうものを打ち出したらいいのかっていうのは、現時点では僕にはわかってないんで。今までは軸になるテーマだとかキーワードみたいなものがまずあって、そこで「じゃあ次の作品はそういう展開にしていこう」と考えながら作ってきたんですね。だからここで「5人の色を強くしていこう」というときに実際どうするべきかが、まだ自分でもわからないというか。ただ、より自由であっていいということなのかな、とも思うんです。ただ、それが逆に難しかったりもしますよね。

──自由だからこそ何をどういうバランスで出すべきか、というのが悩みどころになってくるわけですよね?

悠介 そういうことです。だからまあ、今は新しく始めたプロジェクトのほうをまず楽しみながら、そこで何か思いついたら制作に入るとか。そういうことを自分のタイミングでやれたらいいな、というのがあります。

──健康を始動させたことによって、アウトプットしながらインプットも増えたようなところがあるんじゃないかと思います。実のところどうですか?

悠介 それはだいぶ増えましたね、やっぱり。今まであんまり聴かなかった音楽も聴くようになったり。あと、自分の根っこにより近い部分、根っこにある好きな部分というのを、これまで以上にそっちでは表現できるようになってきてる感じはあります。だからlynch.が実家だとすれば健康ではルームシェアしてるみたいな(笑)。そういう感じで棲み分けをうまくやっていければいいな、と思ってます。

悠介(G)

悠介(G)

──なるほど。晁直さんは、いかがでしょうか?

晁直 まだそんなに具体的には考えてないんですけど、以前、あるイベントに出演した際に、僕らより若い世代のバンドたちを観て、「全然知らなかったけど、すごく勢いがあるんだな」と感じさせられたことがあって。そういう部分でも負けてられないな、と思うところもあったし、そういう気持ちを表す何かがができたらいいな、とは考えてます。

──言い換えると「まだまだ落ち着くつもりはないぞ」ということでしょうか?

晁直 そういうことですね。落ち着いたらもう終わりだと思うんで。

晁直(Dr)

晁直(Dr)

玲央 それは間違いないですね。2022年に向けては、まだ具体的にあれこれ言いにくいところがありますけど、やっぱりライブをしっかりやりたいです。やりたいのにやりたいようにできないジレンマというのをここ2年近く感じ続けてきたわけですから。同時に「自分たちの本来あるべき姿」を今一度考える機会でもあるのかな、とも思っています。ずっとライブバンドを自負していて、年間50本は普通にやってきたはずなのに、急にそうした日常がなくなってしまったという状況で、みんなが何を求めてるのかもわかってるし、自分たちが追い求めたいものもはっきりしてはいるんだけど、それが満足にできてないという現実がある。そこをどうクリアしていくか、というのをやっぱり考えていかないといけませんね。

玲央(G)

玲央(G)

──確かにそうですね。さて、葉月さん、皆さんの言い分を聞いてみて、どう感じていますか?

葉月 こういう感じなのかな、とは思ってました(笑)。とにかく2022年は変化の年になるだろうと思います。どういう変化なのかは自分でもまだ細かく言えないですけど。ただ「ここで変化しなきゃいけない」という気持ちは今の僕にはまったくないんですね。結果的に変化するならそれはそれでいいし、自分たちでは変化したつもりでいても「ああ、いつものlynch.だね」と言われるかもしれない。それはそれで、別に構わないと思っているんで。

──「変わらなきゃ!」というような強迫観念めいたものがあるわけではなく、自ずと何かしら変わってくる部分がありそうな気がしている、ということなんですね?

葉月 そうですね。自分の中で熱のあるもの、本心からやりたいものをやりたいというだけのことで、実際この先もそうしていくはずです。それが世間からどう捉えられるかはわからないですけど、結果でしかない。とにかく今の自分には「GALLOWS」当時のような焦燥感というか、「なんとか自分たちのスタイルを確立させなくちゃ!」みたいな気持ちは全然ないんです。焦りとは無関係のところで、純粋に楽しみながら次の作品を作れればいいし、実際、そうなるはずだと思ってます。

lynch.

lynch.

ライブ情報

17th Anniversary Premium Live「THE IDEAL」

2021年12月31日(金)愛知県 Zepp Nagoya

プロフィール

lynch.(リンチ)

愛知・名古屋出身のロックバンド。2004年8月に葉月(Vo)、玲央(G)、晁直(Dr)の3人にサポートベーシストの4人を加えた形で始動した。2006年に悠介(G)が、2010年に明徳(B)が加入。2011年6月、アルバム「I BELIEVE IN ME」でメジャーデビューし、ライブを行う会場の規模を徐々に拡大させた。2020年3月にアルバム「ULTIMA」を発表。2021年2月に初の東京・日本武道館公演を予定していたが、コロナ禍の影響で中止に。開催予定日に配信ライブ「STREAMING LIVE "THE RESISTANCE"」を行った。5月より全国ツアー「TOUR'21 -ULTIMA-」を開催し、12月にメジャー・デビュー10周年を記念したボックスセット「2011-2020 COMPLETE BOX」をリリース。同月末に愛知・Zepp Nagoyaでワンマンライブ「17th Anniversary Premium Live『THE IDEAL』」を行う。