lynch.メジャーデビュー10周年を迎えた今振り返るバンドの転機

lynch.のメジャーデビュー10周年を記念して、これまでにKING RECORDSより発売された全シングル、アルバム、ミュージックビデオをまとめた豪華ボックスセット「2011-2020 COMPLETE BOX」が12月27日にリリースされる。バンドの歴史はインディーズ時代を含めればすでに17年を超えているわけだが、果たして彼ら自身はこの節目の到来をどう捉え、この先にどんな未来図を見据えているのだろうか? 11月下旬のある日、現在も地元の名古屋を活動拠点とする5人にリモート取材を行い、話を聞いた。

取材・文 / 増田勇一

ああ、もう10年なんだ

──メジャーデビュー10周年。この節目についてはどのように感じていますか?

玲央(G) もともとメジャーデビューを目標に活動してきたわけではないので「やった、10周年だ!」という達成感みたいなものはなくて、気が付いたら10年経っていたというのが率直なところですね。むしろ10年間にわたってキングレコードと信頼関係を続けてこられたことのほうがうれしいです。これほど浮き沈みの激しい音楽業界で、同じレコード会社との契約が10年間も続くというのは比較的まれなことだと思うんです。そういった意味で「一緒に仕事を続けられてうれしいな」という気持ちのほうが強いですね。

晁直(Dr) 僕も似たような感覚です。やっぱり気付いたら10年経っていた、という感じで、こうして10年続けてこられたことに関してはバンドとしてすごいと思うし、キングさんもよく続けてくれたな、とも思う(笑)。振り返ると、感謝の気持ちばかりです。「大ヒットも出てないのにすみません」みたいな(笑)。それでも10年間、関係を続けてくれたところにも価値を感じます。

晁直(Dr)

晁直(Dr)

悠介(G) 僕もほぼ同じです。メジャーデビュー10周年というのは意識もしてなかったですし、それを全然目標にしてなかったので「ああ、もう10年なんだ」という感じです。あっという間で意外に10年も続いたんだなと(笑)。そこはキングレコードが僕らのことを見捨てずにいてくれたことも大きいと思います。それこそ晁直くんも言ってるように、ヒット作も出してないのに(笑)。

──それはある意味、来年以降の課題ということになるんでしょうか?

悠介 この先、ずっと課題として残るんでしょうね(笑)。

──明徳さんの場合は「メジャー10周年=加入10周年」ということにもなりますよね?

明徳(B) そうですね。感覚的にはみんなと一緒で、ホントに目まぐるしい毎日を送らせてもらいながら10年経ったという感じです。ただ、メジャーシーンについて言うと、デビューする前はもっとメインストリーム的なことをやらないといけないのかと思ってたんですね。でも実際には自分たちのやりたいこと、例えばロックの中でもかなり激しかったりダークだったりするもの、メインストリームとは違うものをやりつつ10年続けてこられたわけで、それ自体がすごくありがたいことだなと思う。なんか、世の中もちょっと変わったのかなと思います。「大衆的なものだけがいい」というわけじゃなくて、「いいものはいいんだよ」が広く認められる世界になってきたのかなって。あと加入から10年という意味では、めちゃくちゃいろんなことがあったし、自分のこれまでのバンド人生の半分以上の時間をこのバンドで過ごせて、このバンドにいられてよかったなあ、とすごく感じています。

明徳(B)

明徳(B)

──こうして皆さんの言葉を聞いたところで、葉月さんはどう感じていますか?

葉月(Vo) ヒットを生み出せなかったなあ、と思います(笑)。まあでも、10周年ってこと自体に感慨深さは感じないですけど、大きな価値のあることだなとは思ってます。たとえヒット曲がなかろうと、10年やったというのはすごいことだよな、と。

──10周年という節目にこういう集大成的なボックスセットがリリースできるようなバンドになった、ということにも意味を感じます。大物感というと語弊があるかもしれませんけど、アイテム数がたくさんあって、コアなファン層がしっかりと確立されていて、しかも今から歴史を遡ろうとしている新たなファンをつかんでいる人たちにしか出せないものだと思うんですよ。

葉月 音源自体は既発のものばかりだし、誰も買ってくれないですよね、普通は。通常のベストアルバムとは違うものでもあるし。そこはやっぱりファンの人たちに感謝ですね。ファンの人たちと自分たちが地道にやってきたことの軌跡がここに詰まってるというか。「ああ、よくやったね」という感じではあるかな。

葉月(Vo)

葉月(Vo)

玲央 今回の作品のような箱モノって、メジャーデビューして数年程度だとまず出せるものではないですよね。やっぱり積み重ねがあって初めてリリースできるアイテムだと思う。しかもその積み重ねは自分たちだけでやってきたことじゃなく、ファンの方たち、関係者、レコード会社の方とかの支えがあって初めて僕らがちょっとずつ前に進めたという歩みの過程だと思うんですね。それをこういう形でリリースできるというのはホントにありがたいことだなと思いますね。

転機になったと思う作品

──lynch.の音楽的変遷をたどるのにもいい機会だと思います。そこで改めて各々に、過去10年の中でもっとも自分たちの転機になったと思う作品、あるいは楽曲というのを選んでほしいなと思うんですが。

葉月 僕はピンポイントで言うと「EXODUS-EP」(2013年)の1曲目の「EXODUS」ですね。その前に「LIGHTNING」(2012年)と「BALLAD」(2013年)というシングルを続けて出して、「もう1度ヘビーでダークなものを意識して作ってみよう」と思ったときに、最初に作ったのが「EXODUS」だったので。変拍子も入ってたり、邪悪な感じをけっこう盛り込んだのも意識的なところでした。あのEPが出てリスナーから評価を得られたことがすごく自信になったのを覚えてるんです。あそこから新たな流れが始まったという気がしますね。

悠介 僕の中でも「EXODUS-EP」は大きかったですね。「BE STRONG」という僕の曲が入ってるんですけど、自分の曲をバンドに持っていくことが始まったのがあのときだったので。それまでは曲の中のフレーズで自分の色を表現することしかやってこなかったのに対して、ゼロから作るようになって、“悠介色”みたいなものを出せるようになった。それ以降、曲数的には少ないにしてもコンスタントに自分の曲を入れることができているので、やっぱりあそこが転機になってるんじゃないかな。

悠介(G)

悠介(G)

──このバンドの中での自分の色の出し方が見え始めた地点、ということですね?

悠介 そうですね。lynch.に合う曲というのはどういうものなのか、みたいな。もちろん勉強しながらという感じではあったし、あえて合いにくそうなものを作って出すこともあるんです。でもその中でも「自分の色も出しつつlynch.に合うもの」というのを探りながら作るようになった時期でした。

晁直 「EXODUS-EP」からその次の「GALLOWS」(2014年)にかけての頃を転機と捉えているのは、おそらくメンバー全員同じだろうと思うんです。ジェント系(メタルの1ジャンル)と言われるリズムが出始めたのも「EXODUS-EP」の頃からで、自分としてはそれまでやってこなかったリズムだったから、自ずと練習量も増えて……。そういう記憶からも、やっぱり「EXODUS EP」が転機になったという印象が強いですね。

明徳 僕も同じです。「EXODUS-EP」でバンドの方向性やコンセプト的な部分が切り替わったという感覚があって。それを経た「GALLOWS」でコンセプト的にもサウンド的にもいっそう固まった。今でもずっと続いてる流れの基盤は、あのアルバムで固まったと思っています。「EXODUS-EP」はあくまでEPでしたけど、あそこでいろいろ試すことができて、それを「GALLOWS」で徹底的に形にできたようなところがあったんじゃないかな。

玲央 みんなが挙げてる「EXODUS-EP」が最大の転機だったと言いたいところなんですけど、僕は捉え方がちょっと違っていて。「EXODUS-EP」は、その前の「LIGHTNING」「BALLAD」というシングル2枚があったからこそ作れたものだと考えてます。メジャーデビューが決まって、インディーズ時代の勢いを保ったまま、音楽的にもっと深い掘り下げ方でやっていこうという始まり方でアルバム2枚(2011年発表の「I BELIEVE IN ME」、2012年発表の「INFERIORITY COMPLEX」)を出したんです。で、その先をどうするのかという話になったときに、初めてレコード会社のディレクターらの意見も取り入れつつ作ったのが、あの2枚のシングルだったんですね。当時は自分たちの進むべき道をすごく熟考してたというか、言ってしまえばちょっと迷いもあったと思うんです。そんな中、それを打破するきっかけになったのが「EXODUS-EP」だった。もしもあの2枚のシングルと順序が逆だったら、僕らは今、たぶんここにはいなかったんじゃないかな。

玲央(G)

玲央(G)

──そこまで言いますか!

玲央 ええ。そういう意味でもタイミングと流れというのが重要だったな、と思います。何事にもチャレンジして、そこから得た実体験をその都度捨ててしまうんではなく、ちゃんと自分たちの財産としながら「さあ、次はどうしていこうか?」と考えながら進んできたバンドのはずだし、そういった意味でもあのシングル2枚はやっぱり重要だったと思います。

──今回のボックスセットがフルアルバムしか収録されていない作品だったら、大切なポイントを見落とすことになっていたかもしれませんね。EPやシングルが常に変化の橋渡しのような役割を果たしてきたんだな、ということがよくわかります。

玲央 そうですね。そういったものが常に新しい流れの起点になっていたように思います。