アルバム全体の奥行きを広げるためのデモ音源集
──今回、初回限定盤に付属するディスクには4曲分のデモトラックが収録されていますね。2人のアコースティックセッションがどんなふうに完成版へと育っていったのか、想像力を刺激されてとても興味深かったです。例えば3曲目「Birdie」はごきげんなカントリーロック風のナンバーですが。
NAOKI うん。アメリカのだだっ広い風景の中で、ルシンダ・ウィリアムズが歌ってるイメージ(笑)。KUMIの歌い方も、わりとレイジーな感じでね。
──デモ音源の方はもう少しフォーキーと言うか。ボーカルも内省的だし、リズムもゆったりめなんですね。なぜこういう特典を付けようと?
NAOKI さっきもお話ししたように、今回はギターのリフより、メロディとコード主体で曲を作ったでしょう。なので、従来のアルバムに比べて、デモの段階でいろんなアレンジを試してみることが多かったんですよね。例えば、同じディスクに入っている「1 2 3」なんかは、試行錯誤の段階ではもっとロックっぽいアレンジの時期もあった。でも、2人共なんかしっくりこなくて……。それを思い切って捨てて、KUMIに「アコギ1本で弾き直してみたら?」と言われ、試してみたら、「あ、やっぱこっちだ」って話になったんです。デモ音源に収めたのは、そのときの最初のバージョン。
KUMI そういう過程をいくつか聴いてもらえたら、アルバム全体の奥行きが広がるのかなと思って。それで今回、デモ音源集を付けてみました。
NAOKI ビートルズならともかく、出たばっかりのアルバムにこんなの付けていいのかな、とも思ったんですけど……(※この日、取材に訪れたスタジオでは、「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」50周年記念エディションのアウトテイクが大音量で鳴っていた)。
KUMI ははは(笑)。そこはまあ、いいんじゃないの?
あんなに楽しそうなのはおかしいってたまに言われる
──そう言えば今年2月、「How is your Love?」という本作のトレイラー映像が公式サイトにアップされていましたよね。スタジオの風景が、6分ほどの尺で短くカットアップされてましたが、2人共すごく楽しそうで。
KUMI いつもあんな感じだよ。
NAOKI あれは、本当にレコーディングの真っ最中で。曲作りでかなり追い詰められた時期だったから、カメラにサービスしてる余裕がなかった。
──どの曲もああやって、セッションしながら作っていくんですか?
NAOKI うん、まさにあのまま。
KUMI 20年もやっててあんなに楽しそうなのはおかしいって、たまに人から言われますけど(笑)。そもそも楽しくなかったり煮詰まりそうなときは、無理してやらないからね。見切りを付けて、パッと帰っちゃう。
NAOKI もしくは、KUMIはスタジオに来ない(笑)。
──でも、たまには意見が食い違って膠着したりしませんか?
KUMI 膠着ねえ……ほとんど記憶にないねえ。
NAOKI もちろん人間なんで、お互いの意見がそろわないことはよくありますよ。そういう場合は「じゃあ、ちょっと置いとこっか」みたいな感じで、別の曲に取りかかることが多いかな。イメージが共有できてないんだったら、「また今度やればいいじゃん」みたいな?
KUMI そうだね、強引な進め方はしないからね。だから20年、楽しくやってこられたんだと思うな。
──作曲やアレンジだけでなく、歌詞も2人で?
KUMI うん、相談しながら書きますよ。ただ難しさで言うと、サウンドより言葉のほうがずっと苦労してる気がする。
NAOKI そうだね。
──特に意識していることはなんですか?
KUMI メッセージが音楽より先に行かないこと。例えば、フックになる表現とかワードがあると曲としての印象は強くなるのかもしれないけれど、そこには頼りたくないんだよね。でもポップミュージックだから、歌詞がまるで入ってこないんじゃ意味がないし。そのバランスはいつも悩みますね。
──注意していても、言葉が強くなってしまう瞬間もありますか?
KUMI あるね。
NAOKI そういうときは大抵、もう一方が気付くよね。相手が書いてきた歌詞でも、けっこう平気で書き直しちゃうし。
KUMI それが別に、嫌じゃないしね。「あ、そっちのほうがいいか」って。ただ、相手が「絶対こうだ!」って主張するものに関しては、わりと素直に譲ったりします。そこはたぶん、互いのセンスを信頼してるから。
NAOKI 結果、「それでよかったね」ってケースも多いし。反対に、やってみたら「ゴメンナサイ、戻しましょう」ってこともあるし(笑)。
どんどん新しいことが起こっていく気がしている
──今年はLOVE PSYCHEDELICOが大学のサークルで結成されて20周年なんですね。何か感慨はありますか?
KUMI どうかな(笑)。20周年みたいな節目はあまり意識してないかも。それよりは今回のアルバムで、デリコとして新しい扉を開けたと思えたことのほうが大きいですね。制作途中もワクワクする感覚があったし。曲作りにしてもライブパフォーマンスにしても、これからまたどんどん新しいことが起こっていく気がしているので。
NAOKI うん。今回の「LOVE YOUR LOVE」は、まず曲の核となるところに2人がイメージする音があって。それを丁寧にサウンドメイキングしていくというスタイルで作れたでしょう。その意味では“新しい扉”であると同時に、ちょっとデビューする前に回帰した感覚もあるんですよ。
KUMI そうだね。最初に作ったデモテープに似た感じ。
NAOKI 僕らの1stアルバム(「THE GREATEST HITS」)はもともと、青学(青山学院大学)のサークルで出会ったKUMIと僕がデモテープのつもりで作ってた音源がたまたまレコード会社の人の手に渡って。それをちょっと手直しして世に出したものだったんですね。「LOVE YOUR LOVE」はちょっと、そこに戻れた感覚もある。もちろん経験を積んで、成長した部分もたくさんあるんですけど。でも、2人がいいと思ったもの──音楽で一番大事な初期衝動みたいなものを、できるだけ手を加えずに詰め込んだ部分は似てる気がするんですよ。
──その新鮮さは、音像そのものから強く伝わってきました。9月から2年ぶりの全国ツアーも始まりますね。
KUMI 次のツアーでは、これまでのメンバーとは異なり、ツインギター編成でパーカッションも入って……印象も大きく変わると思う。ずっと同じ仲間とLOVE PSYCHEDELICOのサウンドを作ってきて、それはもちろん私たちにとってかけがえのない財産だけど、今回のアルバムツアーではまた新しい風を感じられるんじゃないかな。
NAOKI 思う存分に新しい曲を演奏するのは、僕らも本当にひさしぶりだからね。この「LOVE YOUR LOVE」というアルバムをみんなの前で披露して、一緒に共有できる。今、それを一番楽しみにしている自分がいます。
- LOVE PSYCHEDELICO「LOVE YOUR LOVE」
- 2017年7月5日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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初回限定盤 [CD2枚組]
3780円 / VIZL-1176 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64802
- CD収録曲
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DISC 1
- Might Fall In Love
- Feel My Desire
- Birdie
- This Moment
- 1 2 3
- Good Times, Bad Times
- You'll Find Out
- Rain Parade
- Beautiful Lie
- C'mon, It's My Life (Album Mix)
- Love Is All Around
- Place Of Love
- No Wonder
- 初回限定盤CD収録曲
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DISC 2
- 1 2 3 (Demo Acoustic Version)
- Love Is All Around (Demo Acoustic Version)
- Birdie (Demo Acoustic Version)
- Place Of Love (Demo Acoustic Version)
ライブ情報
- LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE
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- 2017年9月1日(金)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年9月9日(土)宮城県 Rensa
- 2017年9月10日(日)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2017年9月24日(日)大阪府 Zepp Namba
- 2017年10月1日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年10月6日(金)香川県 高松オリーブホール
- 2017年10月13日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年10月14日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年10月27日(金)新潟県 新潟LOTS
- 2017年11月10日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年11月17日(金)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年11月24日(金)東京都 中野サンプラザホール
- LOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)
- 1997年に結成された、KUMI(Vo, G, Key)とNAOKI(G)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルや、洋楽を彷彿とさせる楽曲がシーンに衝撃を与える。2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録する。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続ける一方で、2004年には初のアジアツアーを開催し、2008年にはアルバム「THIS IS LOVE PSYCHEDELICO」でアメリカデビューを果たすなど海外での活動も展開している。2015年2月にデビュー15周年を記念して「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I」と「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II」というベスト盤2枚を同時リリースした。2017年7月に4年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「LOVE YOUR LOVE」を発表。9月から全国ツアーを開催する。