強いメロディに色気をまとったようなロックって、作ろうと思っても作れなかった
──その「新しい扉」とは、具体的にはどういう扉だったんでしょう?
KUMI これもまた感覚的なことなので、言葉で説明するのは難しいんですけど(笑)。できあがったトラックを聴いたとき、それまでとは明らかに違っていて。なんか、より歌中心になったってことなのかな。
NAOKI そうだね。キャッチーなリフじゃなく、むしろメロディとコードが楽曲の核になっている感じだね。
──もう少し詳しく教えてもらえますか?
NAOKI ロックの名曲って、例えばThe Kinksの「You Really Got Me」にしてもThe Rolling Stonesの「(I Can't Get No) Satisfaction」にしても、リフと歌の掛け合いで成り立ってるものが多いでしょ。僕らも含めて、それがみんな大好きな1つの形だと思うんだけど、それとは別に印象的なメロディとコード感で聴かせる系譜もあって。例えば……。
KUMI キャロル・キングとか?
NAOKI うん。彼女の「I Feel the Earth Move」なんてすごいロックな作りだけど、決してリフ主体じゃないし。あとはビリー・ジョエルの「Piano Man」とか。最後期のジョン・レノンの「(Just Like) Starting Over」とか。好きな曲がいっぱいあります。ただ、そういう強いメロディに色気をまとったようなロックって、これまでは作ろうと思ってもなかなか作れなかったんですよね。でも「Good Times, Bad Times」ができたとき、「あ、これは自分たちがずっと求めていたあの感じに似てるな!」って。そういう直感というか、喜びがすごくあったんです。
KUMI で、「Good Times, Bad Times」のあとに「Love Is All Around」を作り、その後「This Moment」を作ったんですけど、どちらも同じ空気を持っている感じがした。よく2人で「この曲も『Good Times, Bad Times』以降の雰囲気あるよね」なんて話し合っていました。
──へえー、面白い。「Good Times, Bad Times」以前と以降。2人の中でそんな言い回しが定着してたんですね。曲の作り方自体も変わりました?
KUMI どう? 変わったと思う?
NAOKI 僕がリフを持ってきて、そこにKUMIがメロディを乗せるという手法──昔の楽曲で言うと「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」とか「Everybody needs somebody」なんかに比べると、最初からより歌メロが中心になっていたような気はする。
KUMI そうね。お互いアイデアを持ち寄る段階で、核になるメロディとコードについては、わりと中心になるものがあったもんね。今回のアルバム制作では、それをいかに肉付けしていくかという作業が中心だったかもしれない。
──つまり「LOVE YOUR LOVE」というアルバムは、2人が「Good Times, Bad Times」で感じた“新しい扉”の先に位置していると。
KUMI 個人的にそんな感じはしてます。完成したばかりで、まだ客観的には聴けてないんですけど(笑)。少なくとも、そういうつもりでは作った。
NAOKI 僕はここ数日、ようやく実感が出てきたよ(笑)。
誰かに盛り付けをお願いするのをやめてみた
──そうやって曲の作りがメロディ寄りになったことと、最初にお話しした音像のフレッシュさは、どこかでつながってるんでしょうか?
NAOKI うん。つながってるんじゃないかな。というのも僕ら、このアルバムで初めてミキシングの作業まで自分たちで手がけたんですよ。
──資料の末尾に「Mixing Engineer:LOVE PSYCHEDELICO」のクレジットがありましたね。すごく小さな文字で(笑)。
KUMI まだ始めたばかりなので(笑)。そっとね。
NAOKI 別にミキシングでも自己主張がしたかったとか、腕に自信があったとか、そういうことじゃなくてね。加えて違うやり方を試してみたいって気持ちがあった。僕たちだけじゃなくて多くのミュージシャンがそうだと思うんですけど、今のレコーディング過程におけるミキシングって、録音したものを最後にもう一段カッコよくすると言うか……商品に仕上げる作業というイメージを持ってる人が多いと思うんですよ。現代のシステムでは、よくも悪くもそうなっちゃってる。
──料理で言えば、最後に「盛り付けで見せる」みたいな?
NAOKI そうそう。そうすると「とりあえず素材を録って、あとはミックスで考えよう」的なやり方が、どうしても多くなるでしょう。実際この20~30年、ミキシング頼りの傾向がどんどん強まってる気がして。で、今回、最後の段階で誰かに盛り付けをお願いするのを思い切ってやめてみた。
KUMI 曲作りの段階で、ちゃんと盛り付けのイメージがあってレコーディングしているから。たぶんこれも、曲の成り立ちがよりメロディとコード中心になったことと無関係じゃないと思う。
──ちょっと映画の撮り方にも通じますよね。デジタル時代の撮影現場って、とにかく素材を大量に撮る。編集でいろいろ対応できるよう、複数のカメラを回しっぱなしにして。1つのカットを多方向から押さえようとするでしょう。
KUMI ああ、その比喩すごくわかる。
──でも、フィルムの時代から経験を積んできた監督さんには、全編ワンカメの決め打ちで撮りきっちゃう人もいて。そういう人は余分な切り返し映像も撮らないので、往々にして仕事はめちゃめちゃ速かったりするんですよね。
KUMI つまり、その監督さんの中では、作りたい映画のイメージがはっきり見えてるってことだよね。どうせ使わないんだったら、わざわざ別アングルの映像を押さえておく必要もないと。
NAOKI うん。似てるよね。仕事が速いってところ以外は(笑)。
KUMI 時間はかかるね。機材もアナログだし。
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自分たちでミックスまでした理由
- LOVE PSYCHEDELICO「LOVE YOUR LOVE」
- 2017年7月5日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
初回限定盤 [CD2枚組]
3780円 / VIZL-1176 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64802
- CD収録曲
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DISC 1
- Might Fall In Love
- Feel My Desire
- Birdie
- This Moment
- 1 2 3
- Good Times, Bad Times
- You'll Find Out
- Rain Parade
- Beautiful Lie
- C'mon, It's My Life (Album Mix)
- Love Is All Around
- Place Of Love
- No Wonder
- 初回限定盤CD収録曲
-
DISC 2
- 1 2 3 (Demo Acoustic Version)
- Love Is All Around (Demo Acoustic Version)
- Birdie (Demo Acoustic Version)
- Place Of Love (Demo Acoustic Version)
ライブ情報
- LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE
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- 2017年9月1日(金)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年9月9日(土)宮城県 Rensa
- 2017年9月10日(日)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2017年9月24日(日)大阪府 Zepp Namba
- 2017年10月1日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年10月6日(金)香川県 高松オリーブホール
- 2017年10月13日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年10月14日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年10月27日(金)新潟県 新潟LOTS
- 2017年11月10日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年11月17日(金)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年11月24日(金)東京都 中野サンプラザホール
- LOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)
- 1997年に結成された、KUMI(Vo, G, Key)とNAOKI(G)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルや、洋楽を彷彿とさせる楽曲がシーンに衝撃を与える。2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録する。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続ける一方で、2004年には初のアジアツアーを開催し、2008年にはアルバム「THIS IS LOVE PSYCHEDELICO」でアメリカデビューを果たすなど海外での活動も展開している。2015年2月にデビュー15周年を記念して「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I」と「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II」というベスト盤2枚を同時リリースした。2017年7月に4年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「LOVE YOUR LOVE」を発表。9月から全国ツアーを開催する。