自分たちでミックスまでした理由
──具体的には、どういった作業に時間がかかるんですか?
NAOKI EQの細かい設定だったり、ホントいろいろですね。最近のレコーディングって、それこそ最終段階でどうにでもミックスできるよう、現場ではEQをかけずに録っておくケースが多いんですよ。でも僕らは、できるだけ「このパートはこの音!」という決め打ちで録りたい。なので最適なセッティングを発見するまでは、やっぱり時間がかかる。
KUMI その代わり、トラックを重ねれば重ねるほど、1つの目標地点に向けて曲が定まっていく気持ちよさはあるけどね。
──パズルのピースみたいですね。逆に言うと各トラックを録る前にイメージを固めておかないと、音域が被ってマスキングされちゃったりしません?
NAOKI そう!
KUMI ちゃんと重ねていかないと、あとで大変なことになる。
NAOKI だからレコーディング中は、どのトラックも全部頭に入ってます。例えば「昨日この曲のアコギを録ったときは、確か3kHzあたりの帯域を削ったよな。じゃあこのエレキはそこにピークを持っていこう」みたいに。
KUMI 楽器だけじゃなく、ボーカルもそうだよね。歌メロにしても、声のトーンにしても、全体のバランスの中でどう響くか、ということを意識しながら録っている。もちろん技術的なことはNAOKI任せで、私は耳専門だけどね(笑)。
NAOKI それが可能になったのは、最初に信頼するエンジニアさんと出会えたのが大きかったんですよ。この20年間、山田ノブマサさんという方がずっとミキシングを一緒にやってくれて、LOVE PSYCHEDELICOなりのシステムが構築できていた。だから今回、自分たちの手でも仕上げることができたんだと思うんです。今回のアルバムでも、細かいノウハウが必要なストリングスについては一緒にやってもらっていますし。ただ、システムができあがるってことは、予想外のハプニングが少なくなるということでもあるんだよね。
KUMI よくも悪くも、仕上がりが見えるようになる。
NAOKI 実際、「IN THIS BEAUTIFUL WORLD」は、6枚目のアルバムにして僕たちが思い描く「いい音」のイメージにかなりパーフェクトに近付いてしまって。このままこの路線を続けていくと、いずれは僕らも聴いてくれる人も、飽きてくるような気がしたんだよね。それもまた自分たちでミキシングまでやろうと決めた、大きな理由でした。
レニー・カストロに導いてもらってる感覚
──確かに1曲目の「Might fall in love」などは、導入部の音色からハッとさせられました。セクシーでモダンなR&Bっぽい響きがあって。
KUMI そう? うれしいなあ。これはもともと、パーカッションのレニー・カストロと一緒に演るために書いた曲なんです。2、3年前かな。レニーが日本に遊びに来たとき、せっかくならセッションもしたいなと思って。で、この曲の原型になるものをパッと形にして録音したのね。
NAOKI レニーがスタジオに来る前の日に、確かひと晩でリズムトラックとアコギを仕上げた記憶がある。火事場の瞬発力で。
KUMI その音を引っ張り出してきて、今回のアルバムで形にしました。リズムセクションとアコースティックギターは当時の音源を使っていて。新たにボーカルとエレキギターを足したのかな。
──濃厚にうねるようなグルーヴが印象的ですね。そこに絡むNAOKIさんのエレキギターがまた、かなりラテンロックっぽい。
KUMI もともとレニーのパーカッションが主役の曲だから、自然とこういう感じになったんだよね。
NAOKI 普通に弾くと、KUMIから「うーん、ちょっとイマイチだね」ってダメ出しされるので(笑)。いつも使っているGIBSON ES-335にかなり太めの弦を張って。架空のギタリストになりきって弾いてます。
KUMI メランコリックな歌詞に遊び心を加えて、結果的に面白い曲になったなと。
NAOKI これまでのアルバムはギターリフで始まるパターンが多かったけど、「Might fall in love」はKUMIのコーラスが導入部になっているでしょう。ちょっとエスニックな風味もある変わったラインで。そうやって歌から入るのもまた今回のアルバムらしくていいなと。
──社交ダンス場を舞台にしたミュージックビデオも、ユーモアたっぷりでおかしかったです。ちなみにレニーさんはTOTO、スティーヴィー・ワンダー、エリック・クラプトンなど名だたるミュージシャンと共演してきた凄腕プレーヤーですが、2人にとってはどういう存在なんですか?
NAOKI 僕は、レニーは間違いなく“神の手”を持った人だと思っていて。2010年のアルバム「ABBOT KINNEY」のレコーディングの前、ロサンゼルスでのアコースティックライブが最初の出会いで……。日本に来てアルバムにも参加してもらって、前作「IN THIS BEAUTIFUL WORLD」ではアルバムツアーにも参加してもらい、本当に仲よくなったけれど、実はセッションを通じて「音楽とは何か」ということをずっと教わり続けている気がする。一緒に演奏すると毎回、「これが世界のスーパースターたちを惚れさせた音か」って実感するし。
KUMI 導いてもらってる感覚は、すごくあるよね。彼が出す音も、彼自身の存在も、音楽そのものって言うか、エゴがない。一緒に歌っていて気持ちいいだけじゃなく、音楽とダイレクトにつながっている人。
NAOKI その意味ではやっぱり、“師”みたいな存在なのかもしれないね。
「デリコ=オーセンティック」的な図式を壊してくれる
──新機軸ということでは、2曲目「Feel My Desire」はエレキ、アコギ主体のロックサウンドと、ストリングスの絡みが新鮮です。
KUMI ロックのストリングスって、普通はバンドサウンドを後ろから支えるものなんだけど、この曲は弦のパートがリフ代わりになってる。あり方がちょっと面白いよね。これ、もともとはベースライン用に思い付いたフレーズだったんです。で、それを何気なくシンセの鍵盤で弾いてみたら、面白いなと。
NAOKI サンプリング音源のストリングスじゃなくて、たくさんのミュージシャンの方に参加してもらって生で録音しています。弦楽器が何十本も入っているので、ボーカルとなるべく帯域が被らないよう、ミキシングはかなり試行錯誤したよね。
KUMI そうだね。
NAOKI 映画「昼顔」の主題歌として書いた12曲目「Place Of Love」にしてもそうだけど、大人数のストリングスをいかに1つのロックサウンドにまとめあげるかというのも、このアルバムでの新しいチャレンジだった気がします。大変だったけど、この「Feel My Desire」などは結果的にかなりアバンギャルドな仕上がりになってくれて、よかったなと。
KUMI うん。聴く人によっては、もしかしたら「デリコ=オーセンティック」的な図式を壊してくれるナンバーになってるかもね。
次のページ »
アルバム全体の奥行きを広げるためのデモ音源集
- LOVE PSYCHEDELICO「LOVE YOUR LOVE」
- 2017年7月5日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
初回限定盤 [CD2枚組]
3780円 / VIZL-1176 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64802
- CD収録曲
-
DISC 1
- Might Fall In Love
- Feel My Desire
- Birdie
- This Moment
- 1 2 3
- Good Times, Bad Times
- You'll Find Out
- Rain Parade
- Beautiful Lie
- C'mon, It's My Life (Album Mix)
- Love Is All Around
- Place Of Love
- No Wonder
- 初回限定盤CD収録曲
-
DISC 2
- 1 2 3 (Demo Acoustic Version)
- Love Is All Around (Demo Acoustic Version)
- Birdie (Demo Acoustic Version)
- Place Of Love (Demo Acoustic Version)
ライブ情報
- LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE
-
- 2017年9月1日(金)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年9月9日(土)宮城県 Rensa
- 2017年9月10日(日)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2017年9月24日(日)大阪府 Zepp Namba
- 2017年10月1日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年10月6日(金)香川県 高松オリーブホール
- 2017年10月13日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2017年10月14日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年10月27日(金)新潟県 新潟LOTS
- 2017年11月10日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年11月17日(金)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年11月24日(金)東京都 中野サンプラザホール
- LOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)
- 1997年に結成された、KUMI(Vo, G, Key)とNAOKI(G)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルや、洋楽を彷彿とさせる楽曲がシーンに衝撃を与える。2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録する。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続ける一方で、2004年には初のアジアツアーを開催し、2008年にはアルバム「THIS IS LOVE PSYCHEDELICO」でアメリカデビューを果たすなど海外での活動も展開している。2015年2月にデビュー15周年を記念して「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I」と「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II」というベスト盤2枚を同時リリースした。2017年7月に4年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「LOVE YOUR LOVE」を発表。9月から全国ツアーを開催する。