誘われたら世界のどこでも
──今ってアメリカツアーだとどれくらいのキャパの会場を回ってるんですか?
武田 去年mouse on the keysと回ったときは、500~600人くらいです。ロサンゼルスとかニューヨークとか、メインの都市だと日本と同じか、それ以上入ることもあります。
──近年はほぼ毎年アメリカに行っていると思うので、じわじわとオーディエンスが増えているのでしょうか?
楠本 でも自分たちでツアーに行くより、誘われていくことが多いんですよね。
井澤 去年と一昨年はmouse on the keysと一緒、その前はTtngに誘われて行っていて。日本のライブと同じような感覚で、ちょいちょい呼ばれてるんですよ。
楠本 で、呼ばれるとフットワーク軽く「行っちゃう」っていう(笑)。
井澤 最初はマイク・ワットのツアーに連れて行ってもらってたし、ちゃんとワンマンをやったのは「Installation」(2013年6月発表の4thアルバム)のときが初めてで、実はまだそんなにやってないんです。
──今年12月のアメリカツアーは?
井澤 あれはChonに誘われたから(笑)。つまりここ5年でやっとアメリカでちゃんと活動をし始めた感じなので、それはTopshelfのおかげかもしれないです。ちゃんと海外のレーベルから音源をリリースするところまで漕ぎつけたから、自分たちでツアーできるようになってきた。次のアルバムを出して、またヘッドライナーでやれたらいいなって思います。
よくも悪くも日本の常識が通用しない
──この5年ではSpotifyの浸透によって、アーティスト側がリスナーの聴取データを得ることができるようになりました。ツアーのブッキングにも影響するようになってきていると思いますが、LITEに関してはいかがですか?
武田 具体的にそれを生かしているわけではないですけど、最近のSpotifyのランキングを見ると、アメリカでの再生回数が断トツで多いので、アメリカでやる意味は今相当あるんだろうなって。あとLITEのFacebookページのアクセス数で言うと、今インドからの訪問がやたら多いので、いつか行ってみたいです。向こうでも音楽フェスが盛り上がってるみたいだし、人づてに紹介してもらったインドのバンドを聴いたら、まさにマスロックなんですけど、ちょっと怪しいと言うか、変態的な要素が入っていて、面白かったんです。
井澤 インドの人は算数得意だしね(笑)。
──皆さんは今年、メキシコやモンゴルにも行かれてましたよね。
武田 よくも悪くも適当で常識が通用しなかったですね。メキシコの会場が大きな倉庫で、換気されてないのにケバブの屋台があって。ガスバーナー使ってるもんだから、「これ一酸化炭素中毒で死ぬな」と思った(笑)。
井澤 車で迎えに来てもらうときに、事前に「メンバー4人とマネージャーです」って伝えると、スーツケースや機材のこと考えてなくて、セダン車でやって来るとか(笑)。
──ははは(笑)。でもメキシコは音楽の盛り上がりすごいらしいですよね。今年は日本からCorneliusも行ってましたし。
井澤 そうでしたね。あと現地のタクシーに乗ったらスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)が流れてました。実際ライブ自体すごく盛り上がって、フェスに近い感じ。一応俺らがヘッドライナーのライブだったんですけど、「対バンできてうれしい」と現地のバンドがみんな熱いメッセージをくれたり、手作りのプレゼントを持ってきてくれたり、愛にあふれてました。
──まだ未整理な部分が多いけど、だからこその熱があると言うか。
楠本 メキシコとかモンゴル、中国もそうだと思うんですけど、そういうところはまだ1回目の波が来てる状態と言うか。アメリカのエモリバイバルとかって、もう2、3周目だと思うし、日本のポストロックの波も2周目くらいだと思うんです。インドとかはまだ1周目だから、あえてそういうところに行ったら面白いんじゃないかなって思います。
井澤 逆に台湾とかは根付いてる感じすらあるもんね。
──武田さんが行政書士としても表に出るようになって、「ミュージシャンによるミュージシャンのためのお金のセミナー」が通例化したのもこの5年の変化だと思います。それはより多くの日本人ミュージシャンが海外、特にアジアに目を向けるようになったことの表れでもありますよね。
武田 実際、助成金をサポートする仕事はすごく増えました。アイドルからハードコアのバンドまで、いろんな人が海外に行っているんだなと。制度自体は別に変わってないんですけど、認知され始めて、SNSの口コミなのか成功例が界隈で広がったからか、海外進出に可能性を感じるバンドがすごく増えたと思います。今はまさに右肩上がりの状況だと思います。
“削り途中”の過程で生まれた「Blizzard」
──10月に配信、11月にアナログでリリースされた新曲「Blizzard」は、エレドラをフィーチャーしたビートミュージック色の強いミニマルな1曲です。バンドがまた新たな境地に踏み出した印象を受けました。
楠本 もともとは違う曲を作ってたんです。50~60%くらいできてる曲が5、6曲くらいできあがりつつある中で、まだ20%くらいだった「Blizzard」をやってみたら、意外と一気に制作が進んで。ミニマルな感じが今のバンドにフィットしたのか、「向こう(曲)から来た」って感じです。
井澤 武田が作ってきたネタをみんなでやってみようとなったときに、それぞれ新しいことをやろうとした中で、山ちゃんがSPD(-SX / Rolandのサンプリングパッド)を買ってて、「Blizzard」のデモを聴いたときに、「これだったら使えるんじゃない?」ってなった。で、やってみたら一番グッと手応えを感じながら進められたのが「Blizzard」だったんです。
──「ビートミュージックっぽいものをやろう」みたいな感じじゃなくて、「新しいことをやってみよう」という中の1つのアイデアだったと。
武田 「For All the Innocence」から「Installation」の頃は、音符をめちゃめちゃ詰め込んでました。そのあとに「もっと音数を削っていきたいね」という話になり、その過程でできた作品が「Cubic」なんです。今もまだ削りきれてなくて、「Blizzard」はその過程の1つである気がします。途中で入ってくるギターは極限までシンプルにしてるつもりで、エレドラという新しい要素も入れつつ、よりシンプルなところに向かっている過程にある曲だと思います。
──山本さんはDÉ DÉ MOUSEさんのサポートをやっていますが、もともとテクノやビートミュージックに興味があったんですよね?
山本 SPDに関しては、去年2月の「Cubic」のツアーでも使っていたんですけど、そのときはまだちょっと使うくらいで。そのあとにキックパッドも買って、足でも音を出せるようになって、しばらく1人で遊んでたんです。で、今回武田がこれに合いそうなネタを持ってきたんで、ハメてみたらうまくいきましたね。2日間ロックアウトで、スタジオセッションをしながら曲作りをしたとき、いろいろ試せたのが大きかったです。DTMで作ってはいるけど、「バンドっぽいな」と思って。
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LITEの根幹にあるエクストリームな衝動
- ライブ情報
LITE 15th -
- 2019年1月14日(月・祝) 東京都 LIQUIDROOM出演者 LITE / SOIL & "PIMP" SESSIONS / downy / toe
- LITE「Blizzard」
- 2018年10月5日配信開始 / I Want The Moon
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配信シングル
- 収録曲
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- Blizzard
- Zone
- LITE「Blizzard」
- 2018年11月9日発売 / TOPSHELF RECORDS
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7inchアナログ
- 収録曲
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SIDE A
- Blizzard
SIDE B
- Zone
- LITE(ライト)
- 武田信幸(G)、楠本構造(G, Syn)、井澤惇(B)、山本晃紀(Dr)によって、2003年に結成されたインストゥルメンタルバンド。2005年にミニアルバム「LITE」を発表し、本作の発売に伴う全国ツアーを開催したことで知名度を高める。2007年には1stフルアルバム「filmlets」がヨーロッパでリリースされたほか、初の海外ツアーも敢行。日本のみならず海外でも注目を集めるようになる。ツインギターのスリリングな掛け合い、聴き手のイマジネーションを刺激するドラマ性の高いサウンドが持ち味。2009年10月に自主レーベルI Want The Moonから発表した「Turns Red EP」ではニューウェーブやエレクトロニカの要素を導入し、新境地を開拓した。2013年に結成10周年を迎え、6月にアルバム「Installation」を発表。10月に東京・ラフォーレミュージアム六本木にて投げ銭制のアニバーサリーライブ「LITE 10th」を開催した。2014年2月にヨーロッパツアーを成功させるなど、海外での公演を重ねている。2018年10月と11月に新作「Blizzard」をデジタルシングルおよび7inchアナログでリリース。2019年1月に東京・LIQUIDROOMにて結成15周年イヤーの締めくくりとなるライブイベント「LITE 15th」を開催する。
2018年12月27日更新