FRIENDSHIP.特集第4弾|武田信幸(LITE)×マスダミズキ(miida)インタビュー

HIP LAND MUSICが運営するデジタルディストリビューションサービス・FRIENDSHIP.。このサービスでは、さまざまなジャンルのキュレーター計14名が選抜した音楽が世界187の国と地域に向けて配信されている。そんなFRIENDSHIP.の新プロジェクト「FRIENDSHIP. DAO」が10月31日にローンチされる。

音楽はストリーミングサービスで聴くというスタイルが主流になった昨今、「楽曲を提供するミュージシャンに正当な対価が支払われているのか」という議論を目にしたことのある人もいるだろう。再生回数に応じて報酬が支払われるというサブスクのシステムでは知名度の低い若手アーティストなどはマネタイズが難しく、厳しい状況下で活動しているケースも少なくない。FRIENDSHIP. DAOとは、そういった現状の音楽産業が抱える課題解決に、ブロックチェーン技術によって実現されようとしている分散型のインターネットの概念・Web3で取り組むプロジェクト。ブロックチェーンを用いて音楽の広がりや、アーティストとファンの結びつきの強化を目指し、音楽NFTを通して新たなマネタイズの仕組みを模索している。

音楽ナタリーではFRIENDSHIP.のキュレーターであるマスダミズキ(miida)と、FRIENDSHIP. DAOの開発に携わる武田信幸(LITE)にインタビュー。ローンチから3年半が経ったFRIENDSHIP.の状況や、新プロジェクト・FRIENDSHIP. DAOが目指す世界について話を聞いた。

取材・文 / 西澤裕郎(SW)撮影 / 須田卓馬

ローンチから約3年半、FRIENDSHIP.の現在

──キュレーターの皆さんに集まっていただいた前回の取材から約1年半経ち(参照:FRIENDSHIP.特集第1弾|ローンチから約2年、FRIENDSHIP.の広がりと新たな可能性)、FRIENDSHIP.にも変化があると思うんですけど、アーティストから届く音源を選定する楽曲試聴会の雰囲気から教えていただけますか?

マスダミズキ(miida) 話す内容がどんどん濃くなってきているように感じます。作品数も増えてきているので、FRIENDSHIP.でリリースする意義みたいな部分まで踏み込んでディスカッションできるようになっているように感じます。

──今でも楽曲試聴会は月1のペースで行っているんですか?

マスダ はい。FRIENDSHIP.自体、交流会を定期的に開催していたり、一番旬な情報を発信しつつ、みんなで解釈を深めていこうとしていて。オールドスクールな音楽の聴き方というよりは、今の時代どんな音楽がいいと思えるかというところの鮮度を高め合っているというか。そこはFRIENDSHIP.ならではのよさだと再確認しています。

マスダミズキ(miida)

マスダミズキ(miida)

──LITEはFRIENDSHIP.の始動初期からディストリビューションを使われてたり、メンバーの井澤惇さんがキュレーターを務めているなど関係性も深いですよね。武田さんがぐっとコミットしたタイミングはいつ頃だったんでしょう?

武田信幸(LITE) 井澤とかミズキちゃんはキュレーターという関わりですけど、僕はちょっと違って。ちょうど1年ぐらい前にFRIENDSHIP.が次のフェーズに向かいたいという時期が来ていて、それがブロックチェーン(※取引履歴を暗号技術によって過去から1本の鎖のようにつなげ、正確な取引履歴を維持しようとする技術。中央集権型システムではなく、双方向でつながる非中央集権型システム)を使った新しい音楽アーティストの生態系を模索する取り組みだったんです。僕は行政書士もやっているので(参照:行政書士ギタリスト・LITE武田信幸の著書「ミュージシャンのためのお金のセミナー」刊行)、アドバイザリー的なサポートメンバーとして参加してほしいと話がありまして、そこからですね。

──FRIENDSHIP.に関わっているアーティストがお金の面でより円滑に活動できるように、仕組みの部分をアップデートしようという流れになったんでしょうか?

武田 ブロックチェーンを使ってできることは無限にあると思うんですけど、その1つとして、“アーティストの生活とお金”という部分を改善したいというのはあります。僕自身、行政書士として毎年FEVER(東京・新代田のライブハウス)でミュージシャンに向けたセミナーを開いて啓蒙したりしているんですね。FRIENDSHIP. DAOの会議に初めて参加したとき、僕が発信したい「こういうふうに活動したら、好きなことをして生活できるんじゃない?」という世界が延長線でつながった気がしたんですよ。そこからコミットしていった流れですね。

──ブロックチェーン自体、まだ敷居の高い概念かなと思うんですけど、マスダさんは音楽とブロックチェーンが関連することをどう受け止めていますか?

マスダ まだ実践的に活用できているアーティストがそこまで多くないので、試験的な部分が高いと思うんですけど、ブロックチェーンを使って音楽を広げることができたり、ファンとのコミュニケーションが強化されたり、利点がありそうだという予感の段階というか。FRIENDSHIP.から活用法を提案できるシステム構築が今武田さんがやってらっしゃることなのかなと思っていて。なのでまだ使ったことはないですが、興味津々って感じです。

音楽NFTの可能性を考える

──ブロックチェーンに関連してNFTについてもお伺いさせてください。武田さんはご自身のnoteでNFTについて詳しく書かれていますが、音楽NFTとはどういったものなんでしょう?(参照:インディペンデントアーティストが音楽NFTに注目すべき理由

一般社団法人 日本記念日協会では、2022年より11月5日を「音楽NFTの日」に認定。HIP LAND MUSICのオフィスには登録証が飾られていた。

一般社団法人 日本記念日協会では、2022年より11月5日を「音楽NFTの日」に認定。HIP LAND MUSICのオフィスには登録証が飾られていた。

武田 一般的に言われている音楽NFTって、音源に画像をくっつけてNFTとしてコーディングするものというか、NFT化して販売することが、いわゆる音楽NFTとされてるんです。もう少し広い定義になると、そこにアーティストのグッズだったり、コミュニティのファンクラブ参加券など、いろんな特典機能を付けることができる。それ以外にもクラウドファンディングにすることもできるから、形がないものだと思っています。

──今年、一般社団法人 日本記念日協会にて11月5日が「音楽NFTの日」に認定されました。マスダさんもこの日にNFT作品をリリース予定ということですが、それを踏まえて疑問や気になってることはありますか?

マスダ 音楽自体はサブスクで聴けちゃうので、所有物としてどう扱うか、どう特別なものとして付加価値を付けるかという点で、何をリリースするべきなのかを検討中なんです。既存の曲よりは、みんなが知らない曲であったり、武田さんがおっしゃっていた通り、ネクストアクションが取れるような形にならないと、購買意欲は湧かないだろうし、音源との差別化はできないのかなって。

武田 「NFTって何?」というところに戻っちゃうんですけど、“限定”がキーワードの1つだと思うんです。デジタルデータは基本的にコピーができちゃうけど、ブロックチェーンを用いたNFTの場合、複製ができない仕組みになっているので数限りあるものを持ってますと言える。そうすると、ファンは「限定10枚だったら所有したい」という希望が出てくると思うんです。

マスダ プレミアが付いてるイメージですよね。

武田 そうなると、リリースしていないレアな音源とか、サブスクじゃ流せないようなステムのようなパーツもありだと思うんですよね。だからレコードの概念と近からず遠からずとイメージしてもらうのがわかりやすいかも。

マスダ 確かに所有欲を刺激するというか、コレクションの1つにできるかって大事ですよね。

武田 そうそう。お客さんがもらったときに喜ぶものを想定して出すのがやり方の1つかなと思います。

武田信幸(LITE)

武田信幸(LITE)

マスダ ある意味、新規のお客さんというよりは、そもそも好きで愛聴してくださっている方に、プラスで楽しんでもらうみたいなベクトルで考えられますよね。

武田 そうだと思います。僕らもFake Creators(LITEとDÉ DÉ MOUSEによるプロジェクト)で初めて音楽NFTを出してみたんです。NFTという文脈で、海外をはじめとした僕たちを知らない世界の人々にも届けたかったんだけど、なかなか難しかった。やっぱりそういった新しい試みに興味を持ってくれる人ってファンの中でもすごいコアな人たちなんですよね。それ以降は、一旦は既存のファンに向けて発信をするようになっていきました。

──ステムで出すのは音楽鑑賞というより、グッズ的な概念なんでしょうか?

武田 物販という概念の中に音源という概念も含まれていて、それがミックスされているという感じですかね。例えばブロックチェーンによって、“ステムを4つ持っている”というのが証明できるんですよ。なのでステムを4つ集めてくれた人にだけミックスした1曲をあげる、みたいなことができる。要は「物販でアイテムを全部そろえたらTシャツをあげます」みたいな話と一緒ですよね。スヌープ・ドッグとかは「ビートだけを自由に二次使用で使っていいよ」みたいにパーツとして出すことをしたりしているんです。

まずはアイデア出しが大事

──Fake Creatorsとして音楽NFTを出してみて、課題に感じたことが何かあれば教えてください。

武田 初回は失敗したなと思ったことがけっこうあって。1つはNFTの買い方が難しかったという点。ウォレット(※インターネットに接続することで利用できる仮想通貨の保管所)を入れたり、仮想通貨を日本円で口座に入れたりしなきゃいけないんですけど、その説明なしにリリースしたので「買い方がわからない」という声が多かったんです。あと海外のLITEのファンからは「君たちがお金儲けに走るとは思わなかった」という書き込みもあって。当然僕らはそういうつもりではなく、アートとして出しているんですけど、暗号資産とかNFTと言うと「投資じゃないのか? 金稼ぎなんじゃないの?」みたいな見られ方をすることもあるんだなと気が付きました。僕らがリリースする前にやるべきだったこととして、「このNFTはなんのためにやってるのか? これを買うと何が起きるか?」というところまで説明することが大事だった。僕らのNFTって、買ったらTシャツも届くし、次のライブの予約券も取れるし、カセットテープも届くんですよ。それをあまり告知せずに出しちゃったのは失敗でしたね。その次からしっかりWebページを作って、自分たちの思いや買い方を伝えたら、みんな理解してくれたんです。やっぱりお客さんがついてきてくれないと意味がないですから。説明なしに進めちゃうと、コアなファンすらも何をやっているのかわからないと感じちゃうというか。ちゃんとコミュニケーションを取りながらやらないとなと思いました。

左から武田信幸(LITE)、マスダミズキ(miida)。

左から武田信幸(LITE)、マスダミズキ(miida)。

──経験者である武田さんから見て、マスダさんは音楽NFTをリリースするにあたり何から手をつけるのがいいと思いますか?

武田 1回頭のネジを外して「こんな出し方があるんだ」みたいなことを考えてみるのがいいと思います。僕のnoteに具体例を書いているんですけど、それ以上にたくさん使い方はあると思うので、技術的にできるかは置いておいてまずアイデアを出すのが大切かな。そうするとアーティスト側にも「NFTってこういう使い方ができるのか」と発見があると思うんです。

マスダ アイデア出しをして、自分の思いとかにリンクするものを見つける感じなのかな。自分が言葉で伝えられるストーリーが前段階にあって、それを形にしていくための準備をするってことですよね?

武田 本当にその通りで、やり方は自由だからアーティストの思想次第だと思うんだよね。NFTが一見ただの画像だとしても、そのアーティストが出している時点でアートとして成立していると思うんですよ。あと思うのは、今まで音楽アーティストの作品って、音源とかMVぐらいだったじゃないですか。NFTが今後、その作品の1つのラインナップに加わるみたいな。それくらい自由度が高いツールになると思います。

──よりコアなファンに届けるからこそ、アーティストもコアなものを表現できる場にもなると。

武田 そうですね、そういうのをぶつけられる場所になると思います。

2022年11月1日更新