マイルス・デイヴィス「Kind of Blue」で学び得たこと

──これまでの人生の中で大きいと感じる作品はありますか？

うーん……マイルス・デイヴィスの「Kind of Blue」かな。歌い方の勉強になります。歌入ってねーだろって思うだろうけど、歌なんですよね、あれは。紛れもなく。

──歌に対してどんなことを学び得たんですか？

例えば、無駄なところでビブラートしないとか。僕、21、2歳の頃はすごいビブラートかけてたんですけど、マイルスを聴いて、もうビブラートが嫌になっちゃって、ロングトーンを大事にしようと思って。横山剣（クレイジーケンバンド）さんみたいにビブラートが特徴的な人はビブラート自体がすごいアーティスティックだと思うから素晴らしいと思うんですけど、僕はわりかし普通のチェストボイスだったから、ビブラートで伸ばしたときにほかの人とあんまり変わんない感じになっちゃうなって思って。で、どこに個性を出したらいいのかとか考えて、こういう歌い方になりました。

──なるほど。あと、最近ハマっている作品があれば教えてください。

なんか僕、ハマり方がヘンで……例えばロバート・グラスパーの最近出したアルバム「Covered」。あんまり面白く感じないんだけどずーっと聴いちゃうんですよね。だから好きなのかな？って。あとはエディ・リーダー。最近は新譜が出てないかもしれないけどエディ・リーダーの若い頃、すごくて。「Wings On My Heels」なんて酔拳みたいな歌じゃないですか。フワーッとしてて、ヨロヨロしてて、大丈夫なのかなあって思いながらも聴いちゃうんですよね。正直曲もあんまりキャッチーじゃないんですよ。でもなんか何回も聴いちゃう。そういう魅力がありますね。

僕自身はアルバム型というより曲型

──エディ・リーダーの曲は「うたパス」および「KKBOX」アプリでも多数配信されてるので「Listen with」のイベントで選んでもいいかもしれませんね。

あ、ホントだ！ （実際にアプリで「Wings On My Heels」を再生しながら）こういうふうにすぐフルで聴けるのはいいですよね。

──このように音楽を聴くプラットフォームが変わってきていることはどのように捉えていますか。

みんなアプリがどうこうとかよく言ってるんですけど、僕は詳しいことが全然わかんないから全面的にスタッフに任せてます。機能としてはすごい楽だなって思いますけどね。でも、これ（アプリで楽曲を探して再生する作業）は昔から僕がやってることですよ。たくさんの曲のプールがあって、好きな曲のリストを作るっていう。

──さかいさんの音楽も、ちゃんと決め込んでCDショップに行って買う人がいる一方、音楽アプリのプレイリストに1曲入っていて知る人もいるでしょうね。

店に行く手間を愛せる人はいいけど、それが足かせでその人に届かない可能性があるんだったら、こっち（スマートフォン）で聴いてほしいですよね。買うほどではないけど好きっていうグレーゾーンってあるじゃないですか。そういう人にとってすごいいいなあと思います。僕ら発信側もアルバムで聴いてほしいとかCDを買ってほしいっていう思いをよく言いますけど、僕自身はリスナーとしてアルバム型というより曲型というか、全部聴くのかったるいなって思うタイプなんですよ。よっぽど好きじゃないとアルバム丸々聴くことはないですね。

──気に入った曲をずっとリピートしているタイプ？

はい。アルバムもたくさん買うんですけど、その中で聴くのは2曲とかだったり。音楽に関してはすごい気が短いので。好きだったらそれを延々聴くけど、「ダメだな」と思ったらすぐピッて（笑）。リリースに関しても、本当はアルバムにまとめるんじゃなくて曲ができたらすぐ世に出したいですもん。今日とか昨日できた曲を聴いてほしい。

──それはなぜですか？

今、その曲を必要としてる人、その曲で救われる人がいるかもしれないから。いろんな音楽をシェアできる時代になるべくしてなったなと思いますけどね。こっちのほうが未来が明るいと思います。

──聴き放題サービスは、逆に楽曲がフラットに聴かれるわけですからね。

この中での再生回数の戦いですよね、今。そんなのもう絶対マイケル・ジャクソンとかが勝つでしょ！（笑） ホントの楽曲勝負になってきたってことですね。