私はピエロでも構わない

──アルバム用の新曲としてはラストナンバーになるのが、LiSAさん作詞作曲のフォーキーで“PiNK”な1曲「君にピエロ」。……なんですけど「ANTIHERO」とはまた別の意味で問題作ですよね？

へっ!? そうですか？

──歌っていることは「君の見せる笑顔の種を 僕はずっと探してる」。「LiSAさんが歌う意味」を再確認する1曲だと思うんですけど、その主人公がピエロ＝道化でいいのかな？って。

なるほど。でも「LiSAっていう人はピエロでもいいや」と思ってますね。本音を言ってしまえば、私は歌だけ歌っていたい。ライブのMCですらせずに済ませたいんですけど（笑）、それでもなぜMCで何かを語りかけたり、ブログやTwitterでメッセージを発信し続けたりするかといったら、私の言葉を待っていてくれる人がどこかにいてくれて、しかもその人たちが「MCよかったです」「ブログ面白かったです」って言ってくれるからなんです。そうやって私の言葉が誰かの何かになれるんであれば「歌だけ歌いたかったんじゃないの？」「なんでMCなんかしてるの？」「なんでブログなんて書いてるの？」って言われても発信したい。「エル・アイ・エス・エー」の合言葉のもとに集まってくれたみんなのためにできることは全部やりたいっていうのが私の本音……それも「MCをせずに済ませたい」っていう本音以上の本音、私が本当にやりたいことだから、ピエロに見られても構わない。それでも「楽しませたい」し「君の笑いの種を」ずっと探したいんです。

──ちょっと意地悪な聞き方になっちゃうんですけど、自ら道化を名乗っても、リスナーから「なんだLiSAってピエロなんだ」ってナメられることはないだろうっていう自信があったりは？

さすがに「みんなはどうせピエロだなんて思ってないし」とは思っていないんですけど「君にピエロ」のあとに続くのが「No More Time Machine」と「シルシ」だから大丈夫。ちゃんと思いは伝わるはずっていう気はしています。

──先ほど言っていた通り、どちらの曲も誰かとつながる喜びを歌っているものである上に既発の楽曲。つまりすでに評価を集めている2曲でアルバムを締めくくる以上「結局、道化じゃん」でおしまいにはならない、と。

そうですね。「君の笑いの種をずっと探すよ」と歩み寄ればきっと誰かときっとつながれるはずだし、実際LiSAッ子のみんなに「人と人とはつながれるんだ」っていうことを実感させてもらってますから。ある意味「蜜」や「ANTIHERO」と同じ。少し過激な言葉を使っても今のLiSAなら誤解はされないだろうなって思ってます。

「もうこれ以上のものは作れない」と「私ならできる」の狭間

──繰り返しになってしまうんですけど、武道館公演とこのアルバムによって、LiSA第2章の幕は華々しく切って落とされました。

ありがとうございます。ただ、これまでのインタビューと同じ話になっちゃうんですけど、リリースや本番の前になると、やっぱり本名の私が顔を出しちゃうんですよ（笑）。LiSAとしては「はい！ これは自信を持って出せる1枚です！」って力強く言いたいところなんですけど……。

──実際そう思ってますよね？ 逆に「自信がない」って言われたら「へっ!? ここまでタフな言葉と音を並べておいて？」ってビックリします（笑）。

もちろん自信はあるし、まるで届かない気はしてないんですけど、いつまで経っても根本の性格は変えられないですね（笑）。やっぱりいつもどこかで不安なんです。言葉も音も発する側が何を思って発するかっていうことよりも、受け取る側がその言葉や音を受け取って何を思うかっていうことのほうが大事ですから。私自身が「スゲーいいもんができた！」と思っていたとしても、みんなに「うーん……」って言われてしまったら、それは「うーん……」っていう作品なんだろうし、「ヤバいよ、LiSAちゃん！ いいもん作っちゃったね！」って言ってもらえれば、それはヤバいくらいにいいアルバムっていうことになるんでしょうし。すごくありきたりな言い方なんですけど、やっぱりフタを開けてみないとわからないよな、とは思ってます。

──難儀な性格ですねえ（笑）。

あはははは（笑）。でもきっとその不安はこれから何枚アルバムを出したところでずっと続くんだろうし、不安があるからこそ歌い続けたり、曲を作り続けたりできるんだと思います。

──歌い続けていれば、いつか不安に決着を付けられるかもしれない？

そう信じているし、決着が付いたら、また新しい章が始まるというか、また何か新しいものを作れるようになるような気はしています。……ただ今は本名の私ですら「私、もうこれ以上のアルバムや曲って作れないんですけど」っていう感じではあるんですけどね（笑）。

──そのくらい胸を張っていい1枚。本当にLiSAさんがこれまで見せてきた最高到達点を余裕でオーバーした1枚だと思いますよ。ただ実はこれも難儀な話で。おっしゃる通り次回作では「Launcher」を作ったことで自ら上げまくったハードルを自ら飛び越えなきゃいけないんですよね。

でもさらに矛盾してしまうんですけど、私の中にはもう1つ「Launcher」を作り上げた私なら、もっといいものを作れる！っていう自信もあるんですよね（笑）。