07. 酒と映画とナッツ
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、KOUDAI IWATSUBO、Kuwagata Fukino / 編曲:KOUDAI IWATSUBO、Kuwagata Fukino]
ジャズ、ロック、ブルース、スカが絡み合うようなエキゾチックな音像は、まるで海外のロードムービーのサウンドトラックのよう。言葉を詰め込むことでポエトリーリーディングのような効果を生み出しているAメロ、心地よいスピード感をたたえたフレーズが繰り出されるサビのコントラストも含め、京本の幅広い音楽性を実感できるナンバーだ。言葉遊びがふんだんに取り込まれた歌詞の主人公は、惰性とあきらめの中、ちょっとやさぐれた生活を送る男。よくないとは思いつつも、あらゆる物事をのらりくらりと先延ばししている……そんな姿を演じるように歌い上げるボーカリゼーションも絶品だ。
08. 灯り
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Tomi Yo / 編曲:Tomi Yo]
ピアノ、ストリングス、切ない歌声が響き合う王道のバラードナンバー。出会ってすぐに、誰にも見せたことがない心の奥底まで打ち明けられるような気持ちになる、かけがえのない存在──孤独を抱えながら生きてきた“僕”は“あなた”との日々によって、本当の安心と心地よさを知る。もちろん2人の運命がどうなるかはわからない。それでも「変わることない未来をただ願ってる」と思わずにはいれられない。ロマンティックな手触りとリアルな感情の揺れがひとつになった「灯り」は、このアルバムの中でも最も強い感動を呼び起こすことになりそうだ。
09. ヒペリカム
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、SAEKI youthK / 編曲:SAEKI youthK]
夏の花として知られるヒペリカムをタイトルに冠したこの曲は、「僕らの楽園」をモチーフにした楽曲。鍵盤とアコギの共鳴するイントロ、オーガニックな雰囲気のバンドサウンドも心地いいが、特筆すべきはメロディメイクの素晴らしさ。聴き手の体に自然と馴染むAメロ、大らかな解放感を放つサビ、「The yellow flower that never withers」というコーラスを含め、京本の作曲センスがしっかりと反映されている。「二人だけの今を咲かそう」といった、朗らかなロマンティシズムを感じさせる歌詞も魅力的。ただ、ヒペリカムの花言葉(秘密、裏切り)と照らし合わせると、聞こえ方が変わってくるかも……。
10. Die another day
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Yocke / 編曲:Yocke / 英語詞訳:JUN(Blue Vintage)、Taiga Kyomoto]
ブルージーなギターで始まり、ハードロック~ミクスチャー~プログレなどを行き来するオリジナリティあふれるロックナンバー。先が読めない展開、次々と変化していくサウンドの中で、壮大かつドラマティックなボーカルが響き渡るこの曲は、京本の独創的なクリエイティビティを象徴する楽曲と言えるだろう。「Die another day」とは、“別の日に死ぬ”つまり“死ぬのは今日じゃない”という意味。こういう攻めた表現ができるのも、このプロジェクトならではだろう。
11. -27-
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Keiichi Oosawa / 編曲:Keiichi Oosawa]
「-27-」という曲名は間違いなく、ブライアン・ジョーンズ、カート・コバーンなど才能のあるミュージシャンや俳優が27歳で逝去するという定説“The 27 Club”に由来するだろう。どこかで意識していた27歳を通り過ぎ、“オトナ”になってしまった自分という存在。ロックスターたちへの羨望や憧れをどうすればいいのか、これからどう生きればいいのか──そんな焦りや葛藤をさらけ出すように表現しているのが、この曲だ。アルバムの中でも際立って焦燥的なボーカルがとにかくカッコよく、魅力的。その歌声をオルタナ系の尖りまくったギターサウンドが際立たせている。
12. 滑稽なFight
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Keiichi Oosawa / 編曲:Keiichi Oosawa]
「PROT.30」のリードトラック。サウンドは極めてシンプルなギターロック。感情の赴くままに歌いながら作ったのでは?と思ってしまうほど生々しいメロディに乗せられているのは、驚くほど率直で赤裸々な“30才の京本大我”の思いだ。誰がどう見ても“大人”としか言いようがない年齢になった自分自身と向き合いながら彼は、まだまだ戦っていたいという痛々しいまでの決意を刻んでみせる。そして最後に「ただ自分自身に負けたくないから そう、僕なりのFightで」と誓うのだ。カッコよさをかなぐり捨てるような、どこまでもリアルな歌とビート。それこそがこのアルバムの真骨頂なのだと、この曲は教えてくれる。
13. 癒えない
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Ryo Iida / 編曲:Hiroto Kikuchi(KEYTONE)、Yuto Carlos Shimizu(KEYTONE)]
アルバムの13曲目は初回盤A、初回盤B、通常盤によって異なる。初回盤A収録の「癒えない」は、ミクスチャー的なセンスが全面に押し出された楽曲だ。スパニッシュの風を感じるガットギター、ドープなベースライン、緻密に構築されたリズムで始まり、サビに入った瞬間にヘビーなエレキギターが炸裂。静と動を鮮やかに映し出すサウンドメイクからは、本当に自由に音楽制作を楽しんでいたんだろうなという確かな手応えが伝わってくる。癒えない心の傷をモチーフにした歌詞、激しいシャウトを交えたボーカル、そして、エンディングを飾る情熱的なギターソロも素晴らしい。
13. margarine
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Mine Kushita / 編曲:Mine Kushita]
初回盤Bに収められている「margarine」は、ピアノとガットギターの響きが印象的なエキゾチックなナンバー。ラテンロックを基調にしながら、ジャズのエッセンスが混ざり、場面によってはメロコア的な勢いが加わる。普通はあり得ない組み合わせだが、それをひとつにつなぎ止めているのが京本の歌。なめらかにして猥雑、激しさと静けさを同時に感じさせるボーカルは、シンガーとしての圧倒的な個性を改めて証明していると思う。「甘い香りが 酸味を帯びた時 急に痺れて 止められなくなる」という文学的な官能性にあふれた歌詞も秀逸。快楽を言語化するのがとてもうまいと思う。
13. Over Dub
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、SAEKI youthK / 編曲:SAEKI youthK]
通常盤に収録された「Over Dub」は、70年代ソウルミュージックを想起させる、濃密にしてスムースなグルーヴが渦巻く楽曲。軸になっているのはクラビネットの響き。さらにワウギター、ファンキーなベース&ドラムが重なり、シックなダンスミュージックへと結び付けている。ややレイドバックしながらファルセットを効果的に取り入れたボーカルもこの音像にぴったりだ。歌詞では“Over Dub”(レコーディングにおける重ね録り)をメタファーに据え、現在の社会の状況、複雑さを増す人間関係を浮き彫りにしている。もしくは“Over Dub”しすぎて混乱している制作現場のことなのかも?
14. Desire
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Tomi Yo / 編曲:Tomi Yo]
“欲望”とタイトルされたミディアムロックバラード。美しく歪んだギターサウンド、タイトに研ぎ澄まされたドラム、楽曲全体を支えるベースラインを軸にしたアンサンブルは徹底してオーソドックスだが、すべてのフレーズがしっかりと磨き上げられ、楽曲が進むにつれて豊かな感動が押し寄せる。心から愛した“君”がいなくなり、痛みにも似た悲しみの中で「最後に奇跡を信じてもいいでしょうか」という思いにたどり着くまでを描いた歌詞はどこまでも哀切。この曲を「灯り」のアフターストーリーとして捉えると、さらに悲しみが増していく。
15. 終わらせぬ世界
[作詞:Taiga Kyomoto / 作曲:Taiga Kyomoto、Mine Kushita / 編曲:Mine Kushita]
アルバムの最後に収められた「終わらせぬ世界」は、表現者・京本大我のスケールの大きさを示す楽曲だ。今と永遠。“君”との関係と地球の未来。両極端にあるものを音楽の力で結び付け、リスナーを巻き込みながらポジティブな波動へとつなげる。そんなマジカルなパワーがこの曲にはしっかりと備わっているのだ。軽快にして力強いバンドサウンド、楽曲の後半に向かうにつれて解放感を増していくメロディ、そして、「僕が僕でいられる為の要素の全ては 君でしかないから」というキャッチーにして深すぎるフレーズ。この曲を聴けば間違いなく「絶対に生で聴きたい!」という欲望が湧き上がってくるはずだ。
公演情報
TAIGA KYOMOTO LIVE TOUR 2025 BLUE OF LIBERTY
- 2025年5月8日(木)愛知県 Zepp Nagoya
- 2025年6月3日(火)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2025年6月4日(水)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2025年6月5日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2025年6月17日(火)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
- 2025年6月18日(水)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
プロフィール
京本大我(キョウモトタイガ)
1994年12月3日生まれ、東京都出身。2015年に結成された6人グループ・SixTONESのメンバー。SixTONESとしてはYOSHIKI(X JAPAN、THE LAST ROCKSTARS)が手がけた楽曲「Imitation Rain」で2020年にCDデビューし、現在までシングルを14枚、アルバムを5枚リリース。2025年1月から4月まで5大ドームツアー「SixTONES LIVE TOUR 2025『YOUNG OLD』」を行った。個人では2024年9月にクリエイティブプロジェクト「ART-PUT」を始動させ、2025年4月にCDアルバム「PROT.30」をリリース。2025年5月から6月にかけては東名阪ツアー「TAIGA KYOMOTO LIVE TOUR 2025 BLUE OF LIBERTY」を行う。ミュージカル俳優としても活躍しており、「エリザベート」では3度にわたってオーストリア皇太子のルドルフを演じた。
TAIGA KYOMOTO 京本大我 (@TAIGA_KYOMO33) | X