「twelve」に始まり「twelve」に戻る
──では、ここからは「LANDERBLUE」の収録曲について、新曲を軸にお話をうかがっていきます。アルバムの導入である「twelve」と続く「浮遊」は「これぞ楠木ともり」という濃厚な世界が展開されていて、攻めまくりのオープニングだなと思いました。
かなり攻めちゃいましたね(笑)。
──まずは12を意味するオープニングトラック「twelve」について。どんなイメージでこの曲を制作しましたか?
これはもう完全にアルバムの1曲目にしようと決めて、最後に制作した1曲なんです。今回のアルバムコンセプトをまとめてくれるのがラストの「turquoise blue」だとしたら、そのコンセプトの導入にあたる曲も欲しいなと思ったんですよ。それで、編曲をお願いしたarabesque Chocheさんに「ポップスではなく、ゲーム音楽っぽいといいんですけど」とお伝えして。ストレスなくアルバムの世界観にスッと入ることができて、どこかおとぎ話みたいな歌詞で曲の世界観もしっかりある、そういうイメージでした。実はこの曲、1行が12音で構成されているんですよ。
──あ、本当ですね。気付きませんでした。
歌詞も「よくわからないんだけど、なんだか切ない気持ちになる」とかメッセージ性が強すぎないほうがいいなと思いつつ、12音に縛られながら、本の導入部分をイメージして作っていきました。
──確かにプロローグ感が強い曲ですよね。アレンジやテイスト含めて、ここからアルバムが幕を開けるのも楠木さんにとって大きなチャレンジですね。
ライナーノーツに「入口であり、出口でもある」と書いたんですけど、このアルバム自体が11曲入りなので、この「twelve」という曲は「LANDERBLUE」というアルバムの1曲目であると同時に、ラストの「turquoise blue」から再び「twelve」に戻っていくことで12曲目にもなる。円環的に聴いてもらえたらいいなと思っています。
──アルバムをひと通り聴いて、再び「twelve」に戻ることでこの曲のタイトルが持つ意味が完成するような、そういう遊び心も込められていると。
そういう意味でも挑戦的な曲であり、アルバムならではの構成だなと思っています。
AAAMYYYが“完全提供”した「浮遊」、過去のもどかしさをつづった「優等生」
──続く「浮遊」はAAAMYYYさんが作詞作曲を手がけた新曲です。どういったご縁でAAAMYYYさんに楽曲提供していただくことになったんですか?
AAAMYYYさんって基本シンセを軸にしていてゾクッとくる、ちょっと不気味さのある楽曲を作られる方だなという印象があって。そのAAAMYYYさんが作る世界観がずっと大好きで、いつかその世界に浸りたくて、楽曲をお願いしようとタイミングをうかがっていたんです。今回のアルバムにはAAAMYYYさんの要素が絶対に欲しいと思ってお願いしたら、快諾していただけました。
──楽曲のテーマについては、AAAMYYYさんとお話しましたか?
私がAAAMYYYさんの世界観が好きすぎたので、逆に私が入り込まないほうがいいなと思って、「作詞作曲編曲すべてをAAAMYYYさんの“完全提供”でお願いします。思ったことを書いていただけたら」と最初にお話しました。AAAMYYYさんからは「今回のアルバムで感じているものとか、何か思いついた単語でもイメージに合う画像でもいいので、あったら送ってください」と言ってもらい、私がAAAMYYYさんの楽曲に感じる、浮かぶような心地よさ、一方でしっかり重みのあるゾクゾクする美しさを表したビジュアルをお送りして、そこから広げていただきました。
──自分で書いたメロディや歌詞ではないので、レコーディングで歌う際も表現の仕方などいろいろ考えたかと思います。
仮歌はAAAMYYYさんが歌っていて、その歌い方を研究しました。「脱力した感じで、ささやくように歌っていただくイメージです」というAAAMYYYさんからのアドバイスをもとに、音を当てきらなかったりとか、ヌルっと音を動かすみたいなニュアンスを心がけたり。淡々としているんだけど突然ダイナミクスが来るような、そういうポイントを要所要所に入れながら歌ってみました。1曲目の「twelve」とは歌い方としては近いものがあるんですけど、私の中では明確に歌い方を分けています。互いがケンカすることなく、それぞれしっかり個性を発揮している。その結果、アルバム冒頭で強いインパクトを作ってくれたなと思います。
──5曲目の「優等生」はタイトルのインパクトがかなり強い1曲です。
収録曲のタイトルが発表されたとき、ファンの皆さんが一番「おおっ!?」と驚いたのはこの曲でしたね。この曲は(編曲を手がけた)重永亮介さんに「基本打ち込みでいきたい」と私からお願いしていて、歌詞にだいぶ迫力があるので、もともとはラスボス戦みたいなパワフルなアレンジをしていただいたんです。それもすごく素敵だったんですけど、「私が『優等生』を届けたい相手を想像したときにたぶん“強くない子”で、無理してがんばって、周りの期待に応えようとしている人に向けて歌いたかったから、負けなしの強さみたいな音はちょっと違うかもしれない」と思って、逆に不安定さや脆さをにじませたアレンジに変えていただきました。
──そもそも優等生というテーマで歌詞を書こうと思ったきっかけは?
今回のアルバムを作るにあたってターゲットを絞ろうと決めたとき、「きっと今までなかなか共感してもらえなかったことを曲にするのがいいだろうな」と、優等生じゃないのに優等生としてがんばろうとしていた過去の自分を思い出したんです。よくある話ですけど、ちょっと悪めの人が更生すると、「ここまで変わりました」と褒められるけど、不良の人が成長してたどり着いた場所にもともといる人たちは別に褒められることはない。「自分ががんばっていることは当たり前に処理されて、がんばってなかった人ががんばることは褒められるんだ」という矛盾みたいなものを、私は学生時代から強く感じていて。でも、周りにそういうことを聞いてもらう機会はあまりなかったし、話したら話したでやっかみが生まれたり「はいはい」と片付けられたりするから、吐き出す場所がずっとなかった。そういう過去の違和感について書いてみたくなったんです。
──その視点で描かれた楽曲って、思えばあまり出会った記憶はないですよね。
だからこの曲を聴いて、やっぱり「自慢っぽい」とか「自分のこと優等生って思ってるんだ」と言う人もいると思うんですよ。それでも、当時の自分の中にあったモヤモヤに何か答えを出せるんじゃないかと思って歌詞にしました
──この「優等生」は学生時代の楠木さんを指しているわけですが、アーティストとしての楠木ともりに対しては優等生だなと感じることってありますか?
自分の感性だからこそ書ける「優等生」もそうですけど、私が作るものに対しては自信を持ちたいし持っている。アーティストとして努力しているという面では優等生だと思います。「LANDERBLUE」の制作でも、作詞作曲をかなりのハイペースでがんばりましたが、ただそこを評価されることってあまりないんですよね。当たり前に努力して戦っていくのがアーティストなので、せめて自分は自分のことを褒めてあげようみたいな、そういうメッセージ性も「優等生」には込めたかったし、皆さんにとってももどかしい気持ちがちょっとでも解消される曲になったらいいなと思います。
今までなら絶対に書かないタイプの歌詞
──7曲目の「Nemesia」は、ほかの収録曲と比べてちょっと明るい、異質な空気感です。
今まであまりなかったテイストですよね。最近別のインタビュー(※9月発売の雑誌「My Girl」vol.44)で「明るい曲を書きたいなって気持ちが徐々に芽生えてきた」とお話ししていて。私の中ではそこまでキラキラしたものではなくて、木漏れ日くらいの明るさをイメージしていて書いた曲が、まさに「Nemesia」なんです。言葉で自分を表現したり思いを伝えたり、コミュニケーションを取ることがすごく多い中で、私は自分の言葉選びについてよく周りの方から褒めていただくんです。ということは、逆に「自分の気持ちはこうだけど、どう伝えたらいいかわからない」とか「うまく伝わらなかった、むしろ悪いほうに伝わっちゃったな」とか、気持ちを伝えることに苦手意識を感じている人もたくさんいるんじゃないかなと思って。自分の発言を自分で抑え込むとか否定しちゃうことって、ある意味自己否定に一番近くてすごく苦しい、つらいことでもあるんですよね。「Nemesia」には「あなたが紡ぐ言葉だからいいんだよ、あなたが発することに意味があるんだよ」というメッセージを込めたので、聴いていて自信が持てるような、ストレートに元気が出るような曲になればいいなと考えました。
──曲調も相まって、ポジティブさがダイレクトに伝わってきます。
今までなら絶対に書かないタイプの歌詞だったんですけど、意外と衝動的に思うがままに書けました。
──楽曲単位で切り取ると、すごくキャッチーでわかりやすくて、悩んでいる人の背中を押してくれるポジティブな曲だなと思いますが、このアルバムを通して聴いたときにはいい意味で違和感になっていると言いますか。
アルバムの流れで聴くと突然空気が変わる印象もありますけど、その分いいアクセントになったと思います。今後ライブで歌っていくにあたって、セットリストの置き場所が難しいかもしれませんね。披露するのがすごく楽しみです。
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エゴの塊だとしても、それでも




