Kroiが3月29日にメジャー2nd EP「MAGNET」をリリースした。
昨年7月にメジャー2ndアルバム「telegraph」を発表し、今年1月にはアルバムを携えた全国ツアー最終公演で過去最大キャパとなる東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)を満員にするなど、着実にリスナーを増やして活動の規模を広げているKroi。新作EP「MAGNET」には、目まぐるしく展開するジャンルレスなサウンドが耳を引く「Hard Pool」、在日ファンクのホーン隊である村上基(Tp)、ジェントル久保田(Tb)、橋本剛秀(Sax)を迎えたチルなソウルナンバー「風来」など、バンドのルーツを感じさせる全6曲が収録されている。
音楽ナタリーではKroiのメンバー5人に、完成した「MAGNET」の手応え、各収録曲の制作秘話、今後の展望について話を聞いた。
取材・文 / 黒田隆太朗撮影 / Goku Noguchi
改めて自己紹介するような気持ちで
──完成したEP「MAGNET」に対して、どんな手応えを持っていますか?
内田怜央(Vo, G) EPはアルバムと比べると収録できる曲数が少ないのでバランスを取るのが難しいんですけど、今回はかなりうまくいったんじゃないかなと思います。
千葉大樹(Key) 僕らの音楽を聴いてくれるお客さんが増えてきたので、「MAGNET」は我々のエゴ全開の曲を入れるというより、リスナーの皆さんが聴いてくれそうな曲の中に、どう我々のエゴを潜ませていくかを考えて作ったんです。「風来」や「Astral Sonar」のように自分たちがやりたいことを強く打ち出した曲も入っているので、バランスのいい作品にはなったのかなと。
──Kroiのアグレッシブで本能的なサウンドが打ち出されている作品だと感じました。
益田英知(Dr) まとまった作品としては今年1発目なので、気合いが入っていたのかなと思います。強い曲ばかりで、なおかつ僕らのルーツがしっかり入っている。「Kroiとはこういうものだ」と、改めて自己紹介するような気持ちをみんなが持っていた気がします。
──ちなみにEPの中で最初にできた曲はどれですか?
関将典(B) 先行配信した「Hard Pool」ですね。
──この曲は緩急がありますよね。もったりしたリズムで始まったかと思えば、一気に迫ってくるような展開もあって、最後にはハードロック調のサウンドに変わるという。いろんな要素をごった煮にしたような楽曲です。
内田 「telegraph」(2022年リリースのメジャー2ndアルバム)からリリースが空いていたし、EPの1発目の先行配信曲として聴き応えのあるものにしたかったんです。で、“めちゃめちゃ感”みたいなものもアリにしようと思って、結果的にジャンルレスで不思議な曲になりました。
──まさに、ひと言では形容しづらい楽曲です。
関 そこはある意味、意識していたところかもしれないです。曲の構成も音使いも、どんどんキャラクターが変わっていって、最後はあんな終わり方をするという。
内田 曲をイントロからパンパンパンッと作っていったら、最後にシャッフルしたくなってあのパートを入れました(笑)。構成に関しては、我々は今まで「ファンクビートだったら最後までファンクビートでいく」みたいなことが多かったんですよ。でも、「Hard Pool」はトラップっぽいビートもあれば、16ビートっぽいところもあったりして、セクションごとにニュアンスが違うんですよね。リズムの面でも実験的で、EPの中では“ぶっ壊し”要素です。
──益田さんはドラムを叩いてみてどうでした?
益田 みんなが言うように展開がどんどん変化するので、メドレーみたいでしたね(笑)。この曲はセクションごとにビートがバラバラなので、楽曲と接着する部分が少なくなってしまうんですよ。なので楽曲全体で見たときに、1個1個のビートが乖離している状況にならないよう意識しました。
ビンデージソウルを作る大会に出場したい
──同じく先行配信曲の「風来」は、うっとりするようなソウルナンバーです。作品の最後にこの曲が来ることで落ち着いた心持ちになりますが、これは誰の気分が反映された曲なんですか?
内田 俺ですね。もともと「Hard Pool」よりも先にこの曲のリリースが決まっていて、「そろそろR&Bを一発打っとくか」というノリで作りました(笑)。70年代のニューソウルをわりと普通めにやるイメージ。
──なるほど。
内田 最近、海外ではビンデージソウルが復権的な動きを見せていると思うんですけど、向こうのアーティストは今の音像でビンデージ風の音を作るんですよね。特にボビー・オローサの曲は激ヤバビンデージソウルで、レンジ感はちゃんと現代的だから今の人たちにもリーチする要素を持っている。そういう“ビンデージソウルを作る大会”に我々も出場したくなったんです。
──「風来」は曲調はもちろん、音色もいいですよね。サウンドのよさが楽曲を引き立てているように感じます。
長谷部悠生(G) 「風来」での俺の仕事は、ビンデージの音作りに寄ったバッキングをすることだったので、当時の質感を出すためにも初めてビンデージギターを買いました。ギブソンが出しているES-335という箱モノなんですけど、すごくいい音を出すんですよ。
千葉 ちなみに、いくらしたんですか?
長谷部 お値段なんと、94万円。
一同 おお(拍手しながら)。
長谷部 楽器屋さんにバーンと貼ってあるポスターに「48回払い」と書いてあるのを見て、「こりゃいいや」と。すごいんですよ、ローンって。買うときはお金を一銭も払わなくていいんです。で、48で割っていて、毎月少しずつ払ってるから痛くもかゆくもない。気付いたらギターが自分のものになっているんです。
──まるでタダみたいな気分になりますね。
長谷部 そう、タダみたい。タダで手に入ったからびっくりしちゃった。
千葉 無料のギターで弾いたってことですか?
内田 それじゃ曲に対する誠意が伝わらないんだけど(笑)。
──ミックスで意識したことはありますか?
千葉 この曲の録音はテープを通しているんです。昔のビンテージソウルを参考にするのではなく、今それっぽいことをやっている人の音源をプリプロのときにいろいろと聴いてみたんですけど、みんなテープで録っているんですよね。で、「テープかあ……」と思ってスタジオを見渡したらテープがあった(笑)。「これ使えるじゃん!」と思って、デジタルで録ったやつを1回テープに通して、それをまたデジタルに戻してミックスしていきました。足りないところはテープっぽくしてみたり、プラグに歪みを入れてみたりして、最終的にこの形になりました。
インディーズ時代のD.I.Y.感を
──「Astral Sonar」と「Cosmic Pillow」は、タイトルとイントロからSFっぽさを感じました。
内田 もともとは完全にSFっぽい作風で、空想や妄想をテーマに書こうと思っていたんです。ただ、作っているうちにだんだん逸れてきちゃったから、結果的に裏テーマとしてあんまり機能していないんですけどね。
──「Cosmic Pillow」はギター、ベース、ドラムの絡みがスリリングです。
益田 これは大変でしたね。少しでもキックが弱くなると、千葉さんに怒られるという(笑)。スパルタレコーディングでした。
千葉 体育会系だったよね。
益田 「Hard Pool」と「風来」を録ったあと、3番目にこの「Cosmic Pillow」を録ったんですけど、先行配信もないので一番自由にやれました。ソロを入れたりユニゾンを入れたり、わりと好き勝手やった曲なので、悪ふざけしちゃえる楽しみがありました。
長谷部 D.I.Y.感があったよね。ミックスチェックの時点では、冒頭のボコーダーのイントロも入ってなくて。雑談の中で入れちゃおうという話になった部分です。
関 そういうふうに「Astral Sonar」や「Cosmic Pillow」はミックスの段階でアレンジや構成が変化するくらいディスカッションをしながら進めた曲で、インディーズの頃にやっていたD.I.Y.で作り上げていく工程に似たものがありました。懐かしさを感じる曲というか、そういうキャラクターが今回のEPには出ているかもしれないです。
──ライブで聴いたら気持ちよさそうですね。
関 ムズいんだろうな……。
益田 (笑)。
関 自分たちの首を締める曲ではありますね(笑)。もとはループ系のグルーヴをキープし続けるような楽曲だったんですけど、それだけで終わるのはつまらないという話になってソロを足しました。16小節分くらい入れているので、今まで出した楽曲の中では一番長いベースソロになっています。あと、何よりもラストのサビ前のユニゾンセクションが効いていますよね。あそこまで長いユニゾンも今までの楽曲にはないものなので、ライブでバチッと決めたらカッコいいだろうなと。
──サウンドからはどことなく、Red Hot Chili Peppersっぽい雰囲気を感じました。
内田 あ、それは完全に俺です。
千葉 (笑)。
内田 「Cosmic Pillow」に関しては、狙ったわけじゃなくて(笑)。俺は楽しんで曲を作るとそうなっちゃうので、その意味では素が出ているというか。あと、「Cosmic Pillow」はサビが気持ち悪いのが気に入ってます。変なコード進行をスティーヴィー・ワンダーみたいにポップに聴かせられたらいいな、という意識で書いた曲なんですよ。いざ作っていく過程で「うわ! このくらいで終わらせておいたほうが絶対にキモくていい」と思って。そしたらサビが印象的な曲になりました。
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“ほら穴ギター”の成功例