KREVA展示イベント「ラッパーと紙とペン」特集|20年の“跡”を視覚でたどる、初の原書展に懸ける思い (2/2)

本当のファンに価値を決めてほしい

──ファンの人が刺さるポイントとして、KREVAさんが歌詞を書いた紙を捨てなかった物持ちのよさと、裏紙も使ってるというナチュラルな環境意識の高さもだいぶアツいんじゃないかと思うんですけど(笑)。

そうですね(笑)。今話して思い出したというか、これは初めて口にするけど、母の影響だと思います。なんでも取っておいてくれた人なので。俺が小学校1年生のときに描いて金賞をもらった鶏の絵とかもあるし、小1、小2のときの書き初めも残ってる。それをたまに俺にも見せてくれてたんですよ。その影響なんだと今初めて思いました。

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──素晴らしいですね。

俺は常にとにかく先に行きたいというマインドだから、書いたものが溜まっていく一方で、捨てるという発想すらないんだと思います。

──「そういえば、あの曲の歌詞を書いた紙はないな」というものもあるんですか?

ありますね。直筆で書いた紙をスタジオに来た人(エンジニアやほかのアーティスト)に渡して、俺はそれのコピーしか持ってないというものもあるし。あとは今回、歌詞を書くためにアイデアを羅列した紙も一部展示します。

──原書を販売するうえで、自分で価格を値付けするのではなく、オークション形式をとった理由は?

自分で価格を決められないし、本当に欲しい人のもとに渡ってほしいという気持ちがあったからですね。安い価格を付けてしまうと、それこそ複製して量産しようとしてる人っぽいかなとも思うし、音源作品のために生まれた歌詞であり紙だけど、もともとは売るために書いたものではないから。その価値を本当のファンに決めてもらいたいなと。

──原書を買う個々人とその曲にまつわる人生の物語も間違いなくありますしね。この曲に救われた、この曲に背中を押してもらった、とか。

そうですね。あとはアートって買うんじゃなくて、預かってるという考え方もあって。例えばピカソの作品も未来につなげるために誰かが所有してるという。俺の原書も、みんなが持ってくれることで初めて価値が生まれると思うから、その部分においても楽しみです。

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現代美術家・松田将英から受けた衝撃を形に

──展示方法のこだわりについても教えてください。

まずは裏紙に書いていることの面白さを感じてもらうために紙をアクリル板に挟んでいて。そうすることで原書を購入してくれた人が裏面も思いっ切り眺められるように、というイメージは最初からありました。裏面が存在しないものに関しては額装しています。あともう1つ、イメージとして見えていたのは、洋服のように原書がバーッとハンガーラックに吊り下げられていて、それを手にとって観られるようなスタイルがいいなと。

──KREVAさんが洋服を買いに行くときにショップの空間と見せ方を楽しんでるように。

そう。洋服の店でも打ちっぱなしの空間を広く使って、少しだけ洋服がハンガーラックにかかってるような見せ方が好きだったり、ちょっとインダストリアルというか、アブストラクトな空間が好きで。そういう俺の好みが反映された展示でありインスタレーションになっていると思います。

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──原書展には、現代美術家の松田将英さんがインスタレーションにおけるコンセプト協力として参加しています。KREVAさんは2022年12月に開催された松田さんの個展「Extream Conceptual」に足を運び、彼と初めて対面し、作品も購入していましたよね。

そう。さっき大白小蟹さんの原画を買った話をしましたけど、自分でギャラリーに行ってリアルなアートピースを購入したのは松田くんの作品が初めてでした。今回の原書展にはその影響もありますね。で、松田くんと会ったときに「いつか何かお願いできたら」という話をしたので、今回のタイミングがベストだなと思ったんです。目で見ても楽しいインスタレーションを設置したいと思って、松田くんと2人でオンラインミーティングをしました。俺はあまり人から出てくるアイデアに衝撃を覚えることはないんですけど、そこで出てきた松田くんの発想はすごかったです。「こういうインスタレーションをやってみたいんだけど、どう見せたらいいかな?」と投げかけたときに、こういう視点をこの作品に入れたほうがいいと提案してくれて。それがこの展示に、ある必然性をくれた感じ。ぜひ楽しみにしてほしいです。

──松田さんの作家性はある種のヒップホップ的な批評性を帯びていると思います。そこがKREVAさんとフィールしたポイントでもあるのかなと。

まさにそうで。ある人は「松田くんってすごくロックだよね」と感じるし、またある人は「すごくパンクな考え方を持ってるよね」と思う。暴力性はないんだけど、クールなアナーキズムがあって。そして、物事を俯瞰で見ている批評性がある。あとは、ちょっとふざけてるというかね(笑)。そこもすごく好きで。

──ユーモアの刺し方ですよね。その奥には社会をどう見ているかという切り口の鋭さがあって。

本当におっしゃる通り。現代アートは難解であるという誤解があるとしたら、松田くんの作品はまったくそんなことないので。何をどこにどういうふうに提示するかという面白さがある。原書展でも松田くんが一番得意とするところの考え方を俺にくれた感じですね。

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原書展は俺の20年分の“跡”

──物販ではKREVAさんが愛用しているALMOSTBLACKとのコラボアイテムも販売されます。松田さんもそうですが、ALMOSTBLACKのデザイナーである中嶋峻太さんとのご縁も点が線になった感じがありますよね。

そうですね。去年の10月に自分のラジオ番組(J-WAVE「PILOT THE ORIGINAL」)が始まって、そこでは毎週ゲストをお招きするんですけど、せっかくなら初回は自分が本当に会って話を聞いてみたい人を呼びたいと思って。彼と実際に会ってみたら誕生日が一緒で、さらにウチの親が昔、喫茶店をやっていたんですけど、中嶋くんはその店に来たことがあるらしいんですよ。あとは、中嶋くんが海外にいた頃に俺の「音色」が彼に届いていたり。本当に縁があるというか。

──ALMOSTBLACKの服飾デザインのどんなところに魅力を感じていますか?

最初はセレクトショップでいろんな服がかかっている中から、カッコいいと思って手に取って。店員さんから「その服は日本人のデザイナーが作ってるんですよ」って言われたときにうれしかったんです。そこからベルギーのアントワープでRAF SIMONSのデザインアシスタントをやっていたという情報や服に付帯している機能性を聞いて「よくできてるなあ!」って驚いたし、何よりALMOSTBLACKというブランド名の由来が日本で古くから勝色と呼ばれる褐色からきていると知って、それは海外で挑戦する日本人のメンタリズムなんだなと思ったんですよね。俺が最初に手に取ったアイテムは日本の作品がプリントされたものだったんですけど、日本の写真家の作品を洋服のデザインとして落とし込むセンスも絶妙だなと思った。そこから好きになったんです。それで今回、松田くんと同様に「一緒に何かできませんか?」とオファーしたら快諾してもらって。松田くんも、中嶋くんも、今、イケてることをしている人たちが何かしらのきっかけで俺の曲に触れてくれていて。ここに来て、20年ソロ活動してきたことが生きてると実感してます。

──それは続けてなきゃ得られないことですよね。

そうですね。原書展も歌詞を書き続けてなきゃできなかったし、書いたものを溜め続けてなかったらそもそも実現してないから。

──改めて、KREVAさんが「手書き」にこだわる理由はなんですか?

リズム感だと思います。iPadとかデジタルデバイスを使っていた時期もあったんです。iPadだと無限にページを作れて永遠にスクロールできるし便利なんだけど、ガラス面を叩いてもリズム感が出ないんですよね。そして、やっぱり俺はボールペンじゃなくてサインペンがよくて。それは、弾力があってインクが紙に染み込んでいくことがストッパーになって滑らないから。俺の衝動も全部受け止めてくれる感覚がある。今回の原書展でも「何これ?」って思うようなメモが書いてあるものもあると思うんだけど、人が作品を作るときのパワーを感じてもらえるはず。それに、筆跡という言葉通り、この原書展は俺の20年分の“跡”なので。俺の筆跡をリアルに感じられる展示会になっていると思います。あと、今回の展示会場になるGALLERY X BY PARCOがある渋谷PARCOの地下1階は「CHAOS KITCHEN」という名称通り、飲食店をはじめ雑多にお店が並ぶあえてカオスな作りになっていて。その中でギャラリーは異質な空間にしたいという思いからすごく落ち着いたトーンにしています。さらに、歌詞を観る展示会だから、頭の中で俺のラップが流れる人もいると思うし、会場には俺が展示会のために作ったビートレスのアンビエント曲が流れています。その音源CDも会場で買える。何回も楽しんでもらえる内容になっていると思うし、関東圏在住じゃない人にも来てもらう価値は十分あると自負しています。ぜひ多くの人に来場してもらいたいですね。

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展示会情報

KREVA20周年記念 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」

KREVA20周年記念 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」

KREVA20周年記念 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」

2025年1月24日(金)~2月3日(月)
東京都 GALLERY X BY PARCO(渋谷PARCO B1F)

営業時間:11:00~21:00
※入場は閉場の30分前まで。
※最終日18:00閉場。
※混雑状況により事前予約や整理券配布となる場合がございます。

入場料:908円+税(税込999円)
※入場特典付き、未就学児無料

公式サイト

プロフィール

KREVA(クレバ)

1976年生まれ、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にシングル「音色」でソロデビューを果たす。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録し、2008年にはアジア人のヒップホップアーティストとして初めて「MTV Unplugged」に出演した。2012年9月08日に主催フェス「908 FESTIVAL」を初開催。“9月08日”は“クレバの日”と日本記念日協会に正式認定されている。さまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュース、映画出演など幅広い分野で活躍しており、2011年には初の著書「KREAM ルールなき世界のルールブック」を刊行。本書は2021年6月に電子書籍化された。2023年6月から7月にかけてライブツアー「KREVA CONCERT TOUR 2023『NO REASON』」を開催し、「クレバの日」である“9月08日”に配信シングル「Expert」をリリースした。9月14日には東京・日本武道館で主催の“音楽の祭り”「908 FESTIVAL 2023」、翌15日には「NO REASON」ツアーのファイナルを開催。2024年にソロデビュー20周年を迎えた。4月に事務所を独立後、小林賢太郎氏を脚本・演出に迎え、“授業型エンタテインメント”「KREVA CLASS -新しいラップの教室-」を全12公演開催。6月よりソロ20周年イヤーに突入と同時にビルボードライブツアーを東京、大阪で開催。2025年2月には10thアルバム「Project K」を発表し、3月12日よりライブツアー「KREVA LIVE 2025『Project K Tour』」を全国19都市21公演で開催する。作詞、作曲、トラックメイク、ラップ、さらにはプロデュースまで、すべて自身で行うなど各方面で才能を発揮している。