ナタリー PowerPush - 小松未可子

100%みかこしアルバム「THEE Futures」完成

自分の中からハッピーハッピーな詞が生まれることはあんまりないんですよ

──だから、ちゃんと小松さんがやりたいことをやっているように感じられるアルバムになった、と。あともう1つ、このアルバムを一本筋の通ったものにしている要因に小松さんの書く詞もありますよね。というか、後ろ向きな詞が多すぎるような(笑)。

そうですね!(笑)

──「THEE Futures」のヒロインは最終的には明るい未来を目指すものの「私なりの 正義だった 負けず嫌いが アダになる」と、過去に何かわだかまりを残しているし、ラブソングである「情熱」や「アンブレラ」のヒロインはあまり幸せな恋愛をしていません。

ちょっと変な言い方になっちゃうんですけど、もしかしたらリア充的なシチュエーションというか、「もう幸せ!」っていうときに幸せな恋愛の曲を聴けば、なお幸せになれるのかもしれないですけど、恋愛ってそんなになんでもかんでもうまくいくものではないよね?って(笑)。

──ごもっともです(笑)。

小松未可子

ラブソングに限らず、これまで共感したり好きになったりしてきた曲もちょっと切ない曲ばかりだからなのか、自分の中からハッピーハッピーな詞が生まれることはあんまりないんですよ。だから、只野(菜摘)さんに書いていただいた「アラブルトラベル」「LAKE LIKE LIFE」もそうだし、ほかの作家さんからいただいたものもそうなんですけど、皆さん、私についてポジティブなイメージで詞を書いてくださっているのがホントにうれしくて!

──華やかで明るい印象があるから、おのずと前向きな詞になるんでしょうね。

そう思っていただけて、どれもポップで「明日へ!」って感じの詞を書いていただけたので、だったら私は、過去を振り返った上で幸せな未来やエンディングを目指す詞にしてみようかな、っていうことは意識しました。周りの思う私と、私の思う私には確かにギャップがあるけど、どっちも私の一部であることは間違いないんだから、その両方を詰め込めば、いろいろな私を知ってもらえるし、より小松未可子らしいアルバムにもなるんじゃないかなって。

雨女!? みかこしが書く「アンブレラ」

──そうやってコンセプトを明確に思い描いていたということは、作詞はスムーズでした?

いや、けっこう難産でした。というのも、例えば「ソラウミ」なら「空」、「Starry Rally」なら「星空」というように、まずその曲を印象付ける情景が思い浮かばないと詞が書き出せないんです。情景や舞台さえ思い浮かべば、そこに自分の気持ちを乗せた詞をススッと書けるんですけど、今回はホントにその景色を見つけられなくて……。特に「アンブレラ」は悩みましたね。

──どうやって「傘」や「雨降り」というモチーフを見つけたんですか?

私がライブをやったり、イベントに出たりする日ってなぜか雨が降るんですよ(笑)。

──雨女だ(笑)。

小松未可子

去年の5~6月くらいからそう呼ばれるようになりまして……。でもその頃は「違うよ!」って言えてたんですよ。

──「梅雨だから!」って。

そう言い張って雨女のイメージを払拭しようとがんばったんですけど、ついには梅雨とぜんぜん関係のない11月11日のバースデーライブの日にまでドンピシャで降ってしまい……。

──さすが雨女(笑)。

しかも「さすがにそろそろ詞を書かなきゃ」って決心した日にまで雨が降り……。その雨を見ながら「これは雨の歌を作れってことなんだろう」「確かにちょっと面白いかな」って観念したら、傘をテーマにしたこの詞が浮かんできたんです。ただ、その答えに行き着くまでには本当に時間がかかりましたね。

──その情景の描き方も面白いですよね。「アンブレラ」ってタイトルなのにヒロインは詞の1行目から「傘を忘れて あまやどり」してるし(笑)。でもそれによって彼女が逡巡していることがわかるし、「情熱」では赤い「サルビア」と「オレンジに焼けた空」を対比することで情熱が冷めかけていること、恋が終わりかけていることを表現しています。

でも「アンブレラ」の「雨」のように、思い浮かべる情景は基本的に身近なものだし、そんなに変わったことを書いているつもりもなくて。サルビアは、ちっちゃい頃に読んだ植物図鑑の鮮烈な赤い写真と「口紅の原料になる」っていう解説がすごく印象に残っていたから出てきたフレーズだし、同じように「情熱」の中で「リコリス(彼岸花)」って言葉も使っているんですけど、これはウチの最寄り駅に咲いてたから。それを見て「あっ、花火っぽーい」って思ったから「空のリコリス」と歌ってみたという(笑)。だから「情熱」の詞って、言ってしまえば私の周りにある「赤」をそのまんま目の前に差し出したって感じなんです。そうやって、私にとってリアリティのある言葉で抽象的なことを歌ったほうが心に残りやすいし、気持ちも伝わりやすいのかなって。

潦(にわたずみ)と澪標(みおつくし)

──ところが「Starry Rally」では「ニワタズミ」「ミオツクシ」と、あまり耳慣れないクラシカルな言葉を投げ込んだりもしていますよね。

実はこれも私にとっては身近な言葉なんです。どっちも山下景子さんの「美人の日本語」(幻冬舎文庫)っていう、1日1語ずつ1年分366個のキレイな日本語の意味と由来を紹介する本に載っていて、読んだときから「いつか詞の中で使いたい!」と思っていたので(笑)。

──そしてちょうど星空を航海する「Starry Rally」の詞を書くことになった、と。

小松未可子

そうなんです。「潦(にわたずみ)」は地上に貯まったり流れたりしている雨水のことだし、「澪標(みおつくし)」は船のための標識のことだし、ということで使ってみました(笑)。私自身もそうなんですけど、詞を通じて新しい言葉を知ることって多いと思うんですよ。今、私たちが使っている日本語だけじゃなくて、「潦」みたいな古い日本語や、あと英語に触れることもできる。だったら、自分が詞を書くときも、いろんな言葉を入れてみたほうが面白いだろうなと思って遊んでみました。

──アルバムタイトル「THEE Futures」もその言葉遊びの一環だったりします?

そうですね。今回のアルバムのコンセプトは自分だから、未可子の「未」の由来である未来=「Future」をタイトルに入れよう、っていうことはけっこう早い段階から決めていて。ただ、もうちょっとヒネりたいな、と思って、その前後に付けられそうな単語を探していたときに出会ったのが「THEE」なんです。古い英語の「you」。「あなた」っていう意味と、あと「大切な」というか、後ろに続く言葉を丁寧なものにする意味もあるらしいので、「Future」の複数形とくっつけて「THEE Futures」。"古い"言葉で"未来"を飾りつつ「あなたの大切な未来は1つじゃない」っていう意味を込めてみました。

ニューDVD / Blu-ray シングルミニアルバム「THEE Futures」/ 2012年月日発売 /
CD収録曲
  1. THEE Futures[作詞:小松未可子 / 作・編曲:nishi-ken]
  2. Baby DayZ[作詞:中村彼方 / 作・編曲:星野純一]
  3. 情熱[作詞:小松未可子 / 作曲:James Panda Jr. / 編曲:James Panda Jr. & the Zoo! Team]
  4. ソラウミ[作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:渡辺健二]
  5. 冷たい部屋、一人[作詞:atsuko / 作曲:atsuko、KATSU / 編曲:KATSU]
  6. 夏至の果実 Sunset Cherry Mix[作詞・作曲・編曲:SiN]
  7. サーチライト[作詞・作曲・編曲:SiN]
  8. アラブルトラベル[作詞:只野菜摘 / 作曲・編曲:SiN]
  9. Starry Rally[作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:SiN]
  10. アンブレラ[作詞:小松未可子 / 作曲・編曲:nishi-ken]
  11. LAKE LIKE LIFE[作詞:只野菜摘 / 作曲:James Panda Jr. / 編曲:James Panda Jr. & the Zoo! Team]
  12. おすしのうた(ボーナストラック)[作詞:おすしが食べ隊 / 作曲:James Panda Jr. / 編曲:James Panda Jr. & the Zoo! Team]
小松未可子(こまつみかこ)

1988年11月11日、三重県生まれの声優、歌手。中学生時代にアイドルグループ「いもうと」でデビューののち、女優としての活動を開始。2010年にはアニメ「HEROMAN」の主人公ジョセフ・カーター・ジョーンズ役で声優としてのキャリアをスタートさせた。2012年1月より放送のアニメ「モーレツ宇宙海賊」では主人公・加藤茉莉香の声を務め、4月には同アニメのイメージソング「Black Holy」で個人名義による歌手デビュー。7月にはミニアルバム「Cosmic EXPO」、11月7日に2ndシングル「冷たい部屋、一人 / 夏至の果実」を発表した。2013年2月13日に1stフルアルバム「THEE Futures」をリリース。