小松未可子のニューシングル「悔しいことは蹴っ飛ばせ」がリリースされた。
「悔しいことは蹴っ飛ばせ」は2018年11月に配信限定でリリースされた「友情ZABOOOON!!」以来となる自身名義の新曲で、小松の作品に深く携わってきたQ-MHzとのタッグで制作された。
音楽ナタリーでは約3年ぶりに小松へのインタビューを行い、テレビアニメ「さよなら私のクラマー」のエンディングテーマでさわやかなポップチューン「悔しいことは蹴っ飛ばせ」、大人っぽい“みかこし”像を提示したカップリング曲「永遠と言ってみたい」の制作秘話を中心に聞いた。
取材 / 臼杵成晃 文 / 寺島咲菜 メインカット提供 / TOY'S FACTORY 撮影 / 塚原孝顕
人間らしい生活を極めたステイホーム期間
──前回のインタビューは「Personal Terminal」(2018年7月発売のアルバム)の発売タイミングでした(参照:小松未可子「Personal Terminal」発売記念 みかこし × Q-MHz対談)。その後も配信作品「友情ZABOOOON!!」(2018年11月リリース)はありましたが、CDのリリースはひさびさですよね。
そうですね。2019、2020年はキャラソンを録る機会が多かったので、ずっと歌っている感覚はあったんですけど、このご時勢でライブやイベントがなくなって人前に出る機会が減り、「私って本来はどういう活動をしてたんだっけ?」という感覚になりました。今、収録の現場ではなるべく声優同士が会わないようにアフレコをしていて、打ち上げもないので、放送で初めて「この方と一緒だったんだ」と知ることも珍しくなかったです。
──満足に人と会えないことはやっぱりストレスでした?
もともと私は飲みの席が得意なほうではないんですが、これが不思議なもので、ないと寂しいんです(笑)。外出自粛期間中は、意外と人と会うのが好きだったんだなと実感していました。家で過ごすことは全然苦じゃないんですけどね。
──ステイホーム期間に新たな趣味を見つけた人も多かったですよね。
すごいですよね! 周りにも何か勉強を始めようとか、趣味を増やそうと積極的に動く人がたくさんいました。そんな人たちを目の当たりにしながら、私は冒険することなく過ごして(笑)。朝起きて必ずラジオ体操をしたり、1日1万歩を目指して歩いたりしてました。そうやってスケジュールを立てて実行していくのは自分にとって楽しい時間でしたね。
──この状況なりの楽しみ方を前向きに見つけられた?
そうですね。声優界隈はYouTubeを始める人が多くて、みんなめっちゃポジティブだなと思いました。私はなるべくフラットな気持ちで、人間らしい生活を極めていたというか(笑)。ごはんを食べて体を動かして、心の健康を第一に過ごしていました。「今日は映画を観よう」とか「何もせず過ごそう」とか日ごとに考えながら。そのおかげか、まっさらな素の自分が見えた気がします。
──人間・小松未可子としては充実していたと。
めちゃめちゃ充実してました(笑)。
──ちなみにどんな映画をご覧になっていたんでしょう。
ディズニーが大好きな声優仲間の近藤玲奈ちゃんの影響で、あんまり触れてこなかったディズニー作品を網羅して。リアリティのあるものより、ファンタジックな作品のほうが刺さりましたね。
──でも声優さんの場合、アニメーションを観ていると仕事モードになってしまいそうですね。
そうなんですよ。ディズニー作品を観てる時間以外は、自分が出演した作品をよくチェックしてました。
あらゆる不安をふっ飛ばす直球ポジティブソング
──ひさびさの小松さん名義でのレコーディングはいかがでしたか?
「悔しいことは蹴っ飛ばせ」は2020年の秋頃にレコーディングしたんですけど、その現場でQ-MHzの皆さんにひさびさにお会いして、なんだか緊張しましたね。マイクの前で勘を取り戻していく作業から始めて、ボーカリストとしての個性を意識しながら、曲のニュアンスとすり合わせていく作業を慎重に行っていって。私の声質を踏まえつつ、自分のライフステージの変化を少し表現できたらいいなという思いがありました。
──「悔しいことは蹴っ飛ばせ」は「こんなに押します?」というくらい背中をゴリゴリ押してくれる、めちゃめちゃポジティブな曲ですね。
普段は「がんばれよ! がんばれよ!」と前のめりに応援するタイプでもないんですけどね(笑)。この曲は「さよなら私のクラマー」のエンディングテーマなんですけど、一般的なエンディングテーマって、どこか落ち着いたテンポというか、例えばミドルからだんだんスローになっていくイメージなんですよね。
──その回のストーリーの余韻を次回まで持っていくニュアンスで。
はい。今までアニメのエンディングを歌わせていただく中ではしっとりとした曲が多かったんですけど、今回は制作サイドの「さわやかなエンディングにしたい」という意図があって、珍しくポップ調で。デモの段階ではもうちょっとキーが高かったので、ポップなニュアンスがより強かったんですけど、少しだけキーを下げて、抜けのいい聞こえになればいいなと意識して歌いました。
──Q-MHzの皆さんもひさびさに小松さんの曲を作るという点で、かなり力が入れて挑んでいると思うんですよね。
曲を通じてそういう思いは感じましたね。楽曲のパワーに押されないように、というのは歌ううえで念頭に置いていました。
──タイトルにも歌詞にも非常に強いメッセージを感じました。
「悔しいことは蹴っ飛ばせ」ですからね。「さよなら私のクラマー」はサッカーを題材にしている作品なので、そのテーマに寄り添っているんですけど、昨今の皆さんの思いを背負うとすれば、これぐらい言い切ってもいいんじゃないかなと思いました。
──「明日を頑張ろう そうだ いっぱい頑張ろうよ」の、ダメ押しするような「いっぱい」がすごく印象に残ります。
もう畑(亜貴)さん節が効いてる。言葉の1つひとつにエネルギーが込められていて、それを口に出すことで心が強くなる気がするんです。畑さんマジックですね。特に刺さったのが「まっすぐに伸びた道などないから 迷いながらかっ飛ばそう 遠い未来のことより 明日を頑張ろう そうだ いっぱい頑張ろうよ」。このフレーズを大切にしていて、自分のすべてだなと思います。いろんな不安をふっ飛ばしてくれる強さがありますよね。
──歌詞以外の部分だとどうですか?
イントロがけっこう長くて、ここでちょっとずつ心と体のモチベーションを上げながら全体を聴いてもらいたいですね。この長い助走によって歌う準備ができて不思議と安心感が生まれるんです。
──ボーカルで苦労した点はありますか?
サビ手前の「Here we go!」ですね。英語を発音する難しさもあると思うんですけど、キレよく次のフレーズへ移るのに苦戦した覚えがあります。駆け出すイメージをうまく表現できなくて「これがブランクか」と(笑)。あとは大サビが体力的に大変な部分だったんですけど、楽しんで歌えました。
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大人の“みかこし”像をアピール