こゑだ|新たなスタートラインに立ち 全力で羽ばたく

人間って生まれた頃は真っ白だけど……

──ちなみに「モンシロチョウ」というモチーフはどこから出てきたのでしょうか?

前作からイラストを担当してくれてるチャールズ皇子が、私のイメージカラーは白と言ってくれたことから思い付いたんです。「何者にも染まっていない白で、真っ白なキャンパスにいろんな色を描けるし、もっといろんな色を吸収できる」っていうふうに言ってくれてて。それともう1つ、人間って生まれた頃は真っ白というか純粋じゃないですか。でもいろんな経験をしていく中で、どれが白でどれが黒なのかわかるようになっていって、さらに大人になると白黒はっきりできないグレーゾーンみたいなものが見えてくると思うんです。そういうグレーな部分のストレスが溜まっていくと、もう真っ黒になって爆発しそうになったりとか。そういうこともこのアルバムのテーマの1つで、生まれたときは真っ白いものを持ってるんだけど、それが死ぬまでにいろいろ経験することでどんどん黒く染まっていく、というのがコンセプトにあるんです。

──ずいぶん重たいテーマですね。

私はちょっとしたストレスでもそれを自分の中で考えすぎて大きくさせてしまって、端から見ると全然大したことないことでも深刻になったりするんですね。でも、そういう気持ちがパッと晴れたときに思い返してみると、案外落ち込むことでもなかったなっていうことがいっぱいあって。だから、例え死にそうな気持ちになったとしても、がんばって生きてればまた浄化されて最初に戻れるきっかけがあると思うんです。今回の作品の終わりの曲「小さなモンスター」の最後に「僕はまだ生きている」っていうフレーズがあるんですけど、それは今話したこととつながってて、「なんで生きてるんだろう」っていう気持ちもあるんですけど、でも最後はちゃんと「僕はまだ生きている」っていうことを言いたくて。それで最初の真っ白な気持ち、1曲目の「モンシロチョウは死なない」に戻るんです。

こゑだ

──あっ! だから曲名に「死なない」が付いてるんですね。

はい。真っ白な気持ちっていうのは100%なくなりはしなくて、きっかけがあれば自分で呼び戻すことができるんじゃないかと思っていて。そのすべてを消してしまうのは自分や環境だったりするので、そこを耐えたり、救いがあれば、また真っ白に戻ることができるかもしれないっていうことなんです。あとは「モンシロチョウは死なない」っていう物語の設定を作っておくことで、本来は1年通して蜜を吸うことのないチョウがいろんな季節の花の蜜を吸うっていう意味も含んでいて。ずっとグツグツ煮込んで作ってたので、すごくいろんな意味があるんです(笑)。

──そう聞くと相当深い作品ですね。作品を聴いたとき、1つの恋愛の物語が全体としてあるのかなと勝手に感じまして。「モンシロチョウは死なない」には恋人同士のスイートな雰囲気があるし、次の「ヒースのかけら」は別れの歌なので、別れたりくっ付いたりの繰り返しみたいなイメージが浮かびました。

そうやって聴いた人それぞれのイメージに当てはめて聴いてもらうのはすごくうれしいです。その感じで言うと、私の中で「ヒースのかけら」は別れの歌でもあるんですけど、この曲は自分の楽しかった頃の思い出に浸って前に進めない感覚というのがあって。最初は「運命の人はいる」っていう希望を持って付き合ってたんだけど、そういう希望を持てなくなってしまった状態と言うか。次の「LinariaLisa」はそこから脱して次の希望に進んだ曲なんです。この曲は若い女の子がテーマにあるので、たぶん2人ぐらいと付き合ったことあるみたいな子で(笑)、自分より経験してる人に憧れを持ってる感じで、いろんな人と知り合っていろんな刺激を受けたいっていう時期の女の子なんです。

──次の「パラノイアフォルテ」はボサノバ調の少し大人っぽい曲ですね。

バラエティに富んだものを作りたいという気持ちがあるので、以前からボサノバもやってみたかったんです。この曲はもうちょっと大人になった、少しだけ成長できた女の子がテーマですね。次の「tobacco」は就活とか学生時代を乗り越えた女の子が、世界はもっとキラキラ輝いてると思ってたけど、生きてくことって大変なんだって気付いたんです。「パラノイアフォルテ」から先に進んだ女の子が、自分のやりたいことができなかったり、見たくないものを見てしまうつらさでストレスに直面してるっていう。

──現実のつらさを知ったわけですね。次の「あそびましょ」はryo(supercell)さんと二村学さんが編曲を手がけた、ホーン入りのジャジーでアダルトな楽曲ですが。

この曲は現実を直視した女の子がちょっとグレてしまった感じなんですよ(笑)。例えば「私、あの夢を追いかけるの!」っていうふうにすごくキラキラした子がいるんだけど、その子を見ている主人公は内心では「絶対ここに戻ってくるけどね」って思ってると言うか(笑)。「その希望は絶対儚く散るから!」っていうような意識のある女の子が主人公なんです。

こゑだ

──だんだん黒く染まっていってますね(笑)。続く「ネリネ」はbuzzGさんが編曲された、青春の切なさを感じさせるさわやかなロックチューンです。

「ネリネ」は、例えグレてる中でも、恋をしたり、自分のやりたいことを見つけたことでコロッと変われるタイミングを表したような曲で、主人公の女の子はまた希望を持って恋愛をするんです。でもここはちょっと複雑で、三角関係みたいな曲なんですよ。歌詞の最初の「あなたが笑うそれだけで僕はうれしくて」という部分は男の子の視点で、男の子は女の子に恋をしてるんですけど、その女の子は別の人に叶わない恋をしてるんです。でも彼女は叶わない恋だということを認めたくない感情があって、そんな複雑な女の子を男の子は何もできないまま見ているっていう。今までいろんなことを経験してきたから、現実逃避がうまくなってると言うか、信じたくないものを無意識に信じないようにできてる女の子と言うか。

こゑだ「モンシロチョウ」
2017年11月29日発売 / BeanZoo
こゑだ「モンシロチョウ」

[CD]
2160円 / SNCL-00005

Amazon.co.jp

収録曲
  1. モンシロチョウは死なない
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:田中潤(GENTOUKI)]
  2. ヒースのかけら
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:二村学]
  3. LinariaLisa
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:田中潤(GENTOUKI)]
  4. パラノイアフォルテ
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:二村学]
  5. tobacco
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:和田たけあき]
  6. あそびましょ
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:ryo(supercell)&二村学]
  7. ネリネ
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:buzzG]
  8. 小さなモンスター
    [作詞・作曲:こゑだ / 編曲:和田たけあき]
こゑだ
こゑだ
福岡県出身の女性シンガーソングライター。2011年に開催されたsupercellのボーカリストオーディションで、当時15歳にして約2000人の応募者から選出され、2013年11月にリリースされたsupercellのアルバム「ZIGAEXPERIENTIA」でボーカルを担当した。2015年6月にミニアルバム「Nice to meet you.」でソロデビューし、2017年11月に2ndミニアルバム「モンシロチョウ」を発表。ソロ作品では自身で作詞作曲を行っている。