ボーカルの着地点

──エレファントカシマシの「今宵の月のように」も意外な選曲でした。

原曲は語りかけるような歌い方だと思うんですけど、私のボーカルは抑揚が強いんで、着地点をどこにするかは悩みましたね。仮歌を何回も録ってみて、最後には倖田來未らしくちょっと抑揚も入れながら歌おうかみたいな感じになったんですけど。そこのバランスは難しかったです。

──UAさんの「情熱」を選んだのは？

私がカラオケでよく歌うのは「悲しみジョニー」なんですけど、みんなに「情熱」のほうがいいって言われて。あ、確かにアレンジもカッコよくなりそうだし、そっちにしよう！って。

──そうやって周りのスタッフの意見をちゃんと取り入れていくあたり、倖田さんって素直ですよね。

あはは（笑）。そうですか？

──「どうにもとまらない」はもっと派手な音になるだろうと思ってたら、意外と抑制の効いたアレンジで、いい意味で裏切られた感がありました。

この曲は“エロカッコいい”の元祖なんで、やってみようってことになって。いろんな方がカバーされてる曲なので、あえて倖田來未がカバーするべきなのかなって思ってたりもしてたんですけど、なんかこう、歌ってみたらメロディラインとかが自分の声に合ってたんですよね。

流行りには乗りたくない

──アレンジで特に苦労した点はありますか？

なんかサウンドの流行っていうのはやっぱりあって、4つ打ちが流行ったかと思えば、次はロックバンドが流行ったりとか。だからそこに寄せてしまっていいのかはいつもすごく考えますね。流行りには乗りたくないんです。自分が流行りを作らないでどうするんだ！って思いでやってますから。

──なるほど。

あと例えば「愛のうた」がヒットしましたっていうときに、次にまた「愛のうた」っぽいのを歌うのはイヤなんですよね。そうじゃなくて「愛のうた」を越える曲を作りたいってやっぱり思っちゃうんで。

──流行ってることはやりたくないし、自分が一度やったこともやりたくない。

いや、ほんとにそうなんです。その結果だんだんやれることがなくなってきて（笑）。ほかの人がやってないことってなんだろう？ってそれをずっと探してる感じです。

──自分でハードルを上げて苦労するタイプですね。

あと今回は特に、真似っこにならないようにっていうのも心がけましたよね。カバーに関しては原曲のイメージをいい意味で壊して、倖田來未の作品にしないといけないって思ってるんです。中途半端にやるんだったらご本人が歌ってたほうがいいですから。

──逆に言うと、このアルバムの曲はどれも倖田來未の作品になってるということ？

そうです。これがオリジナルですっていうぐらいの気持ちで。だから自分のオリジナルを作るより、カバーのほうが重かったくらい。

──確かに並々ならぬ気合いを感じます。

誰もが知ってる名曲ばかりだし、どうしても比べられるんで。めっちゃ大変でしたけど、私もこういう作品を出さないとなって思いながらレコーディングしてました。オリジナルでもこれらの名曲に負けないような、歴史に残る曲を作っていきたいって改めて思ってます。