ナタリー PowerPush - 小林ゆう

女子萌え落語に挑戦&画伯グッズ化計画

「さよなら絶望先生」シリーズの木村カエレや、「銀魂」の猿飛あやめ、現在は「銀河へキックオフ!!」の主人公・太田翔役など数々のアニメで声優として活躍する小林ゆうが、初めて落語に挑戦したアルバム「モエオチ!」をリリースした。「寿限無」「まんじゅうこわい」などの古典落語を「オタク」「アイドル」といったアキバカルチャーに変換した“女子萌え新作落語”作品だ。ナタリーでは今回、なぜ小林が落語に挑戦したのか、落語に対してどういう思いを抱いているのかを確かめるべくインタビューを行った。

さらに今回ナタリーでは、圧倒的画力で「画伯」と呼ばれる彼女のイラストレーターとしての側面にも注目。アルバム発売日と同じ8月1日にオープンした「ナタリーストア」とのコラボレーション企画で、画伯の描き下ろしイラストを商品化することが決定した。特集では画伯グッズ開発の裏側も紹介する。

取材・文 / 臼杵成晃 インタビュー撮影 / 唐木元

小林ゆう×ナタリーストア 画伯といっしょ!シリーズはこちら

落語が大好きなんです

──ナタリーではずっと、小林さんにいつか絶対にお話を聞かせていただきたい!とインタビューを熱望していたのですが、まさか落語のCDでそれが実現するとは予想もしていませんでした(笑)。

小林ゆう

ありがとうございます、本当にいつもお世話になっていて、こちらこそ大変うれしいです(深々と頭を下げながら)。

──さっそくですがこの「モエオチ!」、落語に初挑戦ということで……。

そうなんですう。うふふふふ。

──そもそも今回、なぜ落語をやることになったんですか?

私、落語が大好きなんです。落語家さんたちをお慕いしていて、いつか自分でもそういったCDができるといいなあって思っていたところに、今回こうして徳間ジャパン様より、お話をいただきまして。このようなCDを出させていただけることになりました! うふふふふふふ。

──噂にはお聞きしていましたが、ずいぶん上品におしゃべりされるんですね(笑)。小林さんは声優という声の仕事をされていますが、落語も同じく声を使って表現をする仕事ですよね。実際に落語に挑戦してみて、大きく違うところ、逆に共通するところなどはありましたか?

「モエオチ!」に入っている4つの落語は、どれも古典落語のお噺をベースにしていまして。それを秋葉原のカルチャーのほうに寄せて、舞台を現代に移しているのですが、全ての役柄を私が一人芝居をするようなイメージで作らせていただいてます。声優としてドラマCDなどに参加させていただく機会が多いのですが、落語になじみのない方にも、そのような形で親しんでいただけると思います。

──なるほど。ドラマCDとの共通点は多いかもしれません。「モエオチ!」は一人芝居の亜種というか、少し変わった設定のものだと。

はい。落語ですので全部の登場人物を、私がひとりで演じておりまして、それが醍醐味となっております。

“女子萌え落語”への挑戦

──今回落語のベースに選ばれた4つの噺は、落語の中でもスタンダードというか、比較的ポピュラーな作品が選ばれていますよね。その上で大幅なアレンジが施されていますが、このアレンジはどのように固めていったのでしょうか。

脚本家様がいらっしゃいまして、田辺茂範さんという方なんですけれども、田辺さんと打ち合わせをさせていただいて、プロットを書いていただいたりしまして。落語というものにちょっと興味はあるけど、まだ一歩を踏み出すことができないという方にも親しんでいただけるよう、できるだけ有名な作品を選ばせていただきました。

──小林さんのほうから脚本にアイデアを差し込んだりすることはなかったんでしょうか。完全にお任せで?

はい、お任せさせていただきました。役柄に関しては、私が演じさせていただいているアニメのキャラクターをヒントに、田辺さんがいろんな登場人物を作ってくださいました。

──若い女性もいれば少年もいて、そのほかアイドル、老婆、ロボットなどなど、かなり幅広いキャラクターが登場します。

今回の「モエオチ!」にはいろんな方が出てきます。アニメでは「さよなら絶望先生」の木村カエレさんのような多重人格の役ですとか、「まりあ†ほりっく」の、男の人なんだけど女装して女の子として生活している祇堂鞠也さんという方を演じさせていただいているんですけど、そのような性別や人格を超えた役柄に巡り会う機会をいただいておりましたので、「モエオチ!」のほうでも、いろんな役柄を演じさせていただけたらうれしいな、というふうに思っておりました。

未知の領域にお邪魔いたします

──実際に自分で落語をやってみたことで、新しい発見などはありましたか?

すごくありました。やらせていただいて初めてわかることがたくさんありまして。この役はこういうふうに演じようと事前に考えていていても、当日スタジオで初めて生まれてくることも多くて。新しい発見ばかりといいますか、本当に、文字どおり「胸が踊る」ような感動、胸が震えるような瞬間をたくさん感じて、本当に目まぐるしいお時間、すごく濃いお時間を過ごさせていただきました。

──アニメの声優としての仕事や、ドラマCDでは得られなかった興奮があった?

小林ゆう

声優のお仕事で毎日、感動と興奮、刺激や発見など数えきれない感情をたくさんいただいておりますが、またそのときと違ったタイプの生まれて初めての感情を体験することができました。今までは、声優として多重人格者を演じさせていただくというのはありますが、基本的にひとつの作品でひとりの役柄を演じさせていただくのが普通でしたけど、今回は全ての役柄に加えて、語りの部分までも自分自身が担当させていただいたんですね。例えば、台詞の一節になりますが、冒頭の枕の部分で語り部となった自分が「昔は赤ちゃんの死亡率が高かったので、生まれて6日までは『神の子』なんて呼ばれてまして……」と前置きをした上で(即座に声色を変えて)登場人物Aになり「どうしたの? 珍しいじゃん」と、自分で投げかけて今度は登場人物Bが受けとって、こっちがボケたらこっちがツッコむ、ノリツッコミをしてまたボケるという。多いときは一度に10人位の会話を私一人で演じさせていただきました。今までに経験したことがない未知の領域にお邪魔いたします。コンコン(ノックをする動作)、みたいな。すごくエキサイティングでした。

──「モエオチ!」には、プロの落語家さんとはまた違った大変さがありそうですね。

“女子萌え落語”という今までにない新しいジャンルに挑戦するということで、やはり初めてのことの連続でした。私自身声優というお仕事に、命懸けで向かっている真っ最中ですので、そこで経験したことを落語という古典芸能にちゃんと活かせるように努めさせていただきました。本来、落語家様はあまり声色を変えずに表現すると教わったのですが、「モエオチ!」に関しましては一部を除いて声色を全部変えるようにいたしました。特に「まんじゅうこわい」を元にしました「じゅうまん怖い~リア充野郎は逝ってよし~」はたくさんの登場人物が一堂に会して……歌で言うところのパーティチューンでしょうか?

──パーティチューン(笑)。

はい。お祭り騒ぎと言いますか。どんちゃん騒ぎで「キエー!」「ブヒー!」「ウワアー!!」(全て声色を変えて)みたいな、そのような感じでお楽しみいただけたら幸いに思います。ただ、「芝浜」をベースにいたしました「シー・バハマ~なんてったって地下アイドル~」では主要人物たちに関してあまり声質を変えずに、大変恐縮なんですけれども、落語家様がされていらっしゃるほうに少し近付けて演じさせていただきました。

──「シー・バハマ」は原作同様に涙を誘う、先程の例えにならって言うとバラードのような位置付けですね。

そうなんです! もうまさに、そのとおりです。「芝浜」自体が人情噺なので、まさにバラードのような作品になりました。

落語CD「モエオチ!」2012年8月1日発売 1890円 徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-73779

収録曲
  1. 微レ存 ~フルボッコの神降臨~(寿限無)
  2. タヒネ申~彼いない暦=享年~(死神)
  3. じゅうまん怖い ~リア充野郎は逝ってよし~(まんじゅう怖い)
  4. シー・バハマ ~なんてったって地下アイドル~(芝浜)
小林ゆう(こばやしゆう)

2012年5月発売「アニメージュ」にて、読者投票第3位を獲得した人気声優。2009年に「まりあ†ほりっく」のネ氏堂鞠也(しどうまりや)役でブレイク。現在はNHK総合テレビで放送中のTVアニメ「銀河へキックオフ!!」主人公・太田翔役を担当中。元気な少年から可憐な少女、外人、変態、正体不明の宇宙人まで幅広い役をこなす実力派。現在もファッション誌「KERA」モデルにて活躍中という異色の経歴を持ち、抜群のルックスで2冊の写真集(DVD付)を発売している。