歌が得意じゃない
──こういうシンプルな編成だと、ご自分のボーカリストとしての個性とかあり方とか、強みも弱点も含めて客観的に見ることができるかと思います。
ありますね。僕は自分の弱点を悲しいぐらい知ってると思うんですけど……。
──悲しいぐらいあるんですか?
うん、あのね、歌が得意か得意じゃないかっていったら、基本的には得意じゃないです。テレビやCDで人の歌を聴いてて、気にしてないのに圧倒的に歌がうまいなあと思う人がいるんですよ。例えばビョークとか、玉置浩二さんとか、ドリカム(DREAMS COME TRUE)の吉田美和さんもそうだし。
──「気にしてない」って何をです?
たぶん音程とか気にしてないと思う。意識しないで歌えちゃうっていう。さらに言えばそこに感情が入ったり音楽的な知識があるともっと響くんですけど、たぶん彼らは最初から歌が得意なんですよ。近いところで言うとHYDEくん(L'Arc-en-Ciel)も得意ですよね。たまに話すんですよ、「ピッチとか気にしてないでしょ」「うん」って。僕の場合はそうじゃないんです。ものすごく気にした結果、こうなってるんです。長年気にして歌い続けて、結果これができあがってる。生まれつき歌がうまくて、音感が優れていて、気にしてなくてもちゃんと音程が取れる人とは違う。
──以前、細野晴臣さんと話していたら「“歌えるボーカリスト”はミュージシャンと言うより“歌手”という特別な存在なんだ」と言ってました。小田和正さんとか山下達郎さんとか。
そうそう。彼らはまったく違いますよね。僕はボーカルだけどそう思いますね。元JUDY AND MARYのYUKIちゃんとか原田真二さんとか。むちゃくちゃピッチいいですよね。でも僕はそうじゃないんです。研究して研究して「こうしたらこう歌える」「ああしたらああ歌える」「外したらイヤだなイヤだな」と思いながら歌っている。そうじゃない自分にしたいしたいと思いながらやってる。だから以前のインタビューで、ボーカリストというより作曲者としての意識が強いって言ったと思うんです。最近歌えるようにはなってきた気はするんです、やっと。今でもピッチのことは気にしながら歌ってるけど、気にしてる通りに、近いように歌えるようになってきた。
──自分の理想通りに。
うんうん。例えばカラオケを歌ったりしたら、さすがに一般の人よりはうまいですけど(笑)。だけど“ボーカリスト”もしくは“シンガー”という強者たちの中に入ると……例えば演歌の人とかもむちゃくちゃうまい人たちがいっぱいいる。しかも意識しなくてもピッチもリズムも取れる。基本にそれがある人には勝てないと思いますね。
──歌唱力で勝負しようとは思わない。
匂いとかパフォーマンスとか、そういうことも含めた「清春」っていうのを構成したいと昔から思ってました。僕のことを好きなこっちのジャンル(ヴィジュアル系)の若いミュージシャンって、そこを好きなんだと思うんですよ。でも歌をすごくうまく歌いたいと思う人たちって、どっちかと言うと僕のことはあまり好きじゃなくて。ヴィジュアル系でいうとLUNA SEAとかL'Arc-en-Cielのことが好きだと思う。こっちはもうちょっと……まがい物なんですよね。
──まがい物!
歌と言うよりは「存在」なんですよね。
──歌だけでなくビジュアル、歌詞、パフォーマンス、雰囲気といったものを糾合したトータルな表現者として勝負したい。
勝負したくはなかったけど、それしかなかったんですね。(歌が)うまくないから。
──いやー、そんなことはないと思いますが……。
もっとうまく歌えたらいいなって、いつも思います。
──でも今作のように、映像の助けなく音だけで、こういうシンプルなバックで歌を披露するには、まさにボーカリストとしての力を問われますよね。それだけの自信がなければ、こんなアルバムを出そうとも思わないだろうし。
そうね。ちょっとはあるんです今は。パフォーマンスとして、やっとこれをやれるようになったという感覚ですね。
──たぶん清春さんの一番すごいところって、それでもこれをやれちゃう勇気というか思い切りのよさ、決断力じゃないでしょうか。チャレンジ精神と言うか。
ああ! そうかもしれません。確かにやれないと思います、これ。
──ちゃんと自分のバンドを持ってるボーカリストはなかなかやれないと思います。
確かにそうですね。バンド好きの人って、ソロであろうとバンドスタイルの音楽が好きなんです。その点で言うと、これは真逆のスタイルなので、市場的なことを考えれば不利。でも「聴いてみやがれ」みたいな感じはあるんです。オレにしかできない、と思っている部分は少なからずあるんで。
“美学系”を貫きたい
──「エレジー」は同じ小規模ホールで何度も繰り返しライブをやるという形でしたが、もっと多くの不特定多数の人たちが集まるフェスのような場でやる気はありますか。
出たいですねえ。この形で出たいです。出たいけど、世間の(清春に対する)イメージがあると思うから。アルバムを出て多少は変わっていけばいいんですけどね。ナタリーに書いてもらって、「清春はこんなことやってるんだ」って知ってもらって、聴いてもらいたい。でも実際には「黒夢で(フェスに)出てください」って言われる。だから……出ない。
──昨日ライブを拝見して思ったんですが、これだけドラマチックでエモーショナルなライブをやる人ってロックの中でもなかなかいないし……。
うれしいですね!
──むしろシャンソンとか、そっちに近い感じが……。
あ、そうですね。いいこと言ってくれた、今(笑)。みんな音楽が好きで、音楽の記事を読んで、音楽にまつわる言葉には反応するでしょ。でもシャンソンって音楽だけど、半分お芝居が入ってて、すべてのものを演じてるじゃないですか。今回ポエトリーリーディングもあえてやったけど、そういう、音楽から外れていくものって、なかなか経験した人がいないと思うんですよ。それを(記事で)書いてもらうことで「シャンソンってなんだろう」って言葉では知ってても聞いたことのない人が興味を持って調べたりするじゃないですか。「清春ってこんなことになってるんだ」って気付く。それがすごく大事。
──いわゆる自然体の音楽じゃないじゃないですか。
うんうん、そうですね。
──TシャツにGパンで出てきて平凡な日常生活を歌うような表現ではまったくない。でもそれこそが清春さんの個性であり生き方である。
うん、そうですね。そこはもう自分の美学と言うか。SUGIZOくんが今度のアルバムの全曲解説で、僕のことを「この年代になってもグラマラスであろうとする精神も含めて、とてもシンパシーを感じます」って書いてくれて。そうだよなと思いました。そういうことを貫くヤツって残り少ないですからね。化石みたいな人種なんで。でもこれを貫きたい。それを見てまた誰かが継承してくれると思うし。日本で“美学系”のミュージシャンって、少数でいいですけど、やっぱり必要だと思う。それを死ぬまで続けて、誰かに引き継ぎたいと思いますね。
次のページ »
自分にとって本当のことをやる
- 清春「エレジー」
- 2017年12月13日発売 / TRIAD
-
初回限定盤 [CD2枚組+DVD]
5400円 / COZP-1402~4
- DISC 1(CD)収録曲
-
- LAW'S
- ゲルニカ
- アロン
- rally
- GENTLE DARKNESS
- 夢
- カーネーション
- この孤独な景色を与えたまえ
- 輪廻
- 空白ノ世界
- DISC 2(CD「"elegy" poetry reading」)収録曲
-
- LAW'S
- ゲルニカ
- アロン
- rally
- GENTLE DARKNESS
- 夢
- カーネーション
- この孤独な景色を与えたまえ
- 輪廻
- 空白ノ世界
- YOU
- DISC 3(DVD「"elegy" performance」)収録内容
-
LIVE AT Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
- サロメ
- 陽炎
- 瑠璃色
- lyrical
- rally
- alice
- シャレード
MUSIC VIDEO
- LAW'S
- 清春「夜、カルメンの詩集」
- 2018年2月28日発売 / TRIAD
-
初回限定盤 [CD2枚組+DVD]
5400円 / COZP-1411~3 -
通常盤 [CD]
3240円 / COCP-40251
公演情報
- KIYOHARU 25 TIMES DEBUT DAY
- 2018年2月9日(金)岐阜県 岐阜club-G
- KIYOHARU TOUR 天使の詩2018
「LYRIC IN SCARLET」 - 2018年2月23日(金)大阪府 BIGCAT
- 2018年2月24日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2018年3月2日(金)宮城県 Rensa
- 2018年3月16日(金)京都府 KYOTO MUSE
- 2018年3月17日(土)京都府 KYOTO MUSE
- 2018年3月21日(水・祝)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2018年3月24日(土)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2018年3月31日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2018年4月7日(土)青森県 青森Quarter
- 2018年4月8日(日)岩手県 Club Change Wave
- 2018年4月13日(金)愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2018年4月14日(土)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2018年4月28日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2018年4月29日(日)長崎県 DRUM Be-7
- 2018年5月3日(木・祝)東京都 EX THEATER ROPPONGI
- 清春(キヨハル)
- 1968年生まれ、岐阜県出身。1991年にロックバンド・黒夢を結成し、ハードかつグラマラスなサウンドで人気を集める。1994年にメジャーデビューを果たし、1999年に活動停止。その後自身のレーベルを立ち上げ新バンド・SADSを率いて活動を行う。2003年からはソロ活動を開始。2010年には黒夢とSADSを再開させ、ソロと並行して精力的な活動を展開している。2015年2月から11月にかけては、全34日間68公演にわたるソロライブ「MONTHLY PLUGLESS LIMITED 2015 MARDI GRAS KIYOHARU Livin'in Mt.RAINIER HALL」を行った。2016年3月に約3年ぶりのソロアルバム「SOLOIST」をリリース。2017年TRIADに移籍し、12月に“リズムレスアルバム”「エレジー」、翌2018年2月にオリジナルアルバム「夜、カルメンの詩集」を発表する。