キタニタツヤが1月10日にニューアルバム「ROUNDABOUT」をリリースする。
テレビアニメ「呪術廻戦」第2期の「懐玉・玉折」オープニングテーマである「青のすみか」がヒットを記録し、年末の「NHK紅白歌合戦」への初出場が決まるなど、目覚ましい活躍を見せているキタニ。ニューアルバムには「青のすみか」をはじめ、テレビアニメ「BLEACH 千年血戦篇」オープニングテーマの「スカー」、先行配信中の「Moonthief」など全10曲が収録される。
注目の新作は、いったいどのような仕上がりになっているのか? リリースに先駆け、音楽ナタリーでは大森時生(テレビ東京)、くじら、なとりによる“妄想クロストーク”を開催した。大のキタニタツヤフリークである彼らは、まだ見ぬ「ROUNDABOUT」の完成形をどのように思い描くのか? “キタニ愛”が随所にあふれるやりとりと合わせ、あなたもキタニの“次の一手”を想像してみては。
取材・文 / 森朋之
「この雰囲気、聴いたことがあるぞ」というときは、だいたいキタニさんの曲
──まずはキタニタツヤさんの音楽との出会い、現在のキタニさんとの関係性について聞かせてもらえますか?
大森時生 私は「人間みたいね」のミュージックビデオで知ったのが最初ですね。このMVは異彩を放っていると言いますか、ちょっと不気味なテンションの映像で。「人間みたいね」というタイトルもそうなんですけど、楽曲が持っている違和感みたいなものが映像とつながっていて、すごく面白いなと思って。キタニさんとの関わりとしては、「素敵なしゅうまつを!」(2023年8月リリース)のMVの制作を担当させてもらったのがきっかけです。「YouTube Music Weekend」の一環として、キタニさんとお話しながら映像を作らせていただきました。
くじら たぶん2017年くらいなんですけど、「芥の部屋は錆色に沈む」を聴いたのが最初です。当時キタニさんはボカロPのこんにちは谷田さんとして活動していて。自分もボカロ曲をめちゃくちゃ聴いていた時期だったんですけど、「なんだこの曲は!?」と衝撃を受けたんです。ちょうどそのタイミングで「彼は天井から見ている」というアルバムが発売されて、「THE VOC@LOiD M@STER」(ボカロ専門の同人誌即売会)でキタニさんから直接CDを購入しました。交流としては自分のトークコンテンツ「純喫茶くじら」に出演していただいたり。この取材もそうですけど、「キタニタツヤってアーティストがいてね。すごいんだよ!」って触れ回ってきた甲斐があったなと思ってます(笑)。
なとり 僕は「Sad Girl」がきっかけですね。当時僕は高校生で、スマホを取り上げられたことがあったんです。しょうがないからパソコンを開いてYouTubeで曲をディグってたんですけど、そのときに「Sad Girl」を見つけて。自分で曲を作るようになってからもすごく影響を受けているなと感じてますね。初めてお会いしたのは、知人に紹介してもらってごはんに行ったときかな。自分のアルバム「劇場」のブックレットで対談させてもらったときは、初めて仕事でお会いしたので緊張しまくりました。
──難しい質問かもしれないですが、特に思い入れのある曲、印象的な楽曲を1つ挙げるとすると?
大森 私はやっぱり「素敵なしゅうまつを!」ですね。MVの公開が「青のすみか」がリリースされたすぐあとだったんです。ファンがさらに増えていたタイミングだったと思うんですが、それをある意味でふるいにかけるような楽曲だなと。不穏さが全面に出ているし、「普通に考えたら、ここはもうちょっと明るい曲を出すほうがいいんじゃないの?」っていう(笑)。キタニさんが抱えるアンビバレントな感じがすごく出ているし、MVの内容についても「道徳的でない感じにしましょう」という話があったんですよ。「このタイミングでそういうジャッジをするのか」と驚いたし、すごく面白い方だなと。
くじら 衝撃を受けたということでは、なとりさんも話していた「Sad Girl」ですね。キタニさんはずっとオルタナ的なギターロックをやっていたんですけど、その後、トラップっぽいトラックを作り始めて、音楽の幅が広がって。自分はローファイっぽい曲調、かわいい感じのサウンドが得意なので、キタニさんとはフィールドが被っていなかったんです。でも「Sad Girl」を聴いたときに「キタニさんがこっちの領域に来た!」と思って(笑)。今までにないテイストの曲調にびっくりしました。
──くじらさんがキタニさんから受けた音楽的影響は、どういうものですか?
くじら 編曲のこまごましたところだったり、セクションのつなぎ方だったり、いろいろありますね。キタニさんはいっぱい音楽を聴いていて、ご自分のフィルターを通してそれらをオリジナル曲に昇華していて。その濃密な音楽を勝手に分析させてもらって、自分に必要なエッセンスをいただいているという感じです。
なとり 僕も好きな曲はめちゃくちゃあるんですけど、学生時代に聴きまくったのは「デッドウェイト」ですね。キタニさんが作るギターロックが大好きなんですけど、「デッドウェイト」は音作りがすごくスマートで気持ちいいんです。この曲には僕自身もすごく影響を受けました。くじらさんがさっき言ったことが全部当てはまるんですけど、自分の曲を聴いていて「この雰囲気、聴いたことがあるぞ」というときは、だいたいキタニさんの曲なんです。
自分自身を見ながら話している
──「青のすみか」のヒットによって、キタニさんの知名度が上がり続けています。皆さんはこの状況をどう見ていますか?
大森 本当に才能のある方だと思っているので、キタニさんの音楽が広まるきっかけとしては素晴らしいなと。もちろんキタニさんにとっては通過点でしょうし、キタニさん自身もまったく浮かれてないというか、「ゴールしたぞ」みたいな雰囲気は全然ないんですよ。「ここからさらにいろんな作品を作っていきたい」という作り手の矜持を感じるし、すごいことだなと思います。
くじら 大森さんがおっしゃった通りだと思います。地に足が着いているというか、むしろ「今からいくぜ」みたいなオーラを感じていて。「やっとスタートラインに立った」という雰囲気もあるし、やっぱりすごい人だなと。個人的にもキタニさんの名前が知られたことはすごくうれしいです。中学生、高校生だった頃は「キタニタツヤっていうアーティストがいてね。こんな曲やあんな曲があって、すごくカッコいいから聴いてみて」と説明していたんですけど、今は「『青のすみか』の人だよね」とすぐにわかってもらえるので。
なとり 自分もまったく同じ感じです(笑)。リスナーとしてずっと聴いてきたし、自分の好きな音楽がみんなに理解されるようになったことがすごくうれしくて。
──ちなみに皆さんにとって、キタニさんってどんな人なんですか?
大森 キタニさんと話しているときに、「キタニさんは自分自身を俯瞰で見てるんだろうな」と思うようなしゃべり方をすることがあるんですよ。自分自身を見ながら話しているというか。それがキタニさんの独自性につながっているのかもしれないなと。
くじら 男子校ノリの兄貴肌という印象がありますね。すごくフランクだし、ギャグを言って場を明るくしてくれたり。ヤンチャなイメージもあるんだけど、実はいろんな方面に気を配ってる人なんだろうなと。
なとり 面倒見のいいお兄さんという感じですね。僕は完全に後輩なので、いつも緊張しながら話しているんですけど、すべてを包み込んでくれるような優しさがあって。こういう人になりたいと思っています。
挑戦的なアルバムになるのでは?
──キタニさんは2024年1月にニューアルバム「ROUNDABOUT」をリリースします。「青のすみか」「スカ—」のほか、「化け猫」「Moonthief」などが収録された作品ですが、この取材の時点では完成に至っておらず、全貌が明らかになっていません。いったいどんなアルバムになっていると思いますか?
大森 すごい質問ですね(笑)。
くじら・なとり あはははは。
大森 前もって曲名だけは教えていただいたんですが、「私が明日死ぬなら」「旅にでも出よっか」というタイトルの曲もあるし、決して明るいだけのアルバムではなさそうですよね。さっきも言いましたが、キタニさんにはアンビバレントな雰囲気を感じていて。ご自身の中で抱えている葛藤や矛盾といった側面を、きれいに整えるのではなく……そのまま出しているところもあるのかなと。アーティストの内面を勝手に想像していますけど、「明るいアルバムでできる限りファンを増やそう」という気持ちが強ければ、「私が明日死ぬなら」という曲は入れないような気がするんですよね。そういうところも含めて、私自身もすごく楽しみにしています。
くじら 「スカー」「青のすみか」が収録されていることもあって、スケールの大きいアルバムになるのかなと思いつつ、先にMVが発表された「Moonthief」が自分としてはかなり衝撃でした。「Sad Girl」のときと同じように、「新しいジャンルのエッセンスを取り込んできた」と感じたんですよね。説明するのは難しいんですけど、フューチャーベースのテイストもあるし、SuperSawというシンセの波形を使っていたり。サビでテンポを半分にするダンスミュージック的な手法もキタニさんはあまりやってなかったと思うし、そういうエッセンスをちりばめながら、キタニさん流のJ-POPに昇華させていると言いますか。
──新しいトライも込められたアルバムじゃないだろうか、と。
くじら そうですね。「スカ—」「青のすみか」という王道の曲が半分で、あとの半分は今のキタニさんがやりたい感じになっているのかなって。実は挑戦的なアルバムになるのでは?と思っています。
なとり 解禁されていない曲がめちゃくちゃ気になっていますね。前作「BIPOLAR」の収録曲も今回と同じく10曲だったんですが、曲のつながりをすごく大事にしている作品だったんです。トラックリスト順に聴くことで意味を成しているアルバムだったので、今回もアルバムで聴かないと感じられない魅力があったらいいなと勝手に思っています。
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「ROUNDABOUT」というタイトルは意思表示