キタニタツヤ「ROUNDABOUT」特集|大森時生(テレビ東京)×くじら×なとり キタニ愛あふれる“妄想クロストーク” (2/2)

「ROUNDABOUT」というタイトルは意思表示

──では、「ROUNDABOUT」というタイトルから受ける印象は?

大森 意味的には「回り道」みたいな感じなんですよね。先ほど言ったこととも若干重なるんですが、スターになることを目標にしていたり、売れることを重視したりしていれば、直線的な活動になっていく気がして。キタニさんはそれだけじゃなくて、自分自身の創作性みたいなものをちゃんと出している。「ROUNDABOUT」というタイトルは、その意思表示でもあるのかなと。回り道だったとしても、自分の色をしっかり出していくぞという。

くじら キタニさんのアルバムは過去のタイトルもすごくよくて。「Seven Girls' H(e)avens」は“こういうお話になっています”という題名で、「DEMAGOG」には「デマゴーグ」(古代ギリシアの煽動的民衆指導者)というタイトルの曲が入っていて、「BIPOLAR」はアルバムを聴き終わったあとにしっくりくる感じがあったんですよね。なので今回の「ROUNDABOUT」も、聴いたらジーンと来るんだろうなと思ってます。……なんとなくですけど、「旅にでも出よっか」がキーになっている気がするんですよね。

なとり くじらさんも言っていましたけど、僕も「Moonthief」はすごく挑戦的な楽曲だと感じていて。新たな一面を切り拓いた曲だと思うし、アルバムタイトルは「これからもいろんなジャンルに挑戦していく」という意味合いもあるのかもしれないって、勝手にこじつけてます(笑)。これまでのアルバムもそうなんですけど、意味付けがしっかりなされているんですよ。リスナーとしてそれを紐解いたり解釈してきたので、今回のアルバムもすごく楽しみです。

「ROUNDABOUT」初回限定盤ジャケット

「ROUNDABOUT」初回限定盤ジャケット

「ROUNDABOUT」通常盤ジャケット

「ROUNDABOUT」通常盤ジャケット

音楽を始めようとしている人たちの道標にもなっていくんだろう

──皆さんのお話を踏まえつつ、アルバムを聴いて答え合わせするのも楽しそうです。「青のすみか」、そしてアルバム「ROUNDABOUT」でキタニさんはさらにブレイクすることになると思いますが、今後、どんなアーティストになっていくと思いますか?

大森 僕がこんなことをしゃべるのはおこがましいんですけど、キタニさんと話していると、音楽以外のことにも造詣が深くて。インターネットカルチャーや映画にも詳しいし、しかもかなりニッチなことも知っていて、好奇心も強い。それこそテレビ業界の私にMVを任せることもそうですけど、違うカルチャー、文脈を組み合わせることも自覚的にやっていると思うんですよ。これからも音楽とは違うフィールドから人を引っ張ってきて、新たな化学反応を起こしてくださるんじゃないかなと。私自身が映像の世界にいることもあって、キタニさんが生み出す新しい組み合わせがすごく楽しみですね。

くじら キタニさんに憧れて音楽をやっている若い人たちがどんどん出てきているし、これからさらに増えていくような気がしていて。この前、キタニさんがXで、「イラストレーターのさいとうなおき先生みたいな人が音楽にも必要だし、それをやれていない自分が残念」みたいなつぶやきをポストしてたんですよ。

──クリエイターを目指す人への情報発信だったり、下の世代につなぐ役割というか。キタニさんもそういう意識があるんじゃないか、と。

くじら そうですね。「オールナイトニッポン」に出たときも、コード進行の話をされていたんです。「同じメロディでもコード進行によって全然雰囲気が変わるんだよ。じゃあ実際にやってみよう」って、ギターを弾きながら説明していて。「この人、『オールナイトニッポン』で音楽の授業してる!」と思ったんですけど、音楽を始めようとしている人たちの道標にもなっていくんだろうなと。

──音楽を作る楽しさも啓蒙しているんですね。

くじら たぶんそうなんだと思います。以前から「みんなクリエイターになればいいのに」みたいなことも言ってますから。もちろん自分自身の世界観を持ったアーティストとしてもこのままやっていくだろうし、とにかく楽しみでしかないですね。

なとり とにかく、もっともっといろんな人に聴いてほしいですね。ネットから出てくるアーティストも増えているんですけど、キタニさんはさらに音楽の入り口を広げてくれる人だと思っていて。僕自身もいろんなアーティストの音楽を聴きたいし、いろんな界隈の入り口になってほしいなと。いろんな場所で輝いてほしいですね。

圧倒的な“教祖感”

──キタニさんとコラボレーションするとしたら、どんなことをやりたいですか?

大森 キタニさんと一緒にMVを撮ったときに、ちょっと演技をしてもらったんです。そのときから「もっとキタニさんの演技を観てみたい」と勝手に思っていて。自分が作った映像作品に対してキタニさん自身が曲を作ってくれたらすごく幸せだし、純粋に観てみたいんですよね。

──いいですね! キタニさんにはどんな役が合いそうでしょう?

大森 私自身がフェイクドキュメンタリーを作っているので……「素敵なしゅうまつを!」のMVは“キタニさんがキタニさんになれなかった世界線”みたいな設定だったんですが、例えばキタニさんが抱えている葛藤みたいなものを、キタニさん役として演じてもらったら面白いんじゃないかなと。単純なフィクションというより、キタニさん自身と接続できるところがあるほうがいいのなかと、勝手に想像しています(笑)。これも失礼な言い方かもしれないですけど、キタニさんは佇まいだけで見ていられるんですよ。画を持たせる雰囲気があるというか。

くじら キタニさんの演技、僕もすごく見てみたいです。でも、そっちで評価されるともっと遠い存在になっちゃうな……。そのときは劇中歌とかをやらせてもらおうと思います(笑)。あとはなんだろう? 一緒に曲を作るのはちょっとおそれ多いので、武道館で対バンしてみたいです。それくらいのレベルになれるようにがんばらないと。

──それも大きい目標ですね。くじらさんにとって、キタニさんのライブの魅力とは?

くじら 圧倒的な“教祖感”ですね。語彙力がなくて申し訳ないんですが(笑)、オーラがあって、ステージでの立ち居振る舞いだけで魅了されてしまいます。もちろん曲も歌声もバンドメンバーも照明も最高だし、ライブの企画やグッズを含めて何から何まで素晴らしいんですよ。キタニさんのライブに行ったら、2日くらい動けなくなるくらい盛り上がっちゃいますね。

なとり 僕もおこがましいとは思いつつ、やっぱり一緒に曲を作ってみたいです。自分が持っているものと、キタニさんが持っているものを組み合わせることでどんな曲ができるのかも興味があるし、自分の曲を歌っているキタニさんを見てみたい気持ちもあって。夢ですね。

──ボーカリストとしても魅力的ですからね。

なとり そうですね。ありきたりな言葉ですけど、唯一無二の声だと思うので。

──このインタビュー、キタニさんもしっかり読んでくれると思います。最後に皆さんからキタニさんに伝えたいことは?

大森 勝手なことばかりしゃべってすいません(笑)。僕もどんどん精進していくので、また一緒にお仕事できたらいいなと思っています。

くじら 僕もいろいろ話しちゃいましたけど、これからもよろしくお願いします。あと「Moonthief」のハイハットの音源、何を使ってるか教えてください。

一同 あはははは。

なとり 自分から飲みに誘う勇気がないので(笑)、この場をお借りして「飲みに行きましょう」と言わせてください。あとは「好きです」とお伝えしたいです!

キタニタツヤ

キタニタツヤ

プロフィール

キタニタツヤ

1996年生まれ。2014年頃からネット上に楽曲を公開し始める。高いソングライティングセンスが買われ、作家として楽曲提供をしながら2017年よりソロ活動も行う。2018年にはバンドsajou no hanaを結成。同年9月にギター、ベース、プログラミングなど、マスタリング以外のすべての作業を1人で完結させたソロ作品「I DO (NOT) LOVE YOU.」をリリースした。2020年8月にソニー・ミュージックレーベルズよりアルバム「DEMAGOG」を発表。2023年7月にリリースしたテレビアニメ「呪術廻戦 懐玉・玉折」のオープニング主題歌「青のすみか」は、配信後3カ月弱でストリーミング総再生回数が1億回を突破。12月には「第74回NHK紅白歌合戦」に初出演する。2024年1月にアルバム「ROUNDABOUT」をリリース。

大森時生(オオモリトキオ)

1995年生まれ、東京都出身のテレビプロデューサー、演出家。2019年にテレビ東京に入社し、2021年に「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」のプロデュースを担当する。2022年には竹村武司とともに手がけた「RaikenNipponHair」が「テレビ東京若手映像グランプリ2022」で優勝。フェイクドキュメンタリー「このテープもってないですか?」が注目を浴びる。2023年8月にはキタニタツヤ「素敵なしゅうまつを!」のプロデュースと演出を担当した。同年、「FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023 日本発『世界を変える30歳未満』120人」に選出される。

くじら

2019年4月1日に活動を開始したクリエイター。ボカロ曲のほかyamaやAdoらボーカリストをフィーチャーした作品を発表して注目を浴びる。2019年8月に1stアルバム「ねむるまち」を発表。2021年10月発売のシングル「悪者」からは自身がボーカルを務める音源を発表し始め、2022年8月には全曲セルフボーカルの楽曲で構成されたアルバム「生活を愛せるようになるまで」をリリース。SixTONES、DISH//などさまざまなアーティストへの楽曲提供も行っている。2023年11月にアルバム「野菜室」を発表した。

なとり

2021年5月より活動開始。2022年5月に投稿された楽曲「Overdose」はTikTok上の関連動画が60万本を超え、総再生回数も20億回を突破している。同曲のYouTube再生回数は1億3000万回を突破。各アーティストによる“歌ってみた”動画も多数投稿され、大きな話題を呼んでいる。2023年はSpotifyブランドCMソング「フライデー・ナイト」をはじめとした配信シングルを立て続けにリリース。12月に1stアルバム「劇場」を発表した。2024年3、4月に初のワンマンライブ「なとり︎1st ONE-MAN LIVE『劇場』」を行う。