ナタリー PowerPush - 喜多村英梨
新たな季節の訪れを「証×明」する意欲作
重厚ながらもシャープな感じ
──曲順にもコントラストが効いてますよね。和モノの「証×炎」や「月詠ノ詩」と、ジャジーな「Nonfictionista」という、ド派手な変化球から始まって、4~6曲目には「RE;STORY」から連なるキタエリサウンドともいうべき既発曲が置いてあって、そのあとには「STARLET SEEKER」「sentiment」「Friend」みたいな声優・喜多村英梨に寄り添った楽曲が続いて……。
和テイストのトランスメタル「\m/」で終わる(笑)。単なる声優でもなければ、アーティストなだけでもないし、メタルみたいな暗くて重たい音だけを歌ってきた人でもなければ、普段私が演じてるキャラクターみたいな明るい音ばかりの人でもない!っていうことを音で表現するっていう挑戦をしてみたかったんです。で、そのどっちもをいいとこ取りできる方法を考えた結果、こういう曲順にしてみました。和テイストのバラードの「月詠ノ詩」を「証×炎」の次、2曲目にあえて置くことでとっかかりを作りたかったというか。「おっ、喜多村の2枚目は和なのか?」って興味を持って聴き始めてもらって、そのあといい意味で期待を裏切る。いろんなテイストの楽曲を聴かせた上で「\m/」につなげることで「そういえば和から始まったアルバムだったな。もう1回ループしてみようかな」って思ってもらいたかったんです。どの曲もちゃんとキタエリサウンドの芯や核のことを知ってくれているサウンドチームと作った曲だから、そうやってブロックごとにテイストを分けてもそれぞれが浮くことはないと思ってましたし。
──どの曲も浮かない理由にはアレンジもあるのかな?っていう気がします。さっき話したようにどの曲も音が重くてデカいし、メタルテイストではあるんだけど、ピアノやストリングスや琴のようなヌケのいい音が必ずフィーチャーされているから全体的にスッキリ聴けるんですよね。しかも「月詠ノ詩」「Nonfictionista」以外は5分以内にコンパクトにまとめてられてるし。
確かに重厚ながらもシャープな感じがほしいっていうのは、今回の課題の1つでした。というのも「RE;STORY」を作ったときに反省点が1つあって。あの頃はメタルをやるんだ!っていうこだわりが強すぎて、重たい音にばっかり耳がいってたんです。それが豪華な音作りなんだって。でも音の豪華さって、楽器隊がせーの!でリフをユニゾンするから生まれるものではないんですよね。4分間の楽曲の中で、イントロではこの音が主役で、間奏ではあの音が主役っていうふうにそれぞれの楽器にスポットライトが当たるようにアレンジしたほうがより豪華な印象になるし、耳心地もよくなるはずですし。だからデモの段階でキレイにピアノが鳴ってた曲なんかについては完パケでもその音を生かすようにはしていて。メタル系の楽曲っていざ生音でレコーディングを始めると、どうしても歪んだギターとかツーバスとかが主張し始めちゃうんですけど、そのたびに「あっ、その我の強い子たちをちょっと引っ込めて、もっとピアノ出してください」って言ってました(笑)。そういうのもあって「証×明」は「RE;STORY」のようなシンフォニックメタルとは違う。喜多村英梨ならではのメタルというか、重たいんだけどスッキリしたキタエリサウンドになってくれたのかな、っていう気はしています。
喜多村的造語に飽きちゃった
──今回のアルバムで喜多村さんが作詞したのは「sentiment」と「\m/」の2曲。なんですけど、特に「sentiment」にはビックリして。「\m/」しかり、「RE;STORY」に収録されていた「→↑」(前へ上へ≒マイウェイ)しかり、基本的に喜多村さんって言葉遊びが好きなのかな?って思ってたんです。
大っ好きです(笑)。
──でも「sentiment」はタイトルはド直球だし、「いつだって正直に前向いてきたけれど いつだって本当は不器用 上手に隠せない」と“普通にいいこと”を歌っている。
ある意味サウンド作りとコンセプトは同じというか、「『RE;STORY』と同じことをやってもさあ」っていう気持ちがあったんです。ノリと勢いに任せた喜多村的造語を繰り出すことはしたくなかったというか「ぶっちゃけそればっかりやるのも飽きたな」ってなっちゃって(笑)。
──飽きちゃいましたか(笑)。
それは半分冗談なんですけど(笑)。でも、もう1曲「\m/」みたいなタイトルからして喜多村的造語の歌詞を書かせてもらえている上に、ほかの作詞家さんたちからは「証×炎」みたいなすごく鋭角的な言葉の数々をもらってましたし。 だったら自分が何をするべきなのか?って考えた結果、こういう歌詞になった感じなんです。それでなくても「sentiment」ってシンプルにいいメロディを、「証×炎」なんかに比べたらはるかにシンプルなアレンジに乗せた楽曲だったので、私も自分のシンプルな気持ちに踏み込んだことを歌わないと、トラックに対してすごく申し訳なかったというか。それで実はマイナス思考な自分のことを何気ない言葉でつづれるだけつづって訥々と歌ってみたらどうだろう?ってことになったんです。
──言葉で飾ることに長けた人にとって、ここまで素の気持ちを歌ってみることって……。
すっごい挑戦だったし、すっごい勇気は要りました。実は「ちょっとハズいなあ」とも思ってるんですけど(笑)、でも私は、自分じゃない誰かを演じる声優でもあると同時に、アーティストでもあるわけで。もちろんほかの作家さんからいただいた詞にだって私の意思や思いは込められてるんですけど、こういうテンポ感、こういう質感の楽曲を通じて、もう一段深い感情を皆さんに見ていただくのもアーティストならではの仕事というか、自己表現の方法の1つなんだろうなって思ってます。
- ニューアルバム「証×明 -SHOMEI-」/ 2014年4月9日発売 / スターチャイルド
- 初回限定盤 [CD+写真集] 3086円 / KICS-93030
- 通常盤 [CD] 2880円 / KICS-3030
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収録曲
- 証×炎 -SHOEN-
- 月詠ノ詩
- Nonfictionista
- Destiny
- Birth
- Sha-le-la
- PIXY
- STARLET SEEKER
- sentiment
- Friend
- Miracle Gliders
- Pleasure→Link
- \m/
初回限定盤:外箱付きデジパック仕様 / 別冊撮り下ろし写真集ブックレット付き
喜多村英梨(きたむらえり)
「キタエリ」の愛称で知られる声優、ボーカリスト。2003年に声優としての活動を開始し、出演作品は「フレッシュプリキュア!」「魔法少女まどか☆マギカ」など多数。歌手としては2004年4月にデビューを果たし、2011年にスターチャイルドに移籍。3枚のシングルがヒットを記録し、2012年7月に1stフルアルバム「RE;STORY」をリリース。オリコン週間アルバムランキングで最高5位をマークする。同11月には4thシングル「Destiny」を、2013年1月に5thシングル「Miracle Gliders」を発表し、8月には6thシングル「Birth」を発表。そして2014年4月、2ndフルアルバム「証×明 -SHOMEI-」をリリースした。