氣志團・綾小路 翔インタビュー|「One Night Carnival」はいかにして生まれ、愛されてきたのか (2/3)

歌謡曲とパンクロックとヤンキー文化

──氣志團が「One Night Carnival」で新しいスタイルを見つけたと言っても、インストバンドという姿勢はまだしばらく崩さなかったですよね。

1つクセの強い歌モノができたから、これに負けないようにとメンバーがカッコいいインストを作ったんですよ。2曲目の歌モノはデビューするまでなかったです。やっぱりみんな歌モノには乗り気じゃなくて。僕と光は重たい首飾りを外したけど、ある曲では多少しゃべって、またある曲ではただただ振りを付けて踊って……でももう少し武器が欲しいなと考えていた頃だったので、1つ新しい形ができたのはよかったんだけど、僕自身も歌を歌うことには自信もないし、そこまで前向きじゃなくて。カッコつけてボーカルというものから距離を取っていたところもあったので。「One Night Carnival」をやることで歌を歌わなきゃいけなくなるな、ということには自分でもビビっていたところはありました。ただ、「One Night Carnival」は嫌がるみんなを説得して「ああでもない、こうでもない」とものすごく時間をかけて作ったんです。週に3回スタジオに入って練習していたところを、1カ月くらい曲作りに費やしていたので。

──氣志團が最初から演奏のうまいバンドだったら、そのままインストバンドとして進んでいたかもしれないし、自分の居場所がすぐに見つかっていれば学ランを着ることもなかったかもしれない。強力なメンバーが加入することもなかったと思うと、いろんな挫折があったからこそ今の氣志團になったんですね。ちなみにきっかけとなった日にカラオケで何を歌ったか覚えてます?

僕らは今もめったにカラオケには行かないんですよ。あの日は僕とトミーと光とユッキ(白鳥雪之丞)の4人だったのかな。トミーにはBOØWYの「Dreamin'」を無理矢理歌わせて、光は「宇宙刑事ギャバン」、ユッキは内田有紀の「Only You」、僕は杉良太郎の「君は人のために死ねるか」。そのへんは今も変わんないですね。単に深夜でも安く飲める場所を探して行った程度なんです。

──カラオケに行ったことで、歌謡曲やJ-POPのヒットソングが持つケレン味が「One Night Carnival」に作用したのかな、とも思ったのですが。

もともと歌謡曲とパンクロックが自分の中で2本の柱としてあったんです。80年代の歌謡曲とヤンキー文化には親和性があって、アイドルたちも1曲くらいツッパった曲を歌わされたりしてましたよね。

──銀蝿などの不良のロックについては?

それまではあまり聴いていなかったので、「One Night Carnival」を作るうえで知らないのはよくないと思って、まとめて研究したんですよ。その中でも「なんじゃこりゃ」と驚いたのが、杉本哲太さんが「杉本哲太&LONELY-RIDERS 」名義で歌っていた「On The Machine(翔と桃子のロックンロール)」ですね。

──「俺んとこ こないか?」の参照元ですね。

それにカラオケでも歌っていた「君は人のために死ねるか」の、歌詞が半分くらいセリフになっているのも「なんかカッコいいなあ」と思っていて。そのあたりが自分の中で1つになったのが「One Night Carnival」ですね。

綾小路 翔(Vo)

そろそろ認めてやってもいいんじゃないかと

──「One Night Carnival」は2001年にシングルでリリースされて、氣志團というバンドの存在が広まるきっかけになりました。

でも演奏を始めてしばらくは「なんでこれがウケるんだろうね?」とメンバーに聞かれて返事に困ってましたけどね(笑)。のちにこの曲が広く知られるようになると、今度は「One Night Carnival」を鬱陶しく思うようになったり。「『One Night Carnival』をやらないライブがやりたい」と思う時期は今に至るまで何度もあって、それは僕にもありました。「そろそろもうやらなくてもよくねえ?」「あの曲しかねえと思われるの癪じゃね?」「そもそも求められてもなくねえ?」というのは繰り返しあった。地位や名誉を手に入れたとき、かつてさんざんお世話になった師匠が訪ねてきても会わない、みたいな(笑)。ああいうやつだったな、とのちにわかるんですけど。

──きっとヒットソングを世に出したことのあるアーティストは全員陥るところですよね。

ええ。みんなが患うやつですよね。そのはしかみたいなものに囚われていた時期も長年にわたってありましたが、僕たちは間違いなく「One Night Carnival」に人生を変えてもらったんですよ。いい思いもさせてもらったし、この曲があることでなかなか新たな場所にたどり着けない時期もあった。無理矢理違う方向を探してファンのみんなを困惑させたりとか(笑)。でも、なかなかこのイメージからは逃れられない。なんだかんだ言っても、「One Night Carnival」は自分たちの中でとてつもなく大きな存在なんですよね。

──この「All Night Carnival」というトリビュートアルバムは、まさに「One Night Carnival」が本人たちでもコントロールできない“怪物”のような存在になっていることを証明する1枚だと思うんですよ。バンドそのものではなく、楽曲をトリビュートするという。

いやあ、そうですね。

──氣志團というアートフォームあってこその曲だと思われるこの曲を、名だたるアーティストが、自分たちの持ち札に寄せて表現しているという……本当に変な夢を見ているような感覚でした。

僕たちはたまたま今年結成25周年というアニバーサリーイヤーにあって。今年しかできないことがあるんじゃないか?という中での企画ではあるんですけど……本来トリビュートなんて考えてもいなかったんですよ。氣志團はずっと道なき道を走ってきて。「10年も続ければフォロワーができる。自分たちの後ろに道ができる」と信じてきたけど、振り返ってみたら、道がふさがっていた。

──(笑)。

「あれっ? 誰もついて来てない」っていう(笑)。前にも後ろにも道はなく、ただ暗闇を必死で走ってきた25年だったんです。それに、そもそもトリビュートっていうのは解散したときに誰かが惜しんで立ち上げるものだろうと。でも誰もついて来てないなと10年目のときに気付いて、20年目のときはもう振り返るのもやめました(笑)。でも25周年ということでいろいろと過去のことを見ていたら、「One Night Carnival」のメジャー盤がリリースされて20周年だとわかった。僕ら自体についてはともかく、この曲については意味があるものだったと思っていて。一般層にも知ってもらえて、“余興ソング”No.1みたいなことにもなった。ただこれはドラゴンボールのかめはめ波のようなもので、途中から誰にも通じなくなってくるんですよ。だけど、それがいつしか応用が効くようになって、攻撃ではなくむしろ防御としても使えるようになった。そろそろ認めてやってもいいんじゃないかと思ったんです。

綾小路 翔(Vo)

ayuの“男気”で幕開け

──どういう流れでこのアルバムの制作に取りかかったんですか?

ここ数年、対バンやフェスに出るときに、ほかの出演者の方々の超絶ヒット曲と「One Night Carnival」をマッシュアップして演奏するというコーナーがあって。それをいろんな場所で披露してきたんです。気が付けば2枚組か3枚組のアルバムができるくらいのバージョンが存在していて。それこそ星野源くんの「恋」バージョンとか、UVERworld、マキシマム ザ ホルモン、さらにはSMAPやBTSバージョンもあるという(笑)。勝手にね。けっこうなクオリティなので、それを作品化してほしいという声も多々あったんですけど、おそらく許可申請が大変だぞと(笑)。んで、「待てよ? 逆のパターンもあるぞ」と思ったんです。名だたるアーティストにこの曲を演奏してもらったら、どんなことになるんだろう?って。それも正直ハードルが高いなと思っていましたし、やっぱり僕らが思っている以上にこの曲は“面白ソング”だと思っている人が多いので。

──なるほど。

でも、どうせやるならとんでもない人に参加してもらいたい。自分が欲しい、なんならクラブでDJがかけて「何これ?」って驚いてもらえるような作品にしたいなと。「25周年のお祝いで僕が欲しいものを作っていいですか?」という、わがままですよね。これまで一緒にやってきた仲間たちや、この方が歌う「One Night Carnival」がどうしても聴いてみたい、という思いでオファーをしました。中には「なんで?」と思った人もいると思いますよ。

──最終的にこのメンツでゴーが出たのが奇跡ですよね。冒頭から浜崎あゆみさんですから。

いや本当に。ayuちゃんはフェスとしてやり始めた最初の「氣志團万博」(2012年開催。参照:ayu学ラン!キリショー裸!氣志團万博2日目も大盛況)に出てもらったんですけど、それが実現するまでにすさまじいドラマがありまして。ayuちゃんは魂の人なんですよね。とんでもなく忙しいスケジュールの中、すごいバンドメンバーを引き連れて木更津まで来てくれたんです。その後彼女のライブに氣志團がダンサーとして呼んでもらったことがあって(参照:氣志團コラボシーンも!浜崎あゆみアリーナツアー映像発売)。「音楽で世話になったら音楽で返す」という彼女の心意気ですね。それでこのトリビュートアルバムにも参加してくれたんだと思います。

──すごい。なんだか“男気”を感じますね。

ayuちゃんをはじめ、このアルバムに参加することなんて誰にもメリットはないんですよ(笑)。デメリットかもしれない。もう愛と友情だけですよね。だから俺たち、みんなにどんな恩返しができるんだろう……と戦々恐々としてますけど。それにしてももう、That's ayuというとんでもなくゴージャスなアレンジで。ちなみにこのayuちゃんのセリフは、氣志團が彼女のコンサートに出たときに僕が言ったMCへのアンサーだと思います。わかる人にはわかるけど、わからない人にはわからない。めちゃくちゃ個人的な感情で返してくれている。あのスーパースターたる所以はここだなという。“男気”のみでできあがっていると言っても過言ではない、とんでもない「One Night Carnival」がこのアルバムの幕開けを飾ってくれています。